泡葬
飼っていた人魚が死んだ。寿命だった。三百年ほど生きたらしいけれど、詳しい年齢は本人を含めて誰も知らなかった。
人魚を飼うのは昔は流行ったらしいが、今では飼っている人はほとんどいない。私たち兄妹は人魚の飼い方が記された本を探し、読み、人魚の遺体は燃やしてはいけないと知った。海に還して、泡にならないと天国へ行けないらしいのだ。人間の天国は空の上にあると言うけれど、きっと人魚の天国は海底にあるんだね、と兄は言った。私はでは自分が死んでも天国で彼女と会うことはできないの、と涙を流した。
そんな私に、兄は悩んだ後、僕らも海で死ねば神様が間違えて同じ場所に連れて行ってくれるかもしれないと言った。
さて、私たちは二人で人魚の遺体を車に積み、海へと向かった。人魚が後部座席で、兄が運転席で、私は助手席。しばらくすると水平線が見えてきたので、車はスピードを上げて真っ直ぐに道を進み、やがてガードレールを突き破って落下する。泡を立てて沈んでいく車の中で、シートベルトに固定された私たちもまた、海底を目指して向かって行った。
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