第2話

朝一番に入るオフィスは、無音に近いほど静かで、私はこの感じがとても好きだ。

私が勤めているファイブスター製薬会社は、製薬会社のなかでも3本の指に入るトップの企業。給料がいいことはもちろん、福利厚生も申し分ない。この会社に就職できたことは、暗い私の人生の中で一番の光りとなっている。

何一つ自慢のできる娘じゃないけど、ファイブスターの就職が決まったことで、少しは親孝行が出来たんじゃないかと思っている。


会社でも私はやることをルーティーン化していて、朝一番で出勤すると、デスクの掃除をしてコーヒーとお茶の準備をする。


「今日もじょうずに淹れられたわ」


私が所属している海外事業部は、コーヒーにこだわる人が多いせいか、事業部で毎月集めているお茶代からコーヒーマシンを購入した。

その中でも一番こだわった人が大東さんだった。事業部の中心的存在で、仕事は出来るのは当たり前だけど、人望も厚い人だった。

第一印象が「怖い人」だったけど、熱心で丁寧に仕事を教えてくれた人だった。

厳しい面もあったけど、いつも気遣ってくれた優しい上司だった。


「やっぱりここは最高ね」


コーヒーカップを手に持って移動した先は、会社内にいくつかあるリフレッシュコーナーの一つ。他の場所より人気がなくて、あまり人がこないのが私には好都合で、毎日始業までの時間をここでコーヒーと本を持って過ごしている。

30分ほどしかないけれど、高層窓から眺める景色は始業までの時間を癒してくれている。


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