悪役が、人間失格なのは当たり前だろう?

神木真

最高のデスゲームは、最高の悪役を添えて。

 今回は、登場人物のほとんどの、見た目を、一切描写していません。

 登場人物の、見た目は、読者が読んで、こういう見た目の人かな?という喋り方の第一印象で想像しながらお読みください。

 もちろん、友人でも、あなたでも、何だって登場人物に当てはめてもらっても構いません。

 推奨はしませんが。

 また、この作品を読むにあたって人間失格を、読む事を推奨します。青空文庫で無料で見れます。



 つまらない人生を送ってきた、そう思う人は少なくない筈だ。もちろん俺もそうだ。

 俺、黒雨時《くろさめ とき》はつまらない人生を送ってきたのだ。十六年間ずっと。

 つまらないと言っても、少なからず娯楽はあった。と言いつつも一つしかなかったが、それは、人間失格を読んでる時だった。そう、太宰治の人間失格だ。

 何故?と思う人も居るだろう、答えは簡単苦しんでいたからだ、主人公が苦しんでいたから人間失格だけは好きになれた。

 それ以外の小説、アニメ、漫画、ラノベ全てどれだけ苦しんでいようと、好きになれなかった。



 目を覚ますと、見慣れた天井は無く、ベットも無かった。そこで感じたのは、恐怖より冷たいがやってきた。コンクリートの上で寝ていたからだろう。

 服はいつの間にか制服になっていた。

「全員、起きたか」

 ボイスチェンジャーを使った様な声で、性別も分からない。声が出ているのは、僕の前方にある大きいモニターからだった。

 そこには、白色の画面が写し出されていた。

 全員と言うのは、僕のクラスメイトだろう。

 どうやら、みんな連れてこられていたらしい。

「ここは何処なんだよ!」

 と、東堂とうどうが怒鳴った。

五月蝿うるさい、黙っていろ」

 と、モニターがだるそうに言った。

「黙れるかよ!」

 これはまずい、テンプレ通りなら恐らく殺されるだろう。

「敦!一回お前黙れ!」

 と、東堂の親友、斉野さいのが東堂を止めた。

「……分かったよ、蒼井あおいが言うなら辞めるわ」

 これで、落ち着くとは、流石斉野と言った所か。

「落ち着いてくれたかな?安心してくれ、君達が負けない限り、危害は加えない、ただあまりにも、鬱陶しければ殺すぞ?」

「負けなければ?どういう意味ですか?」

 そう言ったのは、僕だ。周りの反応は、あまり良くない、まるで、喋った!?的な感じだ。そこまでとは。

「簡単だよ、みんな大好きデスゲームで負けなければ死なない」

「そんなの、やる訳ない!」

 そう強気に出たのは、西条にしじょう命知らずだろうか?

「良いよ、ご自由にしてもらって、でも殺すぞ?」

「そんなの自由じゃないじゃん!」

 最もな意見だと思うが、失敗だろう。

「おやおや、死にたいのかな?」

 と、モニターが声を弾ませて言った。

 空中からアサルトライフルに似た銃が一、二、三、四、四丁のアサルトライフルが西条を囲う様に現れた、まるで超能力だ。

「え?じょ、冗談でしょ?」

「試してみるか?」

 と、モニターが声のトーンを変えずに言った。

「分かったわよ!」

「良かった、ではこれから始めるゲームを説明しよう」

 多くのクラスメイトが、体を震わせていた。

「ルールは簡単、まずこれを使う」

 その瞬間、モニターにピストルが映された。

「そう、ピストルだ、安心してくれ、これは殺す時に使う、ゲームに使うのはこっちだ」

 モニターに映されたのは、三枚のカードだった。

「まずカードの説明だ、丸が書いてあるカードは、四角形が書いているのカードに強い、また、四角形が書かれているカードは、三角形が書かれているカードに強く、三角形が書かれているカードは丸に強い、同じカード同士ならもう一度、簡単だろ?

 イカサマがバレた場合即座に死んでもらう。さあ、ここで分かった人も居るだろう、そう今から人数が半分に減る。

 全員で一対一で殺し合ってもらう。カードを交互に出し合って三回負けた方が死んでもらう。死にたくなければ、人を殺せ」

 クラスメイトの顔は、絶望などが浮かんでいた。

「では試合表を提示しよう」

 顔を上げて、モニターに映る試合表を、確認する。やはり斉野と東堂が最初の様だ。

「安心してくれ、ちゃんと一組づつ行う、ではそれぞれの部屋に入れ」

 すると、周りの黒色の壁が、白色になり扉が全員分現れた。

 そこには、名前が書いてあった。



 部屋に入ると、とても簡素だった。机、椅子、ベット、スピーカー、トイレ、風呂ぐらいだった。必要最低限置いたからだろう。

 机に紙を置かれている。僕は迷わず紙を取って内容を読む。

 僕は、目の前にある鏡で自分が、どれほど笑っているかを自覚した。

 最高じゃないか。そう思っているのだ。

 紙にはこう書いてあった。あなたの超能力は、相手の超能力が分かります。

「さて終わったかな?それでは、第一試合斉野蒼井、東堂敦出ろ」

 と、スピーカーから聞こえてきたところで、僕は、机に紙と一緒に置いてあった、ノートパソコンを開く。

 ああ、楽しみで仕方ない。



「……蒼井」

 どうやら隣同士だったらしい。焦っていて気付いてなかった。

あつし、良いか?俺は手を抜かない、だからお前も手を抜くな、良いな?」

 蒼井の目付きは、これまでで一度も見た事ないほどに鋭かった。

「分かった」

 先程居た場所に、机と椅子が用意してあった。

「一つ言い忘れていた、超能力の使用は相手にバレてしまった場合即座に死ぬからな」

 俺の超能力は、使えばあまり分からないだろう。恐らく、俺の方が有利だ。

「後もう一つバレたどうかは、自己申告制だ、例えば、この人椅子を浮かす超能力使ってますとかだな、だが間違えてしまったら死ぬから気付けろ」

 そう説明してる頃には、もう椅子に座っていた。

「どっちかが死ぬなら、このゲームを楽しもうぜ」

「……死ぬかも知れないのに?無理だろ」

 それは俺もそう思うが、そうでもしてないと頭がおかしくなりそうだ。

「良いから試してみようぜ」

 俺は、作り笑顔を見せる。

「そうだな、良いぜ楽しむか」

 蒼井もまた、作り笑顔で返した。分かりやすい。まあ俺もだろうが。

 机の上に三枚のカード取って、見る。

「これで勝負するのか、まずどっちから出す?」

「んじゃ敦からで」

 正直、どっちも変わらないと思うが。

「じゃあこれで」

 俺は、三角以下略を出した。

「三角、だろ?」

「は?」

 すると、四角以下略を蒼井が出した。

「すまんな、敦俺死にたくないのでな」

「なんで分かったんだ?」

 返答はない。それが全てを物語っていた。それと同時に怒りが湧いた。

「う、嘘だよな?」

「嘘に見えるか?」

 俺の負けが、確定したのだ。

「っざけんなよ!こんなのおかしいだろ!超能力使ったんだろ!糞が!相性おかしいだろ!死にたくねえよ!」

 自分でも、呆れる程に怒るのが早かった。

「ハハ、笑える」

 と、乾いた笑いと共にそう言った。

「あ?蒼井舐めてんじゃねえよ、いつも俺の後ろ着いてきてるだけの、金魚のフンが」

 俺は、蒼井の制服の襟を掴んで引っ張る。

「俺の能力は相手の心を読む」

 と、短く蒼井が耳元で、そう言った。

「は?何言ってんだよ」

「何って?そのままだが?ああ、俺はもう使った、これで良いか?」

 俺はその瞬間、言いかけた、だが気付いた。

「嘘だな?俺を殺す為の」

「心外だな、俺はお前を、殺そうとなんてしてない」

 嘘だ、嘘だ、と、頭の中で何度も、何度も繰り返される。

「まあ、良いそれなら俺が順当に勝たせてもらう」

「ちょと待て、そのカード見せてくれ」

 この反応で、全てが決まる。

「断る、わざわざ相手の言う通りにする訳ないだろう?」

「引っかかったな、蒼井今のはブラフだ、お前は心を読めない」

 その瞬間、蒼井から動揺が見て取れただが、直ぐに冷静になった。

「そうかもな、だがこう考えなかったか?わざと引っ掛かったと」

 確かにそうだが、さっきの反応嘘だとは思えない。

「もう良い、ここからは、遊びじゃない、ただの殺し合いだ」

 蒼井が、少し考え込んだ後に出したカードに俺が触る。

 俺は、また三角以下略を出した。

「良いのか?それで」

「ああ、良いんだよ」

 蒼井のカードも、三角以下略だった。俺は笑みを見せた。

「勝った!蒼井俺の勝ち確だ」

「それはどうかな?」

 俺は、負ける筈がないのだ、それこそ心を読まれない限り。

 俺の、超能力は触った物の未来を見れる。俺は三角以下略に触っていた。

 今は三角以下略は動いてないつまり、丸以下略を出せば負ける可能性はゼロだ。

 俺は、丸以下略を出した。

「丸だな?敦?」

「……えっ?何で?」

「二勝目だ」

 そのまま、三角以下略が出された。

 その瞬間、蒼井が笑い出した。

「どうだ!散々あんなに調子乗って、金魚のフンに負ける気分はよお!これだこれだよ!俺は、いつもお前より下に見られてきた、でも今はもう違う、俺の方が上だ!敦!」

 俺の手は、恐怖で震えていた。

「さいの、斉野!斉野蒼井は、相手の心を読む超能力を使っている!」

 俺は、立ち上がって必死に叫んだ。

「不正解だ、これによって東堂敦の負けが確定した」

「敦、自分で言ったろ?相手の心を読んでないって」

 そう言って、蒼井は笑った。

「嘘だ!嘘だ、嘘だ、嘘だ!」

 俺が、死ぬなんて。

「俺が、蒼井なんかに殺されるなんて、嘘だ!俺は、選ばれた人間だ!こんな所で死んで良い訳ないんだよ!」

「負けは負けだ、諦めろ、斉野蒼井そこにあるピストルで東堂敦を殺せ」

「殺さないよな?蒼井?なあ?頼むって何でもするって」

「敦!じゃあな!」

 その時の目を、その笑顔を、俺は死んでも忘れないだろう。

「蒼井!!」

 頭に銃口を突きつけられる。

 しっかりと、両手でピストルは抑えられていた。

「最後に言い残す事は?」

「地獄で待ってやるよ!人殺し」

「せいぜい地獄で一生待ってるんだな」

 その瞬間、引き金が引かれた、と思った。

「……やっぱり無理だ、俺は人を殺せない、人を殺してしまったら、このゲームを作った奴と一緒になってしまう」

 その隙を逃さず、ピストルを奪い取る。

「俺は、そんなに甘くねえ!死ねえ!蒼井」

 その瞬間、俺の足に激痛が走った。俺は地面に倒れ込む。

 俺の足の、血肉が飛び散るのがわかった。

「ああああ※ああ※あああ※!!足が!」

 その所為で、ピストルを落としてしまった。

「敗者が勝者に逆らう資格などない」

 そこで理解した、撃たれたのだ。

「糞が!蒼井!蒼井!!お前だけは!許さない!殺してやる!!」

 八つ当たり、そんなのは分かっていた。それでもこの時だけは、本気でそう思えた。

 すぐさま、蒼井がピストルを取った。

「やっぱり……」

 やはり撃てない様だ。

 今度は逆の足に撃たれた。

「あああああ※ああああ※※※!!糞!俺の足が!足が!」

 もう立てる筈もなかった。

「蒼井!蒼井!こんな苦しみを味わうなら、俺を殺せ!蒼井!」

 その瞬間、蒼井がこれまで見た事ない程の笑みを見せた。

「俺が殺してない、だから俺の罪じゃない俺は悪じゃない!俺がこの引き金を引かなければ大丈夫だ!」

 その瞬間、理解した、こいつは今誹謗中傷と同じなんだ。ネットで叩き自殺まで追い込み、だが直接的に殺してないから、全くの罪を感じないゴミ共と一緒だ。

「蒼井助け、あ※ああ※ああ※※ああああ!!腕が、腕が!!」

「苦しめ、苦しめ!ああもっと!もっと!俺を裏切って、苦しめた分苦しめ!」

「蒼井!!あああ、腕が!腕が!」

 でも、これで撃つ場所がもうない筈。

 そんな事はあり得なかった。

「ああああ※あああ※あああ※※あ!!俺の肩が!」

 その後は、体の部位を死なない程度に繰り返して撃たれた。

「もう、殺して」

 それと同時に、意識を失った。

「やっと、やっと死んだ!あれほど俺を馬鹿にした糞野郎が、やっと!」

「終わったら、戻れ」



「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だ!これはまさに天国だ!」

 俺は、pcで映像を見ていた。全く持って最高だ。最高だが、ゲーム内容はあまり面白くなかったが。まあ序盤だし仕方ないが。

 それでも僕が、爆笑出来るくらいには面白かった。

「ゲームは終わった、次は黒雨時、藍野翠あいの すい出てこい」

 僕が扉から出ると、隣の藍野が出てきた。 

 藍野の超能力はと、これまた厄介だ、悪だと思った相手を殺したら相手の超能力を得られる。今の内に殺しておかなければ面倒になるだろう。

「藍野さん、よろしくね」

 少し、僕の事を見て口を開いた。

「黒雨さん、なんでそんなに冷静なんですか?」

 僕は楽しんでるからだがまあ、そんな事は言えないだろう。

「だって冷静でいないと、頭おかしくなりそうだからね、無理矢理だよ」

「そうですか、そうですよね」

「あそこに座れば良いのかな?」

「多分そうです」

 机に向かって、ゆっくりとした足取りで、歩いて座る。

「えっと始まりの合図とかないんですね」

「確かにね」

「さっさと始めろ」

 すると、藍野が笑顔を見せた。見たいのはこれじゃない。

「ありましたね、じゃあ始めますか」

「そうだね、藍野さんどっちから始める?」

「じゃあ私から出しますね」

 そう言って、真ん中のカードを出した。

「それは三角?」

 僕がそう言うと、全くの動揺を示さなかった。

「じゃあこれかな?」

 その瞬間、同時にカードを開示する。

「私の勝ちですね、やっぱり黒雨さんって色々勉強してるんですね、まんまと私の罠に掛かってくれました」

 僕が出したのは、丸以下略そして藍野が出したのは、全く反応示さなかった三角以下略だった。

「それは煽り?煽られたなら、本気で行くよ」

「ええ、頑張ってくださいね」

 と、言って藍野が微笑ほほえんだ。こんなのが見たい訳ではないのだが。

「じゃあこれかな?」

 僕が出したのは、四角以下略だ。さてどうするか。

「それは三角ですか?」

「さあ?どうだろうね」

「なるほど」

 と藍野は、長考の末一番右ののカードを開示した。

「私の勝ちですね?」

「ああ、その通りだ」

 そう、藍野が出したのは丸以下略だったのだ。

 死が目の前に来ているというのに、俺は全く態度を変えない。

「じゃあ藍野の番だ」

「は、はい分かりました」

 藍野は、少し動揺を見せた。

 藍野は、カードを一枚出した。

「丸だな?」

「えっ?」

「俺の勝ちだ」

 俺は、三角以下略を開示した。

「どうして?」

「さあ?どうしてだろうな?」

 俺は、カードをシャフルしてから四角以下略を出した。

「四角ですか?」

「正解だ、これは四角だ」

「丸ですか?」

「丸?不正解だな」

「三角ですか?」

「だから、言ってるじゃないか?これは四角だと」

 藍野の喉が動く。まるで何かを飲んだ様に。

「私はこれを出します」

 藍野は、三角以下略を出した。

「あれ?言ったじゃないか、四角だと」

 俺は、四角以下略のカードを開示する。

「そんな」

 藍野は、口元を手で押さえた。

 だが、直ぐに切り替えて、カードに手を触れる。

「私が出すのですよね?」

「その前に訊きたい事がある、死ぬ一歩手前の気分はどうだ?」

 その瞬間、藍野が立ち上がると椅子が倒れた。手が震えている。

「どうした?俺はただ訊いてるだけだ、なあ聞かせてくれよ」

 俺は、椅子から降りて藍野に近付く。

「近寄らないで!」

「なあ、教えてくれよ!」

「こ、怖い!これで満足ですか?椅子に戻ってください!」

 俺は、自分の口元を手で覆う。そこで気付いた、俺は笑っているのだと。

 本当に最高だ。藍野のこの顔一生見てられる。

 俺は椅子に戻って座った。

「藍野の番だぞ?」

「は、はい」

 何かに怯えている様だ。

「わ、私はこれにします」

「そうか、ならこれで終わりだな」

「まだ分かりません!見せてください!」

 俺が開示したのは、三角以下略だ。

「そ、そんな私が死ぬ?」

 体を震わせながら、立ち上がった。

「決着はついた、黒雨時、藍野翠を殺せ」

 俺は、ピストルを取る。

「最後に訊いても良いですか?」

「良いぞ?」

「では、何故、あああ※ああああ※※あああ※ああ!!」

「ただしこの苦痛に耐えきれたらな」

 俺は殴って蹴って撃って、撃って、苦しませ続けた。骨が折れる感触も、藍野の叫び方も、覚える程に。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だな!!」

 最高だ!!もっと!もっと!

「もっと!もっと!もっと見せてくれ!」

「こ……て」

「なんて?言ったか分かんないな!」

 もっと!もっと!もっと!

「殺して」

 その言葉を聞いた瞬間、黒雨は藍野の頭に銃口を突き付けた。

「本当に死にたいか?」

 少し、躊躇った後、掠れた声で何かを喋った。

「……い」

「なんて?聞こえねえよ!」

 俺は、しゃがんだ。声が聞こえやすい様にする為だ。

「生きたい!」

「そうか、なら死ね」

「えっ?」

 その後、大きな轟音と共に、藍野の頭のポッカリと空いた穴から、血が沢山溢れ、肉片が床に飛び散った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最後のあの顔最高じゃないか!!こんなの無限にやれる!!もっと、もっと苦しめたい!」

 このゲームは、俺の為に作られたのだ。だってこんなにも、楽しいのだから。

「こんなに楽しいのか!この高揚感最高だ!!」

 今の俺の感情を、楽しい以外の言葉で、どう表すのだろうか。

 その後、俺の甲高い笑い声が、部屋中に響いた。



「第一ゲーム終了だ、部屋から出ろ」

 そう、スピーカーから聞こえた。

 部屋から出て、出てきた人を数える。

 生き残ったのは、十三人か、半分であればば、十六人だった筈なのだが。自殺する者や、殺される者などで、人数が減ってしまった。非常に残念だ。

 全員、部屋の中心に集まった。

「次は何よ!」

 と、流石と言ったところか、西条が強気に言った。

「次はもっと簡単だ、殺し合い、分かるか?ルールは簡単生き残れるのは十五人、制限時間は六時間、チームを組むのもよし、一人で殺しまくるのも良し、もし、時間内に決着がつかない場合は、スコアが低い奴から順に死んでいく、なんでもありの殺し合いだ!開始は一時間後だ、よく考えて武器を選ぶと良い、せいぜい頑張れ」

 すると、モニターの下の壁が横ずれて、開いた。そこには、武器が沢山あった。

 すると、面白い事に、誰かが走ってアサルトライフルを取った。あれは確か、小原おばらだったか。能力は、分身か。

「お前ら!俺に従え!さもないと全員殺すぞ!」

 なるほど、これはこれで面白い。あの必死そうな顔。

 まあ、だが今後の事を考えたら少しつまらなそうだ。

「一旦落ち着いて!」

 と、勇敢に言ったのは、黒崎くろさきだった。怯えてる様に見える。

 にしてもいつもなら、面白いと感じる顔を見てる筈なのに、黒崎の顔は全くそう思わない。何故だろう?まるで、死なないと分かっている様に。

 舐めているのだろうか?小原を。

「五月蝿え!黙れ!殺すぞ!」

 だが、このままでは、つまらない。とりあえず僕が止めるか。

「なんだ!黒雨!こっちに近づくな!」

 僕は、低い体勢のまま距離を詰める。轟音と共に、銃が放たれる。だが狙いが甘い、僕が、横にずれるだけで避けれる。しかも反動を抑えきれてない。

 見た感じ銃の反動は、かなり抑えられてる筈だが。

 それより、怯えてる顔がただただ、面白かった。

「黒雨君横!」

 黒崎の言葉に、反応して僕は横を見た。

 そこには、小原の分身が居た。

 僕の視点からは、全く見えなかった。恐らく元から出しており、後から、後ろから来させたのだろう。

 だが、その程度で、俺が死ぬ訳がないだろう。

 分身も本体同様、まともに撃てない様だ。俺は、弾を打ち終わった、本体の背後に回り、近くにあったショットガンらしき物を取って、トリガーを押して、分身を殺す。

「じゃあな」

 俺は、小原の背中に、取ったショトッガンを突き付けた。

「ま、待ってくれ!一緒に支配しよう!な?それで良いだろう?」

 俺は、足に標準をずらした。ああ、小原の顔がとても面白い。

 轟音と共に、小原の足の血が飛び散り、小原の叫び声が聞こえた。

「ああああああ※ああ※ああ※※※※ああ!!俺の、俺の足が!足が!」

 何を言ってるか分からなかった。これは堪らなく面白い。

「支配?そんなもんに興味ない、俺はただ生きれればそれで良い」

 小原が、向きを変えて面白い顔を、俺に向けた。

「何笑ってんだよ、ふざけんじゃねえよ!」

 俺は、左手で口元を覆った。

「クックッ笑ってるだって?何でだろうな?」

 俺は、笑い声を押し殺した様な声を出した。

「死にたくないか?」

「あ、当たり前だ!」

 ああ、小原は一体どれだけ楽しませてくれるんだ。震えた声と涙これで、笑わない奴が居るのだろうか?断言しよう居ないと。

「でもな、殺さないとなあ、支配したいんだもんな?いつ牙を向くか、分からないじゃないか?」

 俺は、銃口を小原の頭に突き付けた。

「待て!」

 と、斉野が俺を止めた。

「今一人失うのは辛い、もしかしたら次のゲームとかで使えるかも知れないだろう?」

「そうか」

 俺は、構わずトリガーを押した。その瞬間、轟音が鳴り響き。

 小原の頭は、脳みそやら血やらでひき肉を握り潰した時の様に、グチャグチャになっていた。

 周りは、嗚咽する者恐怖している者ばっかりだった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「な、なにやって?笑ってる?」

「ああ、確かに笑ってるな、何でだろうな?」

 俺は、ショットガンを持ってる反対の手左手で、またもや口元を覆う。

「何で!そこまで平然としているの?」

 と、久保くぼが、怒鳴った。

「何で?簡単だよ、必要だから殺した、そこに感情なんて必要ない、そうだろう?」

「私は黒雨君が、正しいと思う」

かなで!」

 どうやら、黒崎は仲間らしい。

「わ、私もそう思います」

 と、声を震わせながら手を挙げたのは、白山しらやまだ。これは予想外だ。これは面白くなってきそうだ。

ゆきまで!なんで?」

「あー俺は反対だぜ、俺は蒼井派だ」

 と、申し訳なさそうに言うのは、光狼こうろうだ。残りは喋る気にすらなっていないらしい。

「僕は、どっちでも良いよただ殺すだけだから、邪魔するならもちろん、みんな殺す」


 

 僕は白山と、黒崎を連れて武器を調達した。弾も、手榴弾、閃光弾豊富にあったが防弾チョキなどはなかった。あるのはせいぜい弾や、手榴弾を、持ち運ぶ用のベルトの様な物だけだ。

「こんなんで良いかな?」

 僕は、何か不備がないかを調べた。が、特に無さそうだ。

「これで良いですか?」

 と、白山が、僕に自分の装備を見せた。

「あ、私の見てくれない?黒雨君」

「僕の言った通りに装備していれば、大丈夫だよ」

 結局集まったのはこの二人だけだった。そろそろゲームが始まるだろう。

「ゲームの時間だ、各自部屋に戻れ」

「だってさ戻ろっか」

 僕達は、部屋に戻った。

「ルールを再度説明する、今から八十八人で殺し合いをしてもらう、六時間後に生き残ったスコア上位十五人のみ、生き残れる。

 スコアの上げ方は実に簡単だ、人を殺す度にプラス一ポイントだ。

 順位は真ん中に行く事で確認出来る、マップは、それぞれの部屋の机に置いてある地図で把握できる。

 それではゲームスタートだ」

 そうスピーカーから声が聞こえた後に、部屋の壁が下に埋まった。そこから出た瞬間、僕は気を失った。



 僕が目を開けると、辺りは森だった。直ぐさま、地図を見る。

 端っこらしい。すると、誰かの足音が聞こえた。僕は、直ぐに隠れる。

 どうやら僕は、バレていないらしい。

「この森抜けてえーな」

 相手の超能力は、飛行だ。これは上から落とすをやってみたいが、そういう訳にも行かないだろう。

 僕は、頭をしっかり狙って撃った。

 案の定血を吹き出して倒れた。実につまらないが、この後の事を想像すると、楽しみで仕方がなかった。

「この近くから音聞こえたぞ!行くぞ!」

「おう!」

 と、僕以外の声が二人ほど聞こえた。

 僕は、閃光弾を声が聞こえた方へと投げる。

「何だ?うっ!」

 と、声が聞こえたの同時に前に出て、しっかり一発で仕留める。

 またもや、つまらない死に方で死んだ。

 仕方ないので、死体を漁って弾と、閃光弾を補充する。

 黒雨は、とりあえず人が居そうな所へ行く。

 開始数十秒で三人殺せたのだ、良い方だろう。

 にしても、面白くない。一撃だと楽しくない。苦しんでる感が無いからだろう。

 強いて言うなら、閃光弾当たった時の反応だろう。



 目を覚ますと、古びた天井がまず視界に入った。

 そこで気付く、私は地面に倒れているのだと。

 起き上がろうとすると、ギィと今にも壊れそうな音が鳴った。

 だが今はそんな事は重要じゃない。とりあえず持ってきた、アサルトライフルを取る。

 近くに人が居ないかを、自分の超能力で、調べる。私の能力は透視だ。これで辺りを見渡せば分かるという寸法だ。

 居るのは一人か、居るのは向かいの家の中だ。

「殺すか」

 そう呟いて私は、向かいの家のドアを開けた。相手が出るのを待っても良いのだが、自分から殺したという、経験が欲しい。

 居るのは右側の小部屋だろう。

 私は扉を開けた瞬間に、手榴弾を放った。

 相手もそれに気付いたのか、直ぐさま出てきた。それを逃さず、たっぷり弾を三発以上使って、殺した。手榴弾のピンは外してないので、爆発する事はない。

「楽過ぎでしょ」

 相手の武器は、ショトガンだったので、何も取る物はないだろう。

 とりあえず辺りの警戒だ。もちろん、人を殺すのは抵抗はあるし、罪悪感も感じる。

 だがもう引き返す事は、出来ないだろう。自分の安全それが最優先だ。どんなに罪を被ろうとも。



 俺は、スナイパーを持っていた。それが一番超能力を使えると思ったからだ。

 俺の超能力は、視力調整だ。名前の通り、視力を自分で調整出来る。これにより三十でも、百にでも変えられるのだ。この超能力で、敦の目を見てカードを、当てていた事もあった。

 俺は、ゲームが始まってから懸念していた事があった。それが偏差だ、だがそんなのは直ぐに慣れた。

「俺は殺してない、殺してるのはこのゲームを作った奴だ俺じゃない、俺じゃない、俺じゃない」

 と、呪文の様に唱えながら、スナイパーを敵を見つければ、撃った。

 ただの、責任逃れだった。たが斉野は戦闘の知識が無さ過ぎた。

 斉野は、頭を撃たれて死んだ。

 撃ったのは、俺だ。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!馬鹿だなあ?あんなに呪文みたいに唱え続けて、尚且つ、撃った後に移動もしないなんて、撃った後に近付かれたら終わりじゃないか!」

 俺は、一度スナイパーを手に取り。スコープを、覗いた。

 そこで、スコープに映った一人の少女を殺した。彼女は、西条だった。

「次」

 と、僕は、呟いた。

 もう、一人殺した。

 ああ、つまらない。

 僕は、斉野が隠れていた。ちょとした山を降りるとするか。

 そこで足音が聞こえた。だが遮蔽物が無い。

 これは流石に、傷を負いそうだ。

「あっ、黒雨さん」

 遂に、遂に出会ったのだ。白山に、後はただ一人、黒崎ただ一人。

「何人殺した?」

 すると白山は、指で丸を作った。誰も殺してないって意味だろう。

「そう、まあ良いや、どうせ僕達以外全員死ぬからね」

「それってどういう?」

「うん?そのまんまだよ、とりあえず真ん中に向かおう」


 僕達が降りると、また足音が聞こえた。

「この辺りから、銃声した筈なのだけど」

 どうやら、近くに人が居たらしい。そこに居たのは熱感知の超能力だった。

 素早く遮蔽物に隠れたので、バレなかった筈だ。やはりつまらない。

 だが、バレるのも時間の問題か。

「で?そこに居るお二人さん私を狙ってるの?」

 その時、見た目には合わないでかいライトマシンガンを、撃ってきた。

 僕は、遮蔽物を移動しながら避ける。白山は体勢を低くして、避けた様だ。

 僕が、避けながらアサルトライフルを撃つ。

 それを見事に回避される。

「君何者?」

「そっちこそ何者だ?」

 数秒睨み合って、また始める。

 だが、結果は直ぐに考えれば分かる事だった。二対一、負ける筈がなかった。白山の撃った弾が、見事に横腹を貫いた。

「あああああ!!糞、忘れてたよ、こうなったら、せめて君達を巻き添えにさせてもらうよ!」

 そう言ってその少女は、腰に携えた手榴弾を、三つ取って、投げた。

「逃げるぞ!」

 そう黒雨が、言った瞬間少女は、ライトマシンガンを構えた。

「生憎、このまま逃す訳にはいかないのよ」

 そのまま、トリガーを押した。その時の顔は、勝利を確信した顔によく似ていた。そこから絶望に突き落とした時、どんな顔をするのだろうか?ああ楽しみで仕方ない。

 だが、これでは恐らくどんな方向に、避けても当たるだろう。じゃあどうするか?簡単だ。

 全て消せば良い。

「白山!」

 弾が当たるまで、一秒もない。だがぎりぎり間に合った。

 白山の超能力は至って簡単、大きさ一センチ以下の物を消す事だ。ライトマシンガン弾の大きさは、大体五、六ミリ程度、つまり余裕で消せる。

 その瞬間の、顔がたまらなく面白かった。絶望に落とされた顔が先程の顔とは全然違い、面白さが増していた。こういうのをギャプと言うのだろうか。

 だが一番の問題があった。手榴弾だ。大きさは一センチ以上ある。つまり消せない。だがもちろん、このままでは死ぬだろう。

 だから簡単だ、当たらない辺りで、爆発させる。幸い弧を描いて飛んでるので、まだ間に合う。

 狙い定めて、トリガーを押して、三発全て当てる。

 逆方向に飛び、爆発した。

 爆風はきたが、巻き込まれずに済んだ。

「どんな技量なのよ」

 そう言って、血を流して少女は倒れた。

 今回は、かなり面白い。あの顔、あの捨て台詞が面白すぎる。

「黒雨さん一つ疑問なんですが、なんで最初撃たれた時消すなと指示したのですか?」

「さあ?なんでだろうな?」

「教えてくれても、良いじゃないですかー」

「自分で考えな」

 俺はこの時、白山の方を見てなかった。

 そして、左手で口元を覆った。そして笑い声を殺した様な、声を出した。

「……最高だ」

 と、俺は小さく呟いた。



 しばらく僕達が、歩いていると、古い建物が沢山ある、荒廃した町に出た。

 ここが中心に一番近いのだ。しかし残念ながら道中戦う事は一度しかなかった。

 残念ながらそれもつまらない物だった。

 しかし、中に人が居るかも知れないので、僕達は警戒を怠らなかった。

「黒雨君、やっと来た。遅いよー」

 その声の主は、黒崎だった。

「何人殺した?」

「二人」

 と、言って指を二本立てた。

「周りに人は?」

「今の所は居ないと思う」

「分かった、とりあえず真ん中に行ってみよう」

 と、僕達は、素早く会話をこなして、小走りで移動を開始した。出来るだけここを早く抜け出したかったからだ。



 僕達が中心に着くと、そこは庭園だった。

 そこの中心には、滑らかな石に電子機器が嵌め込まれておる何かがあり、そこにはそれぞれの名前、死亡数、スコア、残り時間が書いてあった。

「スコアは黒雨君が一位か、スコア十五!?嘘でしょ?」

 と、黒崎が声を荒げた。

「本当だ」

「とりあえず次は誰ですか?」

「つ、次は五で光狼君が二位だね、三位が黒澤優くろさわ ゆうって読むのかな?が三スコア、その後に私、白山ちゃんの順だね、それより下は一人も殺してないみたい」

「残り時間は?」

「四時間だね、残り人数は、五十人うわ、結構減ってる」

 その時、足音が聞こえた。

 今回も楽しむ事は困難だろう。何故なら足音的に五対三だからだ。いくら僕でも手を抜く事は出来ない。

「……僕が合図したら、足音の鳴った方へと閃光弾を投げてくれ」

 僕は、声の方へと近づいた。僕は手で合図を送った。

 それを汲み取って、黒崎達が閃光弾を投げた。

「全員目を閉じろ!閃光弾だ!」

 と、叫び声が上がった。

 だが、それは一度のみ、後から上から落ちてくる閃光弾には、気付かなかった。そう僕が投げたのだ。

「うわっ!目が!」

 その瞬間、僕が飛び出し、全員一発で殺した。

 今回も死体を漁って、閃光弾やら弾やらを補充する。

「凄いですね」

「本当にね、早すぎ」

 僕は、無視して先程の電子機器を見た。

 そこには、二十と言う数字の、左に黒雨時、僕の名前がフルネームで書かれていた。



「疲れたー」

 それもそのはず、俺、光狼は、五人もの人を殺し、走り回ったのだから、精神的にも、体力的にも疲労が出てくる。

 知人には、傷一つ付けていないので、少なからず精神的には楽だった。

 それでも五人殺したという、事実は変わらなかった。

「このゲーム厨二病が考えたみたいだな、ハハ」

 この状況に、直面すれば誰しも、笑いたくなるだろう。と言うより笑ってしまうが正しいだろう。

 こんな糞みたいな、お決まりの展開で殺し合って、ましてや、やってる事があるあるだ、ドッキリでもやってるんじゃなかろうか。そう思える程に。

 まるで一本の動画の様なのだ。

 お決まりの展開で安定の面白さで、いつも見る熱狂的なファンの為に作られた動画の様な物だ。ファンじゃない人が見たら、何本か見たら飽きる動画によく似ているのだ。それ程までにデスゲームあるあるなのだ。

 言うならば、理想を現実にした感じだ。実際に直面したら、逆に面白いと感じてまうのだ。

 もちろん、恐怖、不安には負ける。しかし冷静になって見てみると、面白いが勝ってしまうのだ。まるで、厨二病を、見てる気分にも似ている。

「何がしたいんだろうな」

 自分の待っていた、アサルトライフルを地面に突き立て、それに腕を乗っける。

 とは、腕を乗っけてみたは良いものの、あまり楽じゃなかったので、辞めた。

 アサルトライフルを、取ってから、隠れて寝っ転がる事にしる。

「もう人を殺すのはうんざりだ」

 俺は、隠れやすい所に、移動して寝っ転がった。

 しかしだ、そこで違和感を覚えた。その違和感は直ぐに分かった。近くに何かあるのだ。そう思って辺りを見渡すと、一見武器も何も持っていない、白いワンピースを着ていて、金髪が肩下まで伸びていて、華奢な体、童顔の美少女がそこには居た。

「君は?誰?」

 と、言って俺は、少女の体を揺さぶる。

「うーん、誰?く……?」

 最後の方は、寝ぼけているせいか、上手く聞き取れなかった。

「あの、大丈夫ですか?」

「えっ!?見えるの?」

「あっ、はい一応」

 その少女は、困惑した顔を浮かばせた。

「と、とりあえず私は戻る」

 と、言って、姿を一瞬で消した。

「何だったんだ?」

 俺は、ため息を吐いて、寝っ転がった。



 つまらない、それが感想だった。このゲーム後三時間も有るのだ。

 ここまで、楽しくないデスゲームがあるだろうか?

 僕が、一発で殺す。それを繰り返す、実につまらない。

 すると、どこかで足音が聞こえた。

 僕達は、音を立てずに隠れた。

「とりあえず、真ん中に行こうかな?」

 と、独り言を言っている様だ。しかしここから、どう面白くするか。

「周りに人は?」

「二人あいつと、あそこの裏」

 と、言って黒崎は独り言を言っている奴とは、反対側の家を指した。

 それを意図を理解して、僕はしっかり頭に撃って、一撃で殺した。

「次はあそこだな?」

 僕は、家を指した。

 そう僕が言うと、黒崎が頷いた。

 僕が、家の間を走って仕留めにいく。

 しっかりと狙って撃った。

 やはり、一撃で殺せる。つまらない。

 面白いと感じるとしても、頭を撃たれて、穴がポッカリ空いたぐらいだけだ。

 だが、もうそろそろ、始まって良いだろう。

「約三時間が経過した。ここでボーナスだ現在の一位は黒雨時二十三スコア、二位光狼乱こうろう らん六スコア、三位黒澤優五スコア、四位黒崎奏二スコア、五位同率白山雪、金谷瑞希かねや みずき一スコア、以上の六名がスコア持ちだ。

 これからはスコア持ちを、殺すと殺した相手のスコアも追加される。

 つまり一位の黒雨時を殺せば、一位になる。また上位三名を殺せばプラス三スコアだ、残り人数は二十八人だ」

「減りすぎでしょ」

「一時間前は、五十人でしたもんね」

「黒雨は、どこだ!探せ!」

 と、醜い声が聞こえた。声色から必死さが伺えた。これはこれで面白い。

「うわー標的にされてるね、黒雨君」

「それで良い、あっちから来てくれるなら、それ以上に良い事はないからね」

 足音的に五名程だろう。僕は、手榴弾を投げた。

「グレネードだ!逃げろ!」

 だが、素人すぎる。手榴弾は、確かに爆発する。

 だが、この手榴弾は四、五秒後だ。充分遮蔽物に、隠れられた。にも関わらず、隠れなかった。敵に背中を見せて。

 僕が、撃たない道理などない。そして、一発でリーダーらしき人物を仕留めた。

 それにしても、あの時の怯えた顔と言ったら面白すぎる。

「ここに、三人居る!」

 白山が、撃ったのと同時に、相手もトリガーを押した。もちろん、相手の弾は全て消えた。

 だが白山の、弾は腹に当たった。

 そこで、相手は絶叫した。

「あああああああ※ああ※※あああ※※※あ!!」

「ハハ」

 白山は、笑っていた。俺と、同じ様に。

 だが直ぐに、増援が現れた。

「大丈夫か!?」

 だが、一瞬でも気を抜いたら、最後。相手は黒崎に頭を撃ち抜かれた。

 だが、その瞬間誰も見ていなかった方向から、手榴弾が飛び出てきた。ピンは外れている。

「ここから離れて、遮蔽に隠れろ!」

 その瞬間さえも、俺は笑っていたと、自覚していた。理由は、腹を撃たれた者の顔をが面白かったからだろう。

 ぎりぎり間に合った。

「チッ、逃したか」

 先程と制服が違う、腹を撃たれた奴を巻き添えにした辺り、仲間ではないのだろう。

 黒崎が、声の方へと顔を出した瞬間、閃光弾が現れた。そのまま、黒崎は目をやられた様だ。もちろん、手榴弾も投げられた。だが俺が、素早く反応し、投げられた手榴弾をキャチして少し待って投げ返した。

 人が居る場所に丁度爆発した。

「黒澤優は、殺された。黒雨時八スコア追加だ」

 だが、散々爆発したせいで、俺は周りの音を聞き流していた様だ。迫り来る敵を見逃していた。

 俺と黒崎はなんとか避けたが。白山だけは肩辺りに、当たってしまった。

 俺が素早く反応して、アサルトライフルのトリガーを押した。今回は腹に当てる。

「あああああ※※※ああ※あああ※※!!」

 相手が悶絶した。腹を撃ってから苦しみ悶えてる所を、楽しむって訳だ。最高だ。

「白山ちゃん?大丈夫?」

「致命傷だ、後は苦しんで死ぬだけだ」

 よく肩なら軽傷とか言うがあれは嘘だ。確かに、他の部位に比べて生き残りやすくはあるかも知れないが、それでも充分当たり所が悪ければ致命傷になる。今回は悪かった。

 黒崎の顔が堪らなく面白かった。

「そんな、黒雨君なんとかならないの?」

「無理だ、ここにはそういう道具もないからな」

 そこで、足音が聞こえたので直ぐに振り返って、俺は、二発弾を撃った。

 全員腹に当たった。致命傷だ。

「あああああ※※あああああ※あ※あ※!!」

 それにしても、こんな叫び声最高じゃないか。

 いつまでもやれるな。このゲームはやはり最高だった。

「黒雨さん、殺してください」

 俺は、少し悩んで銃口を向けた。

「ちょと待って、何かあるかも知れないでしょ?」

 そんなのを無視して、つまらない笑みを浮かべた白山を、俺は殺した。

 白山の頭に、ぽっかりと穴が空き、血がダラダラと流れた。そこの穴から、脳らしき物が見えた。

「白山雪は、殺された。黒雨時三スコア追加だ」



「黒雨の奴、強すぎだろ、えっと元々が二十三スコアだから、そこから十一か、十一を足して三十四、化け物じゃねえか、残り人数はつまり二十人くらいか」

 まあ、ここで隠れていれば、俺はバレないだろう。

「しかし、この光狼より強いとは、一応サバゲー好きだし、バスケ部のエースなんだけどなあ、あの、教室で全く喋らない奴が、最強だとは。それにあいつあの時笑ってたんだよな」

 あの時とは、小原を殺した時だ。正確には殺す前か。

「なんか、違和感があるんだよなー。

 普通あそこまで、冷静じゃないと思うだけどな、それにあいつ銃の扱い手慣れてたしなー、まるで人を殺すのに躊躇がないよな」

 それこそ、超能力でも使わない限り、一介の高校生が出来る筈がない。

「超能力?待てよ、もし超能力を、使っていたとしても、銃の扱いがあそこまで完璧になるか?それに、銃の扱い方を完璧にする超能力だとしても、強過ぎないか?

 それに、あそこまで武器選びに迷いなくなるか?もしかしたら、漫画みたいに子供の時から鍛えられていた、かも知れないが。

 小学校から偶々高校生まで同じ学校の奴が、休んだ姿を見た事がないと言っていた。

 ならば、鍛えられていた線は薄いか、となると何かしらの超能力で、鍛えた?だが、それでは、強過ぎる。他の人達の超能力を、聞いたが丁度良いバランスだった筈。

 なんか、おかしんだよな」

 これ以上考えても、答えは出ないだろう。

 とにかく周りの音に集中する事にする。



「金谷さんですか?」

「ええ、そうよ」

 私は、銃口を男に突き付けた。

「一緒に、黒雨を殺しませんか?」

「何故?わざわざ危険は犯す気はないのだけど」

 男は、全く怯んでいなかった。

「簡単ですよ、金谷さんはこの十四人に勝てないからですね」

 そう言った瞬間、周りから銃を持った人達が現れた。

「死にたくないでしょう?」

「……分かったわよ、やれば良いんでしょ?」

「分かって頂いて良かったです、では行きましょうか」

「目星は付いてるの?」

「ええ、しっかりと、この目で見て聞きましたから」



 僕達は、中心に来ていた。残り時間を確認する為だ。

「残り時間は、二時間ね」

「長いな」

「えっ?金狼君死んでる?二位が久世乱世くぜ らんせって言うのかな?になってるアナウンスなかったと思うけど」

「もしかしたら、三十分の内しかアナウンスしないのかも知れないね」

 スピーカーから、流れる声がアナウンスの様に、聞こえる為、アナウンスなのだが。

 少し、安直過ぎるか?

 と、考えつつ歩く。

「確かに」

 僕は、次の順位を確認する、そこに三人程新しく書かれていた。

「残りは、どれだけ残ってるんだ?」

「十七人ね」

「少ないな」

 そこで足音が聞こえた。それもかなりの。

「包囲されたかも知れない」

「やあ、黒雨さん」

 周りの木の影から、出て来たのは、男だった。

「包囲してるだろう?久世乱世」

「おお、良く当てたね」

「そりゃそうだろ?あんなに盗み聞きしてくれたんだから」

「ほう?分かっていたのに、ここに来てくれたのか、助かるね」

「来てくれた?違うなそっちが来てくれたんだ、これなんだ?」

 俺は、閃光弾を弧を描いて三方向に投げた。当然枝にぶつかって落ちるだろう。

「何してるんだ?」

 久世乱世が、困惑した顔を見せた。

「後四秒もすれば分かるんじゃないかな?」

 その後直ぐに、爆発が起きた。

「な!?何をした?」

 俺は、左手で口を覆って、笑い声を我慢した声を洩らした。

「何って教えるわけないだろう?」

 その瞬間、久世の背後から一人の少女が現れた。

 銃を持っている。狙っているのは、俺の様だ。

 だが、俺の方が一歩早かった。アサルトライフルを、撃った。二人まとめて、久世の腹を貫き、もう一人の少女も一緒に貫いたのだ。

 二人共痛みのあまり叫んだ。

「ああああああ※※※ああああ※※!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 最高だ、楽しい。これ程までに見ていて楽しい事があるか?断言しようないと。

「最高だよ、その反応勝ったという確信が絶望に代わったその顔が。もっと、もっと、見せてくれ!この黒雨に!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「黒雨君?何を言ってるの?」

「ああ、興奮しすぎたか、嘘を付き忘れてた」

「黒雨君?嘘ってどういう事?」

「ああ、この四時間その顔を見る為にどれだけ、頑張ったか、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だ!」

 俺は、アサルトライフルを構えて、黒崎の足に弾を撃つ。

「ああああああ※あああ※※ああ!!」

「やっぱり、もっと威力が高い方が、面白い反応をするな?」

「な、何をしてるのよ」

「何?何って、人生を楽しんでるんだよ、人生楽しんで悪いか?金谷?」

 恐らく、全員命は長くないだろう。

「黒雨!!」

 黒崎は、アサルトライフルを構えた。

「あ、言い忘れていたよ、さっき見せてもらった時に、マガジンは空の物に変えておいたよ、弾も一発撃っておいた」

 黒崎が、トリガーをかちゃかちゃと鳴らす。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 その顔を、最高だよ!!」

「イカれてる」

「イカれてるだって?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!俺からしたらイカれてるのはそっちだよ!俺は、これからこの鋭いナイフでゆっくりと、黒崎を痛めつける。

 金谷、久世死ぬまでよく観察していると良い」

 俺は、黒崎に少しづつ近付いた。

「や、辞めて」

「辞めて?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!そう言わられる程やりたくなるな!!」

 俺は、黒崎の指をゆっくりと斬り落とす。

「あああああああ※※あああ!!」

「や、辞めろ!!」

「辞めろだって?久世だって俺達を、殺そうとしたじゃないか?何が違うんだ?」

「同じにするな!」

 どこから、そんな声を出してる事やら。

「よく喋れるな?ゴキブリ並みの生命力だなあ?」

 俺は、一本一本久世と、金谷を見せびらかす様に斬り落とす。

「も、もう辞めてぐだざい」

 黒崎が涙声で喋った、面白くなっていた。

「辞めてか、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!辞める理由がどこにも見つからないな!」



 気付けば、金谷達は、死んでいた。

 そこから、三十分ほど黒雨は痛めつけた。

「あっ、死んじゃちゃた」

 俺は、邪魔だったので、制服を破られほとんど下着姿状態になり、腹を斬られ内臓を抉られた、黒崎の死体を見た。

 ああ、最高だった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ああ、最高だった。後は俺一人の筈なのだが、アナウンスが起きないな」

 俺は、残り人数を確認した。一人だったのが、二人に変わった。

 俺が、黒崎を見ると、体の傷が全て修復された。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!まさか、不死身だとは後一時間半たっぷり遊べるじゃないか!」

 黒崎は、逃げ出そうとしたが。もちろん逃げ切れる筈もなかった。

「何が目的なの!そんなクズみたいな事をして!」

「目的?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!そんなのある訳ないだろう?俺はただ、人生を楽しんでるんだよ!人生楽しみたいだろう?楽しんで何が悪い?」

「イカれてる」

「ハハハハハハハハハハハハ!!なんとでも言うと良いさ!」

 俺は、黒崎を捕まえて、先程出来ないかった事をする。

 最高に楽しい!

「あああ※※あああ※※ああ!!!誰か!ああ※あああ※助けて!」

「無駄だよ!助けなんて来ない!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 目を抉り、黒雨ぐちゃと音共に目玉を潰した。

「あああ※あ※※※ああ!!私の!私の!目が!目がああ!」

 最高だ!もっと見せてくれ!

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!もっと!もっと!もっと見せてくれ!」



「ゲームは、終了した。生き残ったのは、黒崎奏、黒雨時二名だ」

 終わってしまった。最高の時間が。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、終わったぞ?黒崎」

「あ、あ、やっと!!終わった、やっと終わった!」

 全く、面白すぎる。

「なあ、黒崎」

「は、はい!」

「これから俺はの下僕になれ」

「え?」

 黒崎は、困惑した顔を浮かべた。

「言葉通りだよ?僕の忠実な下僕になって欲しいんだ」

 僕は、黒崎の頭の上に手を置いた。

「え、で、でも……」

「もし、下僕になってくれたら、黒崎をあんな風にはしないよ、ただし僕の本性をバラしたらどうなるか、分かるよね?」

 僕は、血で赤く染まった。ナイフを見せた。

「本当にしないんですよね?」

「ああ、しないよ」

「本当ですよね?」

 黒崎は、僕の肩を掴み顔を近づけた。

「本当だって」

「本当に、本当ですよね?」

「だから、そう言ってんじゃん、またして欲しいのか?」

 黒崎が、直ぐに俺から離れた。

「い、いえ分かりました、下僕になります、いえならせてください」

 と言いながら黒崎は、俺に土下座した。最高じゃないか。

「ああ、良かったよ、これからよろしくね黒崎さん」

 僕は、手を前に出して握手を求めた。

「は、はい」

「それと、いつも通りの喋り方で良いから」

「分かりま、分かった」

「それじゃあ行こうか」

「どこに?」

「どこって、次のゲームだよ?」

「地図上の最北端に向かえ」

 と、アナウンスがあったので、僕達は、死体から女性用の制服を取って、黒崎に着させて最北端に向かった。



 僕達が着くと、壁が地面に埋まった。

「ここを通れって意味だよね?」

「そうだと思うけど」

 僕達が歩いて行くと、辺りは真っ暗になって、モニターが光って声が聞こえた。

「クリアおめでとう、三日間休暇を与えよう。二人だけでは、ないから安心しろ」

 すると、モニターの横側から白色の扉が現れた。

「入れば良いのよね?」

 僕は、頷いた。

 黒崎は、ドアを開けて入っていった。僕も付いて行った。

「あれ?他は?」

 と、そこに居たのは、死んだ筈の光狼だった。

「えっ?死んだ筈じゃ」

「ああ、俺の超能力死んだ場合一回だけ次のゲームに進めるんだ、で?他の人は?」

「殺したよ、全員」

「そっか、部屋割り振られてるから、好きに使って」

 意外にもあっさりしていた、つまらない。もっと、取り乱す事を期待していた。

「てか、なんで制服変わってんだ?」

「まあ、色々あったのよ」

「最終ランキングは一位黒雨時七十四スコア二位黒崎奏四スコア、三位光狼スコア無しだ。覚えておけ」



「やっと、離れられた。怖すぎでしょ」

 私は、深いため息を吐いた。

 とりあえず、ベットに倒れる事にする。

「……雪ちゃん」

 もう、この世に居ない人の名前を呟いた。不思議と会いたいと思うのは、両親などではなかった、白山雪、ただ一人他の人など、どうでも良かった。

 ベットの上で、あの地獄を思い出した。今でもまだ、あの痛み目玉を取られた感覚を、鮮明に覚えていた。

 自分の取られた、右目を右手で覆った。

 その瞬間、思わず笑ってしまった。こんなにも怖かったし、痛かった筈なのに、今思い出すと、怖いはなくなり、痛いすら感じなかった。

 当たり前だ、何故なら思い出しているだけなのだから。

 だが、どうしても黒雨を見ると、少なからず恐怖してしまう。

 その筈なのにも関わらず、私は黒雨時に、恋をしていた。

 今思い出すと、かっこいい、良かった、私に夢中になってくれている、とそう思ってしまうのだ。

 楽しそうで良かったと、こんなの笑うしかない。

 だがもちろん、あんなのもう二度と経験したくない。

「私、どうかしてる」

 だが、恋心というのは、そう簡単に諦め切れる物ではない。

 これからも、きっと思い出して、小さく笑うのだろう。

 だって、その時だけは、私だけの黒雨君だったのだから。



「七十四って、どれだけ殺したんだよ」

 気になるのも当然だった。もっと生きたかった、そうすれば、分かったかも知れないのに。

「だが、やっぱり何かあるよな」

 不思議と言えば、あのワンピースの少女の見えるとは、どういう事だろうか?それにから始まる、誰かの名前らしき事言っていた。

 黒雨、こんな偶然があるか?間違いなく、黒雨は、何かを隠している。

 あの少女は、まるで見える人と、見えない人が居る様な事を言っていた。

「あの、少女にもう一度だけ、会って話がしたい」

「呼んだ?」

「え?」

 現れたのは、まさしくあの時の白いワンピースの少女だった。

「ごめんねー、あの時ちょと準備出来てなかったからさ、私が見えるんでしょ?」

「あ、まあ、そうだけど」

 少女は、元気良く笑った。

「私を見える人は、とある特典が貰えます!なんと!私が、今から出す能力の中から一つ選べるよ!」

「能力?超能力って事か?」

「そうだよー、じゃあ写すね」

 俺はその、超能力の一覧を見る。

「そういえば、黒雨って知ってる?」

「知ってるよ、このゲーム一位の人でしょ?」

「そうそう、黒雨も君見えるの?」

「んー分かんない、私その人に会ってないもん」

 嘘を付いている様には、見えなかった。そもそも俺が嘘を見抜く事は出来ないので、信憑性は、薄いが。

 性格的に嘘は付かないだろう。多分。

「それより、早く選んで」

「今探してる……んじゃこれで」

 俺は、現実改変と言う超能力を指した。

「おお、良いの選ぶね、でもそれインターバル五分だから、それに、制限も色々あるから気を付けてねー」

「制限?教えてくれ」

「んーまあ良いよ、これはね現実改変と言っても、元々物はそこにあったとかしか出来ないんだよね、たとえば死にそうになったけど、立場が逆になるとかはないんだよね、だから次のゲームで負けても、死は回避出来ないよ。

 まあ、細かい事は自分で調べてね。それじゃあね」

 と、元気良く笑って、どこかへと消えた。



 俺は、あの時の事を思い出して、笑った。

「あー、今度は他の人でも試したいな」

 すると、ドアがノックされた。

「誰?」

「黒崎だよ、黒雨君」

 俺はベットから立ち上がり、ドアを開けた。

「どうぞ」

「ありがと」

 黒崎は、遠慮なくベットに座った。

 俺は、椅子に座る。

「何の用?」

「用がないと、会ったら駄目なの?」

 俺は、ため息を吐いた。

「別に良いけど、怪しまれる行動は避けてくれる?黒崎さん」

「あのさ、その黒崎じゃなくて奏で、呼んでくれない?あと、時って呼んで良い?」

「別に良いけど、何の意味があるの?」

「ほら、二人で死線を潜り抜けて来たのに、さん付けだと不自然じゃない?

 それに、下の名前で呼ぶと仲良いって思われて、一緒の部屋に入っても怪しまれにくでしょう?」

 俺は、少し悩んで、頷いた。

「それで用は終わった?」

「あの、その眠れなくてさ、一緒に寝て良い?」

「はあ?何で?」

 意味が分からない。

「お願い、時君」

「はあ、分かった良いよ、じゃあ着替えるから、出て行って」

 俺は、黒崎を外に追いやって、新しく設置された、クローゼットから、適当に楽な服を取った。



「一緒に寝る、やった」

 私は、この喜びを噛み締めて、寝巻き姿へと着替えた。



「来たね、じゃあ僕はこの椅子で座って、寝るから、ベットで寝な」

「え?一緒に寝ようよ、ほらせっかく枕持ってきたし」

 面倒くさい。

「嫌だよ、狭いじゃん」

「隣で寝てくれないと、寝れないと言いますか、寝て欲しいというか」

 僕は、大きくため息を吐いた。

「分かったよ」

 その時、黒崎は笑った。

「ありがと」

 黒崎は、枕をベットの左側に置き、ベットの右側を手で叩いた。

「仕方ないな」

 僕は、ベットに倒れ、布団の中に入る。

「やっぱり狭い」

「そうだね」

 そう言って、黒崎は笑った。

「奏、やっぱり、僕椅子で寝た方が良くない?」

「うーん駄目。

 それと、私と二人きりの時は、そういう風にしなくて良いよ。私は下僕でしょ?」

「え?」

 と、僕が思わず声を洩らした。

「だーかーら、自分を作らなくて良いよって言ってるの」

 その時の、笑顔に俺は、今まで感じた事のない、感情を抱いた。

「分かったよ、奏」

 奏は、一層嬉しそうに笑った。

「良かった」

「で?いつになったら寝るんだ?」

「時君が、寝たらかな?」

 俺は、ため息を吐いた。

「分かったよ、寝るから奏も寝てくれ」

 その時、奏がウフフ、と笑った。



 俺が、目を覚ますと、真っ先に外に出た。

 外に出ると、長机の上に食事が用意されて、椅子が三脚用意されていた。

「美味しそうだな」

 そう呟いて、椅子に座って食事を口に運んだ。

「やっぱり、味は感じない」

「時君、起きたなら、起こしてよ」

 と、奏が俺の部屋から出てきた。

「そうか、起きたなら着替えろ」

 俺は、少し変な気分を覚えつつ、言った。

「もう、着替えてるよー」

 奏は、わざわざ食事と椅子を、俺の隣に置いた。

「何で、そんな面倒うな事するんだ?」

「別に良いでしょ?好きな様にさせてよ」

 俺は無視して、食事を口に運んだ。

「おっ、飯飯ー」

 と、ノリノリで、部屋から出てきた、金狼が椅子に座って食事にがっついた。

「はい、時君あーん」

 と、奏が、フォークで刺した熱々の肉を、僕の口まで運んだ。

「ありがとう、奏」

 僕は、熱々の肉を食べた。

「大丈夫だよー時君」

「ん!?お前達どうなってんだ?」

「どうって?普通でしょ、ね奏」

「そうだよ、普通だよ」

「いや、お前普通ってそんなのつ」

 その瞬間、奏が机を叩き大きく音を立てた。

「な、なんでもないですー」

 その時の、金狼の顔が面白かった。

「奏?どうしたの?」

「何でもないよ、時君」

 つ?つから始まって奏と僕の関係が、表せられる言葉があっただろうか?

 まあ、本人が何でもないと言っていたし、考えなくても良いだろう。

「それにしても、ここの料理美味しいな」

「そうだね、光狼君」

 僕は、先程味を感じないと言っておきながら、息をする様に嘘を吐いた。

「僕は、もう良いかな」

「もう良いの?じゃあ私も良いや」

 僕と、奏は一緒の部屋に入った。

「いや、あれ付き合ってるだろ。まさか、黒雨は自覚にないのか?」

 俺は、大きくため息を吐いて、食事を口に運んだ。



「三日が経った。休憩は終了だ、またゲームに参加してもらう、今回のゲームも人数が必要だ、なので合流してもらう」

 その時、モニターの下の壁が横にずれて。鏡の様に全く同じ所が現れた。違うとするならば、人が長机一杯に座っていた事ぐらいだろう。

 数えてみると、十三人だった。

「あなた達が、このゲームの参加者ですか?」

「はい、そうです」

 すると、リーダーらしき少女が、怪訝そうな目で僕達を見つめた。

「何故三人のみなのですか?」

「ああ、他全員死んだからですよ」

 僕がそう言うと、モニターから声が聞こえた。

「ランキング上位三名を発表する、一位黒雨時七十四スコア、二位赤華紗奈せきばな さな五スコア、三位黒崎奏三スコア、この三名に逆らった者が居た場合は、即殺す。また他の者の順位は、ないものとする、今日はこれで過ごしてもらう」

「七十四!?一体どれだけの人を殺したの?」

「さあ、覚えてないよ」

 すると、辺りが騒ついた。化け物かよなどだ。面白い、そんな感情が当たり前の様に、芽生えた。

「ちょと、時君は一位なんだよ?そこら辺よく考えて行動してよ?」

「良いんだよ、奏、僕が人を殺し回ったのは、事実なんだから」

「でもー、まあ時君が言うならいっか」

 そんな事を僕達がしていると、長机の横から椅子が地面から上がってきた。

「さあ、座れ」

 と、モニターから声が聞こえたので、赤華達は椅子に座った。

「再度言うが、上位三名の命令は絶対だ」

「分かってるよ!」

 と、男が強気に言った。

「とりあえず、自己紹介しようか僕は、黒雨時、超能力は、身体強化だよ」

 その時、なるほどなどの声が、聞こえた。

「じゃあ次私、名前は黒崎奏、超能力は、透視」

 と、僕の右に座っている、奏が言った。

「じゃあ次は、僕ですかね?名前は、小林裕樹こばやし ゆうしと言います。超能力は、生成です、一度触れた物を生成出来ます」

 意外と順応が速い様だ。

「俺は、竜堂亜也りゅうどう あやだ、超能力は、瞬間移動」

「俺は、霧島直哉きりしま なおやです、超能力は、危機察知です」

「私は、白川絢音しらかわ あやねよ、超能力は、消去よ」

 その瞬間、俺は手元にあった、ナイフを白川の目に向けて、投げた。見事に目に刺さり、俺がフォークを素早く取って、机の上を飛んでもう片方の目に刺した。

「奏あれ取って来てくれないか?」

「分かったよ時君」

「何を、してるんですか!」

「何って、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!嘘吐きに罰を与えてる。信用できる者じゃないなら、苦しめて殺す、それが俺のやり方でね」

 全員の顔が、堪らなく面白い、最高だ!まだ始まったばっかりでこれなのか?。

「持ってきたよー」

「ありがとう」

 奏が持って来たのは、奏を痛め付けたナイフだった。

「それで何をするつもり?」

「何って、簡単だよ見せしめだよ、もし俺を裏切る奴が居た場合、こうなるという見せしめ」

「何で、楽しそうなの?」

 その時の顔が、今までの顔とは違い、またそれがまた良い味を出していた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!楽しそう?何言ってるんだ?楽しいんだよ!

 後命令ね、全員目を背けるな、目を一秒以上閉じるな連続して閉じるな、全員見える位置の地面に座ってそこを動くな、いいな?じゃあ始めよう、ショーの開演だ」

「嫌だ!助けて!」

 と、白川が逃げようとするが俺が、止める。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!逃げんなよ!これから始まんだよ!なあそうだろう?」

 俺は、白川髪を引っ張って腹を蹴った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だ、その表情もっと、もっと俺に見せてくれ!!」

 嗚咽して、白川は嘔吐した。

「な、何で?こ、こんな事を?」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!何で?簡単だよ、白川が嘘を付いた、それ以外に理由があるか?」

「嘘なんて付いてない!」

 俺は、左手で口元を覆った。

「付いてない、そうか一つ教えてやろう、俺の本当の超能力は、相手の超能力が分かるだ」

 その時の、白川顔はとても面白かった。

「嫌だ、死にたくない!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!死にたくないだって?残念白川お前は死ぬんだ」

 その時、座ってる所から何かが聞こえた。

「おい小林、それが何を意味するか、分かるよな?」

「ええ、でも生憎仲間を見捨てる程薄情じゃないんですよ」

「仲間?違うだろう?小林、お前は白川の事好きだったんだろ?」

 丁度、アサルトライフル生成された様だ。

「そんな事言ってないで、終わりですよ、あなたは」

「終わり?いつ俺が終わるってんだ?」

 その瞬間、アサルトライフルのトリガー押された、と思われたのは、実際はアサルトライフルではなく、俺が常に腰に携えていた、ピストルだった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 お前らどうした?そんな急に顔を暗くして、たった一人死んだだけじゃないか、お前達が殺した人数の方がよっぽど多いだろう?さあ、ショーの続きだ」

 俺は、白川の嘔吐物なんて気にせず近付いて、指を斬り落とした。

「あああ※あ※あああああ※ああああ!!」

「おいおい、たった一本だぞ?どれだけ痛みに慣れてないんだ?後九本あるからな?

 ハハハハハハハハハハハハ!!」


 そんな最高の時間は、約二十分に及んだ。

「さあ、自己紹介の続きだ、座れ」



「どうするんだ?赤華?」

 集まっているのは、赤華の部屋だった。

「それを今考えてるのよ」

「殺す?どうする?」

「でも、勝てるの?」

 沈黙が流れた。

「明日何か発表があるかも知れない、一旦様子見ね」

「殺さないのか!あんな奴放っておくつもりか?」

 と、竜堂が机を叩いた。

「黙って!分かってるわよ!そんくらい!」

 そのまま沈黙が流れた。



 全員椅子に、座った所で、モニターに白色の画面が映った。

「さて、一日目はどうだった?最高だったろう?」

「っざけんなよ!あんなのが最高だって?地獄だろ!」

 竜堂が、机を勢いよく叩いて立ち上がった。

「黙って」

 僕の一言で、竜堂黙り込んだ。

「そこで、更なるルールを追加しよう。生き残れるのは、上位三名のみにする、そしてその上位三名に食い込む為には、上位三名の内一人を殺す事だ。

 だが、一つ例外を作る事にする。人を二人殺した者は、生き残る事が出来る。

 そして、死体を発見された場合、話し合いが始まる。

 話し合いが終わった頃に多数決で投票する、投票された者は死ぬ。

 もし投票を間違えてしまったら、間違えた者全員死ぬ、もし多数決で犯人を殺せたのであれば、一番活躍した者は生き残れる様になる。

 なお話し合い時は、上位三名の命令は機能しない。簡単だろ?期間は二週間だ」

 雰囲気が、どっと重くなった。

「さあ、どうする?黒雨」

「どうするって、光狼君一つしかないでしょ?このまま、二週間終わるのを待つ。それだけ何か問題がある?」

「いや、ないな」

「はあ?俺達に死ねと?」

 と、言って竜堂が椅子から、立ち上がった。

「そうだね」

「ふざけんないで!」

 と、言って村上むらかみが椅子から立ち上がった。

「ふざけんないで?ふざけてないさ、殺したきゃ殺せば良い、それに誰の所為でこうなっている?考えてみろ、全て君達の実力不足違う?」

 これには何も言い返せずに、黙り込んだ。

「まあ、良いさ僕は寝る、僕を殺しにくる?それでも良いけど、僕は殺さずここに居る、全員を無力化する、自信があるよ、それでも良いなら殺しに来なよ」

 そう言って、僕は、自分の部屋に入った。

 まったく、顔が面白すぎる。

「待ってー私も」



 黒雨達が居なくなった、今この空間にあるのは、静寂だけだった。

 しばらくして、赤華が口を開いた。

「私達で誰か生き残るか、議論しない?」

「それで?俺みたいな人に害しかなさない奴は、死ねと?ハッ笑える、そんな事を、するなら人を殺した方がまだマシだな!」

 と、言って竜堂が、長机に足を乗せた。

 沈黙が訪れた。

「あの、公平にじゃんけんとかで決めませんか?」

 と、言ったのは確か、清水清子きよみず せいこだったか。

「はあ?それはお前が有利だろ、お前の超能力幸運がよ!」

「でも、それ以外にあるんですか?」

「はあ?それを今から探すんだよ、自分の土俵に上げようとすんな」

 またもや、沈黙が訪れた。

「ああ、気分悪い、俺はもう寝る!」

 そう言って、竜堂は足早に部屋に戻った。

「とりあえず、今回はここまでにしましょう?」

 その時、モニターから白色の画面が現れた。

「一つヒントをやろう、部屋は一種類ではない」

 その言葉を最後にモニターから、映像が無くなった。映っているのは、重い空気漂わせた十一人だけだった。

「明日は、探索しましょ?」



「あった……中に入ってみよう」



 一人死んだ、名前は確か、明蘭向日葵めいらん ひまりだった。

「話し合いの時間は一日だ、どこを探索しようが、しまいが自由だ」

「誰がやった?」

「そんなので、出る訳がないだろう?」

 その時清水が、竜堂を指した。

「竜堂さんが、怪しいと思います」

「はあ?何言い掛かり付けてんだよ、する訳ないだろ!」

「だって、竜堂さん以外やりそうな人居ないでしょ?」

 竜堂が、机を大きな音を立てて、叩いた。

「はあ?ふざけんじゃねぇよ!そう言うお前がやったんじゃねえのかよ!」

「私はやってません」

 竜堂が、鼻で笑った。

「ハッ証拠は?それとも、私ならこの前の議論で必ず生き残れたので、やるませんよってか?ハハ、気色悪いな!」

「そんな事、私一言も言ってないじゃないですか!」

 正直面白いが、長引くと面倒なだけなので止める。

「静かにして、まず凶器は?刺され方は?部屋は見た?誰の服にも、血は付いていなかった?まずはそこからじゃない?」

 僕の一言で二人共大人しくなった。

 それにしても、さっきの醜い争いは、少し面白かった。

「とりあえず、全員の部屋を調べる。男達の部屋は男達で調べる、女子達の部屋は女子で調べてくれる?」

 そう僕が言った後、初めに黒雨の部屋を調べる事になった。


「クローゼットもしっかりと、入念に調べてよ机の中もベットの下も隅々までね」

 僕以外が、血眼になって探した。

「何もない」

「そっか、じゃあ次だね」

 次の部屋は、光狼のだ。

 部屋は、汚かった。汚いと言っても、服や武器が床に置いてあるだけだ。

 僕と比べて汚いと言うだけだ。

 と、言っても、綺麗にバラバラなので、歩く場所があまりない。

「汚いな」

「うっせ」

 僕が、クローゼットを開ける。そこには、赤く染まったナイフがあった。

「ここに血が付いたナイフがあるね。なんで?」

 そう言って、僕が、ナイフを見せる。

「は?」

「まさか、光狼やったのか?」

「やってねえよ!」

「待って、僕は光狼君が犯人とは言ってないよ。犯人だとしたらおかしい点がある。

 何故ナイフがここにある?そして、もう一つ、置き方が雑過ぎる。たとえ、この部屋に隠すとしても、もっと隠す場所ある、最後にこれが、わざとだとしても、やる必要がないでしよ?」

 僕が、そう言うと、沈黙が流れた。

「さて、ここで問題だよ、ナイフで人を斬った場合服はどうなる?」

 その時、林田はやしだが「あっ!」と声を上げた。

「返り血が掛かる!」

「その通り、さてここに血が掛かった服はある?ここにあるのは全部で十四着、僕の服も全部で十四着だった。そして、ここに血の掛かった服はない、これがどういう意味か分かるよね?」

「ほら、俺やってねえじゃん!」

 光狼以外全員、黙って頷いた。

「分かってくれて良かった、じゃあ次はここにどう入ったかだね?さて、この家?と言うか部屋?には不思議な点がある、さあ、何だ?」

 全員が唸った。

「一度外に出て、壁を見る事をお勧めするよ」

 そう僕が言うと、全員外に出た。


「何か、変か?」

「そうか!部屋の上に謎の空間があるんだ!」

 そう、言ったのは、南道渚なんどうだった。

「上?」

「ああ、そうだよ!ほら見ろよ!さっきの天井と、明らかに高さが違う。あの空間何かあるのは間違いない!」

「正解、でも僕達は、入り口を知らない」

「それを、今から俺の部屋で探すんだな?」

 僕は、頷いて、部屋に戻った。



「凄いなあ」

「なんだあ?かっこいいとでも、思ってんのか?忘れんなよ、昨日の事」

「分かってるよ」と南道が、小さく呟いた。



 全員、部屋に入った頃には、光狼が見つけていた。

 天井を、上に押す事で開いた。

「意外と早かったなあ」

「まさか、机直ぐ上だとは、とりあえず入るか」

 一人一人入って行く。

 部屋は暗く、埃ぽかった。武器が沢山あった。そこに、ナイフは、もちろん、あった。ナイフの数は、十本だった。

「それで?どうすんだ?」

「恐らく、この部屋から明蘭さんの部屋に行ったと思う、とりあえず、行ってみよう」

 そのまま、明蘭の部屋に行った。道中に、竜堂、時中ときなかの部屋を通った。

「どうやらこれを、引き上げたら明蘭さんの部屋に行けるみたいだね」

 そこには、取っ手の様な物が床に付いてあった。

「そう言えばさ、何で犯人は血の付いた服を、光狼の部屋に置かなかったんだ?

「簡単だよ、犯人はその日に着てた服に血付いてしまったからだよ、きっとこの部屋を見つけた時に舞い上がって、返り血の事忘れていたのだろうね」

 そう言って、僕は、取っ手を引っ張った。

 血の様な物が微かに見えた。

「やっぱりね、ここは明蘭さんの部屋だ」

「この後どうすんだ?」

 と、光狼が言うと僕が淡々と話す。

「簡単だよ、血の付いた服を探す」


 そうして見つかった部屋は、竜堂の部屋だった。

「やっぱり、竜堂さんじゃないですか!」

「だから!知らねえって!」

 やはり、この二人の顔は面白い。言葉も感情も全て面白い。

「落ち着いて僕は、血の付いた服が竜堂君の部屋から出てきたと、言ってるだけです」

「はあ?それが一番の証拠でしょ?黒雨」

 と、強気に言うのは、時中だ。その必死さときたら、笑えてくる。

「確かに、血の付いていたのは竜堂君の、ブレザーからだった。そのブレザーに付いていたのは、どこ?」

「背中?」

「そうだね、って事は犯人はこう着た訳だ」

 そう言って、黒雨は左腕を入れる所に、右腕を入れて、逆に右腕を入れる所には、左腕を入れた。

「さて、ここで問題だ、竜堂君の超能力は?」

「俺の、超能力は瞬間移動だ」

「そうだね、何故わざわざ瞬間移動で移動できるのに、他の人の服を取りに行かなかった?それに、そこまで頭が回るなら誰でも、服を取りに行くだろう?それに取りに行かないならわざわざこうする必要はない筈だ。

 つまり、竜堂君が馬鹿でない限り犯人ではない可能性が高い」

「でもそれを見越してするかも、知れないですね?」

「そうだね、でももう一つ、思う所がある、もし竜堂君が犯人であるとしたら、何故わざわざ、明蘭さんを狙った?赤華さんを狙ったら、竜堂ならもし起きていても、殺せるし逃げれもする。

 わざわざ、そこまで強くない明蘭さんを、狙う必要があった?それに明蘭さんより明らかに赤華の方が厄介でしょ?」

「つまり?」

 と、赤華が、口にした。

「つまり明蘭さんとかを狙わないと、殺せる確証がない人しか居ないんだよ、つまり女子達の可能性が大いに高い、そして黒崎は外で、誰かが出て来るかを監視してたから、違う、そして赤華さんは殺す理由がない、君達三名に絞られる」

「いや、男子達にも居るでしょ?」

「そうだね、でもそれはないと思うよ、だって、明蘭さんじゃないと勝てない人は、林田君しか居ない、でも無理なんだよ、林田君は南道君と一緒に居たらしいからね。

 もちろん、協力者の可能性はある、だけどこのゲームで協力者なんて居た場合、直ぐ裏切った方が良いんだよ。だってそうしたら、必ず生き残れるからね、でもそれをしないって事は、協力者は居ないって、考えるのが普通だよ。

 何か異論はある?」

 答えは返ってこなかった。

「よし、じゃあ証拠集めだね」


「黒雨、なんか、ありがとな」

「別に、僕は犯人を突き止めようとしてるだけだよ」

 とりあえず、村上の部屋に入ることになった。

「黒雨君以外入っちゃ駄目だから!」

 と、言って、時中がドアを思いっ切り閉めた。


「清水さん、超能力幸運だよね?」

「う、うん、それがどうかした?」

「一つ聞きたいんだけど、幸運の効果は?」

 その時、清水が困惑した顔を見せた。

「えっと、細かい事は分からないけど、運が良くなるって物だよ。例えば相手の銃弾が、致命傷になりにくくなったり、ジャンケンが勝ちやすかったりだよ」

 それにしても、この怯え具合面白い。その所為で内容があまり頭に、入ってこなかった。

「ハハハ、そっか」

「何で笑ってるの?時君」

「ああ、なんか反応面白いなって、それより誰か、入れなかった?」

「えっと、みんな入れたよ」

「そうか」と、黒雨が言って、机に登ってまるで壊れていた様なギィと大きな音を立ててから、天井の扉を開いた。

 黒雨は、辺りを見渡して「やっぱり」と、呟いた。

「犯人が、分かったよみんなを集めて」


「犯人が分かったって、マジか?」

 と、竜堂が嬉しそうに言った。

「犯人候補は、清水さん、村上さん、時中さんだね?」

「ああ、そうだな」

「そして、犯人は、君だ、村上南むらかみ みなみさん」

 俺は、笑っていたと思う。

「そ、そんな私じゃない!」

「村上さんを、犯人だと思ったのは、まず一つ目、今回話し合い全く喋っていなかった事、そしてもう一つは、清水さん、時中さんの、上にあるナイフが、十本全てあったし、動かされた痕跡はなかった。村上の部屋にはナイフが一本なかった。竜堂君他の部屋はどうだった?」

「あったし、動かされた痕跡はなかった」

「って事は」

 全員村上の方へと向いた。

「知らない!私はやってない!」

 その時、いつもの様に笑いが込み上げてきた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!その顔最高だよ!村上!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!馬鹿だなあ?わざわざ、自分のナイフを使うなんてさ!どうせ竜堂を、犯人に仕立てようとしたんだろうが、甘いなあ?秘密の部屋がバレないと思ったか!」

「私の、ナイフを誰かが取ったかも知れないでしょ!」

 焦っているのが、バレバレだった。

「いや、それはない!今から、村上が犯人だという決定的な証拠を伝えよう!

 音だ!村上の机だけ、音が酷く大きかったんだよ!」

 その時、村上の顔が曇った。

「つまり、壊れていたんだよ!机がよ!壊れた理由は一つ!

 上の部屋から出る時に、机の上に飛び降りたからだ!そして、他の部屋のどれも音は鳴らなかった!

 これ以上の証拠が必要か?」

 その時の、村上の顔は今にも泣きそうだった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 もっと言い返してみろよ!その今にも泣きそうな顔でなあ?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「だって!生き残りたいじゃん!何が悪いのよ!!黒雨だって殺したじゃん!!」

 と、開き直って怒鳴った。

「悪い?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!俺は悪い何て一言も言ってないだろう?それに良かったよ!自分から吐いてくれて!村上が机を叩いたとか、言えばもう一度調査しないといけなかったんだがなあ?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ありがとよ!!」

「えっ?なにを言って」

 どうやら、頭が回っていなかった様だ。

「言葉通りでしょ?村上ちゃんが自分が吐いてくれたから、もう調査しなくて済んだって、ね?時君」

「ああ、その通りだ!!全く助かったよ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 村上が、椅子事倒れた。

 黒雨は、ナイフを村上の前まで投げた。

「さあ、ショーの時間だ!!」

「い、嫌だ!!」

 村上が、逃げようとするが、もちろん、追いつかれる。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 逃げんなよ!!この明蘭を殺したナイフでやってやるからよ!」

「た、助けて!!何でもするから!」

「何でも?本当か?」

「うん、この体を好きにして良いから!」

「そうか、なら!そこに座ってじっとしろ!」

 そう言って俺は、村上を壁に投げて思いっ切りぶつけた。

「さあ、オークションだこの中に、この馬鹿を欲しい奴は居るか?」

 その時、林田の手が申し訳なさそうに上がった。

「他は?居ないな?」

「は?林田?キモ過ぎ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 おいおい、助けてくれたかもしれないじゃないか?管理者!提案がある林田が、欲しいと思った物をお届けするのどうだ?」

「分かった、許可しよう。投票まで残り十四時間だ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 良かったなあ?林田、この体を好きすると良いさ!!」

「い、嫌だ!」

 と、村上は体を小刻みに揺らす。

 その村上に、林田が近づいた。

「手錠四つ下さい!」

 その時、天井から手錠と鍵が四づつ降ってきた。

「嫌だ!辞めて!」

 俺は、村上の襟掴んでから、無力化した。

「さあ、林田その手錠を持ってくるんだ。それとも、村上を気絶させるか?」

「嫌だ!誰か!紗奈助けて!」

「気絶させてくれる?」

「分かった」

 俺は、村上の首を絞めた。

「な、何をやってるの?」

「何って気絶させてんだよ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 その苦しそうな顔もっと見せてくれよ!」

 最高だ!

 その時、林田は、今まで見た事ないほど笑顔になっていた。

「あ、く、苦しいあつ、ああ」

 その後、村上は気を失った。

「さあ、持ってけ」

「ありがとう」

 そのまま、自分の部屋に連れて行った。

「時君、一瞬時君がするのかと思ったよ」

「まあ、面白い顔見れたし、村上とはやりたくないしな」

「そっか、良かった」


 その夜に、林田の部屋に男子が数名入ったとか、入ってないとか。



「その本どこにあったの?」

「ああ、この人間失格?机の引き出しの中にあった」

「私の部屋には、なかったなー」

 俺は、奏を無視して、本を読み進めた。

 部屋には、本を読み進める音だけが残った。

「奏、まだ一人で寝れないのか?」

 奏は、頷いた。

「なんで?」

 俺が、そう訊くと不思議そうな顔を浮かべた。

「えっ、あんな地獄味わったら寝れないよ」

「その、味わせた張本人と寝てるのに?」

「そうだね」

「ふざけてるでしょ、ってか下僕でしょ?なら命令だから、部屋に戻って」

「えー?女の子がせっかく、時君の部屋にこんな無防備な姿で、座ってるんだよ?それで戻んないと駄目?」

 と、奏はそう言って、俺に近付いた。

「戻れ」

 その後、明らかに機嫌を悪くして、戻った。

 少し経って、本の一文を見つめる。

「人間、失格か」

 俺は、本を閉じてしまった。

廢人はいじんの烙印ねえ」

 黒雨は、自分の額に手を当てた。

 その時、黒雨は乾いた笑い声で笑った。

「ハハハハハハ、他人にどう思われようが何だって良い、全て俺が楽しければそれで良い」

 かなり、気分が悪かった。



「投票の時間だ、全員部屋から出て、椅子に座れ」

 俺が、部屋に出ると、かなり際どい、メイド服を着た村上が居た。

「うわっ」

 と、声を上げたのは、桐ヶ谷きりがやだった。

 桐ヶ谷は、林田に耳元何かを言った。

 すると「もちろん」と、林田が自慢気に言った。

「全員揃ったな、投票開始だ、犯人だと思う人の椅子を指せ」

 全員が村上を指した。

「ハハ、まさかこんな、ゴミみたいな最後だとわね、林田死ね」

 最後に溜まってた物を、吐き出す様に言った。

「地獄でまた、奴隷として扱ってあげるよ」

「全員正解だ、よって、この話し合いで最も活躍した、黒雨時、お前の好きな様に村上茜むらかみ あかねを死なせろ」

「は?どういう事?」

 理解した時の村上の目が、顔が最高だった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 残念だな?せっかく林田の奴隷になったってのになあ?」

「や、辞めて!」

 俺は、村上に近付く。

「安心しろよ、俺もそんなに鬼畜じゃない」

「本当?」

 そのまま、座っている村上の肩に手を置いて、太ももにナイフを刺した。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!な訳ねえだろ?ばあーか!」

 ああ、最高だ。

「あああ※ああ※※※ああああああ!!」

「ぼ、僕の物に、傷を付けるな!」

 その時、林田が俺に襲いかかったが。俺が、投げたナイフが避けれず、目に刺さる。

「ああああ※あ※※ああああ※※※あ!!目が!目が僕の目が!!」

 その時、奏から長机の上から、ナイフを滑らせて貰う。

 そのまま、襟を掴んで引っ張るそのまま首に、ナイフを当てる。

「奏、こいつ押さえてくれ!」

「分かった、時君」

「少しでも、僕の物に触れてみろ!殺してやる!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!僕の物?笑えるなあ?お前の物なんてねえよ!ここに有るのは俺の玩具だけだ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 丁度奏が、来て林田を押さえつけた。

「さあ、続きといこうか、村上!」

「何なのよ!こんな格好してまで、逃れたのに!」

「良いなあ?その顔!もっと見せてくれよ!ハハハハハハ!!」

 俺が、刺した場所をもう一度刺して、ナイフをぐちゃぐちゃという肉を混ぜる音と共に回す。

「あああああ※※※ああ※※※あああ※ああ※※※あ※※※ああ※!!」

「辞めろ!!僕のだ!」

 最高だ!

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 最高じゃないか!その顔その声!林田、村上!お前達本当に最高だよ!!」

「……人間なのか?」

 と、言う声が、どこから聞こえた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!どうだって良い!俺が楽しければそれで!」



 そんな、最高な時間は過激にし過ぎた為、たった十分で終わった。

「それでは、処刑は終わった、黒雨が上位三名に入ってる為、誰か一人指名して二週間終わった後に上位三名以外で、生き残る奴を選ばられる」

 その瞬間、全員の目が変わった。

「ハハッぼ、僕の物が」

 と、泣きながら、林田が村上の死体に抱き付いた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!そうだね、なくなっちゃたね?残念だったねえ?」

「黒雨ええ!!」

 その時、またもや林田の片目にナイフを刺した。

「あああ※あ※ああ※※あ※※ああ!!前が!見えない!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!お前は!目が見えないまま、一生を過ごすんだな!」

 その瞬間、八名の人が俺の元に集まった。

「俺を、選ぶよな?な?」

「私ですよね?ね?」

「いや、俺だ!」

「いや、私よ!」

「残念、お前達全員選ばねえよ!俺が選ぶのは、竜堂お前だ」

 俺は、竜堂を指した。

「は?俺?よっしゃ!!」

「ただし、条件がある」

「条件?」

「ああ、簡単だ、こいつら引き剥がしてくれ」

「黒雨、考え直せよな?な?頼むって」

 しかし、そんなのが、俺の耳に入る訳がなかった。

「んじゃ、そういう訳だから、奏もう行こう」

「分かった、時君」

 そのまま、部屋に戻った。

「お前達良い加減諦めろ!」

 と、言って竜堂が八人を引き止めた。



「奏、生き返るまでの時間は、自分で調整出来るか?」

「出来るよ、時君私が時君から逃げようとした時も、そうしたもん」

 俺は、笑った。

「そうか、なら死んでくれ」

「え?」



「何で、竜堂なんだよ!糞が!」

「一つ提案があるんだ」

「聞いてやるよ」

 顔を耳元まで持っていく。

「……」

「やるのか?」

「ああ、じゃないと生き残れない」



 

 僕は、また人間失格を読んでいた。

「太宰治は、どんな気持ちでこれを書いたのだろうか、確か他の作品を書いてる最中に死んだんだっけ、……人間、失格か。

 心中だっけ?不思議だなあ、共感なんて、僕には、出来ないのに。納得してる自分が居る。

 太宰治は、覚えて欲しかったのかな?自分という人が居た事を、自分の人生を、覚えて欲しかったのかな?

 よく人間失格には、太宰治の人生が書かれているって、よく耳にするしなあ」

 僕は、天井を仰いだ。

「もし、僕ならどうしただろうか」

 人間、失格、このたった四文字でここまで、悩む人が、僕以外に居るだろうか。

「いや、居るか、それほどこの作品は人をどうにかさせる、何かがある。それこそ、僕の人生で欠かせない物なのだから。

 まあ、そんな奴がこんな事してんだけどな」

 俺は、ため息を吐いた。

「もし、僕がこの主人公と同じ時代に、生きていれば、何て声を掛けるだろうか。やっぱり、そこまで悩むのだから、あなたは人間失格ではないと、言うだろうか。

 ……きっとこのたった一冊では収めきれないほど、辛い思いをしてきた、そんな人にそう言って何になる?それに、僕は人を苦しんでる所を楽しんでるだぞ?どこに言う資格あるんだ?

 何故、この辛く、苦しい人間失格という物語は笑えないんだ?あれほど、苦しそうな顔や声、は笑えるのに、自分で殺して、殺させて笑ってるのに、本当に訳が分からない」

 僕は、ため息を吐いた。

「もしかしたら、僕は、いや」

 もう、疲れた。自分を偽るのはもう辞めよう。それに、ここは俺の世界だ、偽る理由もない。

「俺は後書きの所為で、笑えないのだ。あれが主人公を救っている様に感じるからだ」

 俺ががやってる事は、世間では悪と言うのだろう。

 俺は、人間失格をしまい、目を瞑って、そのまま寝た。



「今、二つの死体が発見された、さあ話し合いの始まりだ」

「黒雨、死んだのは桐ヶ谷と南道だ、死体は上の部屋で発見された」

「分かった、俺に任せろ、竜堂、殺され方は?」

「黒雨?なんか変わったか?」

 俺は、奏と合流した。

「時君?何か、変わった?」

 奏は、ジーパンにTシャツを着ていた。

「どうだっていい、それより付いてきてくれ」

 俺は、奏の右手を掴んで、奏の部屋に入った。

「場所は?」

 俺は、机に乗って上の部屋に入る。

「霧島の部屋の上だ、殺され方は射殺だ」

 奏が、上の部屋に入った。その次に、竜堂が持ち前の運動神経で楽々と入った。

「恐らく、上の部屋のサプレッサー付きピストル使ったな」

 とりあえず、死体を見る事にした。

 俺は、足を曲げて、しゃがんだ。

「頭に一発か、竜堂ここまで正確に撃てる奴は誰だ?」

「えっと、サバゲー好きの霧島と、慣れるのが早かった赤華かな?」

「つまり、容疑者は俺と、赤華、霧島の三人だな」

 俺は、近くにあったサプレッサー付きピストルを手に取って、適当な所に撃つ。

「これは、いつ撃ったか誰も分からないのも、無理はないな。それより、二人は何故ここで死んでるんだ?分かるか?竜堂」

「ああ、俺も不思議に思ったんだけど、分かんねえんだよな」

「霧島と、赤華の超能力は何だ?」

「えっと、確か霧島が危機察知で、赤華が身体強化だっけ?」

「そうだ、でここは誰と誰との部屋が近い?」

「霧島と赤華?」

「何故、二人組で行動してると思う?」

「えっ?そんなの協力してるからじゃ」

「そうだ、だが、俺は、この前言ったはずだ、協力するのは得策ではないと、にも関わらず二人組で居るという事は、何か強敵を仕留めようとして、そして負けた。そして二人は恐らく赤華と奏を殺そうとしていたのだろう。

 そうしたら、バレるリスクが少なく済むからね、にも関わらずここで死んでいる。という事は?」

「入る前に死んだ?」

「そうだ、何故入る前に死んだと思う?」

「分かんねえ」

「誰かを、殺そうとしていた人が居た、だからだよね?時君」

 俺は頷く。

「そうだ、つまりその犯人は、何か危機を迫っていた事になる。危機を察知出来て、尚且つこいつらをたった二発で、仕留められる者は?」

「そうか!丁度二人だから他に犠牲がなかったつまり、霧島か!」

「と、大体の人は思う様に、仕掛けられている様にも見える」

 俺は、ピストルを取り出して竜堂に投げた。

 竜堂が慌てて、キャッチした。

「何?これ」

「弾の残数を確認しろ、見た事のないモデルだが、この前見たから分かる、装弾数は十発だ」

 竜堂が、マガジンの残弾数を確認する。

「あれ?六発しかないぞ?」

 俺は、受けっとってピストルを一発撃つ。

「つまり、これが凶器だろうと、推測出来るな?」

「そんなの、分かりきってた事じゃないか」

「清水の、超能力は?」

 淡々と、進める俺に困惑しつつも、ちゃんと竜堂は答えた。意外と有能だ。

「えっと、再現?」

「再現とは、一体どういう超能力だ?」

「えっと、一度見た動きを可能な限り再現する?」

「そうだな、じゃあ清水の部屋は?」

「えっ?ここの二つ隣?」

「清水と仲良い人は?」

「確か、時中、村上だった気がするけど、あ、明蘭とも仲良かったかな」

「そうか、大体全容が掴めてきた」

 俺は、立ち上がった。

「多分、もうそろそろ次の犠牲者が出るな」

「キヤーーー」

 と、言う悲鳴が聞こえた。

「何だ!」

「多分林田が、無惨な姿で死んでるよ」

「林田君が?何で分かるの?時君」

 と、奏が不思議そうな顔を浮かべた。

「まあ、とりあえず行くぞ、間違えてるかもしれないだろう?」



 俺の思った通り、林田が俺が今までやってきたどれよりも、無惨だった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 まさか、ここまでなんてな!ここまで無惨な姿になる物か?きっと死んだ後も切り刻まれたんだろうな!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 俺は、思い切っり笑ってしまった。何故か?簡単だ、ナイフの傷一つ一つに、恨みと悲しみが表れていたからだ。

 恐らく前半は恨みで強く、深く、荒く痛めつけていたのだろう。だが、後半から悲しみで、あまり深くなく、力も弱まっていたのだろう。

 それがどうしようもないほど面白いのだ。

「恨みを、結構買われてるなあ、そして恨まれた理由は恐らく、村上の件だろう。しかし、恨まれたな」

「これを、発見したのは?」

「赤華だ」

 赤華?あんな声が出るのか。

「とりあえず、今どこに居る?」

「今は、確か自分の部屋で清水、時中と居ると思うけど」

「霧島は?」

「あーどこ行ってんだろうな?」

「とりあえず、全員来させろ、全員から話を聞く」



「光狼さっきどこに居た?」

「どこって、自分の部屋だが?どうせ黒雨が解決してくれるだろって、思って」

「霧島は?」

「え?いや、部屋で寝てたけど」

「赤華、時中、清水お前達は?」

「私達は、死体を見つけた後、気分が良くなかったので、赤華さんを慰めてました」

「そうか、何故、死体が発見された時全員ここに集まらなかった?」

「いや、だってどうせ黒雨が解決するだろ?」

「うん、私も思った」

 と、時中が、頷いた。

「なら、何故、赤華さん、林田の部屋に行った?あいつの部屋に行く理由はない筈だ」

「いつまでも、出てこないから、心配になっただけよ」

「本当にそうか?たった数十時間出てこないだけでか?尚且つ、事件が発生している中で?それに、あんな顔を見せたんだぞ?出てこなくて当然だろう?」

 俺は、あの時の顔を思い出して、少し笑った。

「それでも、目が見えないのよ?誰かさんの所為で、何かあるかもしれないじゃない」

「そうか、まあどちらにせよ、容疑者である事には変わらない」

「はあ?私がやる理由が、どこにあるのよ」

「あるに決まってるだろう?復讐いや、憂さ晴らしと言った方が、正しいか」

 その時、時中が長机を叩いて立ち上がった。

「紗奈が、そんな事する訳ない!」

「ハハハ、必死だなあ?憂さ晴らしだと言われるのが、嫌だったか?」

「何よ!私がやったって言いたいの?」

「そんな事一言も言ってないだろう?」

 俺は、椅子から立ち上がった。

「竜堂、奏、三人で話したい」

「分かったよ時君」

「はいよ」

 三人引き連れて、部屋に戻った。



「それで?黒雨犯人は分かったか?」

「候補は、光狼、赤華、時中、清水だ」

「あれ?霧島君は?」

「多分違う、もし霧島がやったのだとしたら、おかしい点がある、もし桐ヶ谷達が赤華を殺そうとしていたら、桐ヶ谷か、南道の部屋から殺しに行く訳だ、その両方の部屋は、赤華の部屋に入る為に、霧島の部屋を通るその上でだ、死体は霧島の部屋の上だった。そして、赤華の部屋は一番端だ。

 つまり、霧島は、赤華を殺そうとしていた時に、偶然鉢合わせなければ無理な訳だ。隠れて鉢合わせず殺せたと思うかもしれないが、殺そうとしてるんだぞ?辺りを警戒しない訳がない。

 そこでもし鉢合わせたとしよう。だが、よく考えろ、二対一だぞ?どこかしらは、怪我をしないとおかしいだろ?使用されたピストルでは、トリガーを二回押さなければ、いけなかったんだぞ?

 そして、もう一つ、桐ヶ谷、南道が鉢合わせたとして、桐ヶ谷達はどうする?」

「どうするって、殺すんじゃないか?」

「違う、霧島はサバゲー好きで銃の扱いに長けていたんだろう?桐ヶ谷、南道は裏切って、霧島と一緒に赤華を殺すに決まってるだとしたら、二人撃たれるのはおかしい」

「もし、霧島が協力の願いを無視したら?」

「それはない、それだったら他の人が死んでる筈だ」

「いや、林田死んでただろ」

「それはない、あそこまでやる理由がない、それにわざとだとしても、わざとにしてはリアル過ぎる、それにもう一人殺されてる筈だ」

「じゃあ、光狼は、あいつが一番やらなそうだけど」

「分からないからだ、証拠がないし、逆にやらないっていう証拠もない」

「なるほどな」

「私は、光狼君が一番怪しいと思うけどなあ」

「なんで?」

「光狼君は、結構自分が勝つ為には何でもするからね、何かしらの方法で私は二人を殺したんじゃないかなって、思うんだよね」

 俺は、もう一度死体を見る為に上の部屋に入った。


「また、見るのか?」

「ああ、少し気になった事がある」

 倒れ方的に、後ろから撃たれたのは確実。恐らく、こいつらを殺したのは、赤華か、光狼だ。

「待てよ、光狼は部屋に居たと言ってたな、何故だ?勝つ為なら何だってする筈だろ?何で外に出て居ないんだ?自分の部屋で何かをしていた?奏、竜堂、直ぐに、光狼の部屋へ向かうぞ」

「は?早くね?まだ、少ししか居ないぞ?」

「良いから、時君に従って」

 そのまま、光狼の部屋へと向かった。



「何の用だ?捜査は終わったのか?」

「いや、終わってない、これから光狼の部屋を調べる」

「ああ、確かに、部屋を誰も調べてないもんな」

 そんな事を言っている、光狼を横目に、ベットを調べ始める。

「透視でなんか見えるか?」

「えっと、あれ?ベットの中になんかある」

 俺は、ナイフを使って、ベットを切り開く。

「動くな、動いたらお前ら全員死ぬぜ」

 そう言った、光狼は手榴弾のピンに指を掛けていた。

「竜堂!こっちへ来い!瞬間移動だ!」

 俺達は、竜堂と直ぐに手を掴んで一緒に瞬間移動した。

 少しでも遅れていたら、死んでいただろう。

「あいつ、まじでピンを離しやがったぞ」

「でも、爆発起きてなくない?」

 そこで気付いて、直ぐに光狼の部屋へ駆け込んだ。

「やっぱり、不発か、光狼」

「ジョークだろう?ジョークお前達が、あんな風にするからだろ?」

 直ぐにベットを調べる。

「何もない?」

「は?何をした?光狼」

「何って?別に何もしてないさ、お前達が消えて少ししか、経ってないのにどうしろと?」

 俺は、無視して部屋を調べた。

「透視で何か見えるか?」

「何も見えない」

「さっき、どんな形だった?」

「こう、手のひらサイズで細長い形だったよ」

 と、言って奏は、長方形の様な形を両手を使って、表した。

 長方形で証拠になる物と言ったら。あれしかない。

「ボイスレコーダーか!」

「さあ、何だろうな?」

「どういう事?」

「そんなのは、後回しだ、確たる証拠が必要なんだ、直ぐに上の部屋に行くぞ!」

 急いで、上の部屋に入る。

 だが、人影は見えなかった。

「逃げられたか、全員集めろ」



「集まったか、奏こいつらの体に、あるか?」

「えー見ないと駄目?」

「当たり前だ」

 少し、いや、かなり嫌そうな顔を浮かべてから、奏は全員に目を通した。

「……ないね」

「そうか、俺と、奏は部屋を探す、全員動くな、動いたら竜堂瞬間移動で知らせろ、俺が無力化させる」

 俺達は、一番近い俺の部屋から調べた。



「あるか?」

「ないよ」

「そうか、なら手探りでも探そう」

 クローゼット、机、ベット、椅子、手当たり次第全ての所を探した。

「次は上の部屋だな」

 上の部屋に入って、また透視を使った。

「あるか?」

「ない」

 また、手探りで探す。

「待てよ、透視って、何か認識した物、もしくは生き物を視界から消すんだろ?」

「そうだよ」

「俺達は、今念の為に探してるんだろ?」

「そうだね」

「もしかしたら、場所が分かったかも知れない」

 その時、奏が嬉しそうに立ち上がった。

「本当に!?」

「ああ、ちょとあっち見ていてくれ」

 俺は、奏の背後を指で指した。

「分かった」

 俺は、そこら辺にあったアサルトライフルを、取ってマガジンを取って、奏に見えない様にアサルトライフルと重なる様に隠す。

「こっち見てくれ、問題だ、この裏に何がある?」

「え?何も無いけど」

「本当か?」

「え、うん」

 俺は、取ってあった、マガジンを見せる。

「え?あれ、おかしいな」

「つまりは、こういう事なんだよ、マガジンは、銃と一緒という認識で、分からなかったんだ、多分だから、この中の構造も弾の数も分からなかったんだ。中には何もないと、認識してしまっているから」

「つまり?」

「俺が、思うに、これを使われているなら、隠せる場所は、マガジンの中だ。恐らく元々ナイフやら何かを使って、マガジンを壊していたんだ」

「なら、何で光狼の部屋にあったの?」

「簡単だ、わざと見せて隠す事で、無くなったと勘違いさせる為だ」

「でも、壊せば良かったじゃないの?」

「多分、壊す事で、何か支障を来たすんだ、例えば、この後起こる事件の証拠とかさ」

「え?」

 奏は、さぞ驚いた顔を見せた。

「やり方は簡単だ、誰かが殺そうと言ってる所を録音、それで良いんだ、な?簡単だろ?上から取ったのかも知れないし、裏切ったのかも知れない、それは分からないけど重要な証拠だ」

「じゃあ、上の部屋の武器を全部集めて、透視する?」

「透視出来るのか?」

「多分、認識を変えたから」

「それは、助かるだけど、上の部屋は最後だ、先に全員の銃のマガジンを、調べる、俺の部屋のアサルトライフルを見るぞ」

 ピストルは、常備しているので、まずないだろう。



「黒雨、見つかったか?」

 俺は、首を横に振った。

「これから、見つける、もう少し待ってくれ」

 今は、俺の部屋を見終わった所だ。

 次は、奏の部屋だ。



「時君!あったよ!」

「分かった、見せてくれ」

 マガジンを受け取ると、そこには予想通りボイスレコーダーがあった。

「今、流してみよう、違うかも知れないからな」

 予想通りそこには、二種類あった。

 その内の一つを、再生する。

——なあ、光狼まじで手伝ってくれるんだよなあ?

——ああ、もちろんだ、で殺すのは赤華、黒崎で良いんだっけ?

——そうだよ、それにしてもお前にメリットないのによくやろうとする

——はは、俺よりお前達が生き残った方が良いからな。

——分かってんなあ、お前も、あの時居れば良かったのにな。

——あの時?

——どうせ分かってんだろ?村上の時だよ、俺達あの日、林田の部屋に居たんだよ。——その時に、ちょとな、最高の夜だったぜ。

——へえーそうなんだ、で?いつやる?

——そうだなあ、明日全員が寝静まる時にしよう。

——分かった。

 そこで、一つ目の音声は終わった。次に二つ目の音声を流す。

——清子せいこ大丈夫なの?私が黒崎を殺して、清子が二人殺すで。

——良いよ、奈緒美なおみちゃん二人で生き残る為にこれしかないから。

——でも、逆でも。

——ううん、これで良いのいや、これじゃないと駄目なの、私じゃないと駄目だから。ね?

——そこまで、言うなら良いけど、無理そうだったら言ってね。

——分かった、ありがとう。

 そこで二つ目の、音声が終わった。

「え?これってつまり」

「そうだ、犯人は光狼と、清水だ」



「聞いてもらった通り、犯人は光狼と、清水だ、なあ今どんな気持ちだよ!!わざと見つけさせて、壊された、もしくは無くなったと思わせる作戦が、仇となったなあ?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 だが、表情を変えたのは、清水だけだった。

「清子、どういう事?」

「奈緒美ちゃん、聞いてこ、これは」

「私の名前を呼ばないで!!あんたなんか、友達じゃない!!」

「わ、私だって!生きたいもん!!」

「それだったら、私と組めば良かったじゃん!!」

「だって、だって、林田をあんな風に出来ないじゃん、奈緒美ちゃんと組んだら」

 清水は、今にも泣きそうだった。

 面白い、それ以外に感想は浮かばなかった。

「それで?俺達がどっちを殺したんだ?」

 と、光狼が余裕そうに言った。

「簡単だ、林田以外光狼だろう?」

「何故、そう思う?違うかも知れないだろう?」

「簡単だよ、傷に感情が浮かび上がっていた、それを光狼が、出来る筈がない。もし光狼がやっていたら、清水が手伝う筈がない、自分でやりたいからな」

「なら、二人の内片方が清水がやったかも知れないだろう?」

「そんな訳ないだろ、だって光狼は、裏切ろうとしていたんだからな!これを、お前は証拠として、提示しようとしたんだろ?少しでも危険要素を消す為に。だが、甘かったな、お前とはここが違うんだよ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 俺は、自分の頭をトントンと音を立てて、叩いた。

 その時、やっと動揺が見えた。

「そんなの、憶測でしかないだろう?」

「そうだな?さあ、清水!お前を裏切ろうとしてた奴を取るか、友情を取るか、どっちかを選べ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!さあ、どっちだ!」

 清水が、顔を俯いて、光狼を指で指した。

「二人は、光狼さんがやりました」

「お前馬鹿か!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 よほど信頼されてないみたいだなあ?光狼!管理者!もう良いだろう?投票に移らないか?」

「そうだな、では投票だ桐ヶ谷納土きりがや のうどを殺したと思う奴の席を指せ」

 全員が、光狼を指した。

「次は南道渚なんどう なぎさ

 またもや、全員光狼を指した。

「最後だ、林田直人はやしだ なおと

 今度は、全員清水を指した。

「今回も活躍したのは、黒雨時、お前だ前回同様殺し方を、決めると良い」

 その瞬間、光狼が自分の首をナイフで斬った、清水も同様だった。

「生憎、地獄は受ける気は無い」

「あーあ、死んじゃうなあ管理者どうするんだ?」

「そのまま、死んでもらう、それでは黒雨時、今回、三回分ああ、二回余るのか、褒美として、欲しい物を二つ用意しよう」

「なら、全部その権利を奏に譲る、俺は要らない」

「そうか、なら欲しい物はなんだ?」

 少し奏が、困惑したが、直ぐに冷静になり答えた。

「なら、人間失格と、栞が欲しい」

「分かった」

 俺は、その言葉を、聞いて部屋に戻った。



「何で、人間失格を選んだんだ?」

「時君が、読んでたから」

「それだけ?」

 奏が頷いた。

「……奏、このゲーム俺達二人で勝つぞ」

「分かった、もし成功したらさ、時君はなんでも言う事一つだけ、聞いてね?」

「なんでも?なんでもは出来ない、出来る限りの事はするが」

「そう、時君らしい」

 そう言って、俺のベットの上で、本を読み始めた。

 俺は、人間失格を取って、タイトルを見続けた。

 人間失格、俺は、まさに人間失格なのかも知れない。主人公よりずっと、そもそも、俺からしたら、主人公は充分人間だ。

 俺は、死ぬべき存在なのだろうか。

 ふと、そんな事が頭によぎった。もし、自殺するなら、奏と一緒に死にたいなとも思った。

 あれだけ、苦しめて楽しんだ相手なのに。今だけは、奏を苦しめたくない。そう、思うのだ。

 これは、恋なのだろうか。

 違うか、こんなのは恋じゃない、唯一、自分を真正面から、受け止めてくれる相手だからだ。

 奏に対しての感情は、友情に近いだろう。もっとも、恋も、友情も、分からないが。

「奏」

「どうしたの?」

 俺は、奏の方へと向いた。

「ありがとう」

 奏は嬉しそうな、笑みを浮かべた。

「え?何それどうしたの?急に」

「なんとなく」

 俺は、また人間失格という文字を見つめた。

「……人間、失格も案外悪くないかもな」

 俺は、そう小さく呟いた。

「私も、ありがと」

 奏は、優しい声でそう言った。

「今日は、一緒に寝るか?」

「え!良いの?」

「良いよ、って言っても俺は、椅子で寝るけどな」

「ええーそれ一緒に寝るって言うの?」

「冗談だ」

 その時、奏は驚いた表情を浮かべた。

「時君が冗談なんて珍しいね」

「なんだ?変か?」

「いや、変じゃないよ」

 と言って、満面の笑みを見せた。

「ありがとう、枕取ってきたら?」

「そうだね、着替えもしないとね」

 そう言って、奏は栞を本に挟んで、外に出た。

「人間失格、俺は少しづつ人間に戻ってきてるかもな、今まで、ありがとうそして、これからもよろしく」

 俺は、優しくその存在を確かめる様に、触り、喋る筈のない、人間失格に話しかけた。

 かなりやばい奴だろう、だけど不思議と礼がしたくなった。

 やばい奴になったとしても。



「何、してんだ?黒雨」

 そこには、頭を撃たれた黒崎と、血の付いた服を着て、ピストルを持ってる黒雨が居た。

「さあ、話し合いの時間だ、竜堂」

「黒雨!何でこんな事を!」

「何で?簡単だよ、今の竜堂みたいな顔を見たかったからに決まってるだろう?」

「ふざけんなよ!」

 俺は、黒雨の白色のシャツの襟を掴んで引っ張った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 そうだよ!その顔をもっと!もっと!見せてくれよ!」

 と、黒雨は笑った。

 俺は、思わず、殴り掛かった。

 だが、当然防がれた。

「おいおい、いつ俺に勝てるって思ってたんだ?」

 黒雨には、笑みは、狂気としか言えなかった。

「まあ、良い、ささっと集まれ」

 俺は、諦めて外に出た。

「どうだったの?」

「死んでたよ、銃を持った黒雨と一緒にね」

「え?」

 全員から、驚愕の声が洩れた。

「どうした?調べなくて良いのか?」

 と言って、黒崎の部屋から黒雨が出てきた。

「流石に俺達でも調べなくても、分かるよ」

「そうか?じゃあ証拠は?」

「はあ?その服が何よりの証拠だろ」

 また、黒雨は狂気じみた笑みを浮かべた。

「分からないだろう?誰かが奏が俺と一緒に居る所を狙って、上の部屋の入り口から撃ってきたかも知れないだろう?」

「ふざけるのも、大概にして誰にもやる動機ないし、黒崎が叫んだ時みんなここで話してたし」

「ああ、そうだったのか、あれ?じゃあ俺か現状殺せるのは」

「そうね、せっかく信用してきた所だったのにね!」

 全員、黒雨を軽蔑していた。もちろん、俺も。

「思ったより反応つまらないな、残念だ」

「は?黒雨、隠し気ないだろ」

 俺は黒雨を睨んだ。だが、そんなのは気にしないと言わんばかりに、椅子に座った。

「隠す気ない?心外だなあ、隠す気しかないよ」

「何で!殺したのよ!」

「殺した?あーまあ、殺したみたいなもんか」

「ってめえ良い加減にしろよ?」

 俺が立ちあがろうとした時、黒雨の右手と左手に持ってるピストルで、俺と赤華に向けた。

「おっと、立ち上がるなよ?何がとは言わないが、今こうしても変わらないからな?」

 俺は、立ち上がるのを辞めた。その代わり一層黒雨を睨んだ。

「おー怖い怖い」

 と、黒雨は、全く怖がっていない声を出した。

「黒雨さん、後二十四時間の命ですからね?」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!それはどうだろうなあ?俺が死ぬのか?ちゃんと調べる事を勧めるよ」

「そんな事より、黒雨が動かない様に見張る方が、百倍良いわ」

「そうか、褒め言葉として受け取っておくよ」

 こいつ、本当に人間か?恐らく、ここに居る全員がそう思っているだろう。

「そうだな、お前達人間失格って読んだ事あるか?」

 人間失格って、確か、太宰治も代表作様な作品だったか。

「読んだ事ない」

「俺も」

「私も」

「私は読んだ事あるわ」

 驚いた、赤華は読んだ事があるらしい。

「そうか、読んだ後どう思った?」

「なんか、リアルだなあ、辛いな、辛いな、私はこうなりたくないなあ、でもとっても共感できたなあ、かな?」

「そうか、なら俺の部屋に人間失格が有る、全員読んで、感想を聞かせてくれないか?そうだな霧島行けるか?」

「はあ?なんで、俺が行かなきゃ行けないんだ?」

「拒否したら、分かってるよな?」

 と、また狂気じみた笑みを見せた。

「分かった、行くよ」

 そう言って、霧島は、黒雨の部屋に入っていた。

「何が、したいんだ?」

「そうだな、感想を聞きたい、ただそれだけだ」


「取ってきたぞー」

「じゃあまずは、竜堂読んでくれ」

「分かったよ」

 俺は、霧島から、受け取って本を読み始めた。


 俺は、本を読んだ後泣いた。

「何で、何でこうなったんだよお」

「じゃあ感想、聞かせてくれ」

「五月蝿えよ、ちょと待てよ」

 俺は、ピストルを向けられている事を忘れて、涙を拭いた。

「そうか、ならその間、時中読んでろ」

「いや、泣きすぎでしょ、そんなに泣かないでしょ」


 時中は、泣かなかったが、涙ぐんでいた。

「これは、泣くのも分かるわ、ちょと辛いわ」

「それじゃあ、流石に行けるよな?竜堂」

 俺は、止まった涙を思い出しつつ、口を開いた。

「俺は、人ぽいなって思った、辛いなとも思ったし、可哀想だなとも思った。

 俺も少し道が違えば、こうなってたのかなあって思った」

「次は、時中お前だ」

「私も、人ぽいなって思ったし、可哀想だなって思った。

 それに、私は人から好かれるのだけが、幸せだけじゃないだなって思ったわ。

 それに今まで正しいと信じて疑わなかった物が、正しいのかって疑ったわ」

 少し、涙声になっていた。

「次は、霧島読め」

「分かった」


「なんか、凄かったなあ」

 霧島は俺達と違い、涙ぐんだりはしていなかった。

「感想は?」

「ああ、俺はなんか、人生の辛さを凝縮した様に感じた。それに、何かを与えられるというのは、その分辛い事もあるんだなって思った」

「そうか、やっぱり、俺は人間ではないらしい」

 と、言って、微笑んだ。

「そういう、黒雨は、どういう感想だったんだよ」

 そう、俺が聞くと、一度驚いてから、どこか遠い所を見つめている様な顔になった。

「今思えばこんな性格になった元凶だったのかもな。俺の、感想は面白いだよ、もっと、こんな人を見たいなって。

 あ、そっか、俺は後書きで救われたから、笑えなかったんじゃなくて、単純に飽きたんだ。

 そりゃあそうだ、十数年だもんなあ、飽きるに決まってんなあ」

 と、急に自分だけの空間を作った。

「なあ、黒雨お前は、なんなんだ?」

 と、思わず俺は言った。

「そうだな、この本風に言うなら、癈人の烙印を付けられた、人間を失格された者かな?

 つまり人間の生き方の出来ない、人間ぽい生き物だよ。

 この、主人公より、よっぽど人間じゃない生き物だよ、醜いほどにね。笑えるだろ?変だろ?狂人だろ?だから、家族を殺しちまうんだろうな、それなのにだ、それに悩んだ事もない。

 自分の事で悩んだ事はあるが、家族を殺した事に、悩んだ事はなかった。

 しかも自分の事で悩んでも、結論はほぼ必ず、周りの目なんか、どうでも良い、に収束をしちまうんだよ、

 まあ、結論から言うと、俺は、ただの糞野郎だよ、糞の糞で頭が狂ってる、人間失格者、世の中の言う悪だよ」

 その答えは、誰にも予想が出来なかったんだろう、誰も答えはしなかった。

「お前達の俺の印象と同じだろ?」

 ここは、違うと言うのが正しいのだろう、だけど誰も口を開こうとしなかった。

「もし、昔に戻れるなら、人間失格はもうちょと後に読みたいよ、いや、でも意味ないか、もうこんなんだし」

「そう思うなら、何故、今までそのままで、過ごしてきたの?」

 と、口に開いたのは、赤華だった。

「何故か、俺だって努力したよ、自分を偽って、本心すら偽って、でも気付いたら侵食されてて、他の娯楽を探しても見つからなくて、物語を作ったり、ゲームしたり、体を動かしたり、音楽を聴いたり、本を読んだり、手当たり次第全部やったよ。でも全部つまらなかった。

 そりゃ、そんな奴が、あんな力手に入れたら、こうなっちまうよな」

「力って?」

「内緒だ、まあ、それでも結構頑張ってきたと自負してるよ、それがまあ、こんな空間にきたら、そりゃ今まで貯めてきた欲爆発するよなあ、もちろん、言い訳だって分かってる」

 黒雨には、黒雨の辛い事があるのか、俺よりよっぽど辛い物が、耐え切れなくて当然だろう。

「だからさ、もう疲れたんだよ、ほら奏の死体見ただろう?これで一発だ」

 そう言って、俺に向けているピストルを、机に叩いた。

「確かに、一発で死んでた」

 俺が、そう呟くと、全員またもや沈黙した。



 そこから、かなりの時間が経って、投票の時間が、やってきた。

「それでは、投票しろ」

 かなり、短縮されている。

 当然、黒雨以外の人が、黒雨を投票して。

 黒雨が、指したのは、黒崎がいつも座っていた、椅子だった。適当に指したのだろう。

「不正解だ、これによって、正解した黒雨時以外全員、死んでもらう。もちろん、黒雨時が殺してもらう」

「どういう事だ!確かに俺は見たぞ!それに、犯人が、黒崎ってどういう事だ!」

「自殺、って言えば分かるか?竜堂?」

 その時、死んだ筈の黒崎が、ショットガンを持って部屋から出てきた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!その顔、最高だな!!散々上げて落としたんだからなあ?その分の絶望は半端ないだろう?

 せっかくヒントあげたのによ?」

 ヒント?まさか!?

「人間失格?」

「正解だ、ちゃんと自殺しようとしていただろう?」

 盲点だった。自殺、いや、それより生き返るなんて分かる訳がない。

「無理に決まってるだろ!」

「だから、言っただろう?ちゃんと調べたほうが良いって」

 これには誰も言い返せなかった。

「さて、ここにショットガンがある。これで、自分の腕と、足に撃てた奴には、苦しめずに殺してやろう。もし俺が約束破ったら、管理者!俺がこの約束を破ったら、殺してくれ!」

「分かった」

 その時、また、いや今度はもっと、狂気じみた笑みを浮かべた。

「どうだ?やる気になったか?」

「ああ、もちろんだ!」

 全員俺と同じ様に、目を光らせた。

 黒雨は、黒崎からショットガンを受け取って、長机の真ん中に滑らせた。

「じゃあスタートだ」



 当然の様に、掴み合い、殴り合ったり噛んだりしている。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だろ!!こんな楽しい事が世の中にあるなんてなあ!」

「時君って本当に趣味悪いよね」

「まあ、仕方ないだろう?そういえば、人間失格どうだった?」

 その時、困惑の表情を浮かべた。

「え、うーんなんて言ったら良いんだろう、作品として良かったけど、何か人生でにしては、何かが足りなかった気がした。でも、辛くて、可哀想だなって思った。でも、何か足りなかった」

 俺は、思わず驚いた。俺と同じだったのだ、何かが足りなかったという部分のみ

 俺は、その時の感情は、心配と嬉しさが混同していた。

 もしかしたら、俺みたいになるのではという、心配が。

 俺は、そんな心配を無理矢理、頭の外に追い出して、目の前の面白く、無様に争っているいる光景を見る事にした。

「無様だな?面白い、奏、あれを見てどう思う?」

 俺は、竜堂達を指した。

 奏は、少し悩んでから、答えた。

「なんか、人ぽい、かな?自分の為に、争って、裏切って、まるで人間みたい、そうだね、なんとなく時君に似てる」

「は?」

 俺は、思わず声を出してしまった。

「俺が、あれみたい?そんな訳ないだろ?」

「何て言ったら良いんだろう、時君は何か、自分の為にしか動いてないってか、それを人は隠そうとするけど、このデスゲームが始まってから、時君はずっと隠してなくて、楽しもうとしてたから。

 その点で言うと、きっと時君は欲は人間らしくないけれど、やってる事は人間らしいと思うよ、だからかなあ?」

「人を殺して、苦しめて、楽しんでも?」

「うん、だって、ほらドSとかいるでしょ?同じだよ、それをただ、このゲームで発散してるだけだよ、時君はいつも我慢してたんでしょ?」

「違うな、ドSは性的な興奮してやってるんだ、俺は、ただ子供が無邪気に遊んでるのと、同じ様に、遊んでるんだよ、苦しめて、殺して。

 まるで、初めてゲーム機を持った子供の様に、俺は、遊んでるんだ。

 そんな人間を異常、もしくは悪、狂人、俺の好きな言葉で言うと、人間、失格って言うんだ」

 その時、竜堂がショットガンを取って、自分の腕に当てて、トリガーをかちゃかちゃした。

「あれ?おかしいぞ!弾が出ない!弾が!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!やっと、気付いたか!そうさ!そのショットガンには、弾が入っていない!そして、ここら辺で時間切れだ!」

「そんなの聞いてない!」

 俺は、立ち上がって、竜堂の方へと歩みを進めた。

「ああ、言ってないからな、分からなくて当然だろう?」

 それは、時間制限、弾の事だろうか、どっちかは分からないが、どっちも言ってないので、変わらないだろう。

「だが!今までのは、ただの遊びだ!これから、始まるのは、全員、苦しまなくて済むかも知れない!とっても簡単なゲームだ!」

 その時、全員の、疑いの目が俺に向けられた。

「安心しろよ、さっき約束しただろう?

 さてルールは簡単、俺がお前達の全て指を斬る前に、声を出さなかったら、これ一発で、殺してやるよ。その代わり、物の使用を一切禁止する。さあ、誰から行く?」

 その時、当然の様に、誰の手も上がらなかった。

「誰も、挑戦しないで良いか?」

 俺がそう言うと、赤華の手が上がった。

「やるわ、どうせしなくても斬るんでしょ?」

 俺は、近くにあった椅子を引いて、「座れ」と言って、座らせる。

「準備は良いな?」

「当たり前よ」

 俺は、ナイフを取り出して、赤華の右手の小指を斬ったり落とした。

「…………ッ!!」

 と、赤華は息を飲んだ。若干息が上がっていた。

 どうやら痛みには、強いらしい。

 俺は、右手の薬指の、第一関節目掛けて斬った。

「…………ッッ!!!」

 どうやら、俺がこうするとは思わなかった様だ。かなり驚いている。堪らなく面白い。

「後、二十四回頑張れよ」

 と俺は、耳元で囁いた。

「え?」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 おいおい、こんな関係ない所で声を出しちまったなあ?」

 赤華は、自分の口元を両手で押さえた。

「ねえ、許して?今のは流石に、ゆ、許してよね?お願いだから!」

 と、俺の服を引っ張りながら、涙目になっていた。

「なあ!黒雨!赤華を俺にくれよ!ずっとやりたかったんだ、それに、赤華もそっちの方が良いだろ?な?黒雨も見た事ないだろ?無理矢理される時の顔を」

 そう言う、霧島に怒りが湧いてきた。

「黙ってろ!そんなの、見飽きてんだよ、何も知らねえ癖に黙れよ!何度も、何度も、見てきたんだよ!」

「は?何だよ、それ気持ち悪」

 と、軽蔑した目を俺に向けてそう言った。

「どう受け取っても、良いが、知らない癖に言ってんじゃねえよ」

「一応言うけど、霧島の方がよっぽど気持ち悪いからね?」

「何だよ!誰だってあるだろ!そういう欲が!なあ、そうだろ竜堂!」

「は?一緒にすんなよ、クズが」

「ふざけんなよ!死ぬ直前なんだぞ!悪いか!

 それに、クズはあいつだろ!俺はお前ら何かよりよっぽど、人間らしいだろ!!」

 その時、俺の中で何かが壊れた。

 俺は、赤華そっちのけで、霧島の方へと歩いた。

「何だよ!近付くなよ!!」

 霧島の、頭を地面に気絶しないぐらいに叩きつけた。

「黙れよ、笑わせんな、お前が人間らしいって?ふざけんなよ、今のお前はただのクズだ」

 俺は、地面に叩きつけた、霧島の顔を殴って殴って、殴り続けた。それこそ、鼻が原形がなく、歯が折れ、顔の形が変わり、顎の骨が折れて、眼球が潰れ、そうした理由ただそうしたかったから。ただそれだけだった。

 不思議と、笑っていなかった、あれだけ苦しそうにしていたのに、それどころか、楽しかった筈なのに、笑っていなかった。

 自分の手で口を隠す必要はなかった。

「た、たうええ」

 恐らく、助けて言おうとしたのだろう。だが、まだ、顔を殴っただけだ。

「おい、これから、お前の内臓見せてやるよ、良く見とけ」

「やえてうえ」

 もう、何を言ってるか、分からなかった。

 俺は、丁寧に、腹を切り開いた。

「ああ」

 そんな、力の無い声が霧島から聞こえた。

 俺は、その中に手を入れて、自分の手を真っ赤に染めながら、内臓を取り出した。

「あああ※※ああ※※※あああ※ああああ!!」

 堪らなく面白いかった。たが、笑えなかった。

「ほら、お前の内臓だ、見えるだろ?その、人間の左目で見ろよ、小腸か?大腸か?ちゃんと見ろよ」

 俺は、取った一部を斬って、無理矢理口を開けさせて、内臓を食わせる。

「ん、んんんんんん!!」

 鼻と口を閉じて、息をさせなくさせる。こうすると大体人は食べる。

 その時、喉仏が動いた。ああ、食ったのだ。霧島は自分の内臓を。


 その後、少し経って。霧島が死んだ、笑える。無様に死んだのだ。何も出来ず、最後まで何を言ってるか分からなくて、呆気なく死んだのだ。無様以外の何で表せらるのだろうか。少なくとも、俺の学力では無理だ。

 つくづく思う俺は、人間ではないと。

「さあ、続きだ」

「何故、ここまでするんだ?」

 竜堂の問いに俺は、直ぐに答えられなかった。

「……さあね、楽しいからじゃないか?

 お前達に関係ないだろう?そんな事、訊く意味あるか?」

「あるな、俺達はお前の遊び道具にされてんだ。玩具にも、遊ばれる理由を知る権利はあるだろ?」

 俺は、さっきより、ずっと長く答えるのに時間をかけた。

「…………言ってるだろ?楽しいからだって」

「だとしたら、何故、さっき笑ってなかったんだ?いつも笑ってたお前が」

「笑ってなかったか、もし、竜堂なら笑っていたか?」

「笑ってないに決まってる」

「そうだよな、分かってる。そうだなあ、もしかしたら、人間になりたかったから、かもな。

 こう見えても、お前達と同じく心を持って、同じ体を持ってんだよ、人間になりたい、そう思っても不思議じゃないだろ?

 俺はこうなんだと諦めても、心のどこかでは、まだなれるって、希望を抱いてんじゃねえか、だから、せめて笑いたくなかったじゃないか?人間だって言って欲しかったから。

 まあ、結局楽しんでたんだけどな……まあそういう事だ。

 人間になりたかったから、これで分かったか?無謀な希望を抱いた、無様な人間だろ?」

 俺は、立ち上がって。赤華に寄って。惨たらしく、残酷に、散々苦しめて殺した。

 その間に、誰も、口を開こうとはしなかった。

 部屋にあったのは、赤華の叫び声と、肉を潰されたり、混ぜられる音と俺の笑い声だけだった。


「あー、もう面倒いや、全員そこを動くなよ」


「終わった、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!俺は、人間になれない!」

 楽しいと、絶望の感情が混ざる時には、俺は笑いながら泣くのだと、初めてそこで知った。

 俺は、膝から崩れ落ちた。

「俺は!もう、人間には戻れない!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!どうしてだ!人間に生まれた筈なのに!ハハハハハハハハハハハハ!!」

 自分の笑い声が、とても憎たらしかった。

 その時、奏が俺と同じ目線来て、俺を優しく抱擁した。

「大丈夫、私が愛すから、何度でも、人間だよって言ったあげるから」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 涙が止まって嬉しさが込み上げた、と思う。

「時君は、人間だよ、誰よりも。私なんかよりよっぽど」

 そこで、気付いた、これが恋なのだと。

 たとえ、人間になれなくても、せめて恋だけは、人間らしく恋をしよう。

 と、俺は、固く決意した。

 でも、俺は、もうあの快楽から、きっと離れられないだろう。

「俺は!もう、あの快楽から離れられない!」

「大丈夫、私が時君を夢中にさせるから、それに私は、それすらも一緒に愛すよ、だから、一歩ずつ、全てのゲームが終わったら、一緒に進もう?」

 ああ、俺には言わなければ、いけない事があるのに、口が開かなかった。だけど、その代わり、図々しい言葉を掛けた。

「俺も、俺も、奏が好きだ、俺と付き合ってくれ」

 きっと、このタイミングでの、付き合ってくれ宣言は間違っているだろう。

 でも、不思議と今じゃないと駄目な気がした。

「私も、時君が好き」

 そう言って、奏は微笑んだ。それが堪らなく嬉しかった。

 ああ、俺はもう奏に夢中なのだ。



 あれから、何日か経った頃今回のゲームが終わった。

「終わったね」

「ああ、でもまだあるよ、多分四つくらい」

 あの後、褒美として、部屋を広くしてもらい、ベットも大きくしてもらった。奏と寝る為だ。

「それでは、次のゲームを始める為に、進め」

 そう、モニターから聞こえた後、下の壁が、いつもの様に、横にずれて開いた。

 俺は、奏と手を繋いで一緒に歩いた。

「次のゲームも、楽しもうね時君」

「俺が、楽しんだら他の人全員死ぬだろ?そしたら、人間への道が遠ざかるだろ?」

「私は、別に、人間じゃなくても、良いと思うけどなあ、それに私からしたら、時君は充分人間だと思うよ。

 それに、私は、人間の時君じゃなくて、生き物の時君を好きなったんだよ?人間である必要ある?私は、時君が楽しく、幸せに過ごせればそれで良いんだよ。それでも、人間じゃないと駄目?」

 俺は、頷いた。

「うん、だって人間じゃない俺は、奏に迷惑しか掛けないからな」

「ありがと、でも、楽しくなさそうな時君の方がよっぽど迷惑だよ」

 ああ、やっぱり優しいな、奏は、これだから、俺は人間じゃなくても良いやって思ってしまうのだ。

 人間ではないのは、悪で罪だというのに。

「そっか、じゃあ楽しもうか、奏と一緒に」

「うん、そうだね」

 そう言って、奏は笑った。

 次のゲーム会場らしき場所に着くと、そこは、今までの景色とは違い、薄暗く、牢屋があり、監獄の様な場所だった。

「うわあ、何ここ」

 そう言ったのは、奏だった。驚くも無理もないだろう。一つ一つの牢屋に、骨となった死骸が有るのだから。

 とりあえず、前に進んで行くと、公園のトイレの様な、男のマークと、女のマークが書かれている扉があった。

「俺は、こっちかな?」

「私は、こっちだね、また会おうね」

 そう言って、一度別れた。

 中に入ると、警察のコスプレの様な物があった。これを、着ないといけないだろう。ピストルと、テーザー銃らしき物もあり、マガジンも置いてあった。

 もう一つ、ゴミ箱の様な物には、持ってきた武器を捨てろと書いてあった。

 そのまま、持ってきたピストルと、ナイフを、捨てた。


 とりあえず、着替えてからテーザー銃と、ピストルと、マガジンを持って外に出た。

 外に出て、一分ほど経つと、俺のとあまり変わらない、警察の服を着た奏が出てきた。

「奏もか、この後何があると思う?」

 とりあえず、手を繋いで、前に進みながら話した。

「そうだなあ、警察対囚人とかかな?」

「俺も、そう思うよ」

 二人で、手を繋いで歩いて、突き当たりの角を右に曲がると、俺達と同じ様に警察のコスプレをした、人が集まっていた部屋にやってきた。

 部屋の中心にモニターが設置されており、その下に、くじ引きをする時に使う箱があった。その横に紙があった。他には、ピストルやら、アサルトライフルやら、マガジンやら、テーザー銃があった。それ以外何もなく、とても簡素だった。

「やっと来た、これで全員ね」

 その、少女は不思議と印象的な人物だった。

「遅れてきた癖に、良いご身分だな」

 と、言って男が睨みつけてきた。まあ、仕方ないか。

 全部で、俺達を入れて二十七人、かなり多い。

「さあ、揃ったか、それではルール説明だ、まず初めに、今回は囚人と看守で別れる。

 囚人は、監獄を三十日以内に脱獄出来たら勝ちだ。また、一ヶ月以内脱獄させなければ、看守の勝ちだ。

 そして、囚人で看守を殺して捕まらなかった者には、脱獄のヒント、そして、次のゲームで有利に働く様な物をプレゼントする。

 そして、看守側は、囚人が誰かに危害を加えた場合、もしくは問題を起こした場合、懲罰房送りに出来る。その中で、拷問をし相手の情報を吐かせる事も出来る。

 懲罰房送りに出来るのは、事件が起きてから数時間後までだ。

 ただし看守は殺して良いのは脱獄しようとした時のみだ。

 普通に殺すと、ペナルティーとして、看守全員が一日動けなくなる。

 そして、脱獄のヒントは監獄の様々な場所に置いてある。ヒントを、見つけて、隠したりするのは看守の自由だ。もちろん、自分で持ち歩くのも良い。ただし、破壊行為は禁止とする。

 だが、看守の、自由時間はないと言っても過言ではない。

 看守は、脱獄者を十人以下に出来れば生き残れる。

 そして、最後に一日の日程通りに行動する事だ。看守側の箱の中身は、スコア最多の黒雨時、お前が使え」

 俺は、言われた通りに、中身を取った。

 そこに、あるのは万年筆だった。

 何故、これを箱に入れる必要があったのか、答えは一つだろう。



 囚人か、恐らくハズレだろう。

 何故なら、仲間によって難易度は大きく変化するからだ。

 これは、何となくハズレな気がした。

「三十分後ゲームを始める。作戦会議でも何でもすると良い」

 とりあえず、紙を取って一日の日程を調べる。

「とりあえず、全員集まってくれ」

 総数三十人か、これなら看守の一人や二人は殺せるだろう。そこから、武器を取れるだろう。

「何で、お前が仕切ってんだよ」

 と、言ったのは、俺と同じオレンジ色の囚人服を着ていて、胸元に006と書かれていた。

「簡単だ、俺がこの中でスコア最多だからだ」

「はあ?お前いくつなんだよ」

「四十、これで文句ないか?」

 その時、辺りが騒ついた、それもそうだろう、四十なんて俺以外に居るわけがない。何故なら俺は、白色のワンピースを着た少女を、見れるのだから。

「証拠は?」

「そうだな、お前達全員掛かってきても、少なくとも半数は、殺せる自信がある」

 恐らくこれで、分かるだろう。

「名前は言わなくて良い、その代わり胸元の数字を名前としよう。例えば俺だったら二番とかで良い」

 正直言って、覚えられる気がしない。

「分かった、なら僕は、一番か」

 そう言った男に、俺は気付かなかった、いくら死角でも気付いてもおかしくない筈。

 かなりの実力者もしくは、ただ影の薄い奴かのどっちかだ。

 見た目では、判断出来なかった。

「てかよ、作戦会議ってどうすんだ?」

「確かにね、地図とかがないんじゃ、無理ね」

 そう言うのは、胸元に012と書かれた男と、胸元に026と書かれた女だった。

「ないよりは、マシだろ、それに今までのどれも、デスゲームでよくあるゲームだった。

 今回もその可能性が高いなら、この建物の構造もある程度、推測できるかも知れないだろ?」

「でも今回のゲームは聞いた事ないぞ?」

 男の胸元には、013と書かれていた。

「脱獄する映画とかあるでしょ?あれを真似たとかじゃない?」

 女の胸元には、007と書かれていた。

「それなら、推測出来なくない?全部写されてる訳でもないし、それに何が映ってたか覚えてないよね?」

 女の胸元には、028と書かれていた。

「推測はできないかも知れないけど、この部屋自体にヒントが、あるかも知れない。

 それにこの建物の構造が書いてあると、僕は思う。だから、三十分っていう探す時間が設けられたんじゃない?」

 と、一番が言うと、周りから、感嘆の声が聞こえた。俺の予想は外れた可能性が高いか、まあ、こいつらをまとめる為の嘘なので、別に良いが。

 しかし、気付けなかった。まとめる事に執着してしまったが故に。

 まともに、運営の意図を汲み取ろうとしなかった。この俺が、ミスを犯したのだ。この俺が、天才である俺が、ミスを犯したのだ。

 九条くじょう家に居たら、間違いなく罰を受けていただろう。

「それなら、探し出すか」

「いや、目星は付いてる。モニターの裏だ」

 そこ以外隠す場所が、ないからだ。

 そこに、半信半疑の二十九番が裏を下から覗く様に見た。

「あ、本当にあった」

 そこから出てきたのは、タブレットの様な物だった。

「それ、電源点ける」

 タブレットの様な物が光ると、間取り図の様な物が写った。

「これが、この監獄の全貌か」

「ここから、日程も照らし合わせて、探し出すぞ、どこが怪しいか探すぞ」

 とりあえず、刑務作業場は最も怪しいだろう。

 その時間が一番長い。また、食堂も怪しいか、だが当然危険か。

 なんにせよ、実際に見てみなければ、隠し場所は分からないだろう。



 ゲームが、始まってから五日が経った。集まったヒントは、たった二つ。そして、未だ出口が分からない。

 つまり、まだスタートラインにすら立てていないのだ。

 この九条家の天才が、集められていないのだ。当たり前の様に、他の奴も見つけられていない。

 恐らく一つか、二つは看守が、持っているだろう。

「殺すか」

 殺すチャンスは、作れはする。だが、武器がない。今手に持っているのは、箸だけだ。これも、飯を食べれば、取られてしまう。

「また、一人で食ってんのか?二番、他の人と食って、情報共有しといた方が良いんじゃねえか?」

「五番か、良いんだよ、どうせ牢屋入ったら集まれるんだからよ。

 それによ、一人なのはあいつも一緒だろ?」

 と、俺は一番に目線を向ける。

「あーあ、居たなそういえば、あいつ陰薄過ぎて、どこ居るか分かんねんだよなあ。

 それに、ああいう奴は、居ても居なくても変わんねえからな、どうだって良いんだよ。

 逆に、リーダーの二番が居ない方が大変なんだよ」

 馬鹿を指揮するのも、リーダーの役目か。

 と、俺は思い立ち上がって、全員に合流した。

「今、どうなってた」

「ヒントについて、考えてた所」

 十番がそう言った。

「じゃあ、今どんな状況だ?」

「全く、何よって、ピアノソナタ第14番どういう謎よ」

 と言って、タブレットに映るピアノソナタ第の文字を見せた。

「いわゆる、月光だな、月光ソナタ」

 十番は、頷いた。

「もう一つは、分かったのか?」

「いや、分かる訳ないわよ、だって怪人二十面相よ?知ってる?」

「知ってるに決まってるだろ?怪人二十面相は、変装の達人で色んな物を盗む怪盗だよ、名探偵コナンがオマージュしてるって言われてる作品だな。あれは、登場人物の名前とかはよく似てるし、怪盗が、変装が上手いのと、予告状を出すって所が同じだ」

 そもそも、内容が分かっているかと思っていたが違ったみたいだ。

 俺が、そう言うと、周りが感嘆の声を洩らした。

「変装の達人と、怪盗が鍵になりそうだな」

 と、十五番がそう言うと、全員が頷いた。

「変装、怪盗が何かを盗むって事?何かが問題だね、なら問題はもう一つのヒントだね」

「見つかったのか?」

「うん、一人の看守が持ってたから、ちょと私の能力でね」

 と言って、QRコードが書かれている紙を見せた。

 それを、見せた後、タブレットの一つのヒントを俺に見せた。

黒雨こくうかな?空を黒くするほどの雨か、どういう意味があるんだろう」

「もしくは、黒雨くろさめこの監獄、看守の中で最高スコアの男だろう」

「でも、それらしき人見た事なくねえか?」

「黒雨、一体どこに居るんだ?」

 見た目の情報が一切ないので、見つける事は容易ではないだろう。

「看守の誰かを殺すか」

 その時、鐘がなった。

「全員、刑務作業の時間だ」

 この時間になったら、銃の整備、掃除、など面倒くさい仕事が振り分けられる。

 しかも、ノルマがあるので、サボるという行為が出来ない。

 監視の目も付くので、もちろん、探索という行為も、もちろん出来ない。

 俺は今まで掃除しか割り振られていないので、看守を殺せない。



 やはり、今回も掃除だった。今回掃除する場所は、食堂だ。掃除しながら、探索が出来るのだが、ここは大体調べ尽くしている。探索してない所と言えば、鍵の付いた部屋のみだ。

「二番何を考えている?集中しろ」

 と、壁に寄りかかりながら、腕を組んでいる女が、話しかけてきた。

「へいへい、分かりましたよ、看守さん」

 どうやら、考える時間すらくれないらしい。

 恐らく、この女はかなり強いだろう。たかが箒で勝てる訳がない。

 それに、情報がない。せめて、超能力さえ分かれば勝てるかも知れないが。

 分からない今は、負ける可能性が高いだろう。

 すると、周りから怒声と走る音が聞こえた。

「黒雨、あいつどこほっつき歩いてんだ?こんな大事な時に!」

 音からして、作業場方面か。誰か死んだのか?

 走ってる所を見ると、看守の無線の様な物があるのだろう。

 だが、ここに居る女を除き看守達は、動揺はしているが、動く気はないらしい。

 と、思ったが意外と一人の男が、寄ってきた。

帝園ていえんさん、行った方が良いんじゃないですか?」

 と、看守が言うと、帝園と言われた、女がため息を吐いた。

「大丈夫よ、あなたも私にばっか頼ってないで、もっと他の人を信用しなさい、長町ながまち君」

「いや、でもさ、帝園さんが一番強いし、頭良いでしょ?」

 また、帝園は大きくため息を吐いた。

「あなたの目は節穴ね、私なんかよりよっぽど、黒雨さんの方が、強いし頭良いわよ」

「そんな訳ないよ、あんな奴何もしてないし、何の役にも立ってないよ」

「そう?私には、何かをしている様にしか見えないよ、確かに、いつも黒崎さんとイチャイチャしてるけど、それは、私達の前に居る時だけよ。

 裏で何かしてる様にしか見えないわ、私は」

 堂々と、情報を教えてくれる。特にこの長町とか言う奴は間抜けだろう。

 良い情報が聞けそうだ。さりげなく、この辺りで、掃除をした方が良いだろう。

 耳に指を当てて、「分かったわ」と、帝園が言った。

「解決したみたいね、長町君が言った黒雨君がね、拷問も、黒雨君が行うって言ってるわよ?」

「普段の仕事を、まともにやらずに、こういう時だけやるなんて、格好つけるだけだよ」

「そう?私達だけで、回ってるなら。無駄な人手は他に回した方が良いと思うけど、黒雨さんは私達を信頼してくれてるのよ」

「そんな訳ないでしょ、あいつは、スコア七十四だよ?殺人鬼だよ?そんな奴が、そんな事する訳ないでしょ?」

 七十四?まさか、俺を超える奴が居るのか?

 そんな馬鹿な、どうせ嘘だろう。と、自分に言い聞かせる。

 俺が、外では一番上でなければ、いけないのだから。

「殺人鬼?笑える。私達だって充分殺人鬼よ、生きる為に殺した、そんな理由でね、自分の為に、それは彼も同じよ、それを殺人鬼と呼ばわりするのは、間違いよ、長町君」

「そんな訳がない。だって黒雨の所はあの二人以外生き残ってないんだよ?おかしいでしょ」

 面倒くさいと、言わんばかりのため息を帝園が吐いた。

「無駄口叩いてないで、仕事しなさい」

 これ以上情報は聞けないだろう。

「分かったよ、帝園さん」

 仕事と言っても、監視だけだろうに、そこに無駄口をなくしたら、苦痛そのものだろう。

 少なからず、刑務作業の方がマシだろう。

 だが、帝園が居るだからだろうか、誰一人喋ってなかった。



 重たい瞼を開けると、そこは、暗くいつもの牢屋とは違った。懲罰房だろう。

 動こうとした時、手足を椅子に縄で括り付けられているいる事が分かった。

 その時、前方の重たそうな鉄の扉が開いた。

 そこに居たのは、俺を何かで動けなくした男だった。

「やっと起きた、テーザー銃は、かなり痛かったでしょ?……思ったより効き目強かったな、この睡眠薬」

 そうだ、俺は動けなくされた後何か刺されたんだ。睡眠薬だったのだ。

 その時、唯一の光が扉が閉まると同時に消えた。

「何をする気だ?」

 相手の服装が、いつもの服装とは違い拷問用の服装という印象だった。白色だったので、余計存在感を放っていた。

 そんな男が、袖を捲った。

「何って、拷問だよ、一度やってみたかったんだよね、ほら、今までそういう道具なかったじゃん?だからさ、使ってみようかなって」

「は?拷問やりたかったって何だよそれ」

 俺がそう言うと、光が入ると同時に男が入ってきて、拷問器具を持ってきた。

「いやさ、よく分かんないからさ、とりあえず、爪を剥がそうと思うんだが、どう?」

 俺は、必死に首を横に振る。

「えー?なら、無理矢理だな、動いた方が、ミスって、綺麗に取れないかも知れないな?痛くなっても知らないけど」

 そう言うと、ペンチを取って、カチカチと鳴らした。

「ま、待ってくれもっとよ、軽い奴から行った方が」

「じゃあ、ヒント、計画全部話してくれよ」

 その時、言おうとしたら喉が詰まった。言ってしまったら、俺の今後の立ち位置が危ういからだ。あの、二番に逆らうのは怖いのだ。なにせスコア四十だぞ?逆らったら殺される。と分かっているからだろう。

「そうか、ならやるか」

 男は、いつまにか靴を履いてない俺の足を、ガッツリと掴んだ。

「や、辞めてくれ」

 そんな、言葉が通用する筈もなかった。

 ペンチが上がると共に、俺右足の親指の爪が、剥がされた。

「あああ※ああああ※あああ※※※あああ※ああ※※あ!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!やっぱ、難しいな!」

 と、人間とは思えない笑い声を上げた。

 それより、これが後十九回という絶望の方が怖かった。

「それじゃあ、次行くぞ!」

 今度は、ペンチを俺の右足の人差し指に近付けた。

「わ、分かった、話すから、話すから」

 そんな言葉が、この人間、いや、化け物に届く訳がなかった。

 そのまま、剥がされた。まるで、爪を下から無理矢理持ち上げられている様だった。

「ああああ※※ああああ※あああ※※※ああ※あ!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!話すだって?まだまともに、情報なんて集められてないだろう?」

 今度は、足の人差し指に狙いを定めた様だ。

 今度は、ゆっくりと、爪の中に何かを無理矢理入れられた。まるで、肉に直接ヤスリ掛けられた様な痛みだった。

 爪と足がちょとづつ剥がされる様な感覚だった。

「ああ、あああ、ああああああ!!」

 肉と爪の間に、異物があった。

 その時、まるでテコの原理の様に、長指の先を支点として、その異物が上げられる。

 徐々に、上げられる。

「ああああああ※ああ※※ああああ※※※あああ!!」

 今まで聞いたことのない音を立てながら徐々に剥がされる。その時、爪が折れた、根本の部分を残して。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!残っちまったなあ?」

 その時、立ち上がって何かを取った。その手にあったのは、ハサミだった。

 男はハサミを、根本の爪と肉の間に入れる。

 ハサミの横から、無理矢理縦に変わる。

 今まで、そこで痛み感じなかった所為なのか違和感を覚えた。

 肉の形が変わった。本気でそう思った。

 ハサミを使って爪の真ん中に切れ込みを入れた。

 そこで、また何かを取った。今度は見た事ない機械の様な物だった。

 すると、鉄の何かを引っ掛ける物を、爪の切れ込みに入れ、俺から見て右側に、引っ掛けた。

 その時、ゆっくりとゆっくりと、爪が持ち上げられた。ゆっくり故に痛みがずっと続いた。

「あああああ※ああ※ああ※ああああ※※※あ※ああ!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だよ!その声、その顔!」

 また、もう片方やられた、その瞬間、俺は気を失った。



 目を覚ますと、同時に足に激痛が走った。さっきの爪の所為だろう。

 俺は、思わず足を見てしまった。

「え?」

 俺の両足の、親指と、小指が無くなっていた。

「あああああ※あああ※あ※ああ※※※!!俺の足の指が!足が!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 起きたか、本当は起きた後にやろうと思ったんだけどな、でも、その顔を見るにこっちで正解だったみたいだなあ?痛いだろう?そんなお前には、これを差し上げよう痛み止め」

 と、言って、容器を音を立てながら見せつけてきた。

 その言葉に俺は理性を失った。

「寄越せ!寄越せ!」

 相手の好感度など考えずに、必死に容器をにガッツこうとする。

 だが、椅子がまるで動かない。固定されているのだ。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 まるで獣じゃないかじゃないか!」

 止まる筈もない血がダラダラと、俺の中から消えていくのが分かる。

 その度に、命がすり減ってる様な感覚に陥った。

「安心しろよ、やるからよ、この薬は一錠で一日持つ、それぐらい強力だ」

「早く、止めろよ!この血を!この痛みを!俺の足が壊死しちまうだろうが!」

 その時、男が近付いて持っていた、スプーンで、俺の目を抉った、その後、優しく俺の目玉を引っ張った。

 俺の脳が、引っ張られる様な感覚だった。神経が何かに斬られた。スプーンだろうか。

 その時の、痛みは今までの非にならなかった。

「ああああ※あああ※あ※※※※※あああ!!!」

 半分になった視界に映る、俺の目玉が俺を更なる絶望に突き落とした。

「そうだ、これ食べてくれたら、あの薬やるよ」

 と、言って俺の目玉を見せつける様に、俺に近付ける。

「な、何でも良い食べるから薬を!薬!」

 誰の目玉とかどうでも良かった。今は、ただこの痛みから逃れたい。その一心で、スプーンで差し出された、目玉を食べた。

 口の中で、直ぐに潰れた。ゼリーの様に柔らかった。

 味は、感じなかった。いや、感じたくなかった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ガチで食ったぞ!こいつ!」

 人にどう思われが、どうでも良い、一刻でも早く、この痛みから逃れたかった。

「食べた、早く寄越せ!」

「そうだな、やるよ」

 そう言って、薬を俺の足と足の間に置いた。

「は?何やってんだよ、飲ませろよ」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 俺は、あげるとしか言ってないぞ?飲めないよなあ?ハハハハハハ!!」

 この男だけは殺す!絶対に!

「殺したやる!死ね!死ね!」

「そうそう、教えてやるよ、懲罰房に居れる間はなんと一日!その内いま経過したのはなんと、四時間おめでとう。

 そして、看守の中には、傷を治せる奴が居るんだよ。

 さあ、これが何を意味するでしょうか?」

「う、嘘だろ?なんでこんな事をするんだ?」

「なんで?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!簡単だよ!楽しいから、人生楽しみたいだろう?楽しんで何が悪い?ハハハハハハハハハハハハ!!」

「狂人が」

「おいおい、人扱いしてくれるのかよ、優しいなあ?ハハハハハハハハハハハハ!!」

「はあ?狂人なんて、人じゃないだろ、特にお前なんかが人な訳ねえだろ」

 痛みに耐えながらも、必死に罵倒を続けた。

 そうしなければ、精神が持たなかったから。

「そりゃ、そうだろうなあ、俺ですら自負してるからな。

 さて、問題だお前の懲罰房の時間は後、二十時間だ。その二十時間お前は、気絶する事は出来ないでしょうか?」

「は?な、何を言って」

「正解は出来ないでした、理由はお前を気絶しそうになっても起こす薬があるからだ。それを今から打つ」

 そのまま、注射器を取って俺にジリジリと近付いてくる。

 体を動かして抵抗したが、無駄だった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 その顔、最高だな!」

 ゆっくりと流し込まれてくるのが分かる。

 血が流れる。下手過ぎる。

「ああああああああ!!や、辞めろ!!」

 その時、男の後ろに居た男が、近付いてきて、俺の肩に触れた。丁度注射が終わった。

 その時、注射跡が消えた。恐らく、これからやる事で、血が邪魔だったのだろう。

「後十五個爪残ってんなあ?」

「や、辞めろ」

 俺は、必死に首を振った。

 激しく願った、これが夢であって欲しいと、どうか夢ならば覚めて欲しいと。

 そんな事も当然ある筈もなく。俺の爪が剥がされた。

「ああああ※ああ※※※あああ※あ※ああ!!」



 何度、殺して欲しいと願っただろうか、何度も、何度も、死にたいと願った。

 俺が痛みに慣れてきたら。もっと強くしてきて、まさに地獄。腕を引っ張って外され、足を外され。何度も自分の骨を見て、何度も自分の肉を見た。

 残虐、非道、残酷、狂人、どの言葉にもこの男だけには、当てはまらなかった。

 この世の者とは思えない、生き物なのだから。

 何度、あの狂気じみた笑い声を聞いたのだろう。

「黒雨、時間だ帰してやれ」

「そうか」

 と、言って俺を椅子から外した。

「今、治してやる大丈夫か?」

 これで、大丈夫だったらそれこそ化け物だろう。

 今やっていたのは、体中刺されるという地獄だったのだから。

神崎莉乃かんざき りの倉崎翔くらさき かけるこれがお前が殺した人達の名前だ、覚えておけ」

「は?」

 俺は、一人しか殺していない。



「それにしても、お前あんな演技出来たんだな」

「演技ねえ、上手かっただろ?」

「ああ」

 俺は、看守長の証である帽子を被り万年筆を胸ポケットに入れる。

「んじゃ俺先戻っておくわ」

 俺は、声を出来る限り出さない様に、口元を手で覆って、笑って膝から崩れ落ちた。

 俺は、楽しんでいた、それも我を忘れる程、演技という嘘を付いてまで、最後まで遂行したのだ。

「俺は、もう人間になれない」

 そう、絶望してる俺さえ面白いと思える程に、俺は壊れている。いや、元々壊れていたのが、更に悪化したが正解だろう。

 人間、失格。その言葉が何度も、何度も脳内で再生される。

 その度に思う、俺は人間ではないと。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 笑ってしまうのだ。面白いから、こんなに苦しんでる俺が。

 人間になりたい筈なのに、体がそれを拒否するのだ。

 もう、疲れた、奏が楽しそうだったら、もうそれで良いか。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 この体が、この声が、自分の全てが憎かった。



「大丈夫だったか?二十番」

 そこに居たのは、二十番を心配する、五番だった。

「あそこだけは絶対に行くな、地獄そのものだ」

 と、言って、体を震わせた。

「一体何が起きたんだ?」


 話を聞いてるだけで、気持ち悪いと言う者も現れた。

「その黒雨とか言う奴、頭のネジ何本外れてんだよ」

 スコア七十四が、現実味が帯びてきてしまった。このゲームでハイスコア取れる奴なんて、ほとんどが頭のおかしい奴だけなのだから。

「そんな奴居るのに、人殺しなんて危険な事出来る訳ないだろ」

 どうするか、恐らく人を殺すのは必須条件、流石にその地獄を感じるなら、やろうとする奴は少ないだろう。

 そこには、俺も含まれる。だが、やらなければ、このゲーム間違いなく勝てないだろう。

 一番になる為に、九条家たるもの、頂点に立たなければいけない。絶対に、この九条欲海くじょう よくがいが。

「でも、一つ不可解な所があるんだ、俺は、一人しか殺してないのに、死体が二つあったらしいんだ、そっちで誰か殺してないのか?」

 誰も、声を上げなかった。二十九人全員。

「ここに居ないのは一番だけか、呼んでみよう」

 牢屋は壁が壊れてて、お互いの牢屋を自由に行き来出来る様になっている。

 ここは、十五番の牢屋なので、一番まで十四の牢屋を通らなければいけない。


 一番の部屋に着くと、誰一人居なかった。

「どこに行った?」



 探していない所は、一通り探した。ヒントは、三つ見つかった。

「しかし、人を殺して貰えるヒントが鍵とはね」

 これは、ヒントと言えるのだろうか?どちらにせよ、この三種類の鍵は大事だろう。

「後は、看守寮か」

 僕は、時計を見た。そろそろ帰らなければいけないので、ここから先の探索は明日にしよう。


 部屋に戻ると、囚人が僕以外全員居た。

「どうやって、外に出た?」

 僕は、鍵を見せる。

「これ、殺人報酬」

 ついでに、ヒントも見せる。

「おお、三つも」

「とりあえず、写してくれる?」

 写し出されたのは、外の地図、そこには汽水湖きすいこ、森があった。

 もう一つは、青色に、金色の線が入った帽子が映し出された。その下に74と書かれていた。

 もう一つは、一つの万年筆が映し出された。

 この全てが、脱獄の重要な鍵を握るだろう。

 脱獄方法が、これで分かった。後は出口それだけだ。それを見つける手立ても分かっている。



 寝不足だ、今日は、探索を辞めた方が良いだろう。

 看守寮を五日程探索したが、これと言った成果を得られなかった。

 74、恐らく黒雨時のスコアだろう。つまり黒雨時が、被ってる可能性が高い、だが一度たりとも見た事がない。

 そして、万年筆あれは何なんだ?あれを見つけるのが、脱獄の鍵になるとでも言うのか?

 俺は、不味いパンを口に運ぶ。

 その時、ふと思い出した。十日前、箱の中身を黒雨時が取っていた筈、もしかして、中身が万年筆だったのか?

 つまり、囚人の勝利条件に、あのイカれサイコパスから、万年筆を奪い取れって事か?

 これは、チャンスだ。俺の方が上だと証明するチャンスなのだ。

「絶対に勝ってやる」

 この、勝負勝てなければ、死んだ方がマシだ。

 俺は、外では人間の頂点に立たなければいけない、男なのだから。



 九条家、昔都市伝説で聞いた事があった。

 世界の頂点に君臨していると、その家族はもれなく天才であり、その上で最高の英才教育を受ける。

 人間として、最高傑作になる為に。

 そんな九条家が、このデスゲームに参戦しているらしい。

 まあ、苗字が九条というだけでたった噂なのだが。

 俺は、外に出ていた。看守長として、やる事があるからだ。

 森は、刑務所を覆い囲む様にある。

 しかも、外は海という、囚人達に有利な親切設計だ。

 逃げられたら終わり。

 なので、対策を今しているのだ。

 簡単だ。俺が見つからない事。

 汽水湖には船が浮かんでいる、それを動かす為の鍵が、この万年筆だ。一度刺し口を確認したが、綺麗に入った。

 動かそうかと思ったが、囚人以外が動かしたら、ペナルティを喰らうので辞めた。

 もう一つ見つかっては、いけない理由がある。

 俺は、看守長室の鍵を持っている事、そこが出口に繋がるのだから。

 だが、看守長にも仕事が割り振られる。それもかなりの量の。それを全て、直ぐに終わらせなければ、隠れられない。

 トラブル解決、書類作業、一週間に一回の夜中の徘徊、他にも色々ある、実に大変だ。

 それを全て終わったら、こうやって隠れて過ごすのだ。

 実に大変だ。寝る時もここだ。最悪の寝心地だ。だが、幸い見つかってはいない様だ。

 奏に会いたい。そう脳裏をよぎった。

 その時、俺は嬉しさが込み上げてきた。俺は、人を苦しめたいという事ではなく、恋人に会いたいという、普通の人間と同じ感情を抱いたのだから。

 それと同時に俺は、悪化しているのか、それとも戻っているのか分からなかなった。

 そもそも、俺は人間であった時間はあっただろうか。

 家族を殺した時より、ずっと前から人間ではなかったのかも知れない。

 黒雨を全員殺し、平然と生き一生バレずに過ごしてきた、俺に、人間であった時間があるか?

 どちらでも良いか、人間になればそれで良いんだ。

 その時、奏を苦しめたい、そんな言葉が一瞬頭に浮かんだ。

「う、嘘だろ?」

 あれだけ愛している奏を、苦しめた時の記憶が蘇った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 笑ってしまった。そんな自分が、酷く辛く、面白かった。

 俺は、人間になんか戻っていないのだ。やはり悪化していたのだ。

 元々人間でないのだから、時間が経つにつれて、悪化するのも至極当然だったのだ。

 胸ポケットの万年筆が視界に入った。

 それで、自分の目を刺す為に持った。だが、万年筆は使わなかった。

 怖かったのだ、痛いのが嫌だから、視界が半分無くなるのは嫌だったから。

 それは、目に刺さる事はなかった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 そんな自分が、苦しくて、情けなくて、無様で面白かった。

 人にやられたらキレる癖に、自分はやる、まるで小学生じゃないか。

 だが、人間と同じ感情を抱いた事は、素直に嬉しかった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 それでも、やっぱり笑いを止める事は、無理だった。

 何度も、人間になる事を諦めた筈なのに、やっぱり諦めきれないのだ。

 あれほど人と接するのが楽しそうにしてる人間が、読書、スポーツ、ゲーム、食事、を楽しめる人間が羨ましのだ。

 俺は、どれも楽しめないのだから。味を感じず、スポーツの楽しさが分からず、読書すらも、人間失格以外つまらなく、その人間失格すらも物足りなく、ゲームすらもつまらない。

 達成感すら感じた事もない。

 人と接する度に、苦しめたいそう思ってしまうのに、会話を純粋に楽しめる筈がないのだ。

 そんな奴が、人間に羨ましむのは至極当然なのだ。近ければ尚更、同じ様な環境で育った筈なのに。

 たった一つ本が、いや、違うか、たった一回の好奇心が俺を狂わせたのだ。

 人を殺した時のどんな音がして、どんな顔をして、どんな感触なのだろうか、どんな血の飛び散り方をするのだろうか、そんな小さな好奇心が、人間じゃない俺を更に、加速させた。後戻りなど出来ないほどに。

 父のたった一言で全てが狂ったのだ。なんでも好きな事をしなさい。この一言で俺は、家族を殺した。その時の顔が、刺した感触、苦しんめた時の顔が、楽しく、面白く、忘れられないのだ。

 だが、その後気付いた。今後の生活どうしようか、幸いお爺ちゃん、お婆ちゃんも含め殺していたので、殺した事を直ぐにバレる事はないと分かっていた。スマホのパスワードも分かっていたので、母親と父親の友人達には、適当に返事しておくと、バレなかった。

 死体は、それぞれの部屋のベット上に置いた。

 幸い、金は二十年は過ごせる程だったので、金には困らなかった。両親は滅多に外に出ないので、近隣から怪しまれる事はなかった。

 仕事も辞めた。

 そこから八年間一生バレなかった。怪しまれもしなかった。その時から、あの快楽が忘れられなかったのだ。

 一度ハマってしまったら抜け出せないのだ。

 依存症それに良く似ているのだ。だが八年年間小学校で人を殺しちゃ駄目だと習ってから、人は殺さなかった。よく頑張ったと思う。

 ただ、あの出来事の所為で俺は悪化したのだ。

 その時、あの出来事とは違う記憶が蘇った。姉さんが、父親に無理矢理服を破られる記憶だ。

 俺は、これがしたいからしてると言いながら、下着姿にしていた。その先も見せられていた。

 気持ち悪かった。俺の中の人間を汚さないで欲しかった。俺を見てる気分だった。自分の快楽為に、他人を利用して、他人の気持ちなんかお構いなしに自分だけ楽しんでいる、なんならまだ俺よりマシだったのかも知れない。

 殺人というのは、この世で最も重い罪なのだから。

 そこで気付いた、俺の中にある筈の人間の心は、とうに廃れてしまっていたのだ。

 だって、こんなにもこのゲームが楽しいと感じるのだから、ここは天国だと、思ってしまうのだから。

 人間の心があったとしても、廃れていると気付いた時の絶望は、今まで一番の絶望だった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 それ故に笑うのは必然だった。

 こんなにも、面白いのだから。

 俺はまた、諦めて、また志して絶望してを繰り返すのだろう。そう思うと、笑いが止まらなかった。

 こういう時つくづく思う、自分は騙せないと。

 俺は、心の底からあの顔と声を楽しんでいるのだから。騙せる筈がないのだ、人間になりたいという、上辺が、本心を騙せる筈がないのだ。騙したいという、本心がないのだから。

 正しいだろうなあと思うだけで、やろうとは思わないのだ。

 ただ、上辺だけでも正しくした方が良いかなって思ったのだ。それが今やっと分かった。

 そこで、一つの疑問が生まれた。

 俺は、本当に奏の事が好きなのか、という疑問が、物語を一通り読んだ事があるから分かる。似た様な状況で好きにならない登場人物は居なかった。

 あの状況で告白する作品もあった。流れに任せてる気がした記憶ある。

 もし、俺がそれが正しいと思ったのだとしたら?間違ってる気がしたのに、告白したのはそういう事なのではないか?

 じゃあ、俺のこの感情はなんなんだ。奏に向けている、この感情はなんなんだ。

 そこで、ふと気付いた、俺が拷問を楽しみにしてる時に良く似ているのだ。

 ああ、そうか、俺は愛した人に裏切られて殺される様を見たかったのだ。

 だから、付き合ったのだ。そんな思考で付き合ったのだ、そんな糞みたいな理由で。

 どこか、腑に落ちた自分が居た。

 もう、そこに苦しいだとか、憎いとか、情けないなどの感情は一切なかった。

 理由はきっと、上辺の俺を自覚しだからだろう。

 笑える、人間になれないと言って、泣いた筈なのに、今思えばもう終わってしまったという、涙だったのかもしれない。

「頭おかしいなあ俺」

 そう呟いて、俺は天を仰いだ。

 すると、白色のワンピースを着た少女が現れた。

「ルーナか、何の用だ?」

「全く、私がわざとあんな子供の真似しないと行けないのよ」

「簡単だよ、演技だってバレない様にだよ、それで何の用?」

 ルーナが、俺に近付いて俺の隣に座る。

「黒雨が、一人で異常な程笑ってるから見に来たの」

「え?嘘だろ?」

「嘘に決まってるでしょ、黒雨の心配なんてする訳ない。本当は、もう直ぐ始まるとだけ、教えてあげる」

「もう直ぐか、このゲーム終わる頃ぐらいだろ?なら、大丈夫だ」

「後、一ヶ月後覚えておいて」

 後一ヶ月か以外と間あるな、一ヶ月後俺は、日本国民全員殺さなければいけない。

 悪役として、殺人鬼として全員、一人残らず、全員殺さなければいけない。

 ああ、楽しみだ。一体どんな顔で、逃げ出すのだろう?

「本当に、楽しそうね」

「それは、ルーナもだろう?」

「まあ、そうだけど」

 一体人が死んだ後で、何が残るのだろうか。

「ルーナって、本当に好きなんだなあ、そういう物語が」

「そりゃね、だって私も黒雨と同じ様に、生きてるの、理想を現実で見たいってのはあるわよ」

「ふーん、数百人のヒーローに俺を殺させるねえ、まあ、勝てるかな?俺に」

「さあね、物語だと、大体勝つけど、けれど人間じゃないしね黒雨は」

「うわ、酷え」

 実際事実だが。

「あんな、頭脳、身体能力、技術、神力しんりょく、持ってる人間が何処に居るのよ」

「神力は、ルーナが渡したのだろう?」

「それは、どうかな?ってか何で神力の下位互換を超能力って言って、このゲームの参加者に渡さないといけなかったの?」

「あー、人は力を手に入れた時、自信が付く、調子乗るんだよ、そんな時にボコボコにしてみたら、面白いに決まってるだろ?」

「最高の悪役ね」

 恐らく皮肉だが、褒め言葉として受け取っておこう。

「ありがと、だから俺を選んだんだろ?悪役対ヒーローの悪役に」

「別に褒めてないわよ」

「それで?決まったか?ヒーローさん方は」

「ええ、大体はね、私が女神ですって言ったら物凄く驚いてたわよ、今頃特訓でもしてんじゃない?」

 だとしたら、そっちの心配はしなくても良さそうだ。

「それにしても、俺の神力の制限大丈夫か?」

「大丈夫よ、自動的に制限されるから」

「本当か?今の所何でも出来るぞ?」

「まあ、確かにねでも、例えば死ねと言えば死ぬとかは、出来ないからそれで、充分でしょ」

 ルーナは、バランスってのを知らないらしい。

「まあ、良いか、それで銃は全員扱えるんだよな?」

「そん訳ないでしょ?このゲームが終わったら、黒雨の体は、銃程度の威力は効かなくするから、喰らうのは神力で威力が底上げされた物だけだから、銃じゃあつまんないでしょ?

 遠くからさ、撃っては逃げて、で終わりじゃない、それに扱える訳ない」

「確かに、つまんないなそれ」

 間近で顔を見れた方が良いだろう。

「そうだ、仮面くれないか?」

「何で?」

「仮面ある方が、悪役ぽいし怖がりやすいだろ?」

 少し、悩んでからルーナは口を開いた。

「どんなのが良い?」

「まず、色は黒の方が良いか、待てよ骸骨?いや、ありきたり過ぎるか。

 もっと、なんか怖くて、ありきたりじゃないやつ。

 なんかない?」

「なんかないって、そっちで考えてよ」

 と、言いつつも考えてくれるらしい。

「パフォメットと、同じ顔の仮面で良い?」

「あの、山羊みたいな?」

「そう、あれ悪魔の象徴みたいな奴でしょ?」

 ありきたりな気もするが、まあ良いだろう。

「それじゃあ、はいこれ」

 と、言って、山羊の様な顔の仮面を、空中から出して、俺に渡した。全体的に黒色だったので、山羊がどうかは怪しいが。

「こりゃ、怖いな」

「でしょ?我ながら、結構良い出来だと思うわ」

 俺は仮面を付ける。紐などはなく、ただ顔に合わせるだけで付いた。

「どう?」

「あー、怖いけど服装があれだわ、全身黒で統一させたら良いかも」

「なるほどな、どんな服が良い?」

 正直服については、全く知らないので、名前もほとんど分からない。

「えー、それに合うのでしょ?パーカーに黒い楽なズボンとかで良いんじゃない?

 後、黒い翼も生やした方が良いよね?」

「確かに、そっちの方が怖いか、じゃあいつでも、翼は収納もしくは、消せる様にしてくれよ」

「分かった、それならヒーロー達の防具統一させて、見た目を良くした方が良いよね、そっちの方が感じでる」

 なるほど、そうしたら、更に仲間意識が芽生えて、もっと面白くなりそうだ。

「なら、危険を察知したら自動的に着る防具にしないか?もしくは、着たいと思った時に着る様にして、そこに、飛行機能も付けてさ、更に防具としての機能も高性能ってのはどう?」

「おお、良いねそれ、そしたら頭から徐々に、着るってのどう?」

「それで良いかもな、見た目はどうする?」

「うーん、全体的に黒雨とは、対照的に白色にしてさ、頭の部分にさ飛び出してる何かを付けて、目の部分を赤色で光らせて、近未来な感じで言ったら良くない?」

 大体、頭に浮かんできた。

「なるほど、確かに良いな、そしたら武器も作ったらどうだ?それぞれの、神力に合わせてさ」

「確かに、良いね」

 これは、かなり調子に乗りそうだ。格好良ければ、強いと認識する奴も居るだろう。

 実際強くなるが。

 その時、殺した時の顔が楽しみで仕方なかった。



 十一日目、ヒント解読会が始まった。

「幻想曲風ソナタって月光って呼ばれてるなら、それが関係してるんじゃない?」

 何故月光と言われているのかを、思い出す。

「確か、月光って呼ばれてる理由は、当時有名だった詩人が、ルツェルンの湖の月光が揺れる湖面にうかぶ小舟のようだ、って言ったから始まったんだ」

「つまり?」

 と、さぞ不思議そうに言った。

「監獄の外には汽水湖がある、これも湖と言える、ここまで言えば分かるだろう?」

「そうか、そこに船があるんだな?」

 と、五番が言ったので俺は頷いた。

「つまり、俺達は船で脱獄する」

 すると、辺りからおお、など歓喜の声が上がった。

「ならさ、これは?」

 と言って、黒雨と書かれている画面を見せた。

「確証はないからな?多分黒雨くろさめの方で、そいつが帽子と、万年筆を待ってるって意味だと思う」

「じゃあ、帽子の74っていう数字の意味は?」

 これは、言わない方が得策だろう。無駄に怖がらせる必要はない。

「さあな」

「黒雨の、スコアの数字だよ」

 と、俺に被せる様に五番が言った。

 こいつも、知っていたのだ。当然辺りは困惑した。

「七十四?嘘でしょ?」

「それは、二番も知ってたでしょ?」

 五番に向けられた視線が、一気にこっちに向いた。

「慌てると思ったから、言わなかったんだよ」

「って事は確証はあったって事?」

 見るからに、士気が下がっていたが、今ので少しマシになった。

「まあ、そうだよ、恐らく万年筆は最初の、箱の中身だよ」

「これがヒントか」

 咄嗟に距離を取る。まるで、気付かなかった。そいつは、あの黒雨だった。

 すると、十番が超能力を使い、万年筆を取っていた。

「それで?今、ヒントを解いてるのか?」

「ああ、悪いか?」

「それで、俺の万年筆が写ってるのか、一つ教えてといてやるよ、俺の万年筆をお前らじゃ取れない」

 丁度撮り終わったらしい。

「俺はもうそろ戻るか」

 そう言って、戻った。

「どうだ?」

 と、俺が言うと、十番が万年筆を、見せた。

「流石だな、対象の服とかに触れなければ、バレない能力を存分に使ってるな」

「まあね」

「あんな、自信満々だったのに、取られてやがる」

 と、誰かが言うと辺りから、笑いが巻き起こった。

「絶対それの中に、ヒントとか入ってるよ」

 十番が頷くと、分解し始めた。中に入ってたのは、いつものヒントだった。

「とりあえず、ヒントを写そう」

 ヒントを写すと、鍵と書かれていた。

「鍵?これの事?」

 と、言って十番は紙をを持ち上げる。

 そこで、一つの考えが思い付いた。

「待てよ、この紙はどこから出てきた?」

「万年筆?」

「なら、万年筆の可能性が高くないか?」

 俺が、そう言うとキーボルダーについている鍵を一つ十番が見せた。

「もしかしたら、これかも」

「それは?」

「なんか、腰に掛けてあった」

 と、雑過ぎる紹介を入れた。

「誰の?」

 そんなの決まっているだろうに。

「私の」

 訳が分からなかった。

「わざと取らせたって事か?」

 そこで、一つ思い付いた。

「怪人二十面相は、変装が得意、そして何かを盗む、スパイって事じゃないか?看守に変装して、俺達の手助けをする。

 黒雨がその役割なんじゃないか?」

 俺は、最悪だと思った。何故ならこのゲームでは、どっちが上かなど証明出来ないからだ。

 しかも、こいつらの士気が一気に上がったのだ。俺より、黒雨が上だとこいつらは、思ってる可能性がある。

 それが堪らなく最悪だった。

「もしかして、それ看守長の部屋の鍵じゃないか?」

「なら、今夜行ってみないか?」

 そのまま、今夜行く事になった。



 看守長の部屋らしき所へ一人で入ると、机、椅子、があった。窓から、月光のみが唯一の光だった。

「バレる様子はないな」

 扉を開ける際、音が鳴ったが幸い、誰かが来る事もなかった。

 机の上に乗ってるのは、一つの紙だった。

「は?」

 思わず、声が洩れた。

 紙を持ち上げる。

 紙にはこう書いていた。

 看守こそが、悪だ。

 その言葉の意味を理解するのに、あまり時間は要さなかった。怪人二十面相は、作品の中で悪役として、書かれている。

 つまり、裏切り者は看守の中ではなく、囚人の中に居たのだ。

 変装、正義に変装していたのだ。怪人二十面相の様に、一体誰が?

 そこで、一つだけ思い付いた。二十番?単純な考えだった。二十だからだ。

 待てよ、一番あいつの可能性は?全く喋らないし、輪に入ってこないのは、バレない様にする為なのでは?

 看守を殺したのも、その理由か?いや、十番の可能性もある、鍵は信用を得る為の罠?

 そもそも、何故ここにこんな物が?消すなり隠すなり出来る筈だ。

「待てよ、これ自体が罠?ヒントならば、QRコードがある筈だ」

 それが、表してあるのは、これは罠だという事だ。

 だが、これは手書きに全く見えない。この中にパソコンでもあるのか?

 辺りを見渡しても、隠し場所や、パソコンの類は見つからなかった。

 看守寮をいくら探しても見つからなかった事から、無いと考えても良いだろう。

「超能力の類か?」

 俺は、自分の超能力を使った。俺の超能力は、超能力の痕跡が分かる。

 しかし、結果は期待した物とは違い、全く痕跡がなかった。

「つまり、これは運営が用意した、ヒントなのか?」

 恐らく、黒雨時は罠として残した様だが、俺の超能力は予想外だったらしい。

「ハハハハハハ」

 思わず笑みが溢れた。勝ったのだ、黒雨時に、だが、これからだ。

 しかし、囚人の中に、裏切り者が居るという事だ。

 待てよ、バレるの承知でわざと疑心暗鬼に、させる為に置いたままにしたのか?

「候補は、四人か、チッ」

 俺は、舌打ちをしながら、紙をグシャグシャに丸めた。ただの八つ当たりだ。

 四人全員裏切り者の可能性もある、また、三人、二人、一人の可能性もある。

 ゴミの分際で、掻き回してきやがる。

「糞が」

 一体どんな手段で、裏切り者は看守と繋がってるんだ?

 いつだ?いつ情報を渡してるんだ?

 毎日か?二日に一回か?

「情報を一旦整理しよう」

 俺は、ため息を吐いた。近くにあった、座り心地が良さそうな、椅子に座る。

 もしかして、あの帽子か?

 俺はタブレットを取る。

 74待てよ、七十四と、他に七と四とも読める。つまりだ、これは看守長と繋がってるのが、七番と四番だと言うことか?

 しかし、七番と四番は疑わしい行動は一切無かった。

 考え過ぎか?単純に、七十四として読むのが正解か?だが、こうして見ると、7と4に妙な間がある。

 それも、とても微妙な。どちらでも、取れる妙な間が。

「マジで、運営の奴ら良い性格してんな」

 丸めた紙を、更に小さく丸める。

 とりあえず、考えても仕方ない為、机の引き出しを開ける。

 中にあったのは、本だった。

「人間失格?」

 何故、ここに?

 俺は、人間失格の栞が挟んでいたページを、開いた。そこには、こう書かれていた。

 女の人は死にました。そうして、自分は生き残りました。

 そのたった一文以外に何も、書かれていなかった。他のページを、開こうが、全て白紙だった。一体、これが何を意味するのか、俺には、全く分からなかった。

 俺は、更に怒りが込み上げてきた。自分に解決出来ない、謎が出てきたのだ。

 全くだ、考えれば分かりそうじゃない、全く分からないんだ。それが、堪らなく悔しくかった。

「糞が!どうしてだ?どうしてこうなった?俺は、九条家の筈、汚点にならない為に、その為に一番である必要があるんだ」

 決してこんな事で、止まって良い訳がない。

 一旦、この謎を諦めて、もう一つ引き出しを開けた。

 そこには、タブレットがあった。

 電源を点けて、映し出されたのは、パスワードと書かれ、数字が書かれていた。

 囚人とも書かれていた。

 それぞれの、番号が関係ありそうだ。

 合計か、それか全員のスコアを足した数字か、どちらかだな。

 もし、番号を足した数であれば、496か。

「一度やってみるか?」

 いや、間違えたら警報が鳴るかも知れない。試すのは、よくないだろう。

 ここに来てから、失敗しかしてないのだ、これ以上失敗は許されない。

 絶対にだ。



「ルーナ、頭の部分を無くしてくれないか?」

 ルーナは、さぞ不思議そうな顔を浮かべた。

「なんで?」

「だって、顔が見れないだろ?」

「なるほど、ならそうするわ、渡してなかったから良かった。あと、あの仮面視界大丈夫だった?」

 俺は、頷いた。

「大丈夫だ、仮面着けてる気がしなかったよ」

「そう、良かった」

 神様も、心配事はあるらしい。

「ルーナ、俺は最近分かったんだけど、俺は人間の心を持っていないらしい」

 すると、ルーナは呆れた顔を浮かべた。

「はあ?今頃?人の心あったら、あんな事出来るわけないでしょ?」

「そうなんだよ、それで気付いたんだ、俺は今までの記憶がほとんど無いって事に、でも、楽しい時間は覚えてるんだ。

 それでも、ルーナとの会話も鮮明に覚えてる」

「え?何それきも」

 と、ルーナが少し、俺から離れた。

「最後まで聞けよ、それで俺は、ルーナとの会話を楽しんでるって訳だろう?

 なら、何故か?簡単な事だったんだ。俺は、本心で会話出来てからだ」

「それがなんになるの?」

 と、ルーナは困惑した顔を見せた。

「つまり、俺は、ルーナの事を友達だと思ってたんだよ」

「はあ?友達?勘違いさせないでよ」

 と、ルーナの口調が、何故か、怒った様な口調に変わった。

「凄いよな?人の心を持ってないのに、友達だ、どんな理屈だよ」

「それはそうね、私も黒雨は友達だと思うわ」

「そうか、ありがとう」

 友達か、そんな訳がない、俺は神すらも苦しめたいのだから。

「そうそう、一つ教えてあげる、黒雨は生まれた時は、人の心を持ってたよ。

 生まれた時はね」

「知ってるよ、ルーナが消したんだろ?」

「そう、いつ気付いたの?」

「いつ?今」

 単純な事だ、あんな事を言うのはそういう事だろう。

「流石にテンプレ過ぎた?」

「ああ、だなバレバレだ」

 二次元の見過ぎだろう、ルーナは、直ぐこんな事をしてくる。

 厨二病みたいな感じだろう。

「それより、そろそろ脱獄してくるんじゃない?」

「ああ、多分なそろそろ情報も入ってくるだろうな」

 俺は、ルーナの目を見て、どう苦しめるかを考える。

「そうそう、黒雨の力は神の力だから、それしっかり覚えといてね?黒雨」

 俺が苦笑すると、ルーナが憎たらしい笑みを、浮かべた。

「俺やっぱり、ルーナと話してると楽しいわ」

「そう?私にはそう見えないけどね」

 やはり、バレてる様だ。

「そういえば、神として人間にこんな事して良いのか?」

「ええ、別に人間だけの神じゃないしね、それにいつでも、人間なんて作れるしね」

「なんか、物みたいだな」

「そりゃそうでしょ、人間が動物を育てたり、食べたり、飼ったりするのと同じだよ、それに作れる、ただの物だよ。

 それに、今やってる事は、人間がしてる事と、何ら変わらないよ」

「どうかな、動物を、こんな扱いしないと思うけど」

「私が神なのに、黒雨が知ってる情報知らないと思う?

 逆に知らない事があると思う?」

「無いね、神だろう?出来ない事がある筈がない」

 すると、ルーナが笑った。

「残念、出来ない事もあります。それは、黒雨の心を読む事」

 俺の心を読む事?

「何故?」

「黒雨は、私が作った訳ではないから」

 訳が分からない。

「どういう事だ?それなら俺以外にも居るだろう?」

「違うわよ、黒雨は元々生まれる筈のない、人間だったのよ、それがあの糞野郎が、何故か生まれさせた、唯一の存在だから、私が作ってる訳ではないのよ。

 今は、生き物全て、私が生まれさせてるけど、黒雨は例外だった」

 糞野郎ねえ、恐らくルーナと同等もしくは、それ以上の力を持った、神か。

「それが関係あるか?俺は人間だろ?神力使えば直ぐに、読めるだろ」

「あるわよ、私達神には制約があって、自分が作った物以外は、神力を使えないのよ」

「じゃあ、俺に神力を使って力をくれたのは何だ?」

 ルーナがため息を吐いた。

「私は、神力を一切使ってないわよ。黒雨のその力は私が、渡した訳ではないわよ。

 その力は、もう一人の神ラーナ正真正銘の糞野郎が渡した力よ」

 糞野郎か、ルーナがこれ程までに嫌悪を示すのなら、かなり嫌な奴らしい。

 少し会ってみたい気もする。

「もしかして、そいつが俺を生んだ?」

 ルーナは頷いて、口を開いた。

「正解、あいつが生んだ人間が黒雨よ、そしてその狂気じみた身体能力も、あいつが授けた」

「は?それは、俺がこの神力を使って、鍛えた筈だが」

「分かってないわね。普通の人間ならその力を使えば、死ぬのよ。

 普通、走って銃弾避けるなんて事出来ないからね?

 理由は、神力に耐えれる様に鍛えられたからそうなってるのよ、鍛えて更に身体能力を向上させたのは、合ってるけど。

 それを耐えれる様にしたのは、ラーナよ。

 つまり、その身体能力は、ラーナがくれたのと同じよ」

 なるほど、なら、何故俺は生まれさせられたんだ?神力を分け与えてまで、何故だ?

 そう考えてると、ルーナが消えた。

 いつもの事なので、気にはしないが。

「俺を生む理由か」

 何故、接触してこなかったんだ?何か、理由がある筈。 

 もしかして、ルーナが、俺の人間の心を消したのと理由と関係あるのか?

 人柄が、分からないので、思考が読めない。

「とりあえず、保留だな」



 目が覚めると、そこは、自分の部屋だった。

「は?」

 俺は、確かにあのゲームに参加していた筈だ。

 重い体を何とか持ち上げて、ベットから下りる。

 とりあえず、警戒しながらも、ドアを開けて、部屋から出る。

「いつもの風景だな」

「欲海様、お食事の時間です」

 聞き慣れた声、見慣れた顔がそこにはあった。

 戻って来てしまったのだ。何一つ成し遂げないまま。

「分かった、食べるよ」

 俺は服も着替えずに、食堂へ向かった。


 食堂に着くと、家族は誰一人居なかった。

 居るのは、使用人だけ、いつもの事だ。

 スマホを見ながら、座った。

「欲海様、お行儀が悪いので、食事中のスマホはお辞めください」

 それを無視して、人間失格と検索する。

 今では、著作権が切れてネットで読めるので、読みながら、食事を口に運ぶ。

「欲海様、お辞めください、九条家としての自覚を」

「自覚?誰も居ないし良いだろ?それに、九条家の中では失敗作なんだから、一分一秒も無駄に出来ない。

 食事中調べた方が、効率が良いだろう?」

「いけません、普段から行儀良くしなければ、いざという時、滲み出る行儀の悪さが見えるのです」

「ふーん、なら大丈夫だな、俺は、いざという時なんて、作る気ないから」

 使用人がため息を吐いて、引き下がった。

 頂点に立たなければいけない、それは分かっている。

 けれど、この家に来ると、どうしても、やる気が失せる。

 デスゲームの時は、あれ程までに必死だったと言うのに。

 一体何がそうさせるのか。

 そうか、外には沢山俺より下の奴が居るから、大丈夫やれると、やらなければと、思うのだ。

 この家には、俺より下など居ないのだ。使用人含め、全員。

 圧倒的な実力差で俺は、やる気が失せるのだ。

 無理だと悟るのだ。実力差があり過ぎる為に。

 一番下、それは驚く程にやる気を削がれるのだ。一種の絶望だろう。

 やる気が無い理由が、あるとすれば、九条家が一番ならそれで良いのかも知れない。

 それ故に、俺は外では頂点であり続ける事に必死なのかも知れない。九条家の汚点にならない為に。

 俺はため息を吐いた。

 考えがまとまらない、恐らく疲れてるのだろう。

 そんな時人間失格を読む手が、止まった、いや、止まってしまった。

 二つの文が、俺を止まらせたのだ。

 そこで考えたのは、道化でした。

 それは、自分の、人間に対して最後の求愛でした。

 このたった、二つの文で、俺は止まってしまったのだ。

 道化、求愛、この二つの言葉が酷く印象に残った。

 何故か、自分に足りなかった物の様に感じた。

 そんな筈ないのに、九条家の人間で、九条家の中では、下でも、人間としては完璧に近い筈だ。

 足りない物が、こんな物の筈がない。

 駄目だな、最近疲れてる所為で、頭が回らない。

 九条家としてあるまじき行為だな。

 止まっていた、読む手を進める。

 俺には、虚しさだけが残っていた。



 何故、俺はここまで、人間失格に執着するのだろう。

 たった一冊に、ここまで執着して、たった一冊に悩んで、無駄なのに作者の気持ちを理解しようとしたり。

 まさに、時間の無駄だろう。

「そんなの分かってるのになあ」

 何度も考えて、同じ結論に至ったり、違う結論になったりと、やっていて自分でも分からなくなってくる。

 人を、惹きつける何かがあのだ、この強烈なタイトルだからだろうか?

 人間失格の表紙を触る。

 特に、感じる事はなかった。

 何度も読んで、考えたこの本は、もうボロボロだった。

 だが、人間失格は、書店に行けばあるので気にする事ではない。初版でもないのだから。

 それに、人間失格は、もう一冊あるから別にボロボロでも良いだろう。

 それなのに、今はボロボロの一冊を読んでいた。不思議と、このボロボロの方を選んでしまうのだ。

 一体ボロボロの何が良いのやら。と、自分を不思議に思いながら、人間失格を読み始めた。


 気付けば、一時間半程経っていた。

 ボロボロの人間失格を、机の上に置いた。

「やっぱり、笑えないな」

 飽きたのだろうと、結論は前に出た筈なのだが、それでも人間失格は読んでしまうのだ。

 夢中になって読んでしまうのだ。物足りなさを感じながら。

 自分でも、よく分からなかった。俺は、何の為に人間失格を読んで、悩むのか。

「無意味だな。

 ……俺はこの本に囚われているのかも知れないな」

 俺は、十二年前に読んだ、この本に囚われているのだ。

 どうしようもないほどに。



 圧巻、その二文字が頭に浮かんだ。

 人間失格、初めてちゃんと読んだ。

 この本を読んでいて、何度も、何度も、俺みたいだ、と思ってしまった。

 そうなってはいけないのに、こんな人生を送ってはいけないのに。

 全く違う人生の筈なのに、俺みたいだと思ってしまうのだ。

 もう、読みたくない。俺の人生を見てる様で、読みたくなかった。

 人生過ぎる、人生の苦痛を、詰めた作品の様に思えた。

 人生の全てが、ここに書かれていた気がする。

 読み直す、そんな気力が湧かない程に、辛かった。でも、これだけは言える。今まで読んできた本の中で、最も心に残ったと。

 その時、ドアが開いて一人の男が現れた。

「デスゲーム再開だ、九条」

 どうやら、時間らしい。一体何故、この屋敷に戻らせたのか。

 戻りたいと、思わせる為だろうか。

 俺は、歩いてドアまで近寄ると、気を失った。



 目が覚めると、牢屋のベットの上に居た。戻ってきたか、この監獄に。

 上体を上げると、前とは違った物があった。それは、一つの女の死体だった。檻の外に惨たらしく死んでいた。

「黒崎さん?」

 どうやら、この死体の名前は黒崎と言うらしい。

「人を呼ばないと!」

 と、言って、焦りながら、どこかへ走って行った。

「家に帰りたい」

 と、壁の穴から、弱々しい声が聞こえてきた。

 どうやら、全員家に戻ったらしい。

 すると、足音が聞こえてきた。誰かが来た様だ。

「黒崎さんが、亡くなったのね?」

「はい、牢屋の前で」

 帝園と、一人の女が小走りで、死体に向かった。

「酷い、こんな死体どうやったらなるの?」

「それは俺が殺した」

 その声と共に、帽子を被った一人の男が現れた。

「な、何で?黒雨さん」

 すると、黒雨は左手で笑っている口元を覆った。

「答えて、黒雨さん」

「簡単だよ、我慢の限界だった。それだけ」

「は?」

 と、誰かが声を洩らした。

「我慢の限界?そんな理由が通るとでも?」

「ああ、別に看守が看守を殺しちゃ、駄目だというルールはないだろう?」

 帝園が立ち上がり、黒雨の襟を掴んだ。

「黒雨、あなた彼氏でしょう?何故こんな事をしたの?」

「彼氏?確かにそうだな?」

 帝園の目付きが、鋭くなった。

「なら!何で、こんな事を!」

 黒雨が、襟を掴んでいた、手を掴んで離す。

「何で?簡単だよ、俺が付き合ったのは。この黒崎を殺した時の、反応を見たいからだよ。彼氏に裏切られた時の顔が見たかったんだよ」

 帝園が、黒雨から手を離した。

「人として最低よ、黒雨」

「知ってるよ、そんなの、昔からずっと」

「なら、何故正そうとしないの?」

「逆に聞くけど、正せると思うのか?」

「それは、努力してないからでしょ?」

「俺の人生を知ってるのか?知った様な口聞くな、辞める努力するだけで、辞めれる訳じゃない」

 一瞬帝園が怯んだが、口を開いた。

「努力すれば、人は変われる、変われないのは本気で変わりたいと思ってないからよ」

「そうかもな」

「なら」と、帝園の言葉に被せて、黒雨が口を開いた。

「けれど、変わりたいと、どうしても思えないなら、人は変われない、我慢する事は出来るかもしれないけど」

「どうしてもって、何故正しい事をしないのよ!」

「人生楽しみたいだろ?楽しんで何が悪い?」

「自分の為に、他人を犠牲にしてるのよ?悪いに決まってるでしょ?」

「悪い、悪いねえ、なら帝園は本当に自分の為に、他人を犠牲にした事をないんだな?」

 答えは沈黙だった。

「そうだよな?このデスゲームで、生き残る為に、他人を犠牲にしたもんな?」

「で、でも無駄な犠牲と、必要な犠牲は違う!」

「変わらないだろ、犠牲は、犠牲だ。

 帝園は、今後の人生を謳歌する為に犠牲して、俺は楽しむ為に、犠牲にした。何が違うんだ?」

 何も違わないだろう。そこに咎める資格なんて、ありゃしないだろう。

「……それは、このゲームに参加してからよ!」

 そんなのただの言い訳だ。気持ち悪い。

 自分を正当化しようとする、ただの言い訳だ。人間らしいな。

「それなら、俺もそうだ、俺もここに来なければこんな事は、してない」

 帝園が動揺している。

「……」

 答えは沈黙か、まあ、そうだろうな。言い返せる筈がない。

 明らかに、自分を棚に上げてるのだから。

「別に悪くないだろう?なら、その死体は放っておいて、仕事してくれ」

 そう言って、俺の牢屋のドアを開いた。

「さあ、食事の時間だ」

 俺は、ベットから降りて、牢屋の外に出る。

「全員、付いてこい」

 大人しく付いていくか。



 今回も不味いパンを口に運ぶ。

「美味しくねえ」

 この前の情報は、今夜言う事にしよう。今は言いたくない。

 全員元気がない。帰りたいと思ってしまったからだろう。

 家に帰らせたのはこれが狙いか。運営はとことん俺達を苦しめたいらしい。本当に良い性格してる。

「あの死体は、何だってんだ、気味が悪い。イカれてるだろあの男」

 と、声が聞こえた。

 まあ、そりゃそうだろうな、内臓がぐちゃぐちゃにされて、四肢が胴体から離され、更にその四肢さえも、沢山の傷跡があったのだから。

 それをした、黒雨はイカれてるとしか言い様がないだろう。

 それとは別に、看守が一人減ったと喜ぶ奴も居た。普通と言えば普通なのかも知れない。

「ここから、どうすべきか」

 俺は不味いパンを食べながら、考える。

 人間失格のあの、一文を考える。

 単純に考えたら、男女と一緒に海に飛び降りたら、男が生き残るって事だろう。

 だが、そんな単純じゃないだろう。もし、人間失格に忠実ならば、愛し合ってなければいけないだろう。

 恐らくどっちかだろう。何故こんな謎をあの時、解けないと思ったのだろうか。ここまで、簡単な筈なのに。焦っていたからなのか、それとも他の何かがあったのか。

 俺は、不思議に思いながら、考える。どうやったら、俺が生き残って頂点に立てるかを。

 その為に、このゲームの全てを理解しなければいけない。

「何か、違和感を感じる」

 違和感、それが唯一の不安要素だ。

 その違和感を解消するのが、当分の目的だろう。



 番号、それが一番の問題だ。どうすべきか。

 何桁かも分からない、今までのヒントの中で、分かるかも知れないので、見直す事にしよう。

「数字か、やっぱこれだけだよな」

 と言って、怪人二十面相と、帽子の画面をスライドして交互に写した。

「そうよね」

 さて、どうしたものか。他にヒントは、あるのだろうか。

「他にQRコードあるのか?」

 壁とかが、QRコード模様になってたりしないか?

 と思い、辺りを見渡す。特にそれっぽいのはなさそうだ。一応、外に出て、壁を確認しよう。

「外に出る?」

「ああ」

 俺は、十番の問いに頷いた。

 俺は、牢屋の鍵を使って外に出る。

 外に出て、壁を見渡しつつ、食堂に向かう。


 食堂に着いたが、特にそれっぽいのはなかった。

 他に何かあるのだろうか。

「見つからないな」

 いくら探しても、見つからない。

「本当に、あるの?」

「ないと困る」

 その時、足音が聞こえた。どうやら、食堂に向かっているらしい。

「十番こっちに来い」

 俺は、十番と一緒に、食堂の中にある鍵必要なドアを開けて、中に入る。

 幸い、二人だけだったので、他の囚人が居て見つかる事はない。

「あー、眠い、何でこんな夜中まで、仕事しなきゃいけないのやら」

 と、小言が看守から聞こえた。

「仕方ないだろ?黒雨の命令なんだから、それに、お前も納得してんだろ?」

「まあ、そうだけどさ」

 二人か、やはり隠れて正解だった様だ。

「折角だ、この部屋を調べよう」

「そうだね」

 十番が、左に行き、俺は真っ直ぐ行く。部屋は、厨房の様な場所だった。

 音を立てない様に、探す。


 探して気付いた、食材が一つもなかった。厨房ではないのか?もしくは、ここでは作らないからか?

 何故だ?この監獄は完璧と言って良いほど、監獄らしい。

 それが、こんな所に食材を置かない様な事をするか?監獄に食材がないなんてあり得るのか?

 そんな事で、予算をケチる奴等とは思えない。つまり、ここにはどうしても、食材を置けない理由があった筈だ。

「……それは何だ?」

「どうしたの?二番」

「ああ、ここには一つも食材がない理由を考えてた所だ」

「確かに」

 そう言って、口元に指を置いた。

 食材を切らしたのか?それはない、ここで料理されてる痕跡がない。

 と、可能性があるのから、順番に自問自答する。

 自分に訊いて、否定してを繰り返す。

「……誰か減らした?」

 そんな事しても、意味がないと、言おうとした時、一つ考えが浮かんだ。

 もし、減らさなければ、行けない何かがあったとしたら?

 重さ?何故、重さが必要になったのか。

「エレベーター?」

 俺は、走って食品用エレベーターの中に入った。

 降下ボタンが中にあったので、降下ボタンを押す。

「重さが足りません」

「ビンゴ!」

「二番何か分かったの?」

 俺は、十番の問いに頷いた。

「流石、二番!」

 だが、問題がある、重さをどうやって稼ぐか。

「待てよ?居るじゃないか、食材なんかよりよっぽど重い奴が三十一人」

 そういう事か、一応二人で乗ってみるか。

「こっちに来てくれ」

「分かったわ」

 十番がのったのを確認して、降下ボタンを押す。

「降下します」

 意外とすんなり行けた。二人で十分だったらしい。


 下に着くと、また厨房の様な部屋だった。

 だが、先程とは違い、そこには沢山の腕や足や頭、胴体があった。

 お世辞でも綺麗とは言えない程に、荒れていた。

「な、何これ」

 部屋が暗く、一層怖さを増していた。

「ここは、一体何が起こったんだ?」

 俺は、警戒しつつ、中に入る。

 幸い何かが起こる事はなかった。

「もしかして、これって人肉を提供してるじゃない?」

「多分違う、それならもっと、綺麗な筈だ」

 そうだよな?人肉を提供してるなんて、そんな訳がない。

「なるほど、ならこれは殺人事件って事よね?」

 ゆっくり進んで、調べる。

「ここになければ、ここの外か」


 ここも、特に欲しい物はなかった。

「ここを出るぞ、十番」

 外に出ると、そこは、狭い小部屋で一つのQRコードが、壁に映し出されていた。

「これを読み取れば良いのよね?」

 俺は、腰からタブレットを取り、QRコードを読み取る。

 すると、一本の動画が映し出された。

 そこには、496と書かれた紙があった。

 恐らくパスワードだが、一応再生しよう。

「これが、パスワードだ。そして、人間、失格の者のみだ」

 そこで、動画は終わった。

 人間、失格の者のみ?とりあえず考えるのは、後回しだ。

「一旦戻ろう」

 俺は、部屋に戻るとそこには、切れ味が悪そうな、刀が何本もあった。そして、大きなゴミ箱があった。

 先程までは、無かった筈だ。まさか!?

「重さを軽くしろって事か?」

「え?それって!?」

「まだ分からない、とりあえず、乗ってみるぞ」

 だが、そんな事はありもしなかった。

「重過ぎます」

 これで、俺達の腕や足を斬れって事か。

「う、嘘でしょ?」

 ここに、食材がなかった理由は、そういう事か。

「やるしかない、このまま餓死するよりかはマシだ」

 俺は、歩いて刀を取る。

「ほら、十番が、俺の腕を斬れ」

 俺は、刀を十番に投げる。上手く十番がキャチする。

「ねえ、もし二番の腕で足りなかったどうするの?」

「そりゃあ、十番の腕を斬るしかないだろ」

「そっか、そうだよね」

 すると、こっちに寄ってきて、刀を構える。

「甘いな」

 俺は、十番の見えない筈の刀を、刀で防いだ。

 俺の超能力が、なければ死んでいただろう。

「甘いのは、そっちでしょ!」

 十番が、一度刀を離してもう一つの刀を拾い、切り掛かってくる。

 俺は頭をずらして、投げられた刀を避ける。

「体全体を消して、そこから刀を投げるか、良い作戦なんじゃないか?」

 俺は、走って距離を詰める。俺の超能力で、場所はバレバレだ。

 刀は右側からか。

 俺は、見事に防ぐ。

「チッ、流石ね」

 俺は、刀から左手を離して、十番の襟を掴もうとするが、距離を取られる。

「逃げてばっかか?」

 と、煽るがまた幻を残して、消した。

「だから、バレバレだって」

 俺は、十番が居る筈の所へ刀を投げる。

 それと、刀が、十番を刺すと同時に、刀を振る。

 だが、俺の刀は空を斬った。

「は?」

 確かに、ここに超能力を使われた痕跡が。

 まさか!

 俺は急いで、振り向いて十番の、振り下ろされる刀を防ぐ。

「まさか、幻に化けてたとはな」

「良い作戦でしょ?」

 すると、また幻らしき物を残して消えた。

 一応、幻らしき物を刀で斬っておく。つまり、場所はあそこか。

 走って切り掛かる。たが、防がれる。俺は蹴りを入れる。守れず、刀を守る力が弱まった。

 十番を床に押し付ける。

 俺は、十番の腕を斬り落とそうとする。

「ああああ※※ああ※あ※ああ!!」

 一発で斬れず、ギコギコしながら、腕を斬り落としていく。

「あああああ※※※ああ※ああああ※!!」

「安心しろ、殺しはしない」

 部屋に悲鳴だけが響いた。


 足と、腕を一本づつで足りた。出血しているが、出来る限りの事をしてるので、十分は持つだろう。

「ど、どうして私を生かしたの?私は、殺そうとしたのに」

「どうしてか、簡単だ。今十番の様な人を失うのは辛い」

 脱獄の際に、十番の超能力はかなり使えるだろう。

「そう、でもこれ助かるの?」

「分からない」

 もし、あの厨房に何かあれば助かるだろう。

 その時、扉が開いた。目の前の机の上に、注射器があった。

「これか?」

 俺は、持って十番に注射する。

 すると、徐々に足と、腕が生えた。

「な、何これ、生えた?ど、どうなって」

「良かったな、とりあえず戻るぞ」

 俺は、十番と一緒に、牢屋に戻る。



 牢屋に戻ると、一番が待っていた。

「どうだった?」

 これは、情報を看守を渡す気なのか?

「内緒だ、信用出来ない」

「そうか、まあ良いよ」

 そう言って、一番が自分の牢屋に戻った。

「なんか、意外とすんなり受け入れたね」

「ああ、そうだな」

 それがまた、怪しかった。



「思ったより、楽しくなかったな」

 奏を殺す時、奏はどこか嬉しそうだった。あれの所為で楽しさが軽減した。

 俺の勘違いかもしれないが。

 やはり、俺は悲しさを一つも感じなかった。

 奏は、もう生き返らないというのに、彼女を失ったのに、悲しさなんて微塵も感じなかった。

 罪悪感も感じる訳がなかった。

 俺は、草の上に座り、後ろの壁に背中を預ける。

「次はどんな方法で、誰を苦しめようか」

 ああ、楽しみだ。

 最近は、想像するだけでも楽しい。昔は、想像した事はあっても、楽しくなかったのに。

 リアルだからか?最近は、かなりやってるしな。想像しやすいのかもしれない。

 そんな事を、考えてると、前方から黒色の刀が投げられた。それを上手くキャチする。

「どう?黒雨に合ってるでしょ?」

「ルーナか、投げるなよ、危ないだろ?」

「死んでも、生き返らせるから大丈夫でしょ」

 そんな横暴な事が神には、許されるらしい。

「で?どうなの?」

 この刀は、本当に刀なのだろうか。

 黒色だけしか、色がないが。とりあえず、使ってみるか。

 俺は、刀を振ってみて確信した。

「最高だ、俺に完璧に合ってる」

「そう、良かった」

 この刀は、俺の為だけに作られたのだろう。

「それで?何でこんな刀を作ったんだ?」

「あった方が、面白いかなって」

 確かに、あった方が戦闘が楽になるのは、間違いないだろう。

「そうか」

 俺は、立ち上がって刀をルーナに返す。

「何で、私に返すのよ。自分で持ってれば良いでしょ?」

「ルーナが持ってた方が、安心かなって」

「まあ、良いわ」

 ルーナが受け取って、刀が消えた。

「それで?これだけじゃないんだろ?」

「ええ、要件は簡単よ。黒雨、あなたは、救われない」

「救われない?」

「それだけよ」

 そう言って、ルーナが消えた。救われないとは?一体なんなのか、心当たりが無い。

 少し、考えても分からない。

 いや、待てよ。そうか、そういう事か、とことんルーナは、二次元が好きらしい。

 俺が、救われようとしてると、勘違いしてるのか。悪役がそんな事もあるしな、だが今回はないと言いたいらしい。

 だが、俺からしたら、そんなのどうでもいい、俺が楽しければそれで。



 脱獄の日が、近付いてきた。後三日後に脱獄する予定だ。

 作戦会議の時は、怪しい奴等は、参加していないので。恐らく情報は洩れていないだろう。

「二番、大丈夫なのよね?脱獄出来るのよね?」

 昨日も訊いてきた気がするが、一応答えておこう。

「恐らくな、ヒントの解釈が合ってれば」

 それが一つでも、間違えていれば失敗するだろう。

 俺は、不味いスープを口に運びながら、考える。間違えてる事は、恐らくないが。

 まあ、心配になる事もあるか。

「ところで、十番何か近くないか?」

 十番は、俺の肩と、十番の肩が少し動けば、ぶつかりそうなぐらい、の位置にいた。

 動きづらい。

「ごめん、離れる」

 そう言って、少し離れた。

 これで、少し動きやすくなった。

 恐らく、不安で、誰かの近くに居たかったのだろう。

「十番は、間違ってると思うか?」

「間違ってるとは思わないけど、不安なのは不安なのよ」

 まあ、そうだろうな。

 不安じゃない奴はそうそう、居ないだろう。

 俺は違うが。

 必ず成功するという、自信が俺にはある。いや、成功しなければいけない。

 九条家として、絶対に。



 脱獄まで、恐らくそろそろだろう。

 そんな事を、考えてると誰かが、ドアをノックした。

「入ってどうぞ」

 入ってきたのは、帝園だった。

「何の用だ?」

 俺が、そう訊くと、帝園がそれに答える様に、俺に一歩づつ近付いてきた。

 机の前に来て、帝園はやっと口を開いた。

「黒雨の超能力は?」

「言ってるだろう?俺の超能力は相手の、超能力が分かるって」

「そうじゃない、黒雨、あの少女の方よ」

 どうやら、持ってると、思われてるらしい。

「少女?その口振もう一つの超能力でも、授かったのか?」

 こう言っておけば、引き下がるだろう。

「ええ、そうよ、それと同じ、もしくはそれ以上の超能力を、授けてもらってるんでしょ?」

 自信が、かなりある様だ。

 ここは、折れてみるのも、面白いかも知れない。もちろん、嘘はつくが。

「そうだ、俺のもう一つの、超能力は相手の嘘が分かる能力だ」

 こんぐらいで、大丈夫だろう。まあ、使えるので、あながち嘘じゃないのかも知れない。

「そう、なら私も教えてあげる。

 私のもう一つの、超能力は、物を浮かせる事が出来る事よ」

 嘘か、これは指摘してみるか?

「嘘だな」

「そう、正解」

 まあ、開示する気は元からなく、俺が本当の事を言ってるからどうかを、調べる為だろう。

「で?教える気はないんだな?」

 少し、悩んだ様子で帝園が、口を開いた。

「私の、本当の超能力は、相手の感情を読めるそれが、私の超能力よ」

 どうやら、嘘はついてない様だ。

「そうか、で?要件は、それだけか?」

 これで終わりとは、思えない。

「いいや、もう一つの要件は、脱獄があと三日後に始まる」

 三日後か、意外と長いな、かなり考え込むらしい。

「三日後、それなら、こっちも対策出来るな」

「ええ、そうね」

「それで?その対策を話しにきたのか?」

 俺がそう訊くと、帝園が頷いた。

「対策って、見当はついてるか?」

「大体はね、でも、もっとそれを精密に細かくして的確にする為に、今から話し合いするのよ」

 なるほどな、一応、手伝っておこう。

「なら、話してくれ、その対策の大体を」

「ええ、そのつもりで来たもの」



 あそこに、十番が居るな。真剣な顔で十五番と会話している。

「何だ?また、十番の事を見てるのか?」

「また?そんなに見てるか?五番そうなのか?」

 五番が呆れた様子で答えた。

「まさか気付いてないのか?仕事行く途中でも、見てるし、四六時中見てるぞ?

 作戦会議中でも、ちょくちょく見てるし」

 自分の最近の行動を、思い返してみる。

 あれ?おかしい、十番を見てる記憶ばっかだ。

「何故だ?俺は、何で見てるんだ?」

 五番がため息を吐いた。

「好きなんじゃないのか?」

 その言葉が、意外と違和感なく入ってきた。

「でも、俺許嫁居るしな、無駄な事する訳ないんだよな」

 そうだ、叶う筈の恋を、俺がする筈ない。

「え?お前許嫁居たのか?凄え」

「ああ、居るぞ?」

「まあ、それは置いといて、十番好きなのかは、自分で考える事だな」

 そもそも、好きなんて事は、あり得ないのだが。

 見る理由は、考えておくか。

 その時耳元で「自殺は気を付けろよ」と、誰かが、囁いた。

 俺は、振り向いて誰かを確認する。

「黒雨、何の用だ?」

「自殺は気を付けろ、って言いにきただけ」

 不気味だ、ふと、そう思った。まるで、この世の者とは思えない程に。

「安心しろ、自殺なんてしねえよ」

 その言葉を聞いて、黒雨は満面の笑みを浮かべた。

「そうか、良かったよ、死なないでくれよ。九条欲海」

 何故、本名を!?

 俺は、自分を落ち着けさせる。

 待て単純に、名簿があるだけかも知れないんだろう?この程度で焦るな。

 恐らく、他の看守なら焦らなかっただろう。

 黒雨だった、それがいけなかったのだ。不気味過ぎたのだ。全てを見透かされた様な気が、するのだ。

 あの目が、あの声が全てが、不気味で仕方ない。

 だが、その分だけ勝たなければいけなくなった。

 絶対に、勝ってやる。



「帝園さん、危険だよ、また、黒雨の部屋に行くんでしょ?」

「長町君、危険でも行くしかないの、このゲームの、勝率を少しでも上げるには、黒雨の知識が必要なのよ」

 真っ直ぐ僕を見つめた。思わずドキリとした。こんな状況なのに。

「分かったなら、僕も付いてく」

 すると、帝園さんがため息を吐いた。

「駄目よ、長町君私より弱いでしょ?逆に邪魔になるわよ。

 それに、絶対邪魔するでしょ?」

 その言葉に、何も言い返せなかった。そんな、自分が嫌いだった。

「せ、せめて、部屋の外に待機させて」

「まあ、良いわ、その代わり部屋に入ってこない事、それを約束してくれるなら、良いわ」

 部屋に入ってこない条件か、もしもの時は破ろう。

「分かったよ、帝園さん」



「来たか、帝園、この前の話し合いで対策は決まっただろう?何故来たんだ?」

 帝園が、大きく息を吐いた。

「確かに、昨日の作戦は、単純で完璧だと思う、だけど、やっぱり、脱獄出来る方法が、一つだけって、囚人が不利すぎない?」

「昨日話しただろう?それは無いって、お互い結論に至っただろう?」

 俺は、ため息を吐いた。

「そうね、昨日はそう思った。

 でも今は違う。何か隠してるでしょ?黒雨」

 隠している、当たり前だ、死んでも隠さなければいけない事があるのだから。

「その根拠は?」

「今ほんの少しだけ、動揺した事、黒雨が動揺する程の秘密があるんでしょ?」

 なるほど、今のは嘘か、冷静に対処出来たと思ったが、一瞬動揺してたらしい。

「まあ、良いさ、教えてやるよ。俺が、隠している事は、脱獄方法を二つ知っている事だ」

「それを何故隠してたの?」

「簡単だよ、情報漏洩を防ぐ為だ、例えば外に居る奴が、誰かに話したりな」

 帝園が動揺した。

「だけど安心して、多分声は聞こえてない筈よ」

 この壁は、防音性能はまあまあ、あるので聞こえないと思うが、もしもの事がある。絶対とは言えない。

「まあ、良いさなら、だが念の為、こっちに寄ってくれ」

 帝園が、近付いて、机の前までやってきた。

「ほら来たわよ、教えてくれるわよね?」

「自殺する事、そして、入口から出る事だ」

「入口って、ゲームが始まって囚人の入口は、無くなったじゃない」

 俺はため息を吐いた。

「一つだけ、あるじゃないか入口が」

 そこで、気付いた様だ。

「看守側入口?」

 俺は、頷いた。

「簡単だろう?あそこは言わば、出入り口って事だ」

 だが、そこに行くには見つけて、俺の持っている鍵を奪う事が最低条件だ。

 つまり、そこを守る必要はないだろう。

 それは、恐らく帝園も分かっているだろう。

 俺が、囚人に、取られる訳がない。

「じゃあ、自殺ってどういう意味?」

 俺は、机の引き出しから人間失格と書かれた、本を取り出す。

 栞が挟まれいるページを、見せる。

「これが証拠だ」

「確かに人間失格を知ってるなら、そう取れるわね」

 もちろん、これじゃあ証拠としては足りない。

 だが、証拠は足りないだけで、ほとんど確信に至る事は出来る。

 充分これで証明出来る。

「これで良いよな?」

 俺は、本を戻す。

 俺は、椅子から立ち上がって、帝園に近付いた。

「何?」

「帝園って好かれてるよな」

 帝園が困惑した、表情を見せた。

「例えば、ドアの前で、一生懸命聴こうとしてる、長町とかさ」

「何?それ、関係ある?私の事好きとか」

 俺は頷いた。

「よほど、心配してるだろう?あんなの、好きな人ぐらいじゃないと、しないだろう?帝園も薄々気付いてたんだろ?」

 帝園は、明らかに動揺していた。

「そ、そんなの分からないでしょ?」

「いや、違うな、帝園はストーカーをしている長町が、自分の事が好きだと知っていたんだろ?

 そして、ストーカーをされていて、いつ暴走するか分からない、恐怖に楽しんでたんだろう?だから、何もしなかった、ずっと後を付いてくる長町が、怖くて、楽しんでいる。

 帝園は、恐怖を愛している、そうだろう?」

 帝園は、小さく笑みを浮かべながら、体を震わせた。

「ち、違う、私は恐怖を愛してなんかない!」

 帝園が一歩後退りする。

「ここに来てるのが、一番の証拠じゃないか」

「ち、違う!私はただ、黒雨の知識が欲しかっただけ!」

 俺は、帝園の襟を掴んで、引っ張る。

「言い訳はよせよ、今こんなにも笑ってるじゃないか?」

 見間違える筈がない、何故なら、顔が目の前にあるのだから。満面の笑みの顔が。

 最早隠す気もないらしい。

「……そうよ、私が恐怖が大好き、で?私に何をするの?ねえ、私に恐怖を頂戴」

 帝園は、俺とはまた違う、人間、失格者なのだ。

 唯一分かり合える存在なのだ。

「どんな恐怖がお望みだ?」

 すると、帝園が満面の笑みで答えた。

「どんな恐怖でも!」

 狂ってる、そう思いながら、俺も笑った。糞野郎とは違い、嫌悪感は、感じなかった。

 帝園の欲は、普通の人と違う欲だからなのかも知れない。

「なら、死ぬかも知れないという、恐怖はどうだ?」

「ええ!とっても、欲しい!」

 待てよ、良い考えが一つ思い付いた。

「なあ、俺達付き合わないか?」

「え?何で?まさか、そういう目的?私は良いわよそれでも」

 俺は、ため息を吐いた。

「違えよ、もし、俺達が付き合ったら、長町はどうなる?長町はストーカーするほど、帝園を好きなんだぞ?」

 そこで、一つ、思い付いた様だ。

「私に何かするかも、知れないって事ね?」

 俺は頷いた。

「そして、俺は長町の面白い顔が、見れるって事だ」

「良いわね、死ぬかも知れない恐怖は、多分死ぬし、死ぬ前にやるのは、ありね」

 どうやら、交渉成立したらしい。

「なら、一つ考えがあるのだけど」



 声が、聞こえない。

「チッ、中で何が起きてるんだ?帝園さんが中に居るのに、見れない、聴こえない、見たい、見たい見たい見たい見たい見たい見たい、でも、帝園さんに嫌われたくない、どうしよう。

 とりあえず、ドアに耳を当ててみよう」

 中で、恐怖?何て、言ってるか分からない。

 声が聴きたい、聴きたい聴きたい聴きたい聴きたい聴きたい聴きたい聴きたい聴きたい、帝園さんの声が聴きたい。

 あの、愛おしい声が聴きたい。

 僕の超能力で、壁に穴を開けるか?でも、バレたら大変だなあ。

 ストレスが溜まったので、爪を噛んで、ストレス発散する。

 見たい、見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい。

 そう思っていると、ドアの横の扉から、何か叩いた音がした。

 何かと思い、耳を当てる。

「好きだ、瑠奈るな

 これは、黒雨の声?瑠奈?帝園さんの下の名前?僕だって、呼んだ事ないのに!

 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

「私もだよ、ん!」

 帝園さんの声?その声は甘かった。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

 少し、声が聴こえなくなってから、やっと帝園さんの声が聴こえた。

「キス長すぎ、それなら舌ももっと入れてよ」

「え?」

 僕の中で何かが、壊れた。

 焦って、ドアを開ける。声が聴こえてた、方へ向くと、舌を絡ませてキスをしていた、帝園さんの姿があった。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

「帝園さん、嘘だよね?帝園さんは、僕が好きだもんね?ね?そうでしょ?そうって言ってよ」

 こんな事が起きて良い訳がない!僕以外の誰かに、帝園さんがキスされて、舌を絡ませるなんて、それが帝園さんが望んでやってるなんて!あって良い筈がない!

「そうだよって言ってよ!頷いてよ!

 そうか、黒雨が居るから言えないんだな?大丈夫!僕が、黒雨を殺す!」

 すると、黒雨が笑いだした。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!良いぜ、来いよ!」

「舐めるなよ!」

 黒雨目掛けて、ピストルを撃つ。

 だが、避けられた。もう一発撃とうとした時、黒雨が、俺のピストルを奪って、俺の頭を地面に打ちつけた。



「凄いね、銃って避けれるんだ」

「後出しは無理だけど、トリガーを引こうとした瞬間に、避ければぎり避けれる」

 俺は、気を失って倒れた長町の顔を、見る。

 面白い。

「ねえ、もしこれ起きて、黒雨が倒されたら、私どうなるんだろう?」

 やっぱり、帝園は、そういう思考になるらしい。

 ある意味似た者同士だな。

「懲罰房に連れて行くか」

「そうね」



「ここは?どこだ?」

 長町が目を覚ました。

「起きたか、早速始めるか」

「え?な、何をする気なんだ?帝園さん、教えてよ」

 そう言って、帝園の方へ向いた。

 肝心の帝園は、特に興味ない様だ。恐怖を感じないからだろう。

「代わりに俺が、教えてやるよ」

 俺は、ピストルを長町に見せつける。

「これさ、実は威力が、段違いなんだよね、拷問用に作られたんだよね、これをさ、ここに撃ったらどうなると思う?」

 そう言いながら、俺は、男の大事な部分に、ピストルを向ける。

「や、辞めてくれ!た、助けて!帝園さん!」

 長町が、必死に首を振ってるのが見て取れた。

「でも、このまま終わるのはつまらないだろう?だからゲームをしよう」

「ゲ、ゲーム?」

「ああ、簡単だ、俺が今からお前の縄を解くそして瑠奈に好きだと言わせたら、勝ちだ。

 そしたら、助けてやるよ」

「ほ、本当か?」

 笑みを浮かべながら、答える。

「ああ、頑張れよ」

 俺は、縄を解いたら、一直線に帝園に向かった。

「ねえ、帝園さん好きって言ってよ、問題ないよね?僕の事好きだもんね?」

 恐らく、帝園は今言わなかったら、どんな事をされるのか、という恐怖を楽しんでいるだろう。

「帝園さん?好きって一言、言うだけだよ?ねえ、言ってよ、帝園さん言ってよ!」

 帝園は笑みを浮かべる。

「嫌だ」

 その時、帝園を長町が突き飛ばした。

「おかしいよ!こんなの、帝園さんじゃない!

 帝園さんなら!好きって言う筈だ!そんな事言う訳がない!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」

 その時、まるで、思い付いた様に、帝園の首を絞め始める。

「こんなの、帝園さんじゃない、偽物は消えちゃえば良いんだ!」

「時間切れだ」

 俺は、帝園から長町を引き離す。今殺されたら、後々面倒だ、それに絞殺は、他の人でやる予定だ。反応は、他で見られから、今じゃない。

「邪魔するなあ!!」

 長町の攻撃を避けて、床に押さえつける。

「帝園、あれ持ってきて」

「ええ、分かったわ」

「帝園?何故、上の名前なんだ?」

 俺は、笑みを浮かべて、答える。

「何故?簡単だ、さっきまでが演技だからだよ」

 困惑した表情を、長町が、見せた。

「持ってきたよ」

 帝園が、持ってきたのは、ガソリンタンク二個だった。

「それを、どうするつもりだ!クソビッチ!」

 どうやら、意味を理解したらしい。

 帝園が、長町の頭にガソリンを、掛けた。

「糞!離せ!殺してやる!このビッチを!」

「そんなに言うの?私は、好きな人とキスをしただけよ?」

「ふ、ふざけるな!その顔で、その声で、そんな言葉使うんじゃねえ!帝園さんは!僕が好きなんだ!」

 異常、としか言えないな。俺達の様に、人間、失格ではなく、人間らしく愛に飢えたその所為で、行き過ぎてしまったのだろう。

 俺は、わざと立ち上がって長町を自由にする。

「僕の、帝園さんを返せえ!」

 俺は、素早く、ピストルを取り、さっきと同じ所に狙いを定め撃つ。

「あああああ※ああ※※あああ※※ああああああ※ああああ※※※※あああ※※※※!!」

 驚いた、てっきり気絶するかと思ったが、どうやら耐えたらしい。だが、床に膝を付いた。

 その隙に、ガソリンを掛ける。

 ガソリンの匂いが、部屋に充満する。

「そ、それは!辞めろ!」

 俺は、ライターでガソリンに火を付ける。一気に燃える。

「あああああ※あ※あああ※あ※※ああああ※※※※※※※※※※※!!」

 未知の言語を、使い叫び、暴れる。と言っても、俺達に襲い掛かってくる事はなかった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!最高だよ!長町!」

 長町が、さっき自分で座っていた、椅子を倒す。

 帝園も笑っていた、恐らく、襲い掛かってきた時の恐怖でも、感じてるんだろう。



 しばらくすると、ぐったりと倒れて、動かなくなった。

「終わったか、じゃあ、戻るか」

「そうね」

 俺は、ドアを開いて外に出る。

 いつもとは、違う方法で殺したが、かなり面白かった。かなり苦しんでいたな。少し、時間が少し短いのが難点だが。

「楽しかったわ」

「そうか、俺もだ」

 こんなにも、似た者同士だと、会話が楽なのか。

「それで?この後は、特にないよな?」

 俺が、そう言うと、帝園が頷いた。

「ええ、脱獄は明日だからね」

 そろそろ、終わるのか、このゲームも。結局拷問したのは一回だけだったな。

「んじゃ、寝るか」

 俺は、看守長室に戻って、寝る事にした。

「私もそうするわ」

 そのまま、別れた。



 さて、脱獄決行の日か、もう直ぐでこのゲームで頂点に立てるのだ。

 情報は、漏れてない筈だ。

 漏れているなら、勝てないだろう。

「どうしたの?二番」

 声が聞こえた方へ、振り向くと、そこには十番が居た。

「どうにもしてない、ただ、今日が脱獄する日かと思って、情報が漏れてないよなって思っただけ」

「なるほどねえ、私は情報は漏れてないと思うよ」

 俺も、その筈だが、違和感がある。

「大丈夫だよな?」

「何?珍しいね、二番がそんなに弱気になるなんて」

 正直、自分でも驚いている。俺は、このゲームで変わったのかも知れない。

「でも、まあ、きっと大丈夫だ」

 大丈夫だよな?

 そう自分に言い聞かせる。俺は、外の世界では完璧なのだから。

 絶対に、そうなのだから。

「そうよ、大丈夫よ、出来るだけ対策はしてきたんだから」

 そうだ、俺は大丈夫だ。


 いよいよ、決行の夜だ。牢屋から出て、素早く、看守長室に入る。

 道中、看守に会う事はなかった。

 どうやら、情報は漏れてないらしい。やはり、大丈夫だった様だ。

「とりあえず、あのタブレットを取ってこないとな」

 俺は、引き出しからタブレットを、取り出して、496と、打つ。

 すると、机の下の床が、横にずれて、下に続く、階段が現れた。

「ここか、準備は良いよな?」

「おう!」

 と、元気に返事にする者や、弱気に返事する者が居た。

 階段にゆっくりと、足入れた。



 階段を降りると、一つのドアがあった。

 ドアを開くと、辺り一面森で、尚且つ銃を構えている、看守が十名程居た。

 情報が漏れていたのだ。

「全員走れ!」

 ドアを、急いで閉めて、急いで階段を駆け上がる。

 誰かが、ドアを勢い良く開けた。銃の狙いを定めている。

 必死に走る、だが、一人、二人と、どんどん減っていく。

 現状を、覆す策を考えろ、考えろ、十番を守る為に、考えろ。

 守る為に?誰を?俺が?

 今は、余計な事を考えるな、生き残る事に集中しろ。

 使うしかないか。

「看守!そこは、狭いだろ!」

 俺は、もう一つの、超能力を使い、手榴弾を生成し、投げる。

 そして、この手榴弾は、味方には一切のダメージが通らない。

「死ね」

 轟音と共に、爆発して、看守が数名死んだ。

「凄え、ってかそんな超能力だったか?」

 と、誰かが言ったが、無視して、階段を登る。

「大丈夫か?十番」

「大丈夫、傷一つないよ」

 良かった、目的は達成出来たらしい。

「出てくる、気配はなさそうだな」

 ドアは全く、開く様子がない。

 行くしかないか。

 手榴弾を用意しつつ、死体を横目に階段を降りる。

 ドアをゆっくりと、開ける。

 辺りを見渡すが、誰一人居なかった。

 どこに行った?

「森の中か?」

「私が見た感じ、森に居ると思います」

 やはり、森の中か。さて、手榴弾で、どうやって殺そうか。

 中心にでも投げようか、それとも自爆特攻でもしようか。自爆特攻させるなら、俺以外だが。

「どうしたものか」

 俺が、そう呟くと、十番が「大丈だよ、行けるよ」と、優しく言った。

 その言葉で心底安心した。そうだ行ける。

「そう、だよな」

 大丈夫だ、俺は、いつからこんなに臆病になったんだ?俺は、九条家だぞ?しっかりしろ。

 自分を落ち着かせて、外に出る。

「居ないな」

 やはり、森の中か。

 恐らく、看守達は汽水湖辺りに居るだろう。

 あれを実行するしかないだろう。

「あれするぞ?準備いいか?」

 俺が、そう言うと全員が頷いた。

 意図は汲み取ってくれたらしい。一つ不安があるとすれば、何らかの探知系の超能力が居るかもしれない事だ。恐らく居ないが、隠していた可能性がある。



 当初の予定とは違うが、全員に、手榴弾は持たせた。使えるものは使わなければ。

「十番頼んだぞ?」

「任せて」

 作戦は至って簡単だ、十番以外の奴が看守を惹きつけてる間に、十番が船に乗り操作して、俺達を迎えに来るっていう作戦だ。

  シンプルだが、一番確率が高いだろう。

 ただ、一つ懸念が、あるとすれば、十番がバレたら確実に死ぬということだ。

「大丈夫だ、バレやしない」

 と、呟いて、俺は、手榴弾を投げる。この音で、看守を呼び寄せる。

「生き残ってね」

 そう言って、十番は、床に倒れている幻を残して消えた。

「もちろん」

「ここからだ!」

 早速一人引っかかったようだ。

 さあ、地獄の始まりだ。



 正しくあろうなんて、思ったこともないし、そんな事ができないと知ってる。そもそも正しいが、分からない。

 その正しさが、正義とでも言うのか、正義だってネットで調べても、全く違うことが書かれたりしてる、その所為で全く分からない。

 ただ、一つ言える事は、生き物を殺しちゃ駄目という事が、必ずと言って良いほどある。

 まるで学校で習ったことを、復唱する様に、一種洗脳と言える程に。

 例えば、人を殺しちゃ駄目な理由を、十人に訊いたら、恐らく答えられない人が数名、後はバラバラの考えを、言うだろう。何の疑問を抱かず、それを正しとに認識しているのだ、子供の頃から教わってきた、ただそれだこの理由で。これを洗脳と言わないなら、何と言うのだろうか。

 ただ、生き物としての正しさなら、人を殺さないそれが正しいだろう。

 同族を殺しても、人間全体から見たら、損でしかないのだから。だが、一人殺すくらいなら、ちっぽけな一だ、そこまで、悪い事ではない。と思う。

 それが世間では、死刑に匹敵する。少しくらい融通利かせてくれても、良いと思うが。本当に分からない。

 まあ、人間らしいか。

 そこで、何となく本棚を見た。そこに、人間失格、と書かれた本があった。

 引き寄せられる様に、俺は本を抜き取った。

 そこで引き寄せられた理由が分かった。この本だけ綺麗になのだ。あの男にも大事な本があったのだ。

 読み進めて行くと、いきなり意外な言葉が書かれていた。

 恥の多い生涯を送って来ました。

「なんか、普通の物語とは違うな」

 それでも、夢中で読み進めて行く。

 この本と出会ってからは、初めて楽しいと感じた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 そんな、人間失格でさえ、何かが足りなかった。

 その日で何回読み直したのやら、気付けば夜になっていた。

 また、始まるのだろうか。あの地獄が。



 まだ、船は来ないのか?そろそろ、限界だ。

 また、撃たれる、木がなければ、とっくのとうに、死んでいただろう。

 一体いつ船が来るんだ?長すぎる、死んだか?今は、引くしかないか。十番を見捨てて?俺は外では完璧でなければいけないのだ、見捨てて何が完璧だ。絶対に、勝ってやる、この一回で!

 その時、誰かに腕を引っ張られた、焦って振り向くと、そこに居たのは、船に向かった十番だった。

「十番?」

 唇の前に人差し指を、十番が立てた。

「静かに」

「何故、ここに、居るんだ?」

 すると、十番が申し訳なさそうに、答えた。

「に、逃げてきた」

「は?」

 何が起こったか、一瞬分からなかった。

「な、なんで?」

「命の危機を感じたから、あれは人間じゃない」

 と、言って十番が体を小刻みに震わせた。

 詰んだ、負けた、九条家に泥を塗ってしまった。

 と、前までの俺なら思ってただろう、でも今はただただ、十番が戻ってきてくれたことが嬉しかった。

「だから、逃げよう?二番」

「逃げるって、あいつらを置いて行くのか?」

 俺がそう言うと、十番が、深く頷いた。

 逃げろ、と頭の中の理性が言っている。だが、思い出が、逃げるなと言っている。

 俺居なければ、指示が出来ないさっきよりも、死ぬスピードが、格段に上がる筈。

「二番」

 十番がそう言った瞬間、俺の唇に柔らかい、何かが当たった。

「好きだったよ、二番」

 あいつらを見捨てるのに、その悲しそうな目は、十分だった。

「俺も行く」

 ああ、数日前までは、殺し合っていた筈なのに、何故ここまで、大事な存在になったのだろうか。一体いつからだろう。

 俺は、名前も知らない、少女の腕を掴んで引っ張って、監獄へ戻るドアへ、走った。

「なあ、名前は?」

「早乙女!早乙女千草さおとめ ちぐさ!」

 後ろに居るので、表情は見えないが、声が嬉しそうだった。

「そっちは?」

 走っている所為で、息が上がっていたが、辛うじて何言ってるかは分かった。

「九条欲海!」

 もう直ぐで、この森から抜け出せる、あと少しで、逃げれる。脱獄の方法は、後で考えればいい、今は千草の命が最優先だ。

 森を抜ける直前で、方向転換する。

「どうしたの?」

「看守が居た、それもかなり強そうな奴が二人」

 必死に走ってると、海にたどり着いた。

「ねえ、欲海自殺しない?」

「それじゃ、千草が死なないか?駄目だ」

「でも、それ以外に生き残る、可能性が無い分かってるんでしょ?それに、もしかしたら、生き残るかもしれないでしょ?」

「……分かった、自殺しよう」

 違和感を覚えながらも、海に飛び降りた。



「一番何をしてるんだ?」

 僕は、十五番を撃ったピストルを、近くに居る囚人に撃って殺す。

「何って、簡単だよ?裏切ってる、何か問題がある?」

 情報を渡す代わりに、生き残らせてもらう、交換条件で裏切ったのだ。

 次々と殺し回る。


 僕以外全員死んだか。

「じゃあ僕を」

 囚人番号一番の頭にぽっかりと、穴が空いた。

「裏切り者をどう処分するかは、俺たちの自由だ」

 これで、終わったか。

「帝園、逃げ出して奴は死んでたか?」

「ええ、死んでたわ」

 後は、死体を数える作業だ、これまた、手作業だ。


 二人足りない、海に飛び込んだとみて間違いないだろう。

「帝園少し用事が出来た、後処理頼んだ」

「人使い荒いわね」

 無視して目的地へ向かう。



 海の様な匂いが部屋に充満している、部屋で目が覚めた。

「ここは?」

 どうやら、生き残ったらしい、服が濡れていて気持ち悪い、拘束されていて身動きが取れない。

「まさか、本当に引っ掛かる奴が居るとはな」

 この声は、あいつだ、俺が勝てなった理由の権化。

「黒雨!!千草をどこにやった!!」

「分かった、教えてやるよ」

 そう言って、黒雨は一つのタブレットを俺に見せた。そこには、ずぶ濡れで倒れていて、動く気配すらない、一人の少女が映し出された。

「死因は溺死だ」

 その時、とてつもなくこいつを殺したくなった。

「殺してやる!!黒雨、お前だけは絶対に殺してやる!!絶対にだ、次会う時まで覚えてろ!!」

「残念、次がないんだなこれが、自殺で生き残るのに必要のは、愛し合ってる男女が死にたいと願い、自殺する事で、男が生き残ってしまう様になってたんだよ。

 さて、君達はどんな思いで自殺したかな?」

「……生き残れるかもしれない」

 もし、黒雨が言ってる事が正しければ、何故、俺は生き残っているんだ?

「では何故、一番は生き残ってるかと言うと、期待させて落とす、その時の顔が、その顔が見たいからだ」 

 流石自分の、彼女を殺した、男と言った所か。イカれてる。

「俺を、どうするつもりだ?黒雨」

「溺死させる、喜べよ彼女と同じ死に方だぞ?」

「もう一度その口開いてみろ、殺してやる!」

 黒雨は、ため息を吐いて、俺を運んで隣の部屋の水槽の中に入れた。



 壁を必死に叩いたりと、かなり面白かった。

 ただ、残念な事があるとしたら。声があまり聞こえなっかったぐらいだろう。

「終わったか、このゲームも」

 かなり、疲れた。今回のゲームは色々大変だった。疲労感が半端ない。

「戻るか」


 監獄に戻ると、もう死体処理が終わっていた。

「全員集まった所で、次のゲームを始めよう」

 最初の入口の所に集まると、モニターから声が聞こえた。

「その為に、次の会場に行ってもらう」

 その瞬間意識を失った。



 目を覚ますと、そこには見た事のない天井があった。

「ここは?どこ?」

 次に、始まるゲーム会場なのは間違いなさそうだ。そこで気付いた、自分の服装が看守服からメイド服に変わっている事に。

 二回連続でコスプレとは、露出が少ないだけ、マシか。ミニスカではないのが、唯一の救いだろう。

「とりあえず、ここから出よう」

 外に出ると、私と同様にメイド服を着た、少女が居た。

 前のゲームで、一緒に看守をやった子だ。名前は確か松村まつむらだったか。

「あ、帝園さん!良かった、一人じゃないかって、不安だったんですよ!」

「私もよ、松村さん」

「嘘だー、帝園さんが?そんな訳ないって」

 一体、松村さんからの印象は、どうなってるのだろうか。

「松村さんが、居るなら他の人も居るでしょう、探してみましょう?」

「確かに、そうだね、探してみよか」

 意見も合った所で、歩く方向に目を向ける。すると、執事が着ていそうな、服を身に纏った、男が歩いてくるのが見えた。

「あっ、黒雨さん」

 若干声が震えていた。怖がっている様だ。

「多分大丈夫よ」

 と、言いつつ、もしかしたら、黒崎さんみたいにされるかも知れない、という恐怖を私は、楽しんでいた。

 レッドカーペットの上を歩きながら、黒雨が一歩ずつ近付いてくる。

 私は、恐怖を感じながら、黒雨に近付く。

「二人とも、そこを動くな」

 私は、それを無視して、黒雨の反対方向へ走る。

「帝園さん?やばくない?」

 松村さんも、一緒になって、走る。

「確かに、殺されちゃうかもね」

 楽しい、殺されちゃうかも知れない恐怖が、楽しいのだ。

「なんで、帝園さん笑ってるの?」

「え?」

「あっ、ごめん、私の勘違いだったみたい」

 私が演技し忘れてるなんて、ある筈ない。息をする様に演技をしているのに。

「そう、それより、逃げるわよ」

 走るが、当然追いつかれた。

「待てって言ってるだろ?」

 服を、後ろから引っ張られる。

 やばい、死ぬかも知れない。その恐怖が最高だった。

「動くなと言っただろう?全員集まってるんだ」

「松村さん、先に行ってて、もらっていい?」

「う、うん、分かった」

「俺が来た、道を戻ったら、階段があるから、降りた所に全員居るからそこに行ってくれ」

 それを聞いて、松村さんは走りだした。

「それで、どうだった?」

 なるほど、わざと怖がらせる様な事をしたのか。

「結構楽しかったわ、ありがとう」

 この前の事を覚えててくれたらしい。

「まあ、俺も面白かったから、感謝される程じゃない」

「そう、じゃ行くわよ」



「今回のゲームは、至って簡単ここで三十日間ゆっくり過ごす事だ」

 本当に簡単だ。

「そ、それだけ?」

「そんな訳ないだろ?絶対なんかある」

 そう思うのも、無理はないだろう。だが、今回は本当にただ過ごすだけで良いだろう。

「まず初めに、食事を用意した、食べるといい」

 その時、左側通路から一人のメイドが現れた。

「ご食事をご用意しました、付いてきてください」

 と、言って歩いて行った。付いて行くか。

「だ、大丈夫なのか?」

「これ以外に、今出来る事あるか?」

「いーや、俺は行かないね!罠とかあるかも知れないだろ?それに、飯に毒あるかも知れないだろ?」

 東雲しののめがそう言うと、東雲の周りに「確かに」と言った、数名の人が集まった。

「まあ、好きにしてくれ」


 辿り着いた場所は食堂だった。

「うわー豪華だな」

 と、涼宮すずみやが驚いた様子を見せた。

 長机に、ここに来た、人数分の十二脚の椅子があった。

「そういえば、なんで私達こんな服装なんですか?」

 と、久野くなが、近くのメイドに訊いた。

「それは、この屋敷に合わせた、服装だからです。

 そして、あなた方より上の人が居るという意味だと、教えられています」

 俺は、気にせず近くの椅子に座り、食事を食べ始める。

 やっぱり味は、感じないだろう。と、思った瞬間、薄く味を感じた。

「う、嘘だろ?」

 もう一つの食事を、食べる。

 また、味を感じた。

「ど、どうした?まさか毒?」

「いや、美味しいぞこれ、毒もなさそうだ」

 と、俺が言うと、涼宮が椅子に座って、食べ始めた。

「う、うまい」

 ガツガツと食べ始める。それに釣られて全員が、食べ始めた。

「いやーあいつらも損したなあ、こんなに美味しい飯が食えたのに、明日来させよう」

 恐らく来ないだろうな、と思いつつも言わないでおく。

「その、魚料理とってくれ」

「これ?」

 そう言われると、涼宮が頷いて滝園たきぞのが、魚料理を取って渡す。

「はい」

「サンキュー」

「どういたしまして」

 全員美味しそうに食べる。

「そういえば、黒雨の所はなんで黒崎以外、居なかったんだ?普通もっと居るだろ?」

「ほとんど俺が、殺した、それだけ」

 俺が、そう言うと、意外にも空気は悪くならなかった。

「ふーん、なんで?」

「なんで?黒崎を殺した時と、同じで面白いからだが」

「どうやって殺したんだ?」

「え、まず、一人目は、指を切り落として」

「違う、違う、俺が言ってるのは、どうやってバレずに殺したかだよ」

 そっちか、と思いつつ、話す。

「ほとんどは、犯人を当てて殺した」

「へー、凄いな、ここに居るのはほとんど、バレずに殺した奴なのに」

「どうやって当てたか、知りたいわ、証拠どうやって見つけたの?」

 平然と、えげつない行為が、行われている。

 思ったより、頭が狂ってるらしい。それもそうか、こんなゲームを、生き残れる奴がまともな筈ないか。

 もしくは、無理矢理そうしているかの、どっちらかだろう。

 どちらにせよ、狂ってるのは間違いないが、人間ではあるだろう。

「証拠なんて、ほとんど見つけてない。犯人かは、反応を見れば分かる。そこから適当に理由付けすれば、良いだけだ」

「よく分かるな、そういうの勉強してたとか?」

「まあ、そんな所」

 周りからは、賞賛の声が、少し聞こえた。

「じゃあ、お前達はどういう犯行だったか、教えてくれないか?」

「俺は——」



 意外と会話が続いた。俺があそこまで会話の内容を、覚えているとは。珍しい物だ。今日は、いつもと違う事が多いな。

 部屋に戻ると、ドアがノックされたので、開く。

「よっ!来たぜ」

「マジで来たのか」

「もちろん!ゲームしようぜ」

 と、言って涼宮と、笹野ささの日野ひの山本やまもとが、ズカズカと中に入ってきた。

「みろ、スイチだぜ、これでやる事と言ったら?」

「マリパ!」

「桃鉄!」

「スモブラ!」

 と、見事に意見が割れた。

「いや、いや、お前達センスねえな、アソビ大全だろ!」

「なんだとお?スマブラだろ!」

「絶対決着つかないし、黒雨に決めてもらおうぜ」

 と、笹野が言って、こっちを見た。

 と、俺に振ってきた。

「いや、スマブラ以外五人で出来るゲーム、なくね?」

「確かに」

 と、全員が納得したようだ。

「何で気付かなかったんだ?」

「それな、んじゃやるか」

 と、言って、手こずりながらも何とか、テレビに接続出来た様だ。

「遅すぎだろ、涼宮」

「うっせえよ、ほらこれ、黒雨のコントローラー」

 俺は受け取って、床に座る。

「お前達、見とけよ?俺上手いからな?」

 と、涼宮が、強そうな雰囲気で言った。

「どうかな?俺はvipだぜ?勝てるかな?」

 と、自慢げに、山本が言った。

「ふっ、見とけよ」



「また、負けた、黒雨強すぎないか?なんだー?ドッキリか?最初は弱かった癖に、どんどん強くなってきやがって」

 と、涼宮が言った。ドッキリではないのだが。

「本当にね、コツ掴むの早すぎ」

「そうか?普通だろ」

「山本見ろよ!なんか、やばいって」

 と、焦った雰囲気で、日野が言った。

「お、俺の数千時間が、たった二時間にはは」

 完全に、壊れてしまっている。面白い。

「仕方ない、この手だけは、使いたくなかったが」

 と、言って、涼宮がチーム戦にして、四対一にした。

「よしっ、やるか」

「切り替え早いな!」

 これは流石に、負けるだろう。

 そのまま、試合が始まった。

「覚悟しろよ?」


「あーー!!笹野!それ俺、俺だ!」

「すまん、すまん、てっあああああ死んだああ!!」

 なんか、五月蠅い。

「あああああ!!」

「あああ!!日野までやられた!!」

「連携取れなさすぎだろ」

「五月蝿えよ!!これからだなんだよ!二人になった今、連携は取りやすからな」

 果たして、変わるのか?

「ああああ!!死んだあああ!!」

「涼宮あああ!!」

 変わらないな。

「あっ」

「よっしゃ!!黒雨の残機後二だぜ!!」

「でも、お前、一機で百二十パーだぞ?」

「五月蝿ええ!!ここから逆転劇を、あ、ああああ!!」

 山本が吹っ飛ばされて、死んだ。

「どうしてだっ!」

「負けた」

 と、絶望した、口調で言った。

「いや、まだ手はある、味方同士で喰らう、ダメージを無しにすれば良い」

「その手があったか!」

 と、言って設定を変え始めた。

 何故ここまで、勝ちたいのだろうか。

「更に、俺はnpcを六体召喚、更にレベルマックスにする!!」

「マジか、お前」

「当たり前だろ?一敗でいいんだ、一回負けさせる事が出来れば良いんだ。

 その為だったら、何だってしてやるよ!!」

「その心意気気に入ったぜ!」

 どこに、気に入る要素があったのか。

 そのまま、試合が始まった。


「やっと勝ったぜ!!今の気分はどうだ!!」

「お前、vipのプライドとかないんか?」

「やっと負けた、これでいいか?」

「うっ、こうなったら!」

 と、言って、山本はスイッチのホーム画面に戻って、ゲームを、桃鉄に切り替える。

「よしっ、やるか」

「そだなー」

「そだなーじゃねよ!なに平然と、ゲーム変えてるんだよ!」

 と、笹野が、怒鳴った。

「だってえ」

 と、子供の様な口調で、言った。

「だってえ、じゃねよ!」

「まあまあ、そろそろ、別ゲーしても、良いんじゃないか?」

 そしたら、一人余るくないか?と思いつつ、ここに留めておく。

「なら、黒雨と俺が、組む!」

「あっ、笹野ずる!俺だって組みたいって!」

 と、日野が言った。

「いや、俺笹野と組むわ」

 と俺は、断った。

「そっちがその気なら、こっち三人で組むもんね!」

 と、日野が言って、涼宮達と肩を組んだ。

「良いぜ、やってやるよ!!」

 四人プレイ用を、五人でプレイしている筈なのに、列車が二人分という、歪な光景が映し出された。

 年数は百年だ、明日もやるつもりらしい。勘弁して欲しい物だな。


 疲れた。眠い、辞めたい。

「も、もう辞めよう」

 と、訴えると。

「確かに、眠いな、辞めるか」

 た、助かった。俺はベットに倒れた。

 スモッチを、取って帰って行った。

「んじゃ明日な、黒雨」

 その言葉を、無視して、眠った。



 疲労感が半端ない。眠っても拭えない程の疲労。

 とりあえず、起き上がって、食堂へ向かう。

「今日もするんだよな」

 一つの目標の為にやってるが、流石に疲れる。

 食堂に着くと、朝食が用意されていた。

「あっ、黒雨」

 と、言ったのは、恋野こいのだった。

「おはよう、恋野」

 挨拶しながら、近くの椅子に座る。

 気まずい空気が流れる。気にせず食べ進めていくと、恋野から話しかけられた。

「黒雨って、帝園さんと付き合ってんの?」

 手が思わず止まった。

「え?何で?」

 何故、そんな話になったのか。

「え、いや、帝園さんから聞いたから」

 帝園、俺に何かされるかも知れない、っていう恐怖を楽しんでるな。

 あながち間違ってないんだよな。

「そうだよ、付き合ってる」

 ひとまず、これで良いだろう。

「へえ、そうなんだ、モテるね」

 そうか、確かに、別れてから直ぐに付き合ったのか、側から見れば、モテてる、ってなるか。

「そうかもな」

 とりあえず、食べるのを再開する。

 今日は、味を感じなかった。

 


 四日目の朝、七人共自殺と見られる、死体が見つかった。食事に毒が入ってるかも知れないと、言ってた奴らだ。

 だから、なんだって話だが。死因も分かっているし、誰も気に留めている様子はなかった。

 こんな、ゲームをしているんだ、人の死などには慣れるだろう。殺してすらいるのだから。

 それより問題なのが、最近衝動の抑えが効かなくなっている。この後の楽しみの為に耐えらなければ、いけないのに。

「大丈夫だ、今まで耐えてきただろう?」

 息が荒くなるのが、感じた。その時、肩を誰かに叩かれた。

「大丈夫?黒雨」

「帝園か、大丈夫だ」

「何が、大丈夫よ、息遣いやばいじゃない」

 五月蠅い、やってしまうかも知れない。

「黙ってろ!!」

 そこで、気付いた、帝園は恐怖を楽しんでいるのだから。当然、恐怖を感じる方に行く筈だ。

 つまり、怒鳴ってしまった所為で、俺が怒って恐怖を与えてくれる。と思うだろう。

「黙る訳ないでしょ?」

 やっぱりだ、いっそ、殺してしまおうか。いや、駄目だ、殺したら歯止めが効かなくなる。

 ここは、耐えなければ。

 俺は、無視して自分の部屋に戻るが。帝園が部屋に入ってきた。

 面倒だ。

「ねえ、私達付き合ってるって、話になってるでしょ?」

「ああ、誰かさんの所為でな」

 いつもと少し声色が違う。まったく何なんだ。

「だからさ、いっその事付き合わない?」

「は?何言ってんだよ、付き合う訳ねえだろ、頼むから、そんな意味分からん事言わないでくれ」

 また、失敗してしまった。駄目だ、疲労と我慢してる所為で、頭が回らない。

「そんな事言わずに、付き合わない?」

「付き合わない」

 まじで、こいつはこの状況を楽しんでやがる。

「なら、私を殺して?」

「しない、今回のゲーム中はしない」

 本当に、面倒くさい。何なんだ。

 すると、帝園が俺が倒れている、ベットに座った。ああ、本当に耐えるのがきつい。

「なら、私を愛して」

「愛さない」

 マジで、我慢しきれなくなる。

「私ね、黒雨の事とっても嫌い」

「ああ、そうか」

 どうやら、本気で俺を怒らせたいらしい。

「何で、苦しめないのよ!」

「五月蝿えな、こっちにも事情があんだよ」

 俺は、立ち上がって、帝園を追い出す。

「ちょ」

 を、最後に帝園が外に出た。

「疲れた」

 鍵を閉めた事を、しっかりと確認して、ベットに倒れる。

 とりあえず、寝よう、寝たら耐える云々なんてないだろう。



「あっ、今日は、黒雨来ないんだな」

「私、呼びに言ったんですけど、返事がなかったのとドアに、鍵が掛けられていてので、恐らく寝たのだと思います」

 と、桃乃もものが丁寧に説明してくれた。

「そうかありがとう、桃乃」

「そんな、私は何も」

 何もか、結構助かってると思うのだが。少なくとも、夜に叫んでいる俺よりかは。

「なんか知らない?帝園さん」

 と、愛野が訊くと、少し悩んだ後帝園が答えた。

「体調悪かった気がするわ」

 体調悪いか、何故だ?

 すると、隣に座っていた、山本が耳元で囁いた。

「これ、俺達の所為じゃね?」

「確かに」

 夜中に、押し入ってゲームして、大体徹夜する。これは、俺達の所為だな。

「何話してるの?」

 と、滝園が訊いてきた。

「あー、黒雨が、体調悪くなったのが、俺達の所為じゃないかって思って」

「何で?」

 部屋に押し入って、ゲームしました。って言ったら、怒るだろうな。まあ、ここは素直に言うべきか。

「ゲーム一緒にしてたんだよ、徹夜して」

「黒雨も、やりたくてやってたんでしょ?別に、悪くないでしょ」

 押し入って、と言い忘れてた。まあ、いっか。

「やりたかったか、どうかは、怪しいと思うぞ」

 と、笹野が会話に参加してきた。

「どうして?」

「黒雨が、笑った事一度もなかったし、それに黒雨は多分作業感覚で、仲良くしてるからだ」

「作業感覚?」

 一体どういう事だ?

「例えば、俺達がゲームやろうって言ったら、黒雨はやりたくなくても、やるんだよ。多分黒雨は、多分仲良くする事が、仕事と思ってるんだよ。

 こう言われたら、こう返すみたいな、作業を黒雨はしてるんだと思うよ」

「なんで、分かるんだ?」

 そう俺が訊くと、笹野が、自分を指した。

「俺が、そうだったから」



 全身が怠い、あまり動きたくない。

 それでもなんとか動き、着替えを用意して、風呂に入りに行く。

「ああ、疲れる」

 なんとか、風呂場についた。湯は溜まってるので、服を脱げば直ぐに入れる。

 服を脱いで、歩いて、シャワーを浴びてから、湯船に浸かる。

「なんとかして、耐えれる方法を探さないとな」

 俺が、人間らしく振る舞わなければ。大丈夫だ、何年もしてきただろう?

 大丈夫だよな?

 今は、楽しもうとするな、もっと楽しい事が待ってるんだから。

「人間失格読みたいな」

 大体、衝動が起こった時は、読めば抑えられる。前と同様の衝動だったらの話だが。

「前と同じ様に、自分を騙す上辺を、作れば解決するんだけどなあ」

 作れない、どうやって作ったかも忘れてしまったのだ。

「どうして、ここまで壊れてしまったのやら」

 人間の心は、ルーナに消されてしまったからか?いや、違うか、こんなゲームをしてるからか。

 そういえば、ルーナは俺にどうやって、人間の心を消したのだろうか。俺には、制約で、神力は使えない筈だが。一体どうやって、人間の心を奪ったのか。

「ラーナでなければ、いけなかった。なのに何故だ?

 そもそも、神でありながら、今まで何も作ってこなかったんだ?」

 そもそも、神の役割は?何故一つの世界に、神が二人も居るのか。制約を作ったのは誰なんだ?

 考えれば、考える程謎が深まる。俺は一体何者なんだ?

「悪魔か?悪役か?それとも、人間なのか、ラーナは何故俺を、作ったんだ?」

 こままじゃのぼせるな、上がるか。

 重たい体を、なんとか動かして、少しザラザラしている、床の上を歩く。

「知らない事が多過ぎる、自分の事なのに」


 ベットに戻って人間失格を読み始めた。


「死のうかな」

 不思議と、違和感なく口から出た。

 俺は、衝動が収まってるのを、感じながら、まだ少ししか読んでない人間失格をしまった。

「ねえ、このゲーム終わる前に予定の日が、始まるんだけど」

 ルーナだ。

 不思議と、訊きたい事がある筈なのに、訊こうとは思わなかった。

「伸ばしてくれ、一ヶ月でいい」

「はあ?私言ったよね?」

 と、ルーナが呆れた様子を見せた。

「そうだな」

「分かった、伸ばしてあげる」

「ありがとな」

「ただし、この少女を殺す事」

 すると、ルーナが、一つの写真を見せてきた。そこには一人の見覚えのある、少女が写っていた。

 この屋敷のメイドだった。一体何をさせたいのか。

「期限は、このゲーム終わるまで、そして神力は使わない事、そして出来る限り、苦しめて殺す事欲しい道具があれば、言って渡すから」

「なあ、結果は分かってるだろ?何がしたいんだ?」

「ちょとした実験」

 実験か、何がしたいのやら。本当に唯一心が読めない。

 気味が悪い。それは、俺も一緒か。と思った瞬間、強烈な頭痛と吐き気がした。

「ま、またかよ」

 手で頭を無意味だと思いながら、抑えた。

「大丈夫?」

 もう、このデスゲーム始まってから、なっていなかったのに。

「大丈夫に見えるか?」

 視界が歪んだ、駄目だこれ。俺はベットに倒れた。

「黒雨?」

 と、心配してそうな、ルーナの声を最後に気を失った。



「どれくらい寝てたんだ?」

 俺は、窓はないので、時計を見て、朝だと確認する。

 朝の七時だったので、九時間寝てたのか。

「飯を食べるか」

 俺は、今回のは強かったな、と思いつつ、やけに重い体を起こして。食堂へ向かった。

 廊下に出ても、一人も居る様子はなかった。

 壁に手を付きながら歩く、なんなんだ今回のは症状が重すぎないか?

 食堂に着くと、俺以外の十一人が、談笑しながら食事を食べていた。

「え!黒雨生きてたの?」

 と、帝園が声を上げた。

「一日寝ただけで、なんでそう思うんだよ」

「何言ってるんですか?黒雨さんは十日寝てましたよ?」

 と、桃乃が丁寧に説明してくれた。

「ちなみに、本当だぞ?」

 と、涼宮が念押しした。

「そうか、十日か」

「まあ、何もとあれ、起きてよかった!」

 と、涼宮が歓喜の声を上げた。

「そうだね!」

 と、吉沢よしざわも声を上げた。

「おお、そうだな!」

 と、山本も声を上げたが、辺りが静まり返った。

「……なんかごめん」

 その時、笑いが巻き起こった。

「なんか、ごめんってなんだよ!ハハ」

「いや、だって急にみんなこっち見て、シーンって静まり返るんだぞ?怖いだろ!」

 みたいな、会話をしばらくして、全員が食べ終わって、居なくなっていく中、一人だけ残って食べる。

「メイド、夜に部屋に来てくれるか?」

 と、伝えると、メイドは頷いた。

 俺は、食べ終わったので、部屋に戻った。


 夜になると、メイドはやってきた。

「それで、私は何をすればいいにでしょう?」

「ルーナ、爪剥がしで使ってた道具全部」

 と、言うと、ベットの上に爪剥がしをしてた物と、それ以外の拷問器具が置かれた。

「拷問を受ければ、よろしいでしょうか?」

 俺が、頷くと、メイドは服を脱いで、下着姿になった。

「これで、やりやすく、なりましたか?」

「そうか、なら座ってくれないか?」

 と、俺が言うとベットに座った。

 俺は、ペンチを取って足の爪を、剥がしていく。その時、声は上がらず、ただただ、作業と化していた。

「つまらないな」

「すいません」

 と、メイドが言うが、声を上げようとしなかった。

 声を上げない理由は、どうせ、ルーナがなんかしたからだろう。

 限界まで苦しめろとは、こういうことか、このつまらない時間を、耐えて、殺せって事か。



 時計を見るに四十分経った。

「結構長い間やってたんだな」

「終わった?」

 俺が、頷くと死体と血の付いたシーツが消えた。代わりに、新しいシーツが現れた。

「ああ、終わったよルーナ、これで良いよな?」

「もちろん、それじゃ私は戻るわ」

 その時、ドアをノックされた。俺が、ドアを開くとそこには四人の少年が立っていた。

「黒雨ごめん」

 と、言って四人が深々と頭を下げた。

「え?なんで?」

 と、俺が訊くと、涼宮が申し訳なさそうに、答える。

「だって、俺達の所為で嫌な思いしてたんだろ?」

「え?そんな事思ってないが?」

 しばらく、沈黙が続いた後、笑顔になってスイッチを見せた。

「なら、続きやろうぜ!」

 切り替え早いな。と思いつつ、山本からコントローラーを受け取る。

「あんま、無理すんなよ」

 と、笹野が優しく言ってくれた。

「そうそう」

 と、日野も優しく言ってくれた。

 それが、どうしようもない程に、気持ち悪かった。



 やっと終わった、疲れた、前より早く切り上げてくれたから、前よりマシだったが。

「何か、ないか?」

 とりあえず、風呂に入ろう。

 湯船に浸かっていると、ふと一つ思う。

「何故俺は、あの時気持ち悪いと思ってしまったのか」

 今まで思ったことなんてないのに。優しくされただけで、気持ち悪くなるなんて、なんて生きにくい体だろうか。

「ああ、面倒な体だな」

 どんどん、体が腐っていくような気がする。人間の部分が、どんどん、腐って落ちて、新しく作られてる気がする。

 そういえば、ルーナが、体を変えるとか言ってたな。神力は使えないんだよな?嘘か?

 どうやってだ?もしかして、俺になんかさせれば、神力を使える様になるのか?

「もし、あるのだとしたら、今回のメイド殺しがそうなのか?もっと、前にもある筈だ、なんだ?今回と共通している事」

 そこで、人間の心が消えた瞬間を思い出した。本気で、死にたいと思った時だ。

 じゃあ今回のと、何が合ってるんだ?何も合ってないぞ?

 違うのか?実験とは、別の何かなのか?

 もし、死にたくなった時ならば、俺は全部で三回あった、その内の三回で何かされても不思議じゃない。

「そういう事か」

 じゃあ、実験とはなんだ?一体何を実験してるんだ?

 もしかして、何かの進行度か?なんの進行度だ?

「もしくは、ちゃんとなってるかを調べる実験か?」

「謎が多いな」



 ベットに倒れて、目瞑る。

「これで寝れたら、良いんだが」


「寝れない」

 どれだけの、時間が経ったのだろうか。

 人を、苦しめたくて堪らない。あの声が聞きたい。

「誰か、助けてくれ」

 誰か、俺に苦しませてくれ。

 俺は、自分の腕を噛みちぎる。

「ああ※ああ※ああああ※※※!!」

 耐えろ、今は自分の声で、自分の苦しみで、耐えるんだ。誰にも手を出すな。

「耐えろ、耐えろ、思い出せ、家族全員殺した時の、顔を声を思い出せ」

 出血している、腕を痛がりながら、必死に思い出す。

「え?お、思い出せない?」

 馬鹿な、今まで、思い出していただろう?

「思い出せよ!!」

 ならば、黒崎の時の記憶は?

「駄目だ、思い出せない!!」

 壁に頭を、打ち付ける。

 神力を使い、体を治して、自分に苦しみを与える。

「あああ※※ああ※あああ※ああああ!!」

 なら、あの本なら!

「あれ?名前なんだっけ?」

 あれほど、読んで、愛した本の名前が思い出せない。

「どうしてだ!!」

 そうだ!本があそこにある筈だ。

 俺は、本の在処に走って向かって、手に取った。

「え?どうして!これまで掛かってしまってるんだ!!」

 今まで、掛かっていなかった、黒いモヤモヤが本にまで掛かっていたのだ。

「どうしてだ!この本だけは!掛かっていなかったじゃないか!」

 本を開いて、読もうとする。

「読めない?どうして!!どんな本でも中身は見れただろ!」

 文字が、一文字も読めない。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!どうやって、生きろてんだ!!」

 自分の声を面白がりながら、絶望した。

「何故こうなった!!」



 結局徹夜してしまった。

「朝食の時間だな」

 ボロボロの体を治して体を動かした。

 廊下に出ると、黒いモヤモヤの何かが居た。

「う、嘘だろ?」

 今までは、顔だけにしか黒いモヤモヤは掛かっていなかった筈だ。

 今まで、モヤモヤは全身に掛かってはいたが、体型身長などが分からなかっただけだ、服装はモヤモヤがそれぽっい形と色をしていたから、分かったのに。

 今は、黒が全身を塗りつぶしているのだ。その空間だけが、穴が空いたように。

 更に黒は濃くなっていて、色で判断してたのが、分からなくなってしまった。

「く※※め※※ん※※※お※※」

 声が、分からない。動悸が激しくなる。

「お、お前は誰だ?」

「※※※※※※※※※※」

 更に、酷くなった、雑音になっているのだ。

「声が分からない」

「※※※※※※※」

 雑音が、頭に入って来る。

「頼む、なんかの紙に書いてくれ」

「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」

 と、雑音を発しながら、何処かへ消えた。

「何故こうなった?ルーナが、何かをしたのか?」

 そうに違いない、それしかない。

「※※※※※※」

 雑音を発しながら、紙を見せた。そこには、こう書いてあった。

——大丈夫か?どうなってるんだ?

 良かった、書いた文字は見れる様だ。

「う、嘘だろ?」

 書いた文字すらも、モヤモヤで覆われた。

「もう一度書いてくれ!」

——山本だ。

 なるほど、書いた後直ぐだったら見れるのか。

「食堂行くか」

 俺は、歩いて食堂ヘ向かった。

 やはり、全員の濃さが同じになっていた。

「※※※※※※※※※※※※※※※※」

「黙ってくれないか?頼む、今何言ってるか分からないんだ」

「※※※」

 俺は、近くの椅子に座って、朝食を食べる。

 一口食べると、想像を絶する程の不味さが口に充満した。

「ど、どうなってるんだ?」

 食べなければ、死ぬので、無理矢理胃に入れる。

「※——」

「※——」

 分からない、何を言って、何を伝えたいのか。

——黒雨は、何故そんな事になったか心当たりある?

 俺は、首を横に振る。

 本当はあるが、言わない方がいいだろう。

「あれ?視界が」

 視界が歪んで、俺は倒れた。

 雑音が、とても五月蝿かった。

「静かにしてくれ」

 何か、考えるのも面倒くさかった。今は、ただ人が苦しんだ声が顔が見たかった。

 苦しめた時だけ見える、顔が見たかった。

 だが、一つの快楽の為に今は耐えなければ。

 たった一つの快楽の為に。

「※——」

「※——」

 五月蝿いな、一人くらいやってもバレないだろか。

 頭が、痛いな、倒れた時にぶつかったからだろうか。

「※——」

「ああ、疲れたなあ」

 もう、眠っても良いよな。

 俺は、目を瞑った。

「※——」

 耳に残るのは、微かな足音と、雑音だった。



 死んでないな、自分の部屋だ。

 少し、取り乱しすぎたか。

 俺は、ベットに倒れているので、起き上がって、辺りを見渡す。

「誰も居ないな、一体なんなんだ?俺が、あの本を忘れるなんて」

 もう忘れてしまっている。俺は、あの本の在処に行くと、そこには、何もなかった。

「え?何処に行った?俺の本が」

 あの、ボロボロの本が何処に行ったんだ?

「探さないと」

 俺は、部屋を血眼になって、探した。

「無い!何処だ!」

 まさか盗まれた?何故?何の為に?

「どうやって?」

 探さないと、犯人を見つけなければ、たとえ、何なのか分からなかったとしても。

 あの本だけは、絶対に盗まれてはいけなかったのに。

 俺は、廊下に出て、部屋をそこら中回って、探して。

 幸い、全員が食堂に行っていたので、バレる事はなさそうだ。

「見つけなければ、絶対に」

 探し回る、出来るだけ痕跡を残さずに。


「あった」

 やっぱり、モヤモヤが掛かっているので、本の名前が分からないが。

 ここの部屋は、帝園の部屋だった気がする。

 その時、ドアが開いた。隠れられない。

「※※※※※※」

 見られたなら仕方ない。

「なんで、ここに俺の本があるんだ?」

「※——」

 やはり、雑音だ。

「何言ってるか、分からない、紙で書いてくれ」

 紙を常備していたらしく、見せてきた。

——その、※※※※は、黒雨にとって、悪影響だから。

 また、モヤモヤが一部見せなくしてきた。おおよそ、本のタイトルとかだろう。

「その気持ちは嬉しいが、これだけは、盗まないでくれ」

——分かったわ。

「分ればいいんだ」

 俺は、自分の部屋に戻った。



 本を一ページづつ見ていくと、一つだけ、モヤモヤが掛かっていない部分があった。

 人間、失格。このたった一文だけモヤモヤが、掛かっていなかった。

 この一文を見た時、何となく、気持ちが楽になった。

「人間、失格か、廃人とかもそう言えるのかな?」

 この一文をまじまじと凝視する。何度も読む。

 本をしまう。

「俺は、人間、失格なのは間違いないだろうな」


 俺は、快楽を感じる為に、自分の右目を親指で突き刺した。

「ああ※※あ※※※あああ※あ※あ※あ※!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 ああ、痛い!怖い!

 俺の声が、面白い、俺の感情が面白い!!

 俺は、右手で右目を押さえた。どんどん、手から血が溢れる。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 死への恐怖を、感じながら笑った。

「ああ、最高だ!!」

 俺は、また、体をボロボロにするまで、傷付けた。



 神力で体を治して食堂へ向かう。頭がおかしくなりそうだ、どうしたものか、苦しんだ声を、感情を常に体に入れないとどうにかなりそうだ。

 階段付近に誰かが居た。

「※——」

——大丈夫?体調悪そうだけど。

 俺は頷いて、食堂へ向かう。


 食堂に着くと、誰も居なかった。

 時計を見るに、俺が最後らしい。

「これ食わないとな」

 俺は、不味い料理を、食べる。

「吐きそうだ、なんでこうなったんだ?こんな味になるなんて、どういう原理だよ」

 何と何を混ぜたらこんなになるのか、

 とりあえず、我慢して、食べ進める。

「後何日だ?」

 と、俺がメイドらしき黒いモヤモヤに話かける。

——後十日です。

 と、紙で書かれた。

 十日か、俺はそれまで持ち堪えられるだろうか。

 とりあえず、死なない事が目標だな。


 何もやる気力が湧かない、自分を傷付ける事も、何一つ。

 快楽は、何事にも変え難い筈なのに、今まで我慢しいた分溜まっている筈なのに。

「何で、頭の中で、人間、失格という言葉が何度も再生されるのだろうか」

 ベットに倒れながら、考える。

「ああ、前にも同じ事してた気がする、前は上辺でやってた気がする。今もか?」

 俺は、一時的とはいえ、上辺で本心を騙していたのだから、充分あり得る。

「どうだっていいか、どうせ十日後に分かる事だ」

 その時、猛烈な頭痛に襲われた。

「またかよ」

 遅れて、吐き気もやってきた。

 糞が、どうして今なんだ。

「やっぱりそういう事か?」

 少し、時間が経つと治った。

「疲れたな」

 そう言いつつ、自分の右手の人差し指を噛みちぎる。

「あ※※あああ※ああああ※※ああ※ああ!!」

 痛い!

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 ああ、やっぱり、俺には苦しめる気力だけはあった様だ。

 俺らしい。

 俺は、右手をベットの上に置いて、その右手を左手で思いっ切り叩いて、骨を砕く。

「あああ※あああ※※※※あああ※あああ!!」

 指が動かなくなった。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 もっと、俺に絶望の叫びを、苦痛の感情を俺にくれ!

「俺じゃない誰かの!!」

 だが、十日耐えなければ、耐えて、我慢しなければ。



 体を治してから、食堂へ向かった。昼食を食べる為だ。

「※——」

——一緒に行かないか?

 俺は頷いて、黒いモヤモヤと食堂へ向かった。

「不味いなやっぱり」

「※——」

——不味いのか?

「ああ、かなりな」

——そうか?俺は美味しいと思うけど。

「そうか、なら味覚が違うのかも知れないな」

 俺は、不味い料理を口に運ぶ。

——これ、食べてみてよ、黒雨。

 と、書いてから、料理の感想を言った奴とは違う、モヤモヤが、魚料理を俺の目の前に置いた。

「食べてみるか」

 恐る恐る口に運ぶと、今までよりかは、マシだったが、不味かった。

——どう?

「さっきよりかはマシ程度」

「※——」

 雑音、何故そうなってしまったのか。

 考えても、仕方ないか。

「疲れた、そろそろ部屋に戻るわ」

 俺は、椅子から立ち上がって、食堂を出る。

「この後、どうしようかな」



 部屋に、戻ってベットに倒れ込んだ。

「また、俺を苦しめようかな」

 そう言いながらも、俺は人が来る気がしたので。

 苦しめるのは、辞めた。

 案の定、ドアがノックされた。ベットから降りてドアへ向かった。

「※——」

——何か出来る事ないか?

「え?特にないが」

 モヤモヤ四人連れてきてこれだけなのか。と思ったが、まだあるらしい。

——一緒にゲームしないか?

 俺は、首を横に振った。

「多分無理だと思う、じゃあな」

 俺は、扉を閉めた。今やったら、耐え切れる自信がない。

 きっと、俺は殺してしまうだろう。

「ああ、またあの苦しんだ顔を見たいな」

 俺は、また、人の感情で顔を見れるだろうか。今までの様に。

 絶望、苦しみ、憎しみ以外の感情で俺はまた、人の顔を見れるだろうか。

「見れないだろうなあ」

 不思議とそう思った。

 俺はベットに倒れて、黒崎が笑っていた時を、思い出す。

「どんな風に笑ってたっけ」

 もう、思い出せない、黒いモヤモヤで顔は覆われていた。

 その時、ドアがノックされた。

「なんだ?さっき断ったよな?」

 俺は、ドアに向かって、ドアを開ける。

「どうしたんだ?」

 そこ居たのは、一人だけだった。

 その瞬間視界が、一面モヤモヤで覆われた。

「※※」

 雑音でしかない。

 きっと、俺に触れているだろう、なのに感触が全くなかった。

「お前は誰だ?」

 そう俺が言うと、モヤモヤが走って消えた。

 感触が全く感じなかった、重さも感情も感じなかった。

「なんなんだ?」

 視界が、埋まるほど近付かれたのに、感触が分からなかった。

 妙に印象に残った、帝園のモヤモヤも、笑みも全部モヤモヤで覆われていた。

「今では、女と、男の区別つかないとか、なんだよ」

 モヤモヤが、全部同じになってしまったのだ。人によって違った、モヤモヤが全部同じに。

 俺は、もうどれだけ壊れているのだろうか。

「ああ、疲れたな」

 なんとなく、眠かった。



 何時間寝てたのだろう、また十日とかは寝てない筈。

「朝食食べるか」

 俺がベットから立ち上がろうとする時に、視界に黒いモヤモヤが、映った。

「誰だ?」

 俺は、黒いモヤモヤに手を入れた。

 これ以上進まなくなった所があったので、揺らした。

「※※※※」

「分からないんだ、起きてくれ」

「※——!!」

 モスキート音に似た音出した。

「五月蝿いな、黙れよ、こちとら、お前が見えないし、聞こえないんだよ」

 ここで寝てた理由は、どうでも良いので、訊かずにドアへ向かう。

 その時、右腕が重くなった、掴まれたようだ。

「なんの用だ?」

——

 白紙?

「なんも書いてないだろ」

 今度は、反対側にして見せた、どうやら間違えていたらしい。

——好きです。

「は?何言ってるんだ?勝手に人の部屋に入って、隣で寝る奴と付き合うわけないだろう?」

——キスもしたじゃないですか!!

 と、モヤモヤが紙を前に突き出した。

「いつ?」

——昨日です!

「……もしかして、昨日の昼あたりに来た奴お前だったのか?」

——その通りです!!

 視界が埋まるほど、近付いたのは、そういうことか。

「俺は、感触がなかったから、キスだとは分からなかった。

 それに、他の人と何ら変わらない様に見えるのに、付き合うとかないだろう?」

 大切な人なのに、見分けがつかないんだぞ?恋愛感情もないのに、なんで付き合わないといけないんだ。

——そんな、初めてだったのに。

「俺はされた気がしない、分かったなら、さっさと自分の部屋に戻ってくれ」

 俺が外に出ると、黒いモヤモヤが走ってきた。

「※——」

——帝園達が殺された。

「は?」

 帝園が死んだ?もしかして、俺がやったのか?

——女子が三人殺された。

「三人?う、嘘だろ?」

 俺が、殺したのか?そんな訳ない、記憶にない。

——死んだのは——だ

「え?」

 死んだ人の名前が、モヤモヤで見えなくなっていた。誰が死んだっけ?一人だけ、分かる筈なのに思い出せない。

「死体に案内しろ!」

 右腕が、モヤモヤの中に入り、引っ張られた。


 死体の顔が見えない。

 今まで死体だけは、見えた筈なのに。

「顔はどうなってる?」

——楽しそうな、顔を浮かべてる。

 俺は、こいつを知ってる、確実に。印象に残った人物だと覚えている。

「名前が、思い出せない」

——名前は※※だろ?

 ああ、分からない。何も見えない。

「次の死体なら」



 どの死体も名前が分からなかった。

 分かったのは、絶望か苦しそうにしている顔なら、見れるという事だ。

——犯人は分かったか?

 証拠を集めなければ。

「三人の共通点は?」

——全員黒雨が好きだった事。

「は?」

——それ以外ないよ。

 俺が、好きだった事?

「なら、他に居るのか?俺の事好きな奴」

 もし、それだけが唯一の共通点なら朝の奴が犯人だろう。一人だけ、生き残っているなんて怪しすぎる。

——桃乃だけ。

「桃乃?」

 俺が、今回のゲームで唯一殺人はしないであろうと、思っていた人物が容疑者となった。



 部屋に共通点がないかと思い、探す。

 何故、この三人なんだ?

「やっぱり、そうなのか?」

 桃乃なのか?

——桃乃だと思うか?俺は、同じ人を好きなったからって、殺さないと思うが。

「ドアを開けたら、急にキスをしてくる女だぞ?」

——死因は、絞殺だぞ?桃乃に出来るか?返り討ちに遭うだろ、特に※※は。

「そうとは限らない、特に、こいつは喜んで死ぬだろうな」

 俺は、死体がある筈の所に目を向ける。

——何故?

「簡単だよ、こいつは、恐怖を愛していたからだ」

 会話した内容なんて、覚えてないのに、これだけは断言出来た。

 どうにか、納得した様だ。

「なあ、もし、俺が殺したかもしれないって、言ったらどうする?」

——どういう事だ?

「この部屋全部、鍵が掛けてなかったとして仮定するが、どれも女子部屋の中で近い順なんだよ、俺の部屋から。俺がもし我慢できずに殺していたとしたら?」

——でも、記憶にないんだろ?それに、近い部屋なら、俺達の方が近いだろ?

「昨日、男達で食堂に集まって、なんかしてたんだろ?その時に部屋を抜けてたと、したら?」

 俺は、辺りを見渡す。

——それでも俺は、やってないと思う、だってずっと我慢してたんだろ?自分に傷付けてまで。

 知っていたのか、なら一度事件を見つめ直そう。

 黒いモヤモヤが掛かっている所を、見つけたので向かってみる。

「これは、なんだ?」

——血の付いた本だ。

 これが、見つからない程俺は、この事件に力を入れていなかったとはな。

 血の付いた本、それが何を意味をするのか、それは一つだろう。

「本が近くにあった、もしくは殴ったかのかのどちらか」

——多分殴ってない、曲がったりしてないから。

 と、なると近くにあったということになる、それが何故ここに置いてあったのか、何故置く必要があったのか。

 犯人は近くに、あって邪魔になるもの。そもそも、血はどこから出てきた?三人とも絞殺だった筈。

 何故、この本をここに置いたんだ?もっと隠せる場所はある筈。

「ベットの下をみてくれないか?」

 黒いモヤモヤは、ベットの下から、何かを取り出した。

「何だ?それ」

——血が付いてるナイフ。

 そこで、一つの考えが浮かんだ。

 もし、わざとだとしたら?

 そんなのは、後で良いか。



「全員両腕を見せろ」

 何が起こったかは、分からないが、犯人が見つかった様だ。

「※——」

——桃乃が犯人だった。

 と、左斜めのモヤモヤが紙を見せた。

「その為に殺したのか?」

 声が聞こえた。相変わらず、モヤモヤだが。

「そうですよ、黒雨さんに私を見て欲しいから殺した、何か悪いんですか?」

 ああ、そうかこんな、声だからか。どっちも怒っているから、聞こえるのか。

 面白いからか。

「それなら、残念だったな、俺は、桃乃に対して興味なんてない。

 声も顔も、匂いも喋り方も全部覚えようとは思えない」

 その時、桃乃の顔のモヤモヤが徐々に薄れていった。

「う、嘘だよね?だってああいうのが好きって言ってたじゃない?」

「死体を見る趣味は俺にはないな」

 その時、モヤモヤが完全になくなって、絶望した表情を浮かべた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 笑いが込み上げてきた。

「分からないなら!教えてやる!俺が好きなのは、今の桃乃の様な顔だ!!」

 すると、徐々にモヤモヤが戻っていった。

 ああ、つまらなくなってしまった。

「俺は、部屋に戻る」

 俺は、椅子から降りて、部屋に戻った。



 どうしようもない程に、壊れてしまった。面白い時だけ見れたりするとか、どんな仕組みだ。

 やはり、何かされたな、ルーナに間違いなく。

「ルーナ」

 神の名前を、小さく呟いた。

「呼んだ?」

 そこには、モヤモヤは掛かっているが、悪化していないルーナの姿があった。

「何故、俺はこうなってしまったんだ?分かるだろ?」

「知らないわよ、やったのラーナだもの」

「そうか、ラーナは存在しないそうだろう?」

 一瞬、顔のモヤモヤが取れて、動揺した顔を見せた。

「こんな、糞みたいな体にしたのも、お前だろう?ルーナ」

「違うわよ、私はやってないわ」

 俺は、ルーナの目の前に立つ。

「ルーナ、良い加減諦めろよ、お前は、俺を人間ではない何かにさせてしまった所為で、自由に扱えないそうだろう?

 例えば、悪魔とか、邪神とかの、悪役にピッタリの生き物にしてくれたんだろ?」

 何も言い返せずに、固まった。

「勘違いすんなよ?ルーナ今の俺は、お前と対等なんだ。

 どうせ、ラーナという架空の存在を作って、俺が何かのきっかけで憎しみを抱いた時ラーナを探させる為に、嘘をついたのだろう?」

「ハハハ」

 モヤモヤが、完全に消えた。

「勘違いも」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ルーナの顔がよく見えるな!焦っている顔が!苦しんでる顔が!!」

 この、モヤモヤが消える時は、必ずその時だけそして、微かな違和感が、全て物語っていた。

「人の話は最後まで聞きなさいよ!」

「聞けって?こんな体なんだから、そんな顔されてまともに、聞けるわけねだろ!!

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 最高だ、必死に隠そうしてる所も全部。

「覚えておけ、俺の力全てを理解した時、立場は対等ではなくなる事を」

 そこまでして、標的を変えたかった理由は一つだろう、俺に殺されるかもしれないからだろう。

「最高に悪役らしいわね」

 俺は、体を少し震わせているルーナに笑みを溢す。

「ああ、全くその通りだ」

「黒雨を選んで正解だったわ」

 ルーナは、今にも早く帰りたそうだった。

「それで?なんの用だ?」

 俺は、ベットに戻り上に座る。

「日本全体じゃなくて、世界全体でやらない?」

「なるほど、分かったそれで行くとして、どういう感じで行くんだ?」

 作戦が分からない。

「世界中で十人の狂人を用意して、その狂人達を黒雨陣営についてもらって、各地で殺して回ってもらう。

 その後、ヒーロー達がその各地で起こる事件を解決してもらいつつ、黒雨達と戦ってもらう」

 なるほど、良いな。長引けば、長引くほど見れるのか。

「良いな、やろうぜ」

「それで、組織の名前を決めようと思うのだけど、あの仮面から習ってバフォメットなんてどう?」

 組織の名前なんて、どうでも良いが、一応頷いておく。

「ああ、最高に楽しみだ」

「そういえば、安心してね?十人とも黒雨ほどの狂人じゃないから、そして、それだけの力を持てるのは、黒雨だけだから。

 それと、完全に黒雨がなったら、ちゃんと人が見れるから」

 人が、見れる?十数年間見れなかった物が?遂に。

「最後に、私は、黒雨に人間の心も何一つ取ってないよ」

 そう言って消えた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!そんなの分かってるに、決まってるだろ!!」

 ただ、疑惑が確証に変わっただけだ。

 何も変わらない。



「もう朝か、今日は食べなくてもいいか」

 起き上がるのがだるい。

「そういえば、あの本」

 俺は、本を取る、やはりモヤモヤで見れない。

 ペラペラと捲っていく。

「あれ?」

 所々モヤモヤが消えていた。

 これは、俺が何かになる手前だという事か?なりかけているのか。


 内容は、何となく分かった。

「好きになる、理由が何となく分かるな」

 俺はそう呟いてから、本をベットの横にある棚の上に置いた。

「寝るか」



 もう夜中になっていた。

「食べるか」

 俺は、重い体を何とか持ち上げて、食堂へ向かう。

「全部、無視してみようかな」

 俺は、ドアを開けて廊下に出ると、そこには待ち伏せされていたのか、モヤモヤが居た。

——一緒に行こう?

 俺は無視して、廊下を歩いて階段を降りた。

 桃乃だろうな。

 食堂に着くと、椅子が三脚少なくなっていた。

「※※よ」

 最初よりかは、聞き取れやすくなってるな。

 俺が、椅子に座ってから、モヤモヤが一人入ってきた。

 桃乃だろう。

「な※※※し※※※で※か!」

 無視して、たいして美味しくもない食事を、口に運ぶ。

「黙ってろ、目障りだ」

 徐々に、顔のモヤモヤが薄くなっていく。

「な※で、そん※※と、言うん※※か?」

「もう一度言う、黙れ」

 目障りだ、黒崎ぐらい、もしくはそれ以上。

 モヤモヤがなくなり、今にも泣きそうになっていた。

「気持ち悪いな、勝手にキスして、それで彼女ヅラだって?ふざけてんじゃねよ」

 食べ進めていく。

「※——」

 誰の声かは、分からないが、雑音だった。

 桃乃が、走り去った。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!あーあ、笑い堪えるの結構キツイな。

 あの顔最高だったな、堪えて良かったな」

 椅子の背もたれに、体重を預ける。邪魔な髪を右手で上げる。

 最高の泣き顔か。

「黒雨その目どうしたんだ?」

 と、声を震わせなが、涼宮が恐怖している顔を見せた。

「目?」

「その、黒い目」

「普通じゃないか?」

「違うぞ。白い部分あるだろう?あそこまで、黒くなってるんだ」

 もしかして、これもなるという事なのか?

「分からん、支障ないし大丈夫だろ」

 俺は、立ち上がって、部屋に戻る事にする。



 洗面台の鏡で、自分の目を確認する。

 右目だけ、真っ黒だった。黒以外がなかった、何一つ。

 強いて言うなら、瞳孔の部分は濃かったぐらいだろう。

「結構、進行してきてんのか?」

 どうやら、だんだんと、体までも人間じゃなくなってるらしい。

 まあ、こっちの方が、正しいのか?精神なんて、もう人間じゃないのだから。

「もしかしたら、全身黒になったりしないよな?」

 それは、流石に嫌だな。



 昨日あれだけ言ったのに、何故居るんだ。

 ドアを開けて、横に居るのは何なんだ。

——一緒に行きませんか?

 俺は、ため息を吐いて、モヤモヤを睨みつける。

「良い加減にしろ、まだ分からないのか?俺は、俺はお前が嫌いだ」

 紙に何かを書いていたが、無視して、食堂へ向かう。


 どこに、俺に魅力を感じるのやら、あの本の主人公の様に、女にモテるらしい。

 イカれた女に。

「疲れる」

 椅子に座って、食事を口に運ぶ。

「※——?」

 所々聞こえるが、言ってる意味が分からない。

「紙に書いてくれ」

——何が疲れたんだ?

「桃乃だよ、今日もドアの周りで待ってやがった」

——モテる男の性だな。

 俺は、ため息を吐く。

「何だよそれ、性ってそもそも、何でデスゲーム始まってからモテるんだよ、おかしいだろ?」

——確かに。

 確かにとは、何なのか、何故気付かなかったのか。

 呆れた。

「人生楽そうだな」

——そうか?ありがとな。

「別に褒めてねえよ」

 本当に、考える事が少なそうだ。人生楽で良いな。

「※——?」

「う※」

 誰かが涼宮になんか言って、涼宮が頷いたのだろう。

 何なんだ、こいつは。

 ため息を吐いて、食事を口に運ぶ。

——ため息吐いてどうした?

「気にすんな」

 このゲームも、後少しか。

 後少し耐えれば、最高の娯楽が待っているだろう。



 今回のゲームが終わった。地獄の様な、三十日が終わった。

「それでは、最後のゲームに参加してもらう。この道を真っ直ぐ、進んでもらう」

 ドアが開き、道が現れた。

「やっと最後だ!」

 と、モヤモヤが声を上げた。

 最後か、もう終わってしまうのか。

「気を引き締めて、行きましょう!」



 ゲーム会場に着くと、そこは、証言台が円の様に中心を囲っていた。

「これは、人数分あるし、そこに立てって事か?」

 俺は、近くの証言台に立った。

 モヤモヤも立つと、モニターに一人の人物の足が映し出されていた。

「今回のゲームは、裏切り者当てゲームだ。

 三十分後、投票に移り、このデスゲームを作った者を当ててもらう」

 その瞬間、モヤモヤが消えて、不安、恐怖、などの表情を全員が浮かべた。

「それでは、ゲームスタートだ」

 全員が、俺を見た。

「お前だろ、黒雨」

 日野の言葉に、思わず笑みが溢れる。

「俺が?理由は?」

「こんなゲームを作る奴が、まともの筈ないだろ!」

 呆れた、その程度の理由か。

「本当に俺だけが、まともじゃないのか?」

「当たり前だろ!あんな事を、楽しんでる奴はお前だけだ!」

 周りから、日野を肯定する意見が沢山出てくる。

「本当に、このゲームは、人苦しめて楽しむ為に作られたのか?

 このゲームで、優越感を感じる為にする奴は本当に居ないと断言出来るか?

 このゲームは、活躍する為に作られた物ではないと言えるか?」

 全員返す言葉を失った。

「俺は、黒雨が作ったとは思えない」

 と、涼宮が俺を擁護した。

「涼宮!」

「黒雨は!前のゲームで、俺達を傷付けない様に、自分を傷付けていたんだ!」

 そんなのじゃ、無理があると思うが。

「このゲームで、投票されない為にかもしれないだろ!」

「本当に苦しませるのが、目的なら!あんなゲームをする訳がない!」

 と、涼宮が必死に擁護した。

「そういう風に思わせる為の、ゲームかもしれないだろ!」

「それなら、十日とかで良い筈だ!何故、三十日にした?」

 これは、行けるか?

「それなら、誰なんだ!」

「俺は、山本、日野、桃乃が怪しいと思うけどな」

 と、俺が言うと、全員俺を見た。

「どうして、そう思うんですか?」

 桃乃が、悲しそうな目でこっちを見た。

「簡単だ、山本は自分が一位じゃないと気が済まない節があった。

 日野は、今のゲームで活躍しようとしていた。

 最後に桃乃は、このゲームで何かを求めてる節があった。それが何かを分からない。でも、桃乃は絶対に何かを求めていた。会った時からずっとこのゲームに」

 すると、俺に向けていた視線が、桃乃に向いた。

「ち、違う!私はやってない!」

 喋り方が、犯人だった。その時の、桃乃の表情は面白かった。

 あの焦り具合、何かを求めていたのは、事実の様だ。

「何を求めてたの?」

 少し、動揺しながらも、恥ずかしそうに口を開いた。

「う、運命の出会いを」

「運命の出会い?」

 と、滝園が、聞き返すと桃乃が頷いた。

「なら違うんじゃ」

「本当にそう思うか?こいつの、恋に対しての執着は異常だ」

 俺の言葉で思い出した様だ。

「確かに、なら本当に桃乃が」

 いつの間にか、モヤモヤが現れていた。もう犯人が分かったとでも、言う様に。

「あのさ、犯人が居ない可能性はないのか?」

 と、モヤモヤが消えている、笹野が手を上げて言った。

「どうして、そう思うんだ?」

「だって、それほどイカれた人はこの中に居ないと思うから」

「このゲームが、そのイカれた奴を当てるゲームなのにか?」

 と、涼宮が聞き返すと、笹野が頷いた。

「嘘って事?」

「うん、なんの根拠もないけど」

「いや、犯人の性格的にも、あり得るんじゃない?」

 犯人が居ないか、それで良いかもしれない、が、同時に危険すぎる。

「だが、それで良いのか?もし犯人が居た場合、終わるぞ?決めるには早すぎる、今までの行動を振り返るべきだ」

 と、俺が言うと全員が同意した。

 どんどんと、モヤモヤが戻っていく。ああ、つまらない。


「やっぱり、どう考えても、桃乃に行き着くけど、でも桃乃がそんな度胸ないと思うし、やっぱり、居ないんじゃない?」

 と、誰かが言った瞬間、モニターに足が映し出された。

「投票の時間だ、裏切り者だと思う奴を指せ、無投票なら指すな」

 俺が、指すのはだ。

 全員のモヤモヤが取れて、無投票になっている、八人が視界に映った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!本当に扱いやすいな!!」

 この顔が見たいが為に、我慢していた、我慢していて良かった。

「う、嘘だろ?黒雨?」

「裏切り者は、俺だ」

 モニターに俺の顔が映し出される。

「よって、勝者は裏切り者となる!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 このゲームを作ったのは俺で、理由は言わなくても分かるだろう?

 残念だったな?最初の推理で合っていたのに!!」

  絶望、その言葉でしかこいつらの、顔は表せられないだろう。

「いやー、大変だったな?あんなに我慢するんなてよ!だが、我慢した甲斐があったな!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!では、最後のゲームと行こうか!」

 地面に穴が空いて、八人とも落ちた。

 俺は階段で降りる。


「な、何をすれば良いんだ?」

「簡単だ、どれだけ耐えれるかゲームだ、俺が与える痛みに、何発まで耐えれるかのゲームだ」

 俺は、何もない地下室の地面から、黒い刀を取り出す。

「それじゃあ、やろうか、一番耐えれた人は、生き残れるから誰から行く?」

 怯えつつも、桃乃が前に出た。

「私がやります」

「そうか」

 俺は、右腕を斬り落とした。

「あ※ああ※ああ※※※ああ※※ああああ!!」

 そう言いながら、桃乃が倒れた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!流石に三十倍はやりすぎたか!」

「三十倍?何を言って」

 戸惑う、涼宮に笑いながら答える。

「痛みだ、痛みが三十倍なんだ、三十馴染みのある数字だろう?

 さて、次は誰だ?」

 誰も前に来ない。なら、涼宮からやるか。

「こ、こっち来るな!!」

 涼宮の腕を斬り落とす。

「あ※ああ※ああ※あ※※あ※あああ!!」

 そのまま、気を失った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!さあ、次だ!」

 滝園の、腕を斬り落とす。

「※ああ※※※あああ※※ああああ※※あああ!!」

 次々と、斬っていく、どんどん倒れていった。


 目を覚ますと、白い部屋で、寝ていた。

「起きた?」

 そこには、このデスゲームを作った黒雨が、立っていた。

「何をする気だ?」

 そこで気付く、斬られた筈の右腕が生えていたのだ。

「実はさ、どれだけ痛みを受けようが、気絶しない様に出来るんだよね、その代わり体の修復出来なくなるけどな、それを今からやろうと思うんだ」

「え?」

 気絶しなくなる?痛みから、逃れないのか?

「さあ、やろうか、涼宮」

 黒雨は、刀を持って近付いてくる。

「ち、近付くな!」

 後ろに下がろうとすると、壁にぶつかった。

「い、嫌だ!」

 右腕が斬られた。

「ああああ※※ああ※※※ああ※あああ!!腕がああ俺の、腕が!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!痛いか?怖いか?死にたくないか?」

 こいつは、人間じゃない。黒雨の黒い右目が、悍ましかった。

 無意味だと、思いながら、左手で必死に出血を抑えようとする。

「や、辞めてくれ!!俺を、助けてくれ!」

 腹を、刺される。

「あああ※※ああああ※※あああああ※!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!痛いなあ?死にたくないな?」

 だがこれなら、死んで、この地獄から抜け出せる筈。

「え?」

 と、思った瞬間右腕が生え、腹が治った。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!残念だったな?修復出来ないなんて、嘘だよ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「そ、そんな、まだ続くのか?」

「ああ、もちろんだ」

 黒雨の笑みが、目がこの世のものとは思えないほど、悍ましかった。

「い、嫌だ」

 走って逃げようとすると。黒雨に足を斬られた。

「ああ※※※※あ※あああああ※ああ!!足が、俺の足が!!」

 また、生えた、立ちあがろうとすると、頭を床に叩きつけられた。

 頭蓋骨と床がぶつかってる音が、頭に響いた。

「あああ※※※あああ※ああ!!」

 歯が折れた。だが、また治る。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 馬乗りにされて、刀で滅多刺しにされる。

「あああ※※※あああ※※あああああ※※※※※あああ!!」

 治っては刺されを繰り返される。

 馬乗りを辞めて、壁に投げられる。

 逃げようとするが、間に合わず、頭を壁に叩き付けられた。

 いつの間にか、持っていたスプーンで目を抉られる。

「ああああ※※※あああ※※※あああああ※※※※※※!!」

 右半分の視界が、段々と黒雨に近付き無くなった。

「目が!目が!」

 右目だけで、しっかりと黒雨を観察する。

 黒雨が新しく出したのは、ムカデだった。

「ま、まさか!」

 これを、右耳に運ばれた。ムカデの、歩く音がよく聞こえる。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 俺の耳に、どんどん入っているのを感じる。必死に振り払おうと、顔を振ろうとするが、黒雨の所為で意味をなさない。

「や、辞めてくれ!」

「ああ※※※あああ※※※※ああああ※※ああ!!」

 激痛が走る、悍ましいムカデの足音が聞こえる。

 黒雨が押さえる手を、右手から、左手に変える。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!右耳だけだと、違和感があるよな?」

 右手には新たなムカデがあった。

「や、辞めてくれ!!」

 どんどん、耳に近付かれる、悍ましい足音が、どんどん近付いてくる。

「ああああ※※ああ※※※ああああ※ああああ!!」

 左耳に、足音が聞こえ続けた。

「もう一つ、ムカデが入りやすそうな穴がありそうだよな?」

「え?」

 ま、まさか!

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!気付いたか!!」

 右手にムカデにはムカデがあった。

「や、辞めてくれ!!」

 ムカデが、どんどん、右目があった場所に近付かく。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 中にムカデが入ってきた。

「ああああ※※あああ※※※あああ※あああああ※※!!!」

 ムカデが、暴れる、激痛が走る。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 俺の体の中で、ムカデが走っているという感覚だった。傷にヤスリを掛けられてるなんてレベルじゃない。

 この世の痛みじゃない。

 どんどん、中に入ってくる。脳には入ってこないと信じたい。

「あああ※※ああああ※※※あああ※あああああ※※!!」

 左側の視界が無くなった。いや、無くなり始めている。

 痛い!何かが切られている。神経が、俺の視界が!

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 何かが、俺の頭から取れた。

「目が取れちゃったな?」

 俺の目が!

 これで完全に視界を失った。動くムカデ達の気持ち悪さがまさに地獄だった。

「実はさ、このムカデ特殊でさ、体を小さく出来るんだよね、それとさ、好物は人の脳みそなんだよんね」

「え?なんて?」

 ムカデ達が、頭の中に入ってくる。

「ああああ※※ああああ※※※※ああああ※あああ!!!」

 俺の、脳が!どんどんと蝕まれていく。頭が、脳みそが!

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!大丈夫だ、死なせないから」

 突然痛みが止まって、視界も戻った。

「お、終わった?」

「終わったと本気で思ってんのか?」

 逃げようとして動こうとする。

 力が入らない?

「んじゃ、次は、これしてみよう」

 そう言って出てきたのは、二つの目玉だった。

「まさか」

 黒雨が笑みを浮かべながら、二つの目玉を俺に食わせた。

 どろどろの触感をした全体で感じる。味は感じなかった。それが唯一の救いだった。

「じゃあ、次はこれを行ってみよう」

 出てきたのは、トンカチだった。

 そのトンカチで、股間目掛けて振り下ろされた。

「ああああ※※※※※ああ※※あ!!」

 俺の、あそこが、潰された。

「痛いよな、じゃあここから、股を引き裂いてみようか」

 そう言って、床から出てきたのは丈夫そうな紐が付いたトラックだった。

「え?や、辞めて」

 足に紐が結び付かれる。

「んじゃ、行ってみるか」

 トラックがゆっくりと壁を壊しながら進んでいく。

「ああ※※あああ※ああ※※ああああああ※※!!」

 どんどん、引き裂かれていく、少しずつ確実に。



「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!死んだか、楽しかったな。次は、どんな事をしようか」

 俺は、体が二つに分かれている涼宮を横目に外に出た。

 外に出ると、星の光が周りの木に邪魔されながらも俺を照らしていた。

「もう夜か」

「グロすぎ、やりすぎじゃない?」

 ルーナが突如として現れた。

「やりすぎ?あれでも足りないくらいだ」

 ルーナの顔が夜中であるにも関わらず、鮮明に見える。きっと、なったって事なのだろう。

「まあ、いいわ、とりあえず角消すわよ?」

「角?」

 目を上に向けると、山羊のような角が生えていた。

「確かに邪魔だな、消してくれ」

 すると、跡形もなくなった。

「どうやったんだ?」

「簡単よ、その角は私が悪役ぽいかなと思って付けたからよ」

 要するに、俺の体から生えた物じゃなくて、自分で付けた物だから、消せたって事か。

「で?何の用だ?」

「アジトを案内しにきたのよ、それと羽の扱い方をね」

 そう言いながら、ルーナ白い綺麗な羽を背中から出した。

「どうやって、羽出すんだ?」

「感覚?」

 感覚とは、適当な。俺は、羽生えろと思うと、羽が生えた。俺の羽はカラスによく似ていた。

「マジで感覚なのかよ」

「飛び方は、見てて」

 と言いながら、飛んだ、多分教える事出来ないんだろうなと思いつつ、観察する。

「なるほど」

 飛び方は、大体分かった。飛んでみるか。

 すると、結構簡単に出来た。

「行けた?なら、付いてきて」

 と、称賛の言葉を一つも贈らず、飛んで行った。



 アジトに着くと、すぐに服を着替えさせられた。

「羽って、体から生えてないのか」

 どうやら、魔法みたいな感じらしい、道中羽ばたかなくても、飛べたのもその理由だろう。

 着替え終わったので、外に出る。

「着替えたぞ」

 まじまじと見つめてから、ルーナが口を開く

「似合ってる」

 黒色のロングコートに、その中に黒色の長袖のシャツ、黒色のズボンと、全身黒だ。どこぞのデスゲームの主人公に似てる。

「なんで、こんなに黒いんだ?」

「やっぱ悪役って言ったら、黒のロングコートでしょ」

 と、ルーナがソファに座りながら、偉そうに言った。

 歩いて、キッチンらしき所に向かう

 俺はコーヒーを淹れる。

「ルーナ飲み物いるか?」

「いらない、今から、他の人連れてこないと行けないから」

 そう言って、消えた。

 コーヒーを淹れて、リビング辺りの椅子に座る。

 一度だけ、コーヒーを飲んだ時、少し苦味を感じたが、今なら味を感じれるのではないのか?

 そう思い、コーヒーを口に運ぶ。

「あ、味が感じる!」

 美味しい!どんどん飲んで行く。

 味を感じると、ここまで美味しい物なのか。

「練習でもしようかな、淹れる練習」

 


 昔から、ずっと、人を殺したかった。駄目だと分かっていたから。人に縛られるのが嫌いだった。

 殺しこそが、最大のルール破りだったから。縛られてないと証明出来るから、でも別にしようとは思わなかった。やったら、今までの十数年が無駄になるから。

 私は、それまで愚かじゃない。自分の好きな生き方で生きれれば良かった。

 そんな風に思い耽ってる時、私の人生の分岐点が現れた、金髪が肩下まで伸びていて、白いワンピースを着た、華奢で童顔の美少女と一緒に。

秋永琴葉あきなが ことは人を殺してみない?」

 その言葉に、私は不思議なほど心が躍って気付けば少女の手を握っていた。

「やります!」

 知らない内に入ってきた、不審者だったのに、なんの心配もなく手を握った。

「本当?なら、力をあげる」

「力?」

「えっと秋永のは、未来予知だね」

「具体的には、どれくらい?」

 何秒後か分からないと、正直かなり対応が変わってくる。

「状況と場合によって変わる、その場その場で、ちょうど良い秒数になるわ」

 ちょうど良いとは、なんなのか、十秒後の未来しか見れないとかって事か?

「例えば、あの缶どうなる?」

 捨てずに置いてあった缶をみる、すると缶が落ちて行く未来が見えた。

 その、数秒後に、缶が落ちた。

「そういう事か」

 未来見るまでの間隔があるって事か。

「分かった?じゃあ次、人間辞めちゃおっか」

 うん?今なんて言った?人間辞めよっか?

「人のままが良いなあ、なんて」

「なら、この話は無しだよ?」

「はい、辞めます人間辞めます」

 と、素早く返事して、人間を辞める決意をした。

「はい!出来たよ、悪魔になったと思う。

 あー、角消しとくね」

 悪魔になったのか?

「変わった実感ないんですけど、変わりました?」

 少女は頷いた。

「まあ、また今度来るから待っておいて」

 そう言って、少女は消えた。

「人を殺すか、一体どんな事をするんだろう」

 ああ、楽しみだ。

 私は、心を躍らせながら、人の殺し方を考えた。

「どんな方法が、一番縛られていないかな?」

 その時、ママが「ご飯だよー」と、教えてくれた。

「親殺しって、縛られてないよね?」

 私は筆箱から、ハサミを持って一階に降りる様とする。

「あれ?なんでお姉ちゃん、ハサミ持ってんの?」

 忘れてた、こいつが居るんだった、この五月蝿い弟が居るんだった。

 小学生殺しても、普通の人を殺すのより、縛られてないだろう。姉弟なら尚更。

「お姉ちゃん?なんでこっちに近付いてくるの?」

 私は、弟の首を絞めながら、部屋の中に入った。地面に叩きつけて、ハサミで頬を切る。

「や、辞めてよ」

 首を絞める力を強める。もう一つの頬を、切る。

「ハハ」

「な、なんで笑ってるの?さ、サイコパスぶってんの?」

 どんどん、弟が死に近付いてるのが分かる。


 泡を吹いて、死んだ。初めて人を殺したのに、罪悪感なんて全く感じなかった。

 さて、次はママだ。

 ハサミに付いている血を近くのティシュで拭う。

 ドアを開けて、母親の居る所へ向かう前に着替える、血が付いたからだ。


「ここからが、難しいな」

 ハサミを隠しながら、降りて行く。

「ママ今日のご飯は?」

「ハヤシライスよ」

 ママが動く未来はなさそうだ。まだ、作ってる最中の様だ。包丁を取れたら良いが。目潰すか。

 歩いて、包丁を取れる位置に行く。

「ママ、こっち見て?」

 こっち見たと同時に、左手のハサミで、目を刺す。右手で、包丁を取って右目を刺す。

 急いで、もう一つの包丁を取る。

「な、なんで?」

 む、無視して、心臓を刺して、すぐに抜き取る。血が勢い良く飛び出る。

「ど、どう」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 死体を滅多刺しする。

 ああ、今私は誰にも縛られてない!

 せっかくだし、パパも殺すか。

 血の上を歩き音を立てながら、部屋に戻った。



 海の様な匂いが、鼻を刺激した。

 横を見ると何かに刺された状態で、ぐったりと恵美子えみこが倒れていた。

「え、恵美子!!」

 急いで駆け寄る。

「い、息をしてないま、まさか!!」

 急いで階段を駆け上がる。

幸太郎こうたろう大丈夫か!」

 部屋の電気を点けると、そこには、首に跡付けて頬が切られていてぐったりと倒れている、光太郎の姿があった。

「あああ、琴葉!」

 せめて、琴葉だけでも!琴葉の部屋のドアを開くと同時に、両目に何かが刺された。

「ああああ※※ああ※※あああ!!」

 その後、何かに心臓辺りを刺された。



「結構この力使える、扉を開けた瞬間に刺せるもんね、マジで楽だわ」

 と、独り言とは、思えない量を喋りながら、自分の体を見る。

「とりあえず、シャワー浴びよう」



 とりあえず、血は全部取れたかな。それじゃあ、死体一箇所に集めるか。

 一番近い、ママから運んでいく。

「場所は、私の部屋でいいや」

 ママを引きずりながら、階段を登る。

 ドアを開けて、投げ入れる。

「次は、幸太郎か」

 軽々と持ち上げて、私の部屋に運ぶ。

「この死体どうしようかな」

 と、電気を点けながら呟く。

「食べてみようかな」

 人を食べる、何も縛られてないでしょ。

 流石に生は駄目か。



「よし、こんなもんでいいかな?」

 肉を、全部剥いで冷蔵庫に入れた。

「あとは、骨どうしようかな?」

 砕いて、ゴミ箱に入れたらバレないでしょ。

「よし、トンカチ持ってこよう」


 大体、ゴミ箱に入れ終わった。

「よし、脳みそは食べたし、後は人肉だけだ!」

 脳みそは固茹での卵の様な味だった。人肉はどんな味なのだろう。



「豚肉に近いんだ」

 焼いて食べたが、かなり美味しい。

 まあ、肉だからそんな物か。

「ああ、自由だ」

 倫理にも囚われず、ルールに縛られてない。自由になってると実感出来る。

「楽しいな」

 ああ、こんな時間が一生続けばいいのに。何も縛られず生きる自由な生き方で。



「ああ、学校ズル休みしたし、どこかに行こうかな」

 そうだな、適当に歩き続けてみようかな。

「その前に朝ご飯食べよう」


「美味しかったー」

 外出る為に、玄関に向かう。

 靴を履き、外に出る。

「暑い」

 七月の明るい太陽が、私を照らした。

「この力使って、殺せたり出来るのかな?」

 とりあえず、適当に歩こう。


 暑い、半袖にすれば良かった、ジャージだし大丈夫だと思ってた。

「舐めすぎてた」

 もう、家に帰ろうかな?いや、とりあえず、実験してから帰ろう。

 丁度良い人居ないかな?

「あ、居た」

 ナンパされてる子発見。

 歩いて近付く。

「あ、あの!辞めてください!」

「良いんじゃん、楽しいよ?」

 うわ、ダサイな。

「あの、嫌がってると思うんだけど?」

「関係ないだろ!」

 よし、この頭の悪いタイプだ、実験できるな。

「関係あるよ、こんな街中でやってたら、恥ずかしすぎて、こっちまで恥ずかしくなるんだよね」

「ああ?殴られたいみたいだな」

 よし、ただの馬鹿だ。

「うわー怖ーい」

「てめえ、舐めやがって!!」

 チンピラAが殴りかかってきたが、殴り掛かってきた拳を叩く。

「うわああああ!!痛ええええ!!」

 やっぱり、力が強くなってる、これが悪魔になった理由か、昨日、足が速かったのも、そういう事か。

「これ以上やったら、死ぬよ?力加減苦手だからさ」

「わ、分かった!!」

 無様に走り去った。

「あ、あのありがとうございます」

「良いんですよ」

 今まで気付かなかったが、かなりナンパされた子は可愛い。茶髪で、パーマが掛かっており、長さもかなり長い、茶色の鞄を持ち、茶色のズボンと黒色の袖のない服を見事に着こなしていた。そして、顔が可愛い!!

 そして極め付けは少なくともEはある、あのでかい胸あれが男を惹きつける要因だろう。

「凄いね」

 私の胸は、普通ぐらいの筈なのだが、この子の前だとどうも自信をなくす。

「はい?何がですか?」

「いや、なんでもない」

「あの、お礼したいので、どこか行きませんか?」

 お礼か、行ってみるか。

「是非」



 とりあえず、近くのカフェに入って、注文を済ます。

「それで?名前は何て言うの?」

中村明里なかむら あかりです」

「私は、秋永琴葉よろしくね」

 今更だでど、多分年上だよね?敬語じゃなくて良いのだろうか?でも、何も言ってないし大丈夫でしょ。

「そういえば、中村はなんであそこに居たの?」

「明里で良いですよ、私も琴葉さんって呼びますから、友達の家から帰ってた所だったんですよ、そこを琴葉さんが助けてもらったって感じです」

 なんか、年上の人に敬語使われるの違和感あるな。

「敬語じゃなくて良いよ、さんもいらないよ、多分私の方が年下だし」

「え?何歳なの?」

「十八だよ、明里は?

「私は、二十歳だよ、年下だったんだ、琴葉ちゃん」

 私は頷いて、注文の品を受け取る。

「あれ?琴葉ちゃん今は学校の時間じゃないの?」

 私は、苦笑しながら答える。

「あー、休んだ」

 明里が苦笑した。

「そっか、疲れるよね、でも学校は行った方が良いよ」

 やっぱり、明里は、私とは違う類だ。真逆の存在だ。

「だよねー、明日からは行くよ」

「明日土曜日だけどね」

「確かに」

 明里と少し笑った。

「土曜日と言ったらさ、あれ知ってる?高校生消失事件」

「知ってる、あれ何が目的なんだろうね?」

「それでさ、五十人ぐらいの人が、一日だけ、家に戻ったんだって」

「そうなんだ」

「それで、全員一つの言葉を言ったんだって、その言葉なんだと思う?」

 明里は首を傾げた。

「ただいまとか?」

 なんだ、この可愛いい生き物は。

「正解は、デスゲームをしていたでした。見知らぬ所でデスゲームをしてたんだって」

「デスゲーム?それは何?」

「本気?」

 明里は頷いた。

 今時デスゲーム知らない人が居るなんて。

「デスゲームは、そうだね、死にたくなければ、ゲームをクリアしないといけないって感じかな」

「え?それを、現実でしたって事ですか?」

 私は頷いた。

「誰ですか?それ?」

「犯人?分からないよ」

「そう」

 と、残念そうな表情を浮かべた。

「それでさ、実はさその五十人の全員が超能力を持ってたんだって」

「超能力?」

「知らないと?」

 明里が頷いた。

 どうやって生きてきたんだ?普通に生きてきたなら、分かると思うのだが。

「例えば、物を浮かせたり、火を付けたりとか、人間を超越した力が超能力って言うの」

「へー」

「それで、その超能力を持ってたんだって、謎じゃない?」

「確かに、謎だね」

「どうやって、与えたんだろうね」

 正直犯人は何となく分かってるが、言わないでおく、言っても意味ないだろう。


 あの後、話が弾んで連絡先を交換するまでに至った。

「あー楽しかった」

 でもやっぱり、人とか殺した方が楽しかったな。

「あーあ、楽しみだなあ、いつ始まるんだろう」

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