第31話 パーティー開催

 馬車から降りると、アルビダと父はすぐに会場まで案内される。

 パーティー会場内に入ったアルビダは、目を見開き驚く。


「……すごいです」


 煌びやかに装飾された広い会場内。

 そこには大勢の人たちで賑わっていた。


「では行こうか」


 驚き固まるアルビダを、父は手を取りエスコートする。


〝アビィが固まっている。それはそうか。こんなにも大きなパーティーに参加したのは初めてだからな。緊張が少しでもほぐれてくれるといいのだが……〟


 緊張しながらも、父に連れられ歩いていると、アルビダに話しかけてくる人たちが。


「こんにちはアルビダ嬢」

「アルビダ様、お会いできて嬉しいですわ。今日のドレスすごくお似合いです」


 見知った顔を見て、アルビダの緊張が少しゆるむ。ジェイデンとジュリアもこのパーティーに参加していたようだ。


「ジェイデン様、ジュリア様。こんにちは、お二人も参加されていたのですね」


 二人の顔を見て安心したのか、やっと笑顔が溢れた。


「そうだね。今日のパーティーには、ほとんどの子息令嬢が参加しているんじゃないかな?」


〝第二王子のお披露目だからね。アルビダ嬢はもう王子に挨拶を済ませたのかな?〟


 少し心配そうにジェイデンがアルビダを見る。


 ジェイデンたちとにこやかに話しているアルビダを見て父は安心したのか。


「では、アルビダはここでいなさい。私はあいさつをすませてくる」


〝良かった……。リンドール子息令嬢とは仲良しになったんだね。あの二人といた方が会場の空気にもなれるだろう〟


 自分を思いやり心配してくれている父の心の声を聞いて嬉しくてさらに笑顔が破顔する。そんな姿を見て父は安心し、アルビダの元を離れて行った。


「今日のアルビダ様は、その美しいドレスも相まって一段と大人っぽいですわ」


 ジュリアがうっとりとアルビダを見つめる。

 ドレスを褒られたことが嬉しくて、アルビダは饒舌に返事を返す。


「ありがとうございます! このドレスはシュトロン侯爵家令嬢のリリーローズ様がデザインし作ってくれましたの」

「まぁ! リリーローズ様といえば、有名ドレスブランド【cheeky】のデザイナーの方ですよね。アルビダ様すごいですわ。そんな方にドレスをデザインしていただけるなんて」


 ジュリアが興奮気味にドレスの話をしている。どうやらリリーローズのブランドはアルビダの想像以上に令嬢たちに大人気ブランドのようだ。


 三人で仲良く話していると、声をかけてくる令嬢がいた。


「こんにちはジェイデン様」

「…………こんにちは。マウンティー嬢」


 どうやらジェイデンに声をかけてきたようだ。その姿は金髪の髪の毛をくるくると巻き髪にし、派手な化粧をしている。


「ジェイデン様、マウンティーではなく下の名前スルーリーと呼んでくださいませ」


 マウンティー令嬢はアルビダとジュリアの姿が目に入ってない様子。距離を詰め必死にジェイデンに話しかけている。

 だがジェイデンはというと、能面のような表情のまま固まっている。


「……いや。僕たちはまだそんな中でもないので」


 冷ややかな目で令嬢を見据え言葉を返すジェイデン。いつもアルビダに向けている熱を帯びだ視線とはまるで別人のようだ。


 そんなジェイデンの変化にアルビダも気付き少し動揺する。


 ——ジェイデン様どうしたのでしょう? いつもと様子が……。表情が固まっていますわ。


「ジェイデン様? もしかして体調がすぐれませんか?」

「んん? 大丈夫さ、心配してくれてありがとうアルビダ嬢」


 アルビダは少し気になり声をかけた。すると花が咲いたような笑顔で笑いかけるジェイデン。


 そんな見たこともない笑顔で笑いかける姿を見て、視線の先にいるアルビダの存在にやっと気づいたマウンティー令嬢。


「あら、こちらの方は……?」

「イングリットバークマン令嬢ですわ」


 アルビダの右腕に手を絡め、ジュリアが先に名前を名乗る。

 まるで挨拶なんてしなくてもいいとも思える態度をとりながら。

 ジュリアはもしかしてこの令嬢が嫌いなのかもっとアルビダがふと思う。


〝このマウンティー様はいつも私の存在を無視して、お兄様にばかり色目を使ってて、苦手です〟


 そんな時ジュリアの心の声が聞こえてきて、アルビダはやはり……と納得する。


「初めましてイングリットバークマン様。マウンティー伯爵家が娘スルーリーです」


〝なあにこの赤い髪の派手な女。大して綺麗でもないくせに、ジェイデン様と仲良く話なんかして……邪魔だわ〟


「え?」


 挨拶は笑顔で返してくれるのに、聞こえてくる心の声は真逆。アルビダはその姿に戸惑う。今まで聞こえていた心の声は、全てが自分にとって優しいものだったから。


「アルビダ様のドレスはとても斬新ですわね。とてもお似合いですわ」


〝変わったドレスを着てパーティーで目立とうとでも思ったのかしら? はっきり言って悪目立ち。あはっ、そんなことしても大して可愛くないのに〟


 ——何!? なんですの? この心の声は……。


 心の声が聞こえた今。その笑みはうすら笑いでアルビダを馬鹿にしたように見ているのが分かる。


〝ジェイデン様とお話したいのに、この女邪魔なのよね。さっさとどっかに行ってくれないかしら。ドレスも変で悪目立ちしてるし〟


「そんなっ! このドレスは変ではないです!」


 リリィのドレスを馬鹿にされ、思わず心の声に返事をするアルビダ。


「へっ!? なっ、何をいきなり言うの? びびっくりするじゃない」


 そんなアルビダの言葉に、目をまん丸にして間抜けな顔で驚くマウンティー令嬢。


〝私……変って言っちゃった? あれ? しまった。まぁ、誤魔化したら大丈夫でしょ〟


 ——酷いです! 初対面で何も知らないのに、どうしてこんな事を言われないといけないのでしょうか? わたくしはこの方に何もしていませんのに。


 アルビダはキュッっと口を噤むと、下を向き黙り込んでしまった。


「アルビダ様?」


 少し様子がおかしいと感じ取ったジュリアが、心配そうに話しかける。


「あ……す、すみません。ちょっと……わたくし、その……お花摘みに行ってきます」


「えっ!? アルビダ様!?」

「アルビダ嬢!?」


 泣きそうになっている顔をジェイデンたちにみられたくないと思ったアルビダは、心を冷静に保つために慌ててその場をたち去った。






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