第8話 童貞と生ゴミはいち早く捨てるべき

 今回はまずこのエッセイで繰り返し使用している職業童貞という造語について語ります。語る前にこの言葉を定義しておこうと思います。その上で何故早く捨てるべきなのか述べて参ります。


「童貞であることをアイデンティティとして自認している、並びに納得している者」


 このように私は職業童貞を定義します。この定義に至った過程を述べましょう。私がこの言葉を思い付いたきっかけは主にYouTube等のネットメディアで人気(なのか?)のバキバキ童貞ことぐんぴぃ氏です。


 一般的に男性にとっては恥とされる童貞という肩書を堂々と晒してメディア露出を繰り返すその姿を見て、「この男、童貞をネタに稼いでる。もはや職業童貞じゃないか!」と衝撃とともに思い付いたのです。この造語の思い付きとともに、これまでの人生で出会った何人かの男性を思い出しました。それは「女性に興味がない」と言い切ってしまう人達です。彼等は別に同性愛者という訳ではなく、れっきとした異性愛者です。


 彼等がどこで出会ったどんな人かと言いますと、俗にP(プロデューサー)と呼ばれるアイドルマスターというゲームのファンの人達です。筆者は2017年から数年ほどアイドルマスターにそこそこハマって、コロナ前くらいまでは割と頻繁に声優さんのライブにも通っていました。その会場やSNSで出会ったPの中に、たまに「俺は三次元の女に興味ないんで……」と語る人がいたのです。コンテンツ自体は好きだったものの、アイマスのキャラクターをあくまで架空の存在としか考えていない私はこのように言い切る人達に違和感を感じていました。何故か? 彼等はキャラクターにガチ恋していると主張しているにも関わらず、ボッサボサで無造作に伸ばした髪の毛と、おかんにイトーヨーカドーの2階で買って来てもらったのかと疑う服装でディスプレイを隔てた先にいる「最愛の女性」と向き合っていたからです。(いや、おしゃれ過ぎても怖いですけどね)


 思い返してみればこれまでの人生で他にも同様の発言をする男性に会ってきました。往々にして彼らはオタク趣味を持った男性であったと思います。彼らの様子を見た私の率直な感想は「現実は捨てたんだな……」でした。確かに現時点においては画面先の異次元空間に女性に夢中でいられるから「三次元に興味がない」と言い切れるのかもしれません。しかしながら、彼らが現世を全うして去ろうとする正にその時に「我が生涯に一片の悔いなし!」と心から思えるでしょうか? 今この時点において彼らが「我思う、故に我童貞」と思うほどの職業童貞であったとしても、そんな意識は心理学用語でいうところの置換や合理化に過ぎません。男性の人生に雄の本能が根差している以上は、男性が童貞に納得して死ぬなど99%無理だと私は思います。絶対に心の片隅で思うはずです「もっと女性を抱きたかった……」と、心が思わなかったとしても彼らの股にぶら下がっているあいつは100%思います「一度も女性相手に使ってもらえなかった……」と。


 生涯を終える時に悔いなく逝けるか問いただしたところで、「まだ何十年も先だ」と思うでしょうが、この悔いを感じるか否かの瀬戸際は以外にも近いものです。しかもその瀬戸際は男性が童貞であればあるほどより早くその男性に忍び寄ります。これまでに述べた誤った自慰行為で〇内〇精障害のリスクを上げていて、更に魔法使いにクラスチェンジできそうなほどに童貞をこじらせているような二十代後半職業童貞はもう既に警戒域に入っていると思っていいくらいです。だから私は断言します。


「もし二十代後半以上でこのエッセイを読んでいる職業童貞がいるならば、今すぐにWeb小説サイトで職場で話題にすらできないファンタジー小説なんぞ読むのは止めて風呂屋に行け! 登楼する金がないならばWeb小説を読む時間を副業の時間に変えてでも金を稼ぎなさい!」と。


 私には肉体的要因による〇内〇精障害の経験しかありませんから多くは語りませんが、この障害は精神的障害によっても起こります。女性と相対する時に緊張すればするほど精神的要因によって発症するリスクも高まりますから童貞は早く捨てるほど良いです。名実ともに職業童貞であるぐんぴぃ氏であっても、動画で共演している女優や風ノ谷嬢に頼み込んででも早々に捨てるべきだと思います。「実は童貞じゃなかった!」とバレることで童貞詐欺などと呼ばれて一時的に炎上することもあるでしょうが、死に際に自分の雄性が後悔するよりはずっとマシです。最後に一人でも多くの職業童貞にWeb小説サイトを去って現実の女性の素晴らしさに目覚めてほしいという気持ちを込めてショートストーリーを添えて今回はさよならします。


 先日、息子が逝った。もう四十代も近かったというのに自宅から自立しようともしないで、仕事から帰ればゲーム、マンガ、アニメ、ラノベ、フィギュアばかり。前に心配して「もう大人なんだから、そういうのは卒業していい人見つけたら?」と言ってみたものの、鬼の形相で暴れられてしまった。それからというもの、孫の顔を見るのはもう諦めた気持ちでいた。

 けれど息子は、息子の本心は諦めては……、いや諦めきれてはいなかった。おもちゃ屋でフィギュアを買った帰り道、老人が運転する暴走車に轢き逃げされた息子は血の海の中で美少女フィギュアのつぶれた箱を片腕に抱いて呆然と割れて真っ暗なスマホの画面を横たわって見ていたらしい。通りかかった看護学校の女子学生が救急車を呼んでいる時、ふと息子はフィギュアの箱から手を放して女性のハンカチを取り出そうとしていた方の腕を掴んだのだとか。そして泣きながら言ったそうだ。

「やわらかい……。いやだ……。死にたくない」

 息子の言葉は次第に苦痛と嗚咽にまみれて聴き取れなくなったが、最期まで掴んだ腕は解こうとしなかったらしい。

 女性は息子が生命を救ってほしがっていたと思ったのだろう。彼女はこの経験から救急医療を志して今はドクターヘリの搭乗員としても活躍しているそうだ。

「息子がこんな女性と出会えていれば、もっと息子に女性と出会う勇気を与えられていれば……」母はそう思わずにはいられません。

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