リリコ
リリコは私立大学の二年生です。趣味は中学生まで少女マンガを読む事が好きでした。
リリコは王子様系が好きでした。
でした……。そう過去形です。リリコは中学になってから自分がデブでブスだと認識したんです。
クラスメイトの男子から「デブ!」「ブス」と散々バカにされました。
あだ名は【ダルマ】
傷付きます。凄く泣きました。
ダイエットも決意しましたが、食べ物への異常な執着心から三日で断念。【ダルマ】というトラウマを抱え、今に至ります。
昔読んだマンガのような恋は、夢のまた夢。もう諦めました。
諦めた、はずなのに……。
リリコは大学生なってからサークルの男子に恋をしてしまったんです。
名前は【櫻葉リヒト君】
同学年の彼は、まるで二次元から飛び出してきたようなイケメンでした。
意識してしまい、未だにリリコは話しかけることができません。こんなデブスじゃ相手になんてされる訳がないんですけどね。
リリコは天文学サークルに所属しています。ある夜、大学校舎の屋上にサークルの全員が集まって天体観測をしました。
設置した望遠鏡を覗くと、リリコの大好きな星達が見えます。観測に疲れたリリコは、望遠鏡から目を外し、肉眼を夜空へ投げました。
(あー、今日は満月かぁ……)
「ねぇ、知ってる?満月の夜にお願いをすると叶うんだって」
リリコは横で観測をしている友人に話しかけました。ちなみに彼女の横にはリヒト君がいます。
リリコは青白く光る満月に叶わない想いを願いました。
(リヒト君がリリコを好きになりますように)
◆
リリコは講義終了後、ファミリーレストランでバイトをしています。週五、夕方六時から十時まで。
バイト代の殆どは食費に消えます。甘いお菓子を爆買いして一気に食べるのが唯一の息抜きです。
ある日、そんなリリコに甘い衝撃が訪れました。バイト先にリヒト君が来たんです。どうやら客ではなく面接らしいです。
リリコは店長に駆け寄り、必死にお願いしました。
「店長、お願いします。さっきの男の子を雇って下さい!」
ニッコリと笑って答える店長。
「人手不足だしね、明日から働いて貰うことにするから大丈夫!」
(うきゃああああーーっ!!!)
明日からリヒト君と一緒に働ける!今なら宇宙に羽ばたいていける!そんな気分です。
翌日からハッピータイムは始まりました。最初は仕事内容の会話だけだったリヒト君とリリコだったけど、徐々に打ち解けて違う会話を交わすまでになりました。このタイミングで同じ大学で同じサークルだとうち明けてみます。
えっ?ビックリ!
なんと、リヒト君はリリコの存在を知っていたと言うのです。嬉しさマックスです!
「最近、制服がキツくて!」なんてリリコが嘆いていたらリヒト君は笑顔でこう言ってくれました。
「制服は店長に言ってワンサイズ大きくすれば良いよ。それに俺、ポッチャリした娘、好きだからリリコちゃんぐらいがちょうどいい」
リヒト君、まさかのポッチャリ好き。その他にも彼の好みのタイプを聞きました。
目が細く、鼻は両頬の肉に潰されて見えにくい、出っ歯で唇が厚く、出た歯は乾いて口が閉じない。最後に二重顎が好き。との事。
アパートに帰ると、リリコは全身鏡で自分の容姿をチェックしてみます。鏡が細すぎて横幅が見えないけれど。
(それって、リリコじゃない)って鏡の中の自分は言っています。
いやいや、待て待て、そんなはずはない!と、もう一人の現実リリコが否定して、もう、どっちつかずな思考。その夜は興奮して眠れませんでした。
そして翌日、睡眠不足なリリコに異変が起きました。郵便物を確認しようと開いたポストに白いレジ袋を発見したんです。中にはサンドイッチが入っていました。ハムタマゴサンド。リリコはツナマヨが好き、好みではありません。
(誰かが、別室の住人と間違えて入れたんだろうか?)
その時は気にもせず、そのサンドイッチをレジ袋ごとゴミ箱に捨てました。でも、次の日も、また次の日もハムタマゴのサンドイッチが集合ポストに入れられているんです。
これはさすがに気持ち悪い。それに最近、何となく誰かに後をつけられているような気がするんです。もしやストーカーか?
リリコは実家の両親に相談することを決意。
金髪に小麦色の肌。鼻のピアスが痛々しい兄は「お前なんかストーカーする奴なんていねーよ」と鼻で笑っていたけど、父と母は真剣に考えてくれました。で、後日、探偵を雇ってくれたのです。
暫くして、探偵から調査結果が告げられます。
「リリコさんには三人のストーカーが確認できました」
「さっ、三人も!!」
両親も兄も、勿論、リリコだって驚きました。
何となくチャラい兄に対して上から目線を送ってしまう、いけないリリコ。
テーブルに並べられた証拠写真。横のA 4用紙には、ストーカーの名前、住所が記載されています。
そのうちの一枚の写真を手にした時、リリコの思考が激しいクラッシュを起こしました。
自分のポストを開いている誰か、手には白いレジ袋を持っている。その姿は、まさにリヒト君だったんです!
リヒト君がリリコのストーカーだったなんて。毎日のサンドイッチもリヒト君がポストに入れてくれていたんです。
瞬間、リリコの脳内のクラッシュが消え、ハートマークが複数個、下から上に浮かんできました。
サンドイッチ=優しさ。
ストーカー=リリコが好き。
(あーーっ!サンドイッチを気持ち悪いと言って捨てた自分が憎らしい!!)
(これからはツナマヨよりハムタマゴを好きになろう!)
「どうします?警察に被害届出しますか?」
その探偵の言葉は、もはや耳には届かない。リリコはソファーから立ち上がるとダッシュしました。
今日は探偵の調査結果が出るのでバイトを休みました。
走りながらスマホで時刻を確認します。時刻表示は二十一時半を回っている。もうすぐリヒト君がバイトを終える頃です。
リリコは走る走る、身体中についた重い贅肉を揺らして、とにかく走ります。
「ゼェゼェ……」
ファミレス前、リリコは大きく肩を上下して呼吸を整えました。
「リリコちゃん?」
突然、聞こえた声に下げていた顔を上げると、そこにはリヒト君が立っていました。
顔を見ただけで涙が溢れそう。リリコは決意を固めて口を開きます。
「リヒト君、ずっとあなたが好きでした!」
驚いたようなリヒト君の顔。でもそれは一瞬で、彼は表情を歪めました。綺麗な瞳から一粒、また一粒と水滴が頬に零れ落ちます。
「リリコちゃん、俺は……俺は……」
後は言葉にならないようで、リヒト君は嗚咽しながら泣き出しました。
もう、その泣き顔だけで気持ちが分かります。
リリコはそっと彼の細い背中に両手を回してみます。するとリヒト君は強くリリコを抱きしめてくれました。
リヒト君の両手の中に、リリコの身体はスッポリ収まらなかったけど、彼はリリコの耳元で小さく囁いてくれました。
「俺も、ずっと前からリリコちゃんが好きです」
生まれて初めて感じたドキドキな幸福感。リリコを抱きしめているのは白馬の王子様です。
諦めていた恋愛。泣いた日々。みんな温かな幸せ色に染まります。
こうしてリヒト君とリリコは、彼氏彼女になりました。
(満月様、願いを叶えてくれてありがとうございます!)
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