第11話 気霜

 クリスマスまで仕事を入れるなんて・・・と思いながらも出版社の人と年内最後の打ち合わせをした。意外と時間がかかった。女性達はいつもより少しきらびやかで、ソワソワしているように見えた。

 仕事が終わると先日彼女にフラれたばかりの編集者から飲みに誘われた。今日ばかりは丁重にお断りをして僕は出版社から東京駅まで走り、新幹線に飛び乗った。

 今日の新幹線はとても遅かった。



 軽井沢駅で降りると、空気は冷たくユリさんと初めて散歩をした朝の空気で痛くなった以上に鼻が痛くなった。

 駅前はクリスマスイルミネーションで飾られていたが、すでに誰もいなく逆にそのイルミネーションがさらに寂しくさせた。

 一台しかいないタクシーに飛び乗った。道路には他の車は走っていないのに、信号だけはこんな時にでも機能している。

 今日はご主人の命日・・・ユリさんはきっと誰も飲まないグラスを自分の前にも置いて物思いにふけり、一人ワイングラスを傾けながら飲んでいる。そんなことを考えたらいたたまらなかった。

 こんな日に一人で居ちゃダメでしょ。ユリさん・・・



 店から少し離れた道にタクシーは停まった。店の周りには色が無く、さらに寒々しかった。でも店を見ると窓のひとつから淡いオレンジの光が漏れていた。

 僕は、気霜きじもを吐きながら走った。



 コンコン コンコン

 「・・・誰?」

 「僕」

 「・・・凛空?」

 ギー

 「ただいま、ユリさん」

 「・・・・・・馬鹿」


                               Fin

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二人の嘘 香音愛(kanoa) @mi3i3i39393939

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