あの日から
水無月
短編
「久しぶりだね」
「ここに来れてなくてごめん。」
返事は帰ってこない。
そりゃそうだ。だって今話しかけている相手はもうこの世にはいないのだから。
ここは僕の恋人のお墓。
数年前、彼女は横断歩道を渡っているときに大型トラックに轢かれて亡くなってしまった。
普通の乗用車だったらボンネットに乗っていたのだろうが、大型トラックだったせいで下敷きになってしまった。
「なんでこんなことになったのかな」
僕の言葉は空を切る。
僕は呑気に家でテレビをみていた。
トゥルルル トゥルルル
着信音が聞こえ、スマホを見ると画面に警察という文字が浮かんでいる。少しドキッとした。何故警察なのか。
そう思いながらも電話に出ると、
『彼女さんが事故に遭いました。事件があったのは◯◯交差点で…』
頭を殴られたような衝撃が走った。いきなり事件について説明されたものだから、詐欺か何かだと思った。だが着信先は間違いなく警察だ。搬送された病院を聞くと僕は財布も持たないまま家を飛び出した。
外はもうすでに暗くなっていた。12月に入ったからか寒い。
全力で走る。普段の僕だったらこんなに早く走れなかっただろう。
嘘だ。いや、嘘であってほしいと願った。
病院につき、扉を開けると僕は全てを悟った。
もうすでに彼女の身体は冷たくなっていた。
何故彼女が死ななければならないのか。
彼女は明るく、周りから好かれていた。
対して僕は暗く、周りに気味悪がられていた。僕が代わりに死んでしまえばよかったのに。
その後のことはあまり覚えていない。
唯一覚えているのは医師に帰ることを促され、家に帰ったことだけだ。
テレビをつけニュースを見る。
「◯◯交差点で大型トラックに女性が一人轢かれました。犯人は逃亡中です。」
殺してやりたい。猛烈に殺意が湧いた。人一人殺したんだぞ?何故逃げることができる?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?、、、
翌日母親に精神病院に入れられた。今思うと良い判断だったと思う。
入院生活はかなり辛くて、寝ることができないこともしばしば。食事もまともに取ることができなかった。それでも頑張って耐えた。ひとつ、生きる意味があったから。
そして昨日、やっと退院することができた。だから今日初めてお墓に来ることができた。立て直すのにかなりの時間がかかったが、そのくらい彼女を愛していたと思うと悪い気はしない。
「っと、用事を済ませないとな」
僕は鞄からクロユリを取り出す。
「用事を済ませたら会いに行くよ」
僕は大型トラックに乗り、目的地に向かった。
あの日から 水無月 @askgo
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