第21話 ヤンデレジェイデン
『おはよ、アビィ』
「んん……」
アルビダの頬にロビンの柔らかな手がぽみゅりと触れる。
まだ眠たいのか、目を擦るも起きそうな気配がない。
『今日はリンドール邸に行く日でしょ? 早起きしてジュリアにあげる薔薇を摘みに行くんじゃなかったの?』
ロビンが早く起きてと、アルビダの体を揺らす。
その言葉に、眠そうだったアルビダの目がパチリと見開く。
——そうでしたわ! リリーローズ様にも褒めていただいた薔薇をプレゼントしようと思っていたんです。
アルビダはベッドから慌てて降りると。
ドレスではなく、ラフな服に着替え「わたくし庭園に行ってきます」そう言って慌てて部屋を飛び出て行った。
そんなアルビダの様子を見て、ロビンはやれやれと両手を上げひと仕事終えたとばかりにベッドで再び眠るのだった。
一推しの薔薇をとってきて朝の身支度を済ませると、メアリーと共に馬車に乗りリンドール邸へと向かう。
この日は父が仕事で忙しく一緒に行けないので、メアリーがお供として付いて来ている。
「アルビダ様。薔薇の花束ですが、私がお持ちしましょうか?」
大きな花束を抱えて馬車に座るアルビダを見かねたメアリーが、助け舟を出すがアルビダは自分で持つと言って、いう事を聞かない。
今日は父の膝の上で抱かれてもいないので、馬車に揺られてお尻も痛くて限界なはずなのに。
プルプルと震えながら痛みを我慢しているアルビダの姿を、メアリーは見てられないのだ。
そんな二人を乗せた馬車がやっとリンドール邸に着いた。
アルビダとメアリーはそれぞれ別の意味でほっと安堵するのだった。
馬車から降りると、執事にジェイデンたちがいる部屋へと案内される。
部屋に入ると、アルビダを見て太陽のように眩しく微笑むジェイデンと、ジュリアの姿があった。
「アルビダ嬢、今日は僕に会いに来てくれてありがとう」
〝大輪の薔薇をもつアルビダ嬢は美しい。薔薇に負けない気品があるね〟
「お兄様? 何を言ってますの? 今日は私に会いに来てくれたんですよ?」
〝麗しいアルビダ様にやっと会えましたわ。今日はいっぱい独り占めして遊んでもらうんだから〟
「ふぇ!?」
——心のスキルを使ってませんのに? どうして二人の声が聞こえてきますの?
不意にリンドール兄妹の心の声が聞こえてきて、驚き声が裏返ってしまう。
それを必死に誤魔化そうと、何かないかと考えるも、いいアイデアが浮かばず頬を桜色に染めたまま黙り込んでしまう。
そんなアルビダの様子を見た二人は『可愛い……』っとコッソリ悶えているのであった。
「ジュリア様、改めて病気が完治してよかったです、これはわたくしからのお祝いです」
アルビダは花束を渡す時に、この薔薇は自分がジュリアのために選びとってきた薔薇だと伝える。
それを聞いたジュリアは嬉しくて身悶えするのだった。
〝アルビダ様自らが選んでくださった薔薇! これはもう私の宝物ですわ〟
「ジュリア? 僕にも薔薇を少し分けて……「お兄様の頼みでも嫌ですわ」」
薔薇を少し分けて欲しいとのジェイデンの言葉に、被せ気味に断るジュリア。
今までジェイデンにそんな態度をとったことなどないのに。
その後、ジェイデンの口からチッと舌打ちが聞こえるが、アルビダとジュリアは全く気づいていない。
「それで……ジュリア様のお加減はいかがですか?」
「心配していただきありがとうございます。あれだけ伏せていたのが嘘のように元気です。これもアルビダ様のおかげです」
ジュリアはそう言ってアルビダの手を握り締める。
アルビダも嬉しくてその手をぎゅっと握り返す。
そんな二人の姿を、ジェイデンは少し羨ましそうに見ているのだった。
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