満月に願いをかける
あおい
リヒト
俺は、私立大学に通う二年生。俺には一年の頃から片想いしている女の子がいる。
名前はリリコちゃん。彼女と俺は学部は違うがサークルが一緒だった。
天文学サークル。宇宙に魅了されたのは小学生の時。以来、星を観測するのが大好きだ。
ある夜、校舎の屋上で天体観測をする為にサークルメンバー全員が集まった。勿論、リリコちゃんもいる。
リリコちゃんは、空に向けて設置した望遠鏡を真剣に覗いてる。俺はそんなリリコちゃんを望遠鏡を覗く振りをして、視野を限界まで左に向けて眺めた。
リリコちゃんは、いつ見ても可愛い。気に入っているのは彼女の体型。リリコちゃんはポッチャリしている。まん丸い顔のパーツもお気に入り。糸みたいに引かれた細い両目。両頬の盛り上がった肉で見えない小さな鼻。出っ歯で滅多に閉じない唇も厚くて色っぽい。空気にさらされ乾いた二本の前歯は彼女の絶対的チャームポイント。
別格に気に入っているのは、リリコちゃんの顎の下にできた、もう一つの顎だ。二重顎と呼ぶんだろうか?プニプニしてて、触ったら気持ちが良いだろうなって、いつも思っている。
尚も彼女を見ていると、リリコちゃんは望遠鏡から目を外し空を見上げた。
顔を振り上げてみる。雲一つない夜空には、何億万の星が輝いている。その星を壁紙みたいにして、丸い大きな月が3Dのように浮かんでいた。
横のそのまた横から、リリコちゃんの甘い声が聞こえてくる。
「ねぇ、知ってる?満月の夜にお願いをすると叶うんだって」
どうやら、彼女は隣の友人に話しかけているようだ。
俺は、儚い、それでいて強い光を放つ満月に、彼女と結ばれる未来を願った。
もっともっと、彼女との接点が欲しい。
数日が経過、我慢できなくなった俺は、リリコちゃんの講義時間をチェックし、帰り時間に正門で待ち伏せした。
案の定、リリコちゃんが姿を現した。
声をかける勇気のない俺は、彼女に気付かれないように後を追う。リリコちゃんはバス停で足を止めた。
バスが停車する。彼女が乗り込んだ後、俺もバスの段差を上がった。
車内は満席。リリコちゃんは、両側に立つ中年男性に潰されそうになっている。彼女の身体は風船のようだからパンッて破裂しないか心配だ。
少し走ったバス停でリリコちゃんは下車した。俺も人混みを掻き分けてバスから降りる。
電信柱を上手い隠れ場所にして、俺は彼女を尾行した。間もなく見えてきたファミリーレストランにリリコちゃんの姿が消える。
ガラス張りになっているので店内は丸見え状態。
俺はレストラン前にある植え込みから両目だけを出して様子を伺う。
少しすると、窓際席にオーダーを取りにくる制服姿の女性が見えた。
「あっ!」と、思わず声を発する俺。
豊満な肉体を無理やり押し込めてはち切れそうな制服。それは、紛れもないリリコちゃんだった。
(リリコちゃんが、ここでバイトをしている)
知った後の俺の行動は早い。近くの本屋で履歴書とボールペンを購入。レストラン近くの喫茶店でコーヒーを注文した後、履歴書に必要事項を記入した。写真は、まあ必要ないだろうと判断。
さあ、準備完了!いざ、レストランへ出陣だ!
◆
突然だったが、店長がフレンドリーな中年男性でひと安心。人手不足だったらしく「明日から来て欲しい」と言われた。心の中、ハートの旗が揺れ角笛が鳴る。見事、面接に勝利した。これから俺とリリコちゃんはサークルも一緒だし、バイトも同じって事になる。
そろっとシフト表を確認。リリコちゃんは週五で夕方の六時から十時まで働いている。俺も同じようにシフトを入れた。
翌日から、俺は至福の時間に包まれることになる。バイト仲間って凄い!サークルでは喋った事のない彼女と会話ができるんだ。
「最近、制服がキツくなって……」とリリコちゃんは嘆いている。俺は、そんな彼女を天使としか思えない。
昨日より今日、今日より明日。俺はますます彼女を好きになった。いや、もはや愛していると言っても過言じゃない。
ああ、もっともっと、もっと知りたい。
バイト終わり、俺はまたもや彼女を尾行する。そしてリリコちゃんの家を知ったのだ。
彼女は築浅のアパートで一人暮らしをしていた。
部屋は二階の201号室。階下には集合ポストが設置されている。
俺はリリコちゃんにお疲れ様の意味を込めて、コンビニで買ったサンドイッチをレジ袋ごとポストに入れた。
リリコちゃんに、この想いは伝わるだろうか?どうか伝わって欲しい!
気付けば今日も、彼女を尾行している俺がいる。
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