第19話 アースリング(地球人)の活躍

 エメラルドはエミーを含んだ状態でPoCテストを続けており1か月が過ぎた。

 他のメンバーも同様だ。

 彼女は今日マークから送られた画像を妹のサファイアに見せた。彼女にはサーシャが入っている。


「サフィー見てよ。これ今日マークから送られてきたの。人さらいの犯人よ、ちょっと怖くない?」

「どれどれ」


 画像を見て、サファイアからは冷や汗が出てきた。

(やばい、これスターバックの惑星のクマじゃん、彼らが犯人だったのか)


 サファイアが取り繕う。

「あー、これはキモいね。私もさらわれたらどうしようー」

「あなたみたいな暴れる子がさらわれるわけないでしょ」

 白けた顔でエメラルドが言った。


 サファイアは会話を早々に切り上げてエメラルドに聞こえないところまで離れてから、そそくさとスターバックに連絡した。


「スターバーック!」


 大声がスターバックの鼓膜を破りかける。


「何だよ、大声出すなよ」

「最近の誘拐事件、あなたのテディベアが犯人だよ! どうすんの?」

「え? うそだろ」スターバックは目が点になった。

「ほんとだよ! さっき、捕まったやつの画像見たの。間違いないよ」

「ちょっと待って、確認する」


 スターバックは端末を激しく叩いて、惑星テディのチェンバーを調べた。

 伝送系をいじっている形跡はあるが、ヘブンに直接アップロードした痕跡はない。


「サファイア、調べたけどアップロードの痕跡が無い。特殊なパスを見つけたのかも知れない」

「どうでもいいけどヘブンにうじゃうじゃ出て来ているのは事実だから! 止められないの?」

「進化暴走だから、止められないよ。法律で進化を止めるような干渉もできないし……」

「みんなに言おう、ブライアンやマークが動いてくれる」

「しゃあない。みんなに協力してもらって何とかしよう」


 サファイアはまずエメラルドにすべてを包み隠さず話した。


「-という訳で全てはスターバックの惑星が原因よ、お姉ちゃん」

「スターバアック。あいつまたやらかしたのね。それにしてもサフィー、なんであなたそんなに詳しいの?」

「いえ、それはただ彼に聞いて……」サファイアはしどろもどろになった。

「うそ、あなたスターバックのところに通っていたんでしょ。最近地球に入らなくなったし、よく外に出かけると思ったら……」

「てへ」

「『てへ』じゃないよ! もういいから地球人を至急集めて。PoCどころじゃないわ

 。彼らに協力してもらうよ。私はマークにすぐ伝える」


 マークとブライアンの元に、エメラルド、サファイア姉妹、アースリング(地球人)であるクレイ、アレックス、カイル、ミア、アナ、リンの6人、そして張本人のスターバックが集合した。総勢11名が今回の経緯について情報交換し合っている。


 アナがスターバックに詰問し始めたところでマークが声をかけた。


「よーし、みんな、聞いてくれ。大体状況はわかったな。スターバックに原因はあるが、誰もレベル6の人造惑星がどうなるかなんてわからなかったんだから、仕方が無い。ここは協力して対処しよう」


 エメラルドが言った。


「でも、あのテディ人達、どうやって対処するの? 数は増えているし熊並みの体とレベル6の知能、私達の力じゃ確保とかはできないわよ」


 ブライアンが事前に検討しておいた案を説明する。


「アバターを使う。最新アバターをアースリングの人達に使ってもらいたい」

「それってヘブンの人が使ってみたんでしょ」ミアが訊く。

「もちろん、最初テディ人対策で使ってみたんだが、根本的な問題がわかった」

「何ですか?」

「ヘブン人は基本的に他人と戦ったり、捕まえることさえ難しいんだ」

「それか……」アレックスが嘆いた。

「一般のヘブン人はテディ人に抵抗されると力づくで抑えることができない。心理的な抵抗があるんだ」


 アレックスが訊いた。

「いままでヘブンでは生物相手に何かあった時にどう対処してきたんだ? いつも手も足も出ないということはないだろう」

「ロボットに対応してもらっている」

「ロボットか……」アレックスは溜息を吐いた。

「高度な生物は相手にできない」

「だろうな」カイルも同意した。


 マークが懇願した。

「なので、今回はアースリングの協力が必要だ。すまないがよろしく頼む」


 リンがいち早く反応した。

「みんな、やろうよ。こっち来てちょうど暇で暇でしょうがなかったところでしょ。最先端のアバター使ってみたいし!」


 アナがたしなめる。

「暇だったのはあなただけよ。みんな色々なテストやってたんだから。でもやるしかないわね。地球人の実力を見せてやりましょうよ」


 クレイが代表として答えた。

「マークさん、わかりました。全面的に協力させていただきます。みんな、それでいいな」


 その後マーク中心にみんなで作戦を協議したがなかなかまとまらない。翌日の午前中に再度練ることにした。

 エベレストとサファイアは自宅に戻り、明日に備えて早めに就寝することにした。


 - 地球 -

 ちょうどその頃、平和な毎日に浸っていた地球のエミー達にも異変が生じていた。

 変な生物が何ヵ所かで確認されたということだった。

 ニュースでは『ビッグフット』現る、といった感じで未知の生物を取り上げていた。明らかにテデイ人であるようだが、エミー達には知る由もなかった。


 エミーが夜、寝ていると、久々に頭の中で誰かが呼びかけてきた。


「エメラルド? どうしたの」

 声はそっくりなのだがそれはエメラルドでは無かった。


「エミー、あなたからエメラルドに伝えて欲しいことがある」

「あなた、誰?」

「今は言えない。聞いて。ヘブンがたいへんなことになっている。スターバックが作った惑星から害のある生物が大量に流入しているの。地球にも入り始めた」

「それはたいへん。何を伝えればいい?」

「対応方法を3つ言うから、それをエメラルドに伝えて」


 エミーは急遽エメラルドを呼び出してその対応方法を伝えた。


 - ヘブン -

 エメラルドはその正体が誰なのかいぶかりながらもエミーから聞いた対応方法をマーク達に話すことにした。


 1.ヘブンの現場でアバターを使ってテデイ人達の活動を制限する

 2.惑星テディにダウンロードしてテディ人のアップロードを阻止する

 3.テディのチェンバーの伝送系統に留まってアップロードパスを突き止める。


 1と2はやり方がわかるので、すんなり把握できたが、3の伝送系統に留まるというのは、ヘブン人でもやったことが無く具体的にどうやれば良いかわからない。

 マーク、ブライアン、スターバックがヘブンの科学者とともに検討した。その結果をマークが説明した。


「アイテム3は、ヘブンからテディへのダウンロード経路を可視化し、そこに遺伝子情報を留めて仮想再構成させることにした。それで経路や現象を視覚的に把握できるだろう。言わば情報回路の変性コードによる仮想空間だ。アバター制御ができる人なら何とか適応できるはずだ」


 科学者が補足した。

「我々にもわからない経路をレベル6のテディ人が構築したとは考えにくい。偶然なんらかの伝送系の欠陥か異常現象を見つけて利用したとしか思えない。それを見つけて対策を考えて欲しい」


 サファイアが言った。

「ところでエミーに作戦を提示したのは何者なんだろう。女性らしいけどお姉ちゃんもわからないて言うし、思い当たるような人物がいない。」


 スターバックがコメントした。

「わざわざ地球にいるエミーに伝えた人だろう、地球に関係するヘブン人だろうけれど謎だな」


 マークが区切りをつけた。

「今はわからなくて仕方が無い。しかしどう考えてもこれがベストな対応方法に思える。すぐにチームを分けて対応しよう。今朝もますます流入者が増えているようだ。しかもスターバックによるとテディ人はさらに変異して進化している。制御不能だ」


「どう分けますか?」


「ヘブンでのテディ人対応チームはアナ、リンとカイルの3人でお願いしたい。僕らも加勢する。新しいアバター制御は加速習得装置を今日一日使って習得してくれ。明日からでも現場に向かって欲しい」


「テディにダウンロードするのはクレイ、ミア、サファイアの3人で頼む。」


「伝送経路の変性コード空間はアレックスとエメラルドの2人に頼む。スターバックがサポートしてくれ」

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