唇から始まる、恋の予感

広兼 怜

第1話 失った日常

朝の5時。

目覚まし時計がけたたましく鳴る。

決まった時間に寝て、決まった時間に起きる。これが私にとって楽に生きることの出来る必要な流れだ。


「月曜日がきちゃったな」


生活のために仕事をしているけど、やっぱり月曜日は好きじゃない。

同じ時間に家を出て、同じ時間、同じ場所から電車に乗る。自分を縛り付けているんじゃないかと思ったこともあるけど、一定のリズムで過ごす方が楽で私には向いているようだ。

カーテンを開けると、夏の強い日差しが入り込んでまぶしい。

日本の夏はいつからこんなに暑くなったのだろう。

空気を入れ替えるために出勤まで窓を開けるけれど、ひんやりとしていた部屋の空気は、瞬く間に温度を上げて不快さをもたらす。


「暑すぎるわ」


節電につとめているけれど、この暑さでエアコンを止めたら倒れてしまうだろう。

昨日の夜に観た旅番組で、タレントが想い出の地を訪れ、母校で所属していた部活動に参加するという場面があった。

友人関係や、先輩、後輩の仲。部活動の仲間。自分には縁遠い物ばかりだった。

そんな番組を冷ややかな目で観ている自分もいれば、羨ましいと思う自分もいる。


「もうすぐ私もあの仲間になれる」


生きる目標を失っていた私は、社会人になって生きる目標ができていた。その目標があるだけで、失った時間を取り戻せると思っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る