第6話

「……大東部長……」

「おはよう」

「……・おはようございます、お帰りなさいませ。長い海外生活お疲れ様でした」

「ありがとう」


なんでここに来たの? ここに私がいることを知っているの?

一対一は苦手なのに、どうやってここから立ち去ったらいいのだろう。


「あの……後ほど……」

「会いたかった」


何って言ったのか、頭の中をぐるぐると言われた言葉が何度も繰り返す。


「え……?」

「やっと会えた」


部長が言う、やっと会えたというのは、誰に言っているの?私に言っているの?

まさか私みたいな女に部長が言うわけがないじゃない。自惚れるなんてなんて馬鹿なの?ただ、懐かしくて言っただけだ。


「これからよろしく」

「は、はい」


どうしていいか分からず、返事だけをすると急いでその場を去った。

そのままトイレに駆け込み、息を整えつつ鏡を見る。胸の鼓動は収まらず、どうにかなりそうだ。


「落ち着いて大丈夫」


何を勘違いしているの?会いたかったとは、部下の私に会いたかったという意味で、私情を挟んでいるわけじゃない。あまりの勘違いで恥ずかしいったらない。


「私みたいな女が・・・」


そう、私みたいな女がなのだ。

陰気で愛想もない私。実直に仕事をすることしか能がない私。

いつからそんな勘違いをするような身分になったのか、本当に恥ずかしい。

まさか初日から面倒なことに遭遇するなんて。今日は朝からリズムが狂ってしまった。


「大丈夫かな私」


その予想は当たっていて、大東部長の出現によって、平穏な私の日常が崩れていった。



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