あやかしまやかしいとおかし

おちむ

第1話 お化けたち

 東京の郊外にある「菖蒲園しょうぶえんゆうえんち」──。

 その名のとおり、初夏になると広大な敷地のあちらこちらを菖蒲の花がいろどって来場者の目を楽しませる。

 青や紫に咲きほこる菖蒲に囲まれてピクニックを楽しもうとやってくる者は多く、近隣の住民にもいこいの場として古くから愛されてきた歴史ある遊園地であった。

 園内のアトラクションに関しては、最先端さいせんたんとはいかないまでも観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランド、コーヒーカップ等々、伝統的なものがほぼそろっており、入場料が安いわりにレストランや売店も充実していることから家族連れに好評で、開園当初から今日こんにちにいたるまでさびれたことのない盛況せいきょうぶりをていしている。

 ただ、そんな「菖蒲園ゆうえんち」にもたったひとつだけ、客の歓声のかわりに閑古鳥かんこどりを鳴かせているアトラクションが存在した。

 番町皿屋敷ばんちょうさらやしき──。

 そのアトラクションの看板には、おどろおどろしい字体でそう刻まれている。

 江戸時代に流行はやった怪談「番町皿屋敷のお菊」をモチーフとした、お化け屋敷である。

 旦那だんなさまの大切な皿を割ってしまい、苛烈かれつな体罰に耐えかねて井戸に身投げしたお菊という名の少女が霊となり、な井戸のなかで皿を数えては「一枚足りない・・・」と、むせび泣く、そんな内容の怪談である。

 このアトラクションには主役のお菊以外にも、ろくろ首や唐傘小僧からかさこぞう、のっぺら坊などの古典的なお化けが客をまちかまえている。

 だが、モチーフが古すぎるせいか、それらのお化けでは現代人の恐怖心を刺激することができないようであった。

 娯楽ごらくや情報が少なかった開園したての昭和中期ならまだしも、映画やゲームでホラー耐性を強化された現代人をこわがらせるには、江戸時代のお化けでは力不足なのだった。

 たまに、月に数人程度の客が興味本位で、あるいはひやかしで来場するが、入口では笑顔だった彼らの顔も出口となるとみな一様いちように無表情となっていた。

 恐怖からではない。

 ひどく退屈だったからである。

「あのお化け屋敷って、まだあったんだぁ。子供のころ一回だけ入ったことあるけど、ぜんぜんこわくなかったし、つまらなかったわ」

「昔とかわった様子もないし、おもしろくなったって噂も聞かないし、なんでつぶれないんだろ」

「もっと楽しいアトラクションにかえてほしいよな」

 つたにからまれて古色蒼然こしょくそうぜんとした木造二階建ての、江戸中期の商家をした皿屋敷を遠巻きにながめながら、「菖蒲園ゆうえんち」の愛好者たちは口々にそう言ってとおりすぎていくのだった。

 だが、彼らは知らない。

 この皿屋敷に住まうお菊や、ろくろ首、あるいは唐傘小僧といった面々が、実は本物のお化けなのだということを・・・。




「いいですか? わたしが九枚目のお皿を数えおえる前に、逃げてくださいね?」

「なんで~?」

「わたしが九枚目を数えるのを聞いてしまうと、あなたは死んでしまうからです」

「うっそだ~」

「うそではありません。ですから、六枚目あたりになったら逃げたほうがいいですよ。では、数えますからね。逃げる準備、してくださいね」

 つくり物の丸い井戸のなかに立ちながら、お菊は、五歳くらいの男の子にむかってほがらかな笑顔でそう説明すると、身にまとっている白い着物のたもとから紙皿を一枚ずつとりだして、それをゆっくりと、声を震わせながらうらめしそうに数えはじめた。

「お皿が、いちま~い。に~ま~い。さんま~い。よんま~い──」

「そこは、し~ま~い、じゃないの?」

「へ?」

「だって数えるときって、いち、に、さん、し、って言うじゃん。だから、し~ま~い、じゃないの?」

「・・・言われてみると、なるほど、たしかにそうですね」

 男の子の指摘に納得してしまったお菊は、数えおえて井戸のふちに重ねておいた四枚の紙皿をそそくさと袂にもどした。

「では、数えなおしますね。お皿が、いちま~い、に~ま~い。さんま~い。し~ま~い──」

「し~ま~い、だと、おしま~い、みたいにきこえちゃうね」

「へ?」

「それに、いち、に、さん、よん、って数えることもあるよね?」

「そ、そんな・・・どっちが正しいのでしょうか?」

「ぼくにきかないでよ」

「どうしましょう・・・」

「よん」か「し」か。

 この大問題に直面して心からこまりはててしまったお菊がまゆをひそめ、うなだれていると、男の子が退屈そうな口ぶりで助け舟をだしてくれた。

「お姉ちゃんの好きなほうでいいんじゃない?」

「そ、そうですか。お気づかい、ありがとうございます!」

 勢いよくペコリと頭をさげたせいで黒くて長い頭髪がバサリとおちてきて、それがお菊の顔面をおおいかくした。

「あ、すみません。髪をわえるのをわすれちゃって・・・」

 お菊が自分の無作法ぶさほうをわびながら顔をおおっている黒髪をよりわけ、よりわけた髪の間から左目だけをだして男の子を見ると、それまで平然としていた男の子の顔がみるみると青ざめていき、やがて恐怖に顔をひきつらせ、ついには悲鳴をあげて逃げだしてしまった。

「キットクル子だああああああァァァァ!」

「あ、あの・・・」

 あまりの突然のことに呆気あっけにとられたお菊は、顔面をおおっている黒髪の間からのぞかせている左目を丸め、キョトンと立ちつくした。

「・・・きっと・・・くるこ?・・・」

 お菊には意味がまったくわからない言葉だった。しかし、その言葉を発して逃げだした男の子の顔は、まるで目の前に死神が現れたかのような恐怖と絶望の色にいろどられていた。

 いったい、なにが彼をそこまでこわがらせたのか。

 きつねにつままれたような思いでお菊が小首こくびをかしげていると、不意に草履ぞうりをするような足音が近づいてきて、やがて若い女性がひとり、現れた。

 その女性は二十歳くらいの外見で、黒くてつやのある頭髪を日本髪に結わえ、藍色あいいろを基調とした着物を両肩が見えるほどまで着崩きくずしてまとっていた。美しくととのった顔は物憂ものうげで、きぬのように白い右手には煙管きせると呼ばれる古風な煙草たばこをもっている。

「アヤメさん」

 お菊が女性の名をつぶやくと、アヤメは眉根まゆねを寄せていぶかしげな眼差まなざしをよこしてきた。

「ものすごい悲鳴だったけど、なにがあったんだい?」

「そ、それが、わたしにもよくわからなくて・・・突然、あの子、逃げだしちゃったんです」

「九枚目の皿を数えたからかい?」

「いえ。九枚目どころか、四枚目でまごついてしまいまして・・・」

「なんだいそりゃ」

 口をぽかんとあけてあきれた様子のアヤメだったが、すぐにくちびるほこらしげにつりあげた。

「なんにせよ、悲鳴をあげさせたんなら上出来じょうできじゃないか。そんなこと、ここ数年らい、なかったろ?」

「はあ・・・手応えはまったくありませんけど・・・」

「まあ、いいじゃないさ。んなことより、大事な話があってね。みんなも集まってるから、お菊もきておくれよ」

「でも、まだ閉園の時間では──」

「どうせここに客なんかきやしないよ。あの子供だって三週間ぶりの客だったろ?」

「・・・ですね。わかりました。すぐいきます」

 アヤメの指摘は悲しいが事実だったので、お菊は素直すなおに従うことにした。髪をととのえ、だしていた紙皿をそでの袂にしまい、着物のすそをたくしあげて井戸の縁を慎重にまたぐと、しゃなりしゃなりとなまめかしく歩くアヤメの背中をおいかけた。

 おいかけた先は、皿屋敷でアヤメが担当しているエリアだった。

 アヤメの役どころは、遊郭ゆうかく遊女ゆうじょが実はろくろ首だった、というものである。木組みの格子こうしのむこうから客を手招きし、近寄ってきたところに首をヌッと伸ばしておどろかせるのである。

 首を伸ばしてくるアヤメのことを、客たちは、女優とCGを精巧せいこうに組みあわせた合成映像だと思っている。

 が、さにあらず。アヤメは正真正銘しょうしんしょうめいの、ろくろ首なのであった。

 たたみかれた座敷ざしきに腰をおろしたアヤメが、灰をすてるための煙草盆たばこぼんを片手でひき寄せると、盆の縁に煙管をカンッと軽くたたきつけ、お菊と、もうひとりの仲間に視線をそそいだ。

 お菊の隣には、古風なじゃ傘が立っていた。

 蛇の目傘とは、傘をひらいた時に白い輪の模様が現れ、それがちょうどへびの目に見えることからそう呼ばれることになった和傘わがさのことで、竹製の骨組みに朱色の油紙がはられていた。

 そんな蛇の目傘が、文字どおり、一本足で立っているのである。

 今はたたまれた状態の蛇の目傘が、子供のような甲高かんだかい声で話しかけてきた。

「お菊ちゃん、おつかれさま~」

「うん。すけちゃんも、おつかれさま」

 お菊がねぎらいの言葉をかけた蛇の目傘は、助六すけろくという名をもつ唐傘小僧だった。

 傘のにあたる部分が人間の子供の素足すあしになっていて、その一本足だけでぴょんぴょんとねながら移動するのである。

 腕や手はなく、朱色の油紙がはられた傘布の部分に大きな目と口がひとつずつあって、口からだした長いしたを器用にあやつって手のように用いる。

 彼の役どころは、そのまんまの唐傘小僧である。

 客にはよくできたロボットだと思われているが、助六にロボットを演じているつもりはまったくなく、彼は客がくるといつもはりきって全身全霊ぜんしんぜんれいの自分をだしているのだった。

 ところが、今回の男の子にはその全力がだせなかったようである。

 助六がつまらなさそうに愚痴ぐちった。

「ぼく、お菊ちゃんとちがって、ぜんぜんつかれてないんだ~」

「そうなの?」

「うん。だって、さっきの子供に気づかれなかったんだもん、ぼく・・・」

 助六がさびしそうに言うので、お菊は彼をなぐさめてやりたくなり、優しくたずねた。

「どうして気づかれなかったの?」

「原因はわかってるんだ。これだよ、これ~」

 助六は長い舌をベロンとだし、手のかわりにその舌を使って自分の足もとをしめした。

 見ると、助六の足には見なれた下駄げたではなく、真新しいスニーカーがかされていた。

「あれ? いつもの下駄はどうしたの?」

 お菊がたずねると、助六はねたような声で応じた。

「やだよ、下駄なんて! 古いし、ダッサイし! 今の時代、やっぱりスニーカーだよ。このスニーカーはね、ネイキっていうブランドの限定モデルなんだけど、履き心地がバツグンなんだよね~。おまけにエアクッションが衝撃をやわらげてくれるから、長いことぴょんぴょん跳ねまわってもつかれにくいんだ~。これをつくった人は、きっと唐傘小僧のことを考えてつくったにちがいないよ! でもね、問題もあってさ~。下駄みたいにカランコロンって音が鳴らないんだ・・・ぼくが担当してるエリアって薄暗うすぐらい廊下でしょ? そんな廊下でネイキのスニーカーを履いたぼくが音もなくぴょんぴょん跳ねても、人間の目では気づきにくいみたいでさ~。さっきの男の子にも気づかれなくて、真横をすどおりされちゃった・・・ぼく、ひとりで跳ねててバカみたいだったよ~・・・」

「そ、そうだったんだ・・・それはこまったね」

「うん。なやましい問題だよ。これは理想と現実のカイリってやつだね~」

 最近おぼえたと思われる小難こむずかしい言葉を使ってえつにいっている助六だった。

 下駄にもどせばいいだけのような気もするお菊だったが、助六はスニーカーにこだわりたい様子なので、それはあえて言わないことにした。

「おや? ジーナはまだかい?」

 アヤメが煙管に新しい煙草をつめながらもうひとりの仲間の名を口にし、唐傘小僧を見やった。

「助六。あんた、ちゃんとジーナに声をかけてくれたんだろうね?」

「うん、もちろん。あ、ほら、きたよ~」

 助六が長い舌で、遊郭っぽく演出されたアヤメの部屋の戸口を指し示す。

「ふああ~・・・話ってなぁにぃ? 昨日、完徹かんてつだったから、さっさと寝たいんだけどぉ」

 あくびまじりの声で伸びをしながら現れたのは、十六歳前後に見える少女だった。

 亜麻色あまいろのショートヘアと勝気かちきな目をしており、上下とも黒のスウェットに身をつつんでいた。癖毛くせげのせいでまとまりの悪い頭髪をボリボリとかきながらだるそうな足どりである。

「また徹夜てつやでゲームかい? ジーナ」

 あきれぎみのアヤメに、ジーナと呼ばれた少女は穏やかな口調ながらも自慢げな笑みで応じた。

「チート使ってイキってるやつがいたからさ、ずっとリスキルしてやってたの」

「よくわかんないけど、あんたにつきあって、ずっとリスキルとやらをされてたほうもご苦労な話だね」

「あたしも、すぐをあげてログアウトするだろうって思ってたんだけど、根性だけはみあげたやつだった」

「なんでもいいけど、ほどほどにしときなよ、ゲームも徹夜も」

「ほっといてよ。どうせ客なんてこないんだし」

「きたよ~、さっき~」

 助六があっけらかんとした声で割ってはいると、ジーナが「信じられない」とでも言いたげな表情でおどろいた。

「うそでしょ・・・マジで?」

「うそじゃないもん。お菊ちゃんが悲鳴をあげさせてたし~」

 助六がまるで自分のことのように自慢した。

「へえ、やるじゃん、お菊」

 助六ごしに視線と賛辞さんじをおくってきたジーナに、お菊は思わず肩をすくめて笑みをひきつらせた。

「ど、どうもです、あはははは・・・」

 あの男の子がなぜ悲鳴をあげて逃げだしたのか見当もつかないお菊は、ジーナからの賛辞を複雑な気もちでうけとった。

「あたしも、そいつを泣かしてやりたかったなあ」

 穏やかな口調で嗜虐的しぎゃくてきな笑みを浮かべるジーナの横顔はあやしくも美しかった。

 ジーナはむじなである。自分の顔の造形を様々に変化へんげできる能力をもっていて、最近の彼女のお気にいりは、今まさに妖艶ようえんな笑みを浮かべている、おさまりの悪いショートヘアに勝気な目をした少女の顔だった。

 自分の顔の造形を自在にあやつれるということは、目鼻立めはなだちを消すこともできるわけで、そんな特技をかしたジーナの皿屋敷での役まわりは、のっぺら坊である。

「で、話ってなんなの? アヤメ」

 ジーナに水をむけられたアヤメが煙管に火を入れながらうなずいた。

「それが、ちょいとやっかいなことになってねえ」

 煙管をくわえ、吸った煙をため息のようにきだしてからアヤメが言葉をつづける。

「実は、三日ほど前に、この遊園地のオーナーが倒れたらしいのさ」

「死んじゃったの~?」

 心配とは無縁の、単なる興味本位まるだしの助六の質問に、アヤメは二口目の煙を吐きだしながらかぶりをふった。

「死んじゃいないよ。ただ、療養りょうようのためにしばらく入院するらしいんだ」

としだったもんね、あのじいさん」

 ジーナが腕を組みつつ、うなずいて納得していた。

「歳をとるのが早いですよね、人間って・・・」

 しみじみともらしたお菊のつぶやきに、すかさずアヤメが指摘した。

「あんたも昔は人間だったろ?」

「わたしの人間は、十三歳でおわってますから・・・」

 お菊が旦那だんなさまのお屋敷やしき下女げじょとして奉公ほうこうしていたのが十三歳のころで、井戸に身投げしたのもその歳だった。

 そんなお菊の悲劇を思いだしたのか、アヤメが煙管の吸い口で自分の頭をかきながらバツが悪そうに謝罪した。

「つまらないことを思いださせちまったね。ごめんよ」

「いえ、いいんです・・・もうずっと昔のことですから」

 お菊が死んでから三百年以上もの時がっていた。この世にとどまっている時間は、生きていたころよりも死んでからのほうがはるかに長いのである。

 そんなお菊にとって生きていたころの記憶など、夢のなかのきりのむこう側の景色のようにぼやけたもので、今となってはお菊自身にとっても、どこか他人事ひとごとのように思えるのだった。

「ま、とにかく──」

 三口目の煙管を口にくわえながらアヤメが話題をもとにもどした。

「客がまったく入らないこの皿屋敷にも理解を示してくれていた、人の好々爺こうこうやなオーナーがいなくなっちまったってことさ」

「ってことは、この遊園地は今、オーナー不在なの?」

 ジーナの問いに、アヤメは眉間みけんにシワを寄せた。

「ところがどっこい、そうじゃないのさ」

「どういうこと?」という顔をしているお菊たち三者にむかって、アヤメが確認してきた。

「今朝、あたいがでかけたのは、みんな知ってるだろ?」

「知らないし」

「しらな~い」

「知りませんでした」

 ジーナ、助六、お菊が三者三様さんしゃさんように頭を横にふると、アヤメが首は伸ばし、ムッとした顔を近づけてきて断言した。

「でかけたの!」

 目と鼻の先まで近づいてきたアヤメの鬼気ききせまる表情に気圧けおされて、三者が一様にコクコクとうなずく。

 どうやら、お菊や助六が寝ている間に、そしてジーナがゲームに熱中している間に、アヤメは朝からどこかへでかけていたらしい。

「ったく、どいつもこいつも呑気のんきなんだから・・・」

 伸ばしていた首をゆっくりともとにもどしながら愚痴ったアヤメが、煙管をくわえなおして話をつづけた。

「で、どこへでかけたかっていうと、各アトラクションや店舗の責任者が新しいオーナーに呼びだされてね。それに応じて園内にある事務所ビルまでいってきたってわけさ」

「新しいオーナーさん・・・って、どんな方です?」

 お菊は純粋な好奇心からそうたずねた。

 すると、アヤメはいやなことでも思いだしたのか、美しい顔を忌々いまいましそうにゆがめながら、手にしていた煙管を煙草盆の縁にカンッと力強くたたきつけた。

むなクソ悪い、やな女だったよッ」

「女の方・・・でしたか」

 なんの根拠もなく新しいオーナーも男だと思いこんでいたお菊が素直におどろいていると、ジーナが冗談めかした口調でアヤメをからかった。

「どうせ、アヤメより美人だったからねたんでるんでしょ?」

 だがアヤメはくすりとも笑わずに毒を吐いた。

「はん! 美人なもんかい! 顔も心もゆがみきった正真正銘の醜女しこめだよ!」

「その方と、なにかあったんですか?」

 アヤメが他人のことをここまでこきおろすのを聞いたことがなかったお菊は、その原因が新オーナーとのやりとりにあったのではないかと思い、遠慮がちにたずねた。

 煙管をくわえたアヤメが、自分を落ち着かせるかのように吸った煙をゆっくりと吐きだし、それから口をひらいた。

「・・・その女が、こんなことを言ってきたのさ」

 イライラとした口調で語りはじめたアヤメの話を、お菊たちは緊張したおももちで聞きいった。

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