【シェアハート】ヤンデレ系陰キャ後輩に寿命をプレゼントしたら、人生をお返しされました。

絹鍵杖

プロローグ

 しんしんと降り積もる柔らかな雪。


 肌に触れては雫に変わっていたそれは、やがて一秒経っても二秒経っても溶けずに肌の上に残り続け、空を見上げる身体を白く染めていく。


 そうやって少女が最期に見た景色は、真っ白な雪と灰色の雲。


「……、…………」


 まるであの人の心と髪のようだ、と少女は思った。


 かじかむような指先と焦げ付くほどに熱い胸元。


 全身を締め上げるように苦しめる痛みから逃げようと、既視感を覚えた空に手を伸ばすも、すでに己の肉体に力が残されていない事にも気づかない。


 脅威は去った。


 あとは自分が眠るだけだ。


 だけどそれは、ものすごく怖い。


 今瞳を閉じるということは、全てを失ってしまうということ。


 友達も、趣味も、記憶も、未来も。


 誰かを犠牲にして何かを得たいと思ったことはないけれど。


 これは確かに、黙って受け入れることも出来ない。


 ……ただ。


 それを自分一人で拒絶できる段階は、とっくに過ぎていた。


 故に、助けを求める。


 声にならない、魂の叫び。


「誰か助けて」と、「わたしを救って」……と。


 誰にも届くことのない叫びは、意味の無い遠吠えと同じ。


 叫びはやがて後悔へと変わり、精神が壊れて思考も意味を為さなくなる。


 恐怖が凍りつき、自分が何を考えていたのかも忘れてしまう。


 ……しかし。


「――――、――――!」


 少女が本当の終わりを迎える、ほんの少し前。


 星にしてみれば一瞬の瞬きに過ぎない僅かな時間の中で……少女は、雪の降り積もるクリスマスイブに、小さな奇蹟を受け取った。

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