これからも、あなたと……
桜 花音
第1話
「ただいまぁ」
疲れ果てた帰宅の声が玄関からリビングへと、かろうじて届いた。
「おかえり。今日もお疲れ様」
時計の針は日付が変わる少し前。昌樹が帰ってくるのは、いつもこのくらい。
寝室ですっかり熟睡している碧の顔を見に行き、着替えてからリビングへとやってくる。
「たまには起きてる顔を見たいけどな」
「だったらせめてあと二時間は早く帰ってきてくれないとね」
「だよなぁ。俺も帰ってきたいよ」
小学一年生の碧は、どんなに頑張っても十時までが精一杯。今日は特に張り切っていたのに、やっぱり十時過ぎに眠ってしまった。
昌樹はさっきまで肩を落としていたのに、気づけば目の前の夕飯をあっという間に平らげていく。いつ見てもその様子は掃除機で吸引しているかのよう。早食いは良くないからと何度か嗜めたけど、その度に言い訳されて聞いてくれないから、もう諦めている。
こんなスピードで食べるんだから、どんなに手をかけて作った料理でも、レトルトでチンした料理でも変わらない。「いただきます」の五分後には「ごちそうさま」がかえってくる。本当に作り甲斐がないんだから。
結婚当初は帰ってくるまで待ってたりして、一緒にご飯食べたけど、碧が生まれてからはやめた。だって食べながら「今日、こんな事があってね」なんて話したいのに、話してるそばでごちそうさまされちゃうし、食べてる間はそっちに夢中で話聞いてくれないんだもの。
だから、話すのはご飯食べ終わった後。
お皿を片付けて、食後に少しだけ昌樹のお酒を用意する。
結婚してからずっと。どんなに疲れていても、この時間だけはちゃんと大切にしてくれるんだ。
「今日はね、どうしても話したい出来事があったんだ」
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