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 お祭り騒ぎの選挙ウイークが終わって、新たなリーダーが選出された日から数日後、指令が下った。

「ハル。ディナーの準備を頼む」

 ビブラートのきいた野太い声をコックピットのマイクが拾い、電気信号となって私の頭脳に進入した。

「お好みの調理法はいかに?」

「やはりローストがよい。こんがりと頼む。食材は調理室へ運べ。あとでオレがしめる」 

「かしこまりました。そのように」

 私は素直に従って、貯蔵室に麻酔ガスを注入して食材を眠らせたあと、食材管理ロボットに指示を出す。

 食材はロボットの手で運搬用エレベーターに乗せられると、瞬時に調理室へ直行した。 

 エレベーターから放り出された食材は、床を転がった反動で目を覚ました。放心状態でキョロキョロと首を回し始める。 

 しばらくして、警報が室内に反響した。その音に驚いた食材は床を這いつくばる。

 いっときして、ドアが左右に滑る。食材はそちらに首を回し、ドアの隙間が広がる様子を凝視した。完全に開ききると、黒い物体が入り口を塞いでいた。四つん這いのまま、首を上下に動かし、目を丸くしながら物体の把握に躍起になっている。

 突然、黒い塊は中へ忍び込んで来た。次第にその実体が露になる。

 食材の手が床から跳ね上がり、反動で仰向けに引っ繰り返った。脚を立て、肘で後ずさるものの、腰が抜けたのか、尻は床面に吸いつき、ばたつかせた足は一所を滑る一方だ。一目散に逃亡をはかりたいだろうが、己が体すら意のままにならない。

 そのものを完全に認識した食材の表情には、色濃く恐怖が滲み出ている。人間的に表現を試みるなら、恐怖のあまり“引きつった”とか“歪んだ”と言ったところだろうか。それゆえ、四つん這いとハイハイでしか行動できぬのだった。

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