道標

10まんぼると

道標

何をやってもうまくいかない。できないことが増え始めていくだけ。その結果、周りに迷惑をかけすぎたせいで、誰からも見放されてしまう。そんな自分のことがどんどん嫌いになってしまい劣等感だけが残っていく。次第に、僕の身体に、それは錘としてのしかかり、気づけば失敗を恐れ挑戦することをや

めていくようになった。己を取り繕うことだけが今の最善の選択肢だと思っている。




ある日、僕は学校を休むことにした。親には体調不良と言ってなんとか誤魔化した。しばらくして家の中にいるのが僕だけになったのを確認すると、僕はサンダルを履いて外に出た。 十一月ということもあり、かなり肌寒い。何も考えずに歩いていると近くから波の音が聞こえてきた。導かれるままに僕は海岸と歩いた。そこは海風が吹き荒れていた。僕は周りに誰もいないことを確認する。知っいる人に話しかけられてしまったら、面倒くさいことになってしまう。海は、波が大きく覗くと水深がかなり深いのが分かった。僕はサンダルを脱いで、横に揃えて置く。そして、心の中で覚悟を決め海に飛び込もうとした瞬間、


「かー、かー、かー」


と音がするのが聞こえた。体がビクッとなっ

た。音がしたほうを見ると、そこには一羽の鳥が倒れ込んでいた。


「なんだ、鳥か」


そう言いながらも気になって鳥のそばへと駆け寄った。


「鳥はいいよな。誰の目も気にする必要がなくて」


最初はそう言っていたが見ているとだんだん心が痛んできた。誰にも助けてもらえない。その辛さはよく分かっている。だからなんとかしてあげたいと思ったが僕にはどうすることもできない。そのまま悩んでいると小学生の楽しそうな会話が耳に流れてくる。


「みんなに見つかる前に帰らないと。誰かに

助けてもらえるといいね」


そう呟いて、帰路を歩き出した。結局、僕が助けようが助けまいが結果は変わらなかった、そう思い込むことにした。




次の日の休み時間、僕は教室から逃げるように図書室へと向かった。図書室の中は静寂で包まれていてとても過ごしやすい。だから入学して以来、学校の中で1番お気に入りの場所だ。小説を読むとたまに「小説の中に入れたらな」と思ってしまう。だって小説の世界の主人公ならよほどのことがない限りハツピーエンドで終わることができるのだから。僕はまだ読んでいなかった『宮沢賢治』の小説を数冊持って、テーブルに腰掛ける。『注文の多い料理店』や『どんぐりと山猫』など面白い作品がたくさんあった。その中でも僕の心に響いたのは『よだかの星』という作品だ。この小説は、醜い見た目をしている夜鷹というが自分の運命を悲しく思い、罪悪感から自らの命を絶とうとする話だ。どんなに馬鹿にされたとしても夜鷹として最後まで生きていく。そんなプライドと決して誰かにやり返さない優しさに僕は感動を受けた。先生のしょうもない長い話を聞くだけのホームルームが終わると僕は走って昨日の場所へ向かった。そこにあの鳥の姿は無く、ただ羽根が一枚落ちているだけだった。




建物の明かりが徐々に消え始めるころ、僕は外のベランダに出た。昼と比べても段違いに寒い。空を見上げるとたくさんの星がきらきら光っている。スマホを片手に星を探す。まず北を向いてその方向を見る。スマホで調べた画像と見比べる。あれが北極星で間違いないだろう。ということはその近くにあるW字型の星座がカシオペア座だろう。あたりには天の川が流れている。その中に一つ青く美しく光っている星があるのを見つけた。


「えっ」


僕は驚きのあまり視線を逸らしてしまった。だが再び同じ場所を見ると間違いなくそこには果てのない宇宙の中で力強い燃えている星があった。僕はベランダからその星に向かって飛んでいく。ただ、その星だけを見つめて。不意に鳥の羽が風を切る音が聞こえる。1匹の鷹だ。鋭い目を光らせながら僕の方へ飛び込んでくる。


「危ない!」






「ここは?」


僕は目を覚ます。そこには古びた大きな建物があった。


「ねえ」


「なに」


「…いや、別に」


「そっか」


町は既に荒廃しきってしまった。人類の進歩が自らの首を絞めることになるとは思いもしなかった。海は濁り、大気は塵にまみれ、あちらこちらに鳥や人の死体が転がっている。幽霊としての生活はいつまで続くのだろうか。この町には20人程の幽霊が残っている。

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