第51話

整形するんだと叫んだ彼女の言葉が頭から離れない。仕事も上の空になり、俺は植草がいる診察室に行った。


「白石は何か話したか? あれから気になってどうしようもなくて。何か話をしたか?」

「もう、私は守秘義務があるんだってば」

「そこを頼むよ」

「もう」

「礼はたっぷりとするからさ」

「詳しい話はやっぱり出来ないわ。それは分かって。でも……」


でもと言った植草は、突然ぽろぽろと泣き始めた。


「お、おい、おい、ど、どうした。おい、泣くなよ、嘘だろ、勘弁しろよ」


付き合ってた女は例外として、大人になってから女を泣かせた記憶はない。医務室に誰かきたら、俺が泣かせたと思われてしまう。


「お願い、白石さんを救ってあげて……諦めたほうがいいといったけど、違うわ。大東さんの好きと言う気持ちが彼女を救うはず。今ならまだ間に合う。早く救ってあげて」

「詳しくは聞かないけど、ざっくりとしすぎだろ」

「予想通り彼女はいじめられていたみたい。はっきりとは言わないけど、話の内容で確信したの。それで顔の全部を整形するんだと言ったのね」

「ほら……」


どんどんぐずぐずになっていく植草に、デスクのティッシュを渡した。


「それとね、白石さんは過呼吸の他に、もしかしたら醜形恐怖症という心の病気もあるかもしれないわ。彼女の状態を病気として診断するのは、メンタル専門の医師の診察が必要だけど、あれだけの美人なのに、言っていることがおかしいの」

「おかしいか……確かにその通りだな」


アメリカに行っていた5年という歳月は、とても長く、帰国してからの俺は、白石に会えた嬉しさで気持ちの制御が出来ずにいた。自分の気持ちばかりを優先して、大切にしたかった白石のことをないがしろにしていたんじゃないか。

だから、白石は恥ずかしがり屋、人見知りなんだと勝手に思い込んでいたんだ。

分かっていなかった俺に対応するのに、どんなに辛く大変だったことだろう。


「ごめん、医師としてのおきてを破るわ。何を言われたかというとね、目が大きくてデメキンだと、まつ毛が長くて毛虫が乗っているようだと。そういったの」

「はっ!?」


あんなにぱっちりした目で見つめられたら、男どもはいちころ、悩殺されるほどの綺麗な目だ。


「鼻筋、顔の形、唇と、顔の全部を整形するそうよ」


あの綺麗な顔をどうやって整形するんだよ。白石の顔を更に綺麗に出来る医者は、ブラックジャックしかいないだろうが。それくらい綺麗な顔なのに、どうしてなんだ。どれだけ酷い言葉でいじめられたんだよ。

そいつらを奈落の底に落としてやりたい。


「大東さん、白石さんは今年度中に会社を辞めて、整形をして生まれ変わるそうよ。時間がないの、大東さんが持ってる全ての愛情で彼女を救ってあげて。お願い」


白石の発作が出る前を考えてみた。全て俺がいけないのは重々分かっているけど、発作の理由は分からないが、一緒に何かを食べるという行為がだめなことは分かった。その次は確か、俺が笑ったと言ったときだ。確かに彼女は全く笑わない。無表情だし、感情も読めないほどだ。

特に微笑んでくれた時は飛び上がるほど綺麗で、胸が高鳴った。それは彼女にとって最悪なことで、とうとう気を失わせてしまうような事態になってしまったけれど、一体どうしたらいいんだろう。

彼女には発作が起こる要因となる言葉や行動があるようだが、それが何か分かれば俺は救ってやれるはずなのに、何も分からない。


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