第16話 病気を治しますわ


「まさか……治す薬がこんなにも近くにあるなんてね」

「はい、でも近くの場所でよかったですね」


 アルビダとジェイデンはリンドール邸にある、今は使われていない温室に向かって急いで走っている。

 その理由は一つしかない。

 ジュリアが熱花草を見つけた場所が、温室だと言ったから。


「可愛い……虎模様の、猫ちゃんが……いて、ね? その子を……追いかけていたら、使ってない……温室に入って、行ったから……私も後をついて入ったの、そしたらこの……絵と同じお花が、いっぱい……咲いていて……あまりにも……綺麗だから一輪だけいただいて……部屋に、飾ってたんです」


 そうジュリアが息絶え絶えに二人に教えてくれた。その話を聞いたジェイデン曰く、何百年か前はその温室で、リンドールの花の品種改良をしてらしい。

 きっかけは分からないが、温室で何か環境に変化があり、その珍しい熱花草が発生したんじゃないかと、ジェイデンはアルビダに伝えた。


「ここがその温室だよ」


 ジェイデンに案内された温室はかなり古びてはいるが、大きさはリンドール邸と同じくらい広く作られていた。


「想像していたのの何倍も大きいですね」

「まぁ……大昔に作られた遺物だけどね」

「これが大昔に……すごい技術です」


 アルビダは立派に建てられた温室に感動している。


「まだ熱花草が咲いて、僕たちも感染したらまずい、花粉を吸い込まないようにハンカチで口元を抑えて中に入ろう」

「はい。わかりました」


 二人はハンカチで口元を抑え、少し緊張しながら温室の中に入っていった。

 中に入ると、なんとどの花も標準サイズの三倍は大きい。

 リンドールの花も三倍の大きさ。


「これは……一体!? 何があってこんな変化が!?」


 ジェンデンは驚きおもわずハンカチを落としそうになる。


「すべての花が大きい……」


 周りの花に見惚れていると、奥に一際大きな大輪の花を咲かせている花を見つけた。


「あれは……熱花草!」

「見つけましたね。一輪だけ残ってました。後の熱花草は枯れてしまってますね……ん?」


 アルビダはふと 、枯れた熱花草を鑑定すると、そこに書かれていたのは。


 ——え……枯れた葉っぱも熱花病の薬になる!?


「ジェイデン様! 枯れている熱花草でもお薬を作れるみたいですよ!」

「本当かい? じゃあ、このさき熱花病になった人がいた時に使えるよう、使い方も記載して枯れた熱花草を教会に寄付するとしよう」


 アルビダとジェイデンは、咲いている花から一番離れた場所にある枯れた熱花草を多めに採取して屋敷に戻った。  




★★★



「ジュリア、この薬を飲んで? 楽になるから」

「……はい」


 アルビダとジェイデンは、採取してきた乾燥熱花草を使って大急ぎで薬を作り、ジュリアの所に戻ってきた。


「この体の斑点は……」


 薬をあげる時に、ふとジュリアの体に斑点が出来ているのを視認する。


 斑点が出来ると末期と書いていました。二週間以内に死ぬとも……。

 

 ——間に合って良かった!


 薬を飲み終えたジュリアの姿を見ると、真っ赤だった顔色が落ち着いていくのが分かる。ゼェゼェと苦しそうだった呼吸も、心地よい吐息に変わっていく。

 体に浮き上がっていた斑点も、薄くなっていくのが目に見えてわかる。


「ああっ……ジュリア……良かった」


 この姿を見たジェイデンの目が涙で煌めく。


「薬が効いたんだアルビダ嬢!」

「はい! ひゃわっ!?」


 ジェイデンは勢いよくアルビダを抱きしめた。


「アルビダ嬢ありがとう……本当にありがとう……ふぅぅっ」


 アルビダを抱きしめお礼を言うも……その声が震えるジェイデン。

 嬉しくて涙が止まらないんだろう。

 当のアルビダはというと……母と父以外の人に初めて抱きしめられ、どうしていいのか分からず固まるのだった。


 そんな二人の様子を、ロビンが何とも言えない目をして見つめていた。

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