ハッピーエンド厨が悪役王子に転生したので真のハピエンを目指す~忌み嫌われた死霊魔術の力で主人公とヒロインの仲も領地も発展させる~

水本隼乃亮

プロローグ

 俺はハッピーエンドが好きだ。


 ヒロインが全員死ぬエンドなんてまっぴらごめんだし、『パーティーの一人が死んでしまったけど、そいつのおかげで魔王を倒せた! ありがとう!』みたいなエンドも嫌いだ。

 いやいや、死んでるじゃん、と。


 俺が認めるのは、『誰一人かけず、そして全員の夢が叶うエンド』。

 まさにハッピー中のハッピーエンド! それしか見たくない。


 だから俺はそんなハッピーエンドがあるゲームはなんだってやってきたし、ゲームを何周もしないとそんなエンドを見られないと知れば、真のハッピーエンドを見るまで何十時間もプレイした。


 だって、ハッピーエンドじゃないとその作品を見た意味がないじゃないか。

 アニメやドラマ、ゲームに何時間も費やした結果、『ヒロインが死にました』『主人公の願いは叶いませんでした』『諸悪の根源は倒したけど何人もの犠牲がありました』……そんな終わりじゃあ、その作品を見た覚えがない。費やした時間は無駄だ。


 おっと! それが俺の我が儘だってことは分かってるぜ?

 わざわざ悪口レビューなんかせずに、『これを選んだ俺が悪い』ってマインドで自分を納得させてるさ。


 ただ、一本道のドラマやアニメとは違って、ゲームは大抵ハッピーエンドを用意してくれてるからいいよな。

 時間がかかることも多いけど、満足できるハッピーエンドも多い。

 努力さえすれば、ハッピーエンドを見られるんだ。



 ……だから。



 だから、俺が何度やっても真のハッピーエンドを見れなかったゲームに転生したら、何をするかはもうわかるよな?


 ◇


 『女神の祝福』というゲームがある。


 もっぱら、『めがしゅく』なんて呼ばれていたギャルゲーだ。


 しかしその実は、ギャルゲーの皮を被ったがちごちのシミュレーションゲームなのだ。


 とは言っても、序盤はよくありがちな導入だが。


 ファリーラ王国第四王子である主人公は、成人すると王位争いの策略に巻き込まれ男爵となり辺境の領主となる。


 その領地を発展させながら貴族令嬢だったり奴隷だったりなヒロインの好感度を稼ぎながら、ゆくゆくは国の王となり大陸を巻き込む戦争に身を投じるという、王道のゲームだ。


 しかし、問題なのはその領地発展システムにある。


 領地発展。

 簡単に言えば、領民の家を建てて領民を増やしたり、畑を耕して食糧を増やしたりと、よくある内政ゲームにありがちなシステムだな。


 だが、『めがしゅく』はギャルゲーなのにこの領地発展システムに力を入れすぎた。


 なんと、ヒロインの攻略に時間をかけすぎて領地発展を疎かにすると領民が反乱を起こし、バッドエンドとなるのだ。


 しかも、問題はそれだけではない。

 この『めがしゅく』、一定のタイミングで好感度の足りていないヒロインは敵対勢力につき、ゲームをクリアするために主人公の手で殺さなければならなくなるのだ。


 つまり、全てのヒロインを助けようと好感度稼ぎに時間をかけすぎると領民が反乱を起こしバットエンド。

 

 反対に、領民のために領地発展ばかりしているとヒロインが次々と敵対勢力につきはじめ、最悪ヒロインのほとんどを殺さなくてはならなくなる。


 なんてこった。


 これじゃあ領民の反乱を抑えつつ、全ヒロインを敵に回さないなんて不可能ではないか。


 だが、俺は諦めなかった。

 

 俺は研究を重ねた。

 全ヒロインを幸せにする本当のハッピーエンドを目指して。

 時には他人のプレイ動画も参考にした。

 時には実験のために敢えてヒロインを敵にしてみた。


 そうして、プレイ時間は五百時間を越えた。


 だが、本当のハッピーエンドを見ることはできなかった。


 どうしても全てのヒロインを救うことができなかった。


 あるヒロインを助けようと思えば違うヒロインが死に、そのヒロインを助けようとすればまた別のヒロインが死んだ。


 そして、俺はあることに気が付いた。


 それは、このゲームのラスボスであるエンゲリア帝国皇女『エルフリーデ・フォン・エンゲリア』。


 彼女はゲーム中盤までは他のヒロインと同じように好感度を稼げるキャラなのだが、彼女が味方になることは決してない。


 なぜなら、彼女はこのゲームのラスボスなのだから。


 つまり、俺は例え全ヒロインを生存させたとしても、エルフリーデは救うことはできない。

 全てのヒロインを助けることなんて最初っから無理だったのだ。


 そう考えた瞬間、俺の頭は絶望で歪み、体がふらふらと揺れ、意識が暗くなっていった。


 ――そして気づいたら、俺はファリーラ王国第三王子・・・・、ハインリヒ・フォン・ファリーラになっていたのだった。

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