第20話 State of the Art (チーム1@ヘブン)

 ヘブンに湧き出るテディ人達に対処するのはチーム1、カイルとアナとリンだった。3人はヘブン最新のアバターを使いこなすべく丸一日間加速トレーニングを行った。

 センスがピカ一のカイル、この中で唯一レベル7の知識と能力を習得しているアナ、潜在能力は計り知れない12歳のリン、各々が最先端(State of the Art)のアバターを使いこなす能力を新たに身に着けたのである。


「このアバター、すげーな。指操作ゼロで頭の中で切り替えるだけで何でもできる。スピードも強度も地球のアバトロイドとは桁違いだ、な、リン!」


「ホント、私も気に入った。これ地球に持って帰れないかな? こんなの使っちゃったらもうアバトロイドには戻れないよ。ね、アナお姉ちゃん!」


「あなた達、遊びじゃないんだよ。ヘブン社会の運命がかかっているんだから、浮かれてないで気を引き締めてね。カイル、あなたが一番年上なんだから、しっかりしてよ」


「一番上ったって俺もまだ16だぜ。アナ、お前は本当に14かよ、実は倍くらい歳食ってるんじゃないのかい?」


「失礼ね。頭の中はここでたっぷり詰め込まれたけど、肌とか体は8歳レベルで潤いたっぷりよ、さ、バカ言っていないで出動するわよ」


 3人のアバターはマーク、ブライアンとともに熊退治に出発した。

 ブライアンが示した地域にはおよそ100人のテディ人が活動していると見られた。

 マークは科学者達が作ったテディ人探索装置を駆使して彼らがひそむ位置を特定していった。


 カイル(のアバター)は持ち前のスピードとパワーで一人ずつ確実に確保

 していく。


 アナは数々のヘブン最先端(State of the Art)のツールを武器として応用し、効率よくテディ人を捕獲しやすい場所に誘導する。


 リンは天才的にアクロバティックな動きを見せて自分の倍くらいの大きさのテディ人を手玉に取っている。


 3人は瞬く間に設定範囲のテディ人を全て確保した。

 捉えたテディ人は最高技術を使った手錠で確保し、収容施設に連れて行った。

 

 ブライアンとマークは明日以降の地域設定、計画立案のために3人と別れた。

 3人には明日からの本格的な活動に備えてゆっくり休むようにと指示した。

 たとえ本体を動かしていなくても、初日でもあり精神的なストレスや疲労は相当あるからである。


 3人はずっと過ごしている滞在型ホテルに帰って来ると、ソファーのある暖かい部屋でくつろいだ。

 リンはまだ体力が有り余っており、キャッキャッとカイルにまとわりつく。カイルは「やめろよ」とか言いながらまんざらでもない様子だ。

 アナはそんな二人の様子を見ながら、カイルに話しかけた。


「カイル、カイルはたぶん来年で鳥の巣は卒業できると思うけど、その後ってどうするつもり? まだ17でしょう」


 カイルはアナのちょっかいをかわしながら答える。


「え? 卒業したらなんてまだ考えていないよ。兄貴だってまだいるんだぜ」

「相談なんだけど、私考えがあるの」

「何よ?」

「私さ、再生した後、ここで数ヶ月間過ごしたんだけど、何もかもが地球を凌駕している訳」

「そりゃそうだよね」


「文明のレベルが高いのは高いんだけど、一番魅力的なのは悪い人が皆無ってこと。こんな幸せな場所はないんじゃないかなって」


「まさにヘブンだもんな、こらリン、そろそろ大人しくしろよ。くすぐるぞ」

「ぎゃはははは、やめてカイル」

「でね、私もまだ来年でも15歳なんだけどさ、本格的にヘブンで暮らそうかなって」


 強烈にくすぐられてグロッキー状態のリンがそれを聞いて反応した。


「はあ、はあ、アナお姉ちゃん、ヘブンに移住したいの?」

「そう、移住。今みたいな分離じゃなくて完全にアップロードするの」

「何でえ~? 地球の方がみんないるからいいじゃん」

「私は新しい世界に惹かれるの。最先端の世界に……」


 ようやくリンから解放されたカイルが訊いた。

「大人になってからでもいいんじゃないか? まだ若すぎるような気が」


「思った時に行動しないと、人間っていつ死ぬかわからないから……」

「お姉ちゃんがそれ言ったら、しゃれになんないじゃん」

「事実よ。体験者が言うんだから間違いないでしょ」


 カイルの表情が引き締まった。

「で、相談ってその移住をどう思うかってこと?」


「違う。移住するのは誰が何と言おうと、もう私の中では決めていることよ」

「じゃあ、何?」


「……カイルにも来て欲しいの」

「へ? 俺?」

「何言ってるのよお姉ちゃん、カイルも連れてくですって? 何よそれ」


「この数ヶ月、鳥の巣の中で私は誰と一緒に行きたいかずっと観察していたの。さすがに一人で行くのは寂しすぎるから。でカイルがいいなって」


「何で俺なの?」


「私、まだ14でしょ。なるべく歳が近くて、かつ将来、頼りにできる人は誰かなって探したの、カイルは最初見た時18歳だと思ったの、アバトロイドの技術が高かったのもあるけど、落ち着いているから。お兄さんよりもね。それがまだ16歳って聞いてびっくり」


「俺は老けて見えるってことか?」

「そうは言っていないでしょ、そういう所はガキだよね」


 リンが口出しし出した。

「カイルはまだガキだよ。ヘブンに行くには早すぎ。お姉ちゃんだけで行きなよ」

「一人は寂しいって言ってるでしょ」

「小さいアナ連れてけばいいじゃん」

「あれはただのアンドロイド、4歳の子供だし」

「お父さんが精魂こめて作ったから会話とかレベル高いよ」

「リン、小さなアナは頼りになんないよ」

「ヘブンは平和なんだから別に頼りにならなくてもいいじゃん」


 アナはリンが抵抗する理由がわかっている。


「リン、あなた、カイルが好きなんでしょ。取られたくないんだ、そばに置いておきたいんだ」

「な、そんな事!」リンは瞬間で顔が真っ赤になる。


 カイルはボケっとして二人のやりとりを聞いている。

 小学生や中学生におもちゃ代わりにされている感じだ。

(俺はお前らのペットじゃないんだぞ、連れてくとか傍に置いておくとか何なんだ?)


 さすがにもう休まないと明日に差し支える。アナがそう思って締めた。


「とーにーかーく! カイル、ちゃんと考えておいてよね。あんたが一緒に行ってくれないならアレックスに頼むからね」

「どーぞどーぞ、アレックスはもう飽きたからいくらでもあげるよ。持って行って」リンが吐き捨てた。

 カイルはマイヤー姉妹の恐ろしさを知った。

(この歳で愛情冷めたら手のひら返し…… 怖い)

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