死んでる暇ないよ

死んでる暇ないよ

「死んだらあかんですよ」

夢の中で，男が言った。

「死んだらダメだからね」

空の上で、彼女は書く。

「マジで死にてぇよぉー」

僕の隣で、部下が放つ。

　僕は別に死ぬつもりなんてないのに。なんでみんなそんな。死ぬなんて簡単に使って良いはずないのに。くそう。腹が立ってきた。死んでやる。ああなんだ。そうやってみんな僕ばっかり責めるんだから。僕をフラストレーションを吐き口にするんだから。涙が出てきた。もうやだやだやだ。はぁーと溜息を出す。この溜息も誰かの受け皿に溜まっていくのだろうか。そう思うとイヤになる。明日だ。明日このマンションから飛び降りてやる。絶対。

　明日にする。しょうがない。銀行に行ったら強盗が来て僕を人質にしたんだから。しょうがないしょうがない。正夢だったんだあの夢。僕が男に捕まって、死ぬのを咎められる。僕が死んでやるぅと言ったら男が「死んだらあかんですよ」と言ってきやがる。だからそれに従ってやるのさ。結局強盗は呆気なく捕まってしまったから、一つくらい思い通りにしてやろう。ああ良い気分。明日ね。明日死ぬさ。

　明日こそ。必ず明日こそだ。今日はしょうがない。だって彼女が死んじゃったんだもん。自殺。しかも遺言付き。僕宛の。「死んだらダメだからね」と殴り書きで一言。なんでそうみんな僕を止めたがるんだ。辞めたい生活を辞めさせてくれないんだ。最悪。しょうがない一日だけ。今日だけ。明日必ず死んでやるさ。

　ああああいつか。絶対絶対いつかのいつか。はぁーー。だってしょうがないじゃないか。最後の挨拶に職場に行ったら後輩がボヤいたんだもん。「マジで死にてぇよぉー」なんて言うなよ。慰めちゃうじゃないか。「生きてたら良い事あるよ」なんて言わせないでくれよ。そんなこと言ってた奴がその日死にました、なんて滑稽すぎるって。しばらく死ねなくなったわ。最悪最低の気分。

　ああ次こそは。

　良い都合があれば。

　あれだけやったら。

死んでる暇ないわ。