第7話

朝から調子が狂ってしまったけど、朝の朝礼にはなんとか落ち着きを取り戻していた。ふと外を見ると、太陽は朝から真夏のように燃えていた。今日も残暑が厳しく、お天気ニュースでは猛暑日の記録更新だと伝えていた。

オフィスの中はまだエアコンが効いていて肌寒いくらいだけど、秋はまだまだ遠そうだ。


「みなさん、着座で結構ですので、本日着任されました、大東部長よりご挨拶がございます。部長よろしくお願いします」


ざわついていた部署内も、この一言で一気に空気が締まった。期待とどんな人物なのだろうかという好奇心もあるように思う。


「本日付けで着任しました大東です。5年振りに日本に帰ってきてほっとしています。よろしく」


低くて響く声。強さを感じるけど、高圧的じゃない声。目を閉じると、指導をしてくれていた時を思い出した。

部長の簡単な挨拶が終わると、部署内は拍手で応えた。

海外事業部は三つの島があって、庶務担当は一番端の角にデスクがある。

挨拶している部長までは少し距離があって、今はその距離がありがたい。

でも渡さなくちゃいけない書類のことがあるし、庶務という立場上全く接触をしないわけにはいかない。

部長の予定表を確認すると、挨拶周りで離席が多いようだから、書類を渡すには今しかない。


「はあ……」


重い腰を上げ、必要な書類を持って部長席に行く。


「お疲れさまです。よろしいでしょうか?」

「かまわないよ」

「IDカードが二枚と、仮のIDとパスワードです。変更方法はこちらに記載してありますので、確認なさってください」

「IDも二枚になったんだな」

「コピー機や会議室、資料室に入るとき、午後6時以降に社内に入るときは必須となりますので、ご帰宅の際にも名札は持って帰れられた方がよろしいかと思います」

「ありがとう。分からないことがあったら白石さんに聞けばいいんだね?」

「いいえ、私じゃなくても大丈夫です、まわりの方に……」

「白石さんに聞くよ。ベテランだしね、ここのことはよく知っているから」

「……何かございましたら、お尋ねください。失礼します」


なるべく関わらないようにしたいのに、いつも私の思いとは逆に行ってしまう。

それに席にいた部長は、5年前よりも、もっとすてきになっていた。容姿だけじゃなく、頼りがいというかそういう総合的な部分、真の大人の男性、器の大きさを感じる男性になって、直視できないほど、眩しかった。


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