飛び、跳ねるように。(旧)

雨世界

1 君と出会う。

 飛び、跳ねるように。


 君と出会う。


 小学五年生の春。

 わたしは孤独だった。


 旅に出たいと思った。自分を知っている人が誰もいない遠い異国の土地に行ってみたいと思った。

 そこで思いっきり笑ったり、思いっきり泣いたり、思いっきり怒ったり、思いっきり喜んだりしたいと思った。

 我慢したり、自分の心に嘘をついたりしたくなかった。

 わたしはわたしでいたかった。

 なんの縛りも強制も受けずに、生まれたままのわたしのままでいたかった。

 それが小学五年生のわたしの本当の夢だった。

 学校の校庭の隅っこにとても綺麗な桜の木があった。

 その桜の花びらをぼんやりと眺めていると、後ろからなにかをぶつけられてわたしは後ろをゆっくりと振り向いた。

 そこにはサッカーボールが転がっていた。

 その先には君がわたしを見ながら立っていた。

「なにしてんだよ。そんなとこで」と君は言った。

「別になにも」とわたしは言った。

「桜。好きなのかよ」

 わたしの隣でやってくると君は桜を見ながらそう言った。

「好きじゃない」とわたしは言った。

「じゃあなんで桜見て泣いてるんだよ」と君は

言った。

 わたしは君の言葉には返事をせずにサッカーボールを拾うと君に投げてぶつけた。

「いたいな。なにするんだよ」と君は言った。

「ねえ。旅に出ようよ。一緒に」とわたしは言った。

「旅か。いいよ。行こうか」となにも聞かずに君はわたしにそう言った。

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