復讐と銃口
ヒーズ
第1話:狼と少女
「旦那が直接くるたぁ~・・・いや、アッシが深入りしていいことじゃあ、なさそうですね」
ハイエナは頭がいい、いや、ずる賢いと言うべきか。
故に、私の逆鱗に触れることも、タブーに触れることもない。
人間が生物界の頂点に立ってから、22世紀の間、その覇権が揺らぐことは一度もなかった。
だが、ボタン戦争、所謂核戦争で人間の多くが死滅した。
放射能は他の生物の命も多く奪ったが、生き残った動物達に進化をもたらすことにもなる。
我々の『始祖』は、当時人間だけの特権であった『高い知能』と『人の容』を手に入れた。
結果、動物と人間が生物界の覇権を争うことになり、第一次人動覇権戦争が勃発。
その後も、第二次、第三次と続き、第五次人動覇権戦争にて、数で勝る我々が人類に勝利し、
動物と人間の立場は逆転した。
人間は家畜へと堕ち、我々が飼い主へと昇華された。
が、次なる問題が我々を襲う。
食料だ。
人間社会の歴史を借りるならば、キューバ危機と同等の大問題であった。
我々動物の存続と覇権に関わる重大な問題。
それを解決するために・・・愛玩人間と言う概念は消え、家畜人間と言う概念が普及する。
つまり、人間は愛玩のための存在ではなく、食料となったのだ。
が、人間がそうであった様に、高い知能を手に入れた我々にも“それら”は現れた。
人間愛護団体や人間性愛、珍しい人間を愛玩目的で飼いたがるクズ共。
そう、私が今いる場所はそう言った者らの集う場所、人間市だ。
酷く汚く、動物と人間の匂いが混ざった悪臭の立ち込める場所だが、
この辺で最大の人間市と言えば、ここしかない。
男、女、子供、大人、老人、全てが揃っているのがここだ。
「旦那ぁ~、旦那の要望ぉを叶えてるやつぁ~・・・こいつくらいですかねぇ~」
ハイエナがそう言いながら、目の前の檻の中に入っている男を指さした。
それと同時に、この人間の正確な資料を手渡してきた。
『18歳、男、身長190、体重64、健康状態:痩せ気味、知能:平均、性経験なし』
中々良い状態の人間の様だが・・・却下だな。
私が望んでいるのは若い年齢の者、18歳は少々大人すぎる。
私は資料をハイエナに返し、首を左右に振った。
ハイエナは溜息をつきながら、次なる人間の下へと私を案内し始めた。
が、次の檻の前を通った時、幼い少女の声が聞こえて来た。
「オ゙・・・お・・ヵ・・ミ・・あ・・・う?」
その声を聞いたハイエナは、その檻の中にいる少女を躾ようとするが、私はそれを制止する。
檻の中を覗くと、綺麗な赤色の瞳を持った少女がいるのが見える。
私はハイエナに彼女に対する資料を請求した。
ハイエナは渋っていたが、客の要求に答えぬと言うわけにもいかないのだろう、
彼女の資料を素直に渡してくれた。
『8歳、女、身長110、体重22、健康状態:聴覚障害、知能:平均、性経験なし』
なるほど、言葉が聞き取りずらかったのは、耳が聞こえないからか。
「この女、文字は読めるのか」
私の問いかけにハイエナは「ええ、簡単なものなら」と答えた。
私は胸ポケットからメモ帳とペンを取り出して、彼女との対話を試みる。
『なぜ、わたしのことがおおかみだとわかった?』
私はそう書くと、彼女にペンとメモ帳を渡す。
何をすべきかを理解した彼女は、覚束ない手つきでメモ帳に文字を書き始める。
通常よりも時間はかかったが、彼女はしっかりと読める文字で返答してきた。
「むかし、かいだ、におい、した」
ふむ、嗅覚が優れているのか。
人間は五感の中で最も視覚に頼る生物だと思っていたが・・・耳が聞こえない代わりに、
他の五感が発達したのかもしれないな。
キツイ悪臭の立ち込めるこの場所で、フードで顔を隠していた私のことを狼と見抜くとは、
そこらの犬よりも鼻が利く様だ。
私ですら、こんな人間と獣の濃い匂いが入り混じった場所では、嗅覚が機能しない。
ふっ、年齢、能力、知能、全てが私の求めたそれをクリアしている。
「よろしい、この人間を買おう」
私がそう言うと、ハイエナは驚いていたが、何を言うでもなく、購入の手続きは無事に完了した。
続けて、人間が逃げないための対策である『隷属化装置』を取り付ける段階だが・・・
私は、彼女に隷属化装置を取り付けることを拒否した。
そして、私はメモ帳にこう書いて彼女に見せる。
『にげたいとおもうならにげればいい。このせかいで、ひとりでいきていけるとおもうなら』と。
彼女は表情一つ変えずに頷き、私の隣に立った。
ふっ、知能が平均だと判断したこいつの目は節穴だったな。
この少女、8歳にしては物事の理解が早い。
簡単な文字しか書けないのも、恐らく教育環境が劣悪だからだろう。
この少女、しっかりと育てれば化けるかもしれないな。
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