第50話
「聞きたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「白石の顔……え~っと、水越の前で悪いけど、どう思う?」
五代はちらりと水越をみた。
「私は綺麗だと思いますよ。可愛いというより、美人と言った方がいいかもしれません。顔も小さいし、口元にあるほくろがまた色っぽいと思います。肌も透き通るように白くて羨ましいですよ。でも正直言って、いつもうつ向いているから勿体ないと思います」
気を使った水越が先に言ったようだ、さすが秘書と言ったところだろう。先に言えば、五代も水越に気を遣わずにすむっていうものだ。それにしても女というものは、同性の隅から隅まで観察しているものなんだな。なんだか恐ろしい。
「俺も綺麗だと思う。俺は正直言って社員全員の顔を知っている訳じゃないから、ほとんどというか全く知らなかったが、お前に大役を任せられてからは、気に留めるようになったからな」
「それともう一つ」
水越は何を言い出すんだ?
ワイングラスを片手に持ったまま、もう片方の指をピンと立てた。一体、水越は何を言い出すんだ?
「白石さんがかけているめがね、あれ、度が入ってないですよ、伊達メガネです」
「え?」
水越の言葉に、俺と五代は同時にびっくりした。
「レンズを見れば度が入ってないのが分かります。でも、なんで伊達メガネをかけてるんだろうな? あ、分かった!」
「なんだ? 理由が分かったのか?」
水越がピンひらめいたように、パッ明るい表情をしたので、俺は答えを期待した。
「パソコンの画面、ブルーライトカットめがねですよ。一日中パソコンに向かってるから、目の保護の為にかけてるんです」
「じゃあ、なんでずっとかけてるんだ?」
五代は鋭く水越に突っ込みをいれた。
「そうなんですよ、そこが問題なんですよ。全くわからないです」
なんだよ。分かんないのかよ。自信たっぷりに分析してくるから、伊達メガネの理由も分かるものと期待していたのにこれか。
「なんだよ分かんないのか……」
「お前が分からないのに、沙耶が分かるわけないだろう?」
な? と五代は水越に同意を求め、二人でねえと言い合う。まったくやってられないぜ。
「どうしたんだ? 突然」
俺は言うべきか悩んだ。これは彼女の尊厳に関わる問題で、俺に話せる権利はない。
「いや……俺も最高に可愛いと思っているんだが、えっと……自分はブスで醜いとかなんとか言うから」
「まったくの一方通行だったのに、そんな話をするようになったのか? 進歩したじゃないか」
まさかそれが原因で、気を失ったなんて言える訳がないけどな。
「女の人はみんな謙遜しますよ。面と向かってキレイだとか言ったんですか? それなら絶対に『ありがとうございます』なんて言わないです。素直に受け止めるのは外国人だけです」
本当のことを言えないから仕方がないがでも、俺の目はあばたもえくぼじゃないことが確定された。二人によって証明されたんだ。
じゃあ、白石の目には自分の顔はどんなふうに映っているのだろう。
あの時、ジョーカーだとか言っていた。俺の知るジョーカーはあの映画の登場人物しか思いつかない。
「まさかな……」
真剣に悩んでいる傍で相変わらずのイチャ付きぶり。それにしても水越はよく食うな。
それを嬉しそうに見ている五代は、水越に夢中な感じだ。俺よりも長く想いを秘めていて、想いが通じ合っても公にできない関係は、とても苦しいだろう。せめてプライベート空間では好きにしたいはずだ。
それにしても白石はどうして食事を拒むのだろうか。食事に誘って拒んだから、突然で悪かったと反省して、コンビニでおにぎり作戦にでたけど、それもダメだった。
どんなに腹が減っても決して俺と一緒に食べることはしない。
俺がダメなのか? それならかなりのダメージだな。
別に外食じゃなくてもいい、彼女のお気に入りのあの場所で、弁当でもいいんだ。白石には一緒に食事を取ることが何か特別なことに捉えられてしまっているのだろうか。
繊細な白石とは違って水越はバクバク食う。
「幸せそうで何よりだな」
嫌味を言ってやったが水越は、
「分かります? 直哉さんのお料理はとっても美味しくて幸せなんです」
と返事をした。素直なんだか天然なんだか、掴みどころのない女だ。まあ、暫くは五代も飽きずに済むだろう。
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