月光
涼
第1話 サイレントナイト
その夜は、月光が、それはそれは綺麗で、私は、思わず、その光の中に、貴方の姿を探したのです――……。
貴方に出逢ったのは、私が22歳の時。あれは、魔法だったのかな? ううん。きっと、幻だったのかも知れない。私の瞳が、哀れな程潤み、涙を溜めていたから、あんな幻を見たんだわ……。
その夜、私は、彼氏にフラれてしまった。理由は、まぁ、幾らでも溢れている、ごくごく有りがちな理由。
彼には、私以外に、女の人が……彼女がいた。その上、私は、そんなに重要人物でもなかったらしい。
私は、前々から、何度も何度も、急に用事が出来る彼氏を疑ってはいた。それでも、彼は、一緒にいる時はとても優しかったし、あり得ないほど格好良かったから、私みたいに、そんなに美人でもない女に振り向いてくれた事が嬉しかった。だから、多少の事は多めに見よう、と決めていた。彼は、IT系の社長でもあったし、忙しいのも重々承知していた。だから、疑うのも、疑って、『こんな素敵な人が彼氏なんだから、私は幸せよね?』と、言い聞かせていた。
けれど、それも、その日が最後となる。
その日は、私の誕生日だったのだ。彼と出会って、初めて迎える誕生日。1ヶ月前から、この日は空けておいてね、といつもはそんなに言わないし、しつこくもしなかったけれど、その日は……、その日だけは、どうしても一緒にいて欲しかった。何故なら……、その日は、クリスマス・イヴ。そう。私の誕生日は、12月24日。
もしかしたら……、と思った。この日、彼に急用が出来たら、その時は……。
「ゴメン、
「そんな……! だって、今日は……」
「え? 今日、ただのクリスマスでしょ? 誕生日はお祝いするから。じゃあね」
「!!」
私は、確信した。彼には、他にも誰かいる……と。そして、わざと約束通りの場所に向かった。何メートルものクリスマスツリーがイルミネーションで彩られ、キラキラキラキラ輝いていた。そっと、その隙間から私は彼を……彼と彼女をこっそり気配を消しながら探した。
「……」
私の瞳から、キラキラが消えた。どんな煌びやかな装飾も、もう、この瞳に映される事はない。そこに映されたのは、私なんかよりずっと可愛いい彼女と、私なんかといる時とはまるで比べ物にならないくらい、とびっきりの笑顔の彼氏の姿だった。
私の瞳は揺れる程涙がこみ上げ、どうする事も出来ない寂しさと、その2人がお似合い過ぎる悔しさとで、胸が張り裂けそうだった。
私は、恐らく、電源が切ってあるであろう彼氏……知り合いの男の人に、そっと、ラインで『さよなら』と送り、退出し、ドメイン指定もした。もう、関わる事も無い。
「…………」
私は、そっと、コートの中の洋服を想った。せっかくの……。
「好きだったのにな……」
ポロッと、口を吐いた言葉に、私はすごく後悔した。あんな人、好きだなんて、もう、想いたくもない。
涙は、流さない事に決めた。悔しいから。悔しすぎるから。
何も考えず、ポタポタ歩いた、独りっきりの、クリスマスイヴ――……。
何もかも失った、22歳の誕生日。
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