第52話
入学式の会場でクラス分けをされた俺たち新入生たちは、その後それぞれの教室へと移動することになった。
「おい、ルクス皇子はDクラスだってよ」
「最下位のクラスか…」
「大丈夫なのか?皇族なのにDクラスって……下手したら卒業出来ないんじゃないか?」
「帝国魔法学校を卒業出来なかったら、帝国民の支持は得られないだろうな……次期皇帝の座から遠のいたと見るべきか…」
「で、でも……私、見たよ?ついさっき、あのラーズ商会のカイザー様との一騎打ちで三重奏魔法を使ってたところ……あんなすごい魔法を使えるルクス様がDクラスだなんて信じられない…」
「俺はルクス様と同じ試験日程だったけどよ……や、やばかったぜ…的を破壊したり、暴走した試験官を倒したり…」
「マジかよ!?」
「噂は本当だったのか…」
「ますますどうしてDクラスに配属されたのか、謎だな…」
「もしかしてこれも皇族たちの権力闘争の一環なのかな?」
「可能性はあるな。なんにせよ関わり合いにはならないほうがいいだろうな」
周囲の生徒たちはまだ俺の方を見てヒソヒソと噂をしている。
仮にも帝国の皇子が最下位のクラスに配属されたのを見て馬鹿にして笑っているのだろうか。
あるいは、先ほどカイザーとの戦いを見たものは、意外に思っているかもしれない。
俺としてもまさかDクラスに配属されるなんて思っても見なかったが、別段大きな落胆はなかった。
どのクラスに配属されようが、全力を尽くし、のし上るまでだ。
今日まで後宮で行われてきた皇族たちの熾烈な権力闘争に比べたら、帝国魔法学校内の生徒同士の競争など児戯に等しいと言える。
そのうちクラス替えのチャンスが巡ってくるだろうし、その時に上のクラスを目指して頑張るとしよう。
「る、ルクス…お、同じクラスだね…!」
「どうやらそうみたいだな。よろしくな、ニーナ」
「う、うん!よろしく」
そしてどうやらニーナも俺と同じDクラスだったらしい。
周りを歩くDクラスに配属された新入生たちが悲嘆そうな表情を浮かべている中、ニーナの表情はやる気に満ちていた。
「い、一番下のクラスになっちゃったけど…
ここから頑張らなきゃ」
自らに言い聞かせるようにそんな呟きを漏らしながら、気合を入れるように両の拳をぐっと握っている。
「る、ルクスも一緒に頑張ろう?頑張って次のクラス替えで絶対に上にあがろうね?」
「そうだな、一緒に頑張ろう」
俺が頷きを返すと、ニーナは嬉しそうに微笑んだ。
「で、でも…ちょっと意外だったな。ルクスだったら絶対にAクラスだと思ったのに…」
「自信はあったんだがな。しかし、現状Dクラスというのが帝国魔法学校が俺に下した評価らしい」
「そ、そんなことないよ絶対に……だって、ルクスは私を助けてくれた時みたいな、すごい魔法を使えるんだよ?絶対に実技は新入生で1番のはずなのに……どうして?」
「さあ、な。どういう判断基準でクラスが決められるのかは俺にもわからないからどうしようもないな」
「も、もしかしてルクス、入学試験の筆記試験ですごい手を抜いたりした?」
「してないぞ。筆記も実技同様全力で挑んだ」
筆記も実技も限りなく満点に近い。
それが入試が終わった時点での俺の自己評価だった。
しかし蓋を開けてみたら俺はDクラスへと配属された。
別にどのクラスに配属されようがやることは変わらないのだが、少々違和感を覚えざるを得ない。
「まさか…」
「…?」
「いや、考えすぎか…」
誰かの陰謀か、なんて考えが頭をよぎったが、仮にそうだったとしても証拠は掴めそうもないので今は考えるのをやめた。
「あ、着いたみたい」
「え、ここが…?」
「嘘でしょ?」
「マジか…」
そうこうしているうちにどうやらDクラスの教室についたようだ。
「ん?」
周囲の生徒の表情が芳しくない。
なんだか絶望しているような表情のやつばかりだ。
俺は彼らの視線を追って教室の中に目を移す。
「なるほど…これは…」
「こ、これがDクラスの教室なんだね…」
さながら廃材置き場のような様相を呈している空間がそこにはあった。
かろうじて人数分の机と椅子は並べられている。
だがその全てが埃まみれだ。
最後に掃除されたのは数ヶ月、いやさらに前かもしれない。
入学式の時にクラスによって待遇も違うと理事長のオズワルドが説明していたが、まさか最下位のDクラスともなるとここまで酷い環境なのか。
「マジかよ…」
「ここで授業やるのか…?」
「最悪だ…」
「これが帝国魔法学校の洗礼…」
「ここでずっと過ごすなんて嫌だ…」
「絶対に上のクラスに上がらないと…なんとしても…」
Dクラスに配属された新入生たちは、現状の惨めさを噛み締め、絶対に上の教室に上がらなければと決意を固めている。
こうやってクラスによって待遇に差をつけることでさらに競争を加速させるのが帝国魔法学校の狙いなのだろう。
「とりあえず掃除からになりそうだね」
「そうだな」
苦笑しながらそんなことを言うニーナに、俺は首肯を返した。
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