長門有希の覚醒

@sasukesankakee2023

第1話 長門有希の覚醒




夢を見た。

遠い記憶のようにも思える夢を。


夢の中で俺は、知らない誰かと一緒にいた。

…どことなく、見たことはあるような気がするのだけど、知らない子。



その子は時折寂しそうな顔をする。


どうしてだろう。



「ありがとう」


「あなたといたから、私は挫けなかった」


「今度もきっと、会いに来てね」



「またね」



「…だめだ…待ってくれ!!!」



そんな事を言いながら、俺は自室のベッドで飛び起きた。




「…あ。夢…か」



俺はひとまず、部屋の掛け時計を確認した。

今日は月曜日なので、学校に行かねばならないからである。



時刻は、8:30だった。


「…あっやべぇ!!!遅刻するッッッ!!!」




俺は飛び起きて自室を出て洗面所に行って歯を磨いて…

とにかく、学校へ行く支度を慌てて済ませて家を出た。

あ、もちろん鍵は閉めたよ。






学校に間に合いはしたが、ものすごい疲れた。

自分、中学に入った辺りからあまり運動していなかったので、

大して体力はない。


だから全力疾走なんてした日には、その日一日息切れしていてもおかしくないわけだが…

不思議なことにこの日は、息切れなど考えられないくらい体力が持った。


…すでに何かがおかしい事に、気付くべきだったかもしれない。



俺は自分のクラスである1年6組の教室に入り、自分の席に座る。

授業の用意をした後、俺は眠るように机に伏し、とある席にこっそりと目を向ける。



……その席では、俺の意中の女の子が、ちょこんと座って本を読んでいる。


変態だと?言ってろ!これくらいの事、日本男子なら普通にやるだろう。そういう事言う奴がおかしいんだ。


まぁ、結局誰かに気付かれているわけでもないのでアレだが。



俺はそうやっていつもいつも、授業を受けて、休み時間はじっとその子を観察するというストーカーにも等しい行為をして1日を過ごす。


何故かというと、近付く勇気が湧かないからだ。今まではそうだった。


だが今日は違う。今日は、あの子が所属しているという文芸部に、入部届を出しに行くのだ。顧問がいないらしいから彼女に確認を取るしかないのだよ。はっはっは。


……あー、緊張する。




放課後。

文芸部の部室へ。

扉の前で、体が固まる。




動かん。

ど、どどどどうしよう。

全然動かん。あれ、俺こんなにヘタレだったっけ。


「……ヤベェ……何も動かん……」





「ちょっとあんた!そこどきなさいよ!!」


「んん!?」


なんか声が聞こえたので後ろを振り向いてみると、黄色の髪飾りをつけた俺と同い年で同じ制服を着た女子高生が仁王立ちしていた。


あれ、入部希望者?


「あ、すいません。入部希望出しに来たんですけど、なんか動けなくて」


「はぁ?入部希望って、文芸部の?」


「はい。でも、あんまり女子と話した事がないもので」


「……はぁ。まぁ良いわ。ここの入部希望ってんなら、早く入りなさいよ。そっちの要件から先に済ましちゃいなさい」


「ありがとうございます」




俺は頭を下げながら扉を開けた。情けない…。


中に入って扉を閉めた。




あの子がいる。

部室の隅の椅子に座って、1人で本を読んでいる。


「……あ、あの」


緊張しながら声をかけてみると、

彼女は本を閉じて、「……なに?」と言いたげにこちらを向いた。


「……入部希望、です。文芸部の」


そう言って俺は入部希望の紙を手渡した。

彼女はそれを受け取り、確認した後、「わかった」と言って返してきた。


「長門 有希」


「え?」


「わたしの、名前。よろしく」


「……ああ、はい。よ、よろしくお願いします」


そう言って長友ばりに深々と頭を下げる。

彼女は長門有希という名前のようだ。……いや、逆になんで今まで知らなかったのだろうか



「あなたは、同じクラスの鍋島茂成…」


「……?はい、そうです」


「……」


有希さんは1つ頷いて、読書に戻った。

俺は入部希望の確認を取ったので、職員室に提出をしに行く事にした。挨拶をして、部室を出た。




その後戻ってきた部室は、何やら騒がしくて近寄りがたい雰囲気だったので、一旦帰る事にした。



その帰路での、出来事であった。



「……あの坂本当にキツイな」



俺にはキツい。

今まで運動をあまりしてこなかった俺には。




……いや、待ってくれ。

俺は本当に運動をしていなかったか?

今朝は息切れすらしなかったじゃないか。



「何かが、おかしい気がするな」


帰りの住宅街。人気のないその道路で、俺が違和感を感じていると……




「がっ!」


突然、強烈な頭痛が俺を襲った。

なんの変哲も無いはずの俺の中で、謎の記憶が暴れ出す。



"存在しないはずの"その記憶の中で、俺は意中の人と、もう2人の女性と、こたつを囲んで笑い合っている。


記憶は溢れ、止まらない。

止めようがない。……止めたくない。


「あ……ああぁ……」


そして、全ての事を思い出した。

思い出すと涙が溢れてくる。色んな感情でぐちゃぐちゃになっていく。そうして叫びたくなって、無我夢中に叫んだ。


俺はそれから、どうしてこうなってしまったのかを考えたが、わからない。よくよか考えて記憶を巡らせてやっとわかったのは、彼女達の事を忘れたのが3年前の七夕辺りであるという事くらいだ。


最悪だ。自分の誕生日の2日前じゃないか。


その年の七夕の1日前、彼女がそわそわしていたのを思い出す。ああ、何があるのだろうと楽しみにしていたっけな。


もう……それを確かめる事は出来ないかもしれないな。





「……許さねぇ。どこのどいつか知らねえが、何の変哲もない日常をいたずらにぶち壊しやがって……」


「……絶対許さねぇ。絶対に、◯す!!!」





この時、自分でも気付かないうちに、俺はとんでもない事をしていた。


体から、電流を放出していたのだ。


(……これは、何だ?雷……!?……まさか、俺の脳内にある記憶の中からアレを……?)


(……へえ。神は俺に慈悲をくれるのか。面白いじゃねえか)



俺はゆらゆらと歩き出す。



「……俺は、あの人を助け出して、元凶をツブす。そのためなら、どんな事でもやってやる……」


俺は1人の復讐者として、

再び帰路を歩き出した。









──長門有希の覚醒──


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