第10話 共闘

「あー……もう、どうしよ……」


 アルフィンは頭を抱えて座り込み、心配したユクシーがエスパダから声をかけた。


『どこかケガでもしたか?』

「怒りにまかせて戦って……よりにもよって……光熱石を二個も使うなんて……」

『へぁ?』

「あれ一個で二〇万ギーンよ! 二〇万! 一ヶ月も楽に暮らせるじゃない!」


 正気に返って相変わらずなアルフィンにユクシーはホッと胸を撫で下ろしつつ、本当にホッとしていいのかと頭を抱えた。


 一方、状況を見回したネビルは、目の前で凍り付いたように動かないグランディアを見て声をかけた。


「ちょいと提案があるんだが……」

『な……なにさ……?』

「この盗掘者たちの巣から得たものと、討ち取ったフォートレスの半分をやるから、運ぶのに手を貸してくれないか?」


 予想外の提案に我に返ったバレンシアは、即座に脳内で計算をはじめた。

 ネビルたちは輸送の毛長牛を殺害されており、移動手段を失っていた。ケープ・シェルに帰還しなければ換金手段はなく、引き返している間に誰かに残骸を奪われる可能性が極めて高い。そのため、半分をバレンシアたちに渡す代わりに運んで利益を出そうという算段なのだろう。

 悪い話所ではない。

 破損したとは言え可動していたフォートレスである。使える部品は多数あり、この無駄極まりない出撃の採算も取って十分にお釣りが出る。


『いいだろう。だけど、ここにドラグーンは下ろせない。広い場所までコイツらを引っ張っていく必要があるよ』

「まぁ、その辺はウチの荷車をエスパダに引かせて……あとは、こいつらが荷車を持っていれば、それをお前さんにも運んでもらう形になるだろう」

『ガリクソン。ドラグーンが着地できる場所を探しな! ランディは降りてきて荷造りを手伝っとくれ!』


 話が決まれば行動は速かった。

 翼動式飛行運搬船――ドラグーンから降下ロープを伝って降りてきたランディは、渋い顔をしながら荷車への固定作業の手伝いをはじめた。

 その間、ユクシーはエスパダで鉄板を使い、今まで牽引してくれていた毛長牛――ミロとパウズを埋葬する穴を掘っていた。可愛がっていたアルフィンの心情を思うと、それくらいのことをしてやらないと可哀想に思えたからだ。


『アルフィン。埋葬するぞ?』

「うん……」


 いつの間に詰んできたのか、ミロとパウズが好んで食べていた野草をアルフィンは持ってきていた。

 すでに冷たくなっている二頭の頭をそれぞれ撫でてから、アルフィンはエスパダを見上げた。


「埋葬してあげて」

『分かった』


 重い遺体を難なく持ち上げて掘った穴に収めていく。

 思う所があるのか、埋葬に立ち会うこととなったランディも黙祷に参加し、アルフィンが摘んできた野草をひとつかみ受け取り、二頭の口元近くにそれぞれ投げ入れた。


「長いこと、仕事を手伝ってくれた奴らだったな。ありがとう。ゆっくり休めよ」


 ネビルが胸に左手を当てて黙祷を捧げ終えるのを待って、ユクシーは二頭の遺体に土をかけていった。

 その後、アルフィンとネビル、バレンシアは盗掘者のアジトを確認するため、縛りあげた盗掘者たちが告げた場所に向かった。といっても、一〇〇メートルもいかない森の窪地に、それは作られていた。

 アジトというにはテントに補給物資と高価鹵獲品を収納するケースがあるだけの質素なもので、勝手に移動させないためなのか、あるいは飼育の手間を軽減させるためなのかフォートレスを積む荷車を牽引する動物はどこにもいなかった。


「強奪品を勝手に持っていかないように、足を与えていないって感じだね……。どうやら、ガイムは部下を信用しないタチのようだね」

「ガイム? アイツは情報屋じゃねえのか?」

「一応、情報屋さねぇ。巧く誘導して、てめえの部下どもに襲撃させる手口に長けてる……タチの悪い情報屋さ。あはん、あはは~ん!」

「じゃあ、バジュラムの情報も嘘か?」

「それは本当。本当の情報を売って、集まってきたバカを狩るのが奴の手口よ」

「次に会ったら、首根っこ捕まえて捻ってやる」

「それにしても……」


 ざっとキャンプ地を見回し、バレンシアは言葉を続けた。


「シケた装備ね……。あんたらの前に一組くらいしか襲ってなさそうね」

「まぁ、そう通りがからんだろうしな。そっちはどうだ? アルフィン」


 一人、盗掘者が生活に使っていたテントを漁っていたアルフィンは、そこから顔を出して一本の剣をネビルに投げ渡した。


「それ、魔法剣っぽいんだけど……」

「どれ……」


 鞘から剣を抜くと、刀身にはびっしりとルーン文字――フサルク文字が刻まれており、鍔の付け根に大きめの青い宝石がはめられていた。


「コイツは……」

「ブレード・ウィップだね」

「知ってるのか?」

「ああ。その刀身のルーンに指を走らせて使用者を固定した後、鍔の宝石を触れば、刃が細かい刀身に分解して、鞭状の刃に変化する厳つい武器さ。使い手を選ぶんで、扱いに困るやつだね」

「俺みたいな大ざっぱな奴には向かない武器だな。アルフィン、使ってみろ。鞭を扱えるなら、使いこなせるだろ」

「じゃあ、もらっておくね」


 剣を受け取ったアルフィンは、バレンシアの説明通りに刀身に指を走らせてから宝石に触った。すると一瞬で刀身が崩れ、一片が幅二センチほどの鋭い刃となった、ブレード・ウィップに変化した。


「確かにバランスが難しいね……」


 少し振り回すが完全に鞭のようには動かない。確かに扱いが難しい武器だった。


『姐さん! こちらドラグーン・バリシュ』


 頭上から声が響き、見上げると巨大な翼動飛行運搬船――ドラグーンが静かに降りてきていた。


「どうしたんだい?」

『着陸できる場所は、この先のベルゼ精霊殿の庭くらいしかなさそうですぜ』

「だってさ。そこまで荷車を引きずっていくしかなさそうだね」

「まあ、仕方ない。どうせあと二、三キロだろ?』


 バレンシアは頷き、再び上空を見上げて声を張り上げた。


「了解! あんたは上空から監視しながら、あたしたちについてきな。ロクな武装がないんだから、バリシュ単体で動くんじゃないよ!」

『アイ・サー!』

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