石一つで事件を解決します、稲置探偵事務所です。
佐藤吟
プロローグ
「あなたの宝石で、怪奇な事件を解決いたします」
「市場での価値は問いません」
生成りのブラウスに
「どうかお困りのことがございましたら、紙に
雪のような透き通る肌に血色が無ければ、多くの人は彼女を幽霊だと思ってしまうだろう。感情のない彼女の顔に見えないはずの悲壮を見出してしまう、そんな美貌を彼女は持っていた。
「
そうしてゆるりと
__夢を見た。これはあの日誓いを立て、居場所を捨てた少女の夢。血に塗れた記憶と、その中心で泣くことすらできずに佇む少女の記憶。
艶やかな黒髪も、雪のような肌も、人だったものから飛び散った液体で曇っていく。
ただただ惨状を眺めるだけの少女に伸びる手があった。少女がその手に気付くと、その手を掴み、掴んだ手と共に暗闇に進んでいく。
彼女が掴んだ手の主が問う。
「何を為したい」
少女は真っ直ぐと手の主に向かい答える。
「復讐をしたい」
少女の迷いのない答えに手の主は納得したかのように、顔に掛かる髪をするりと避けて少女の頬を撫でた。
「お前がそれを望むなら、俺はいくらでも力を貸そう。ただし、その望みが叶えられた時、お前は人の道を外れることになる。
それでも、やりたいか?」
その問いに少女は強く頷いた。
「それでも、私はやりたい。戻ることができないから、進む先を選びたい」
長い夢だった。鬱蒼と生い茂る森の中に青年はいた。傷だらけの体は化膿し、病に侵された内臓は悲鳴をあげる。誰もが称えた美貌は見る影もなく、美しいものを映していた宝石のような瞳は白く濁っている。
「……ぁ、」
もはや思考のできない青年のひび割れた唇からは、意味のない音が漏れるだけである。化膿した傷を
「ぅ、ぁ……」
永遠に思える呪いだった。苦しみの中死ぬことも許されず、ただそこにあるだけで償う罰。
「……る、……だな…………」
とうの昔に肺は病によって潰れ、呼吸をするだけで喉が焼かれる痛みを伴う。それでも、自分を忘れ、全てを忘れた青年は同じ単語だけを繰り返す。その単語が音にならずとも、意味を忘れようと、青年は繰り返した。
青年の視界には愛すべき者達がいる。子供を慈しむ親と、さらにその親子を慈しむ祖母。これが夢なのか、それとも自分を侵す呪いが夢なのか、青年に判別はつかない。
とうに狂っていた。呪いを受けるだけの罪を犯した。人の道などとうの昔に踏み外していた。
しかし青年はそれを悔いたことはない。
罪の根源には呪いを受けて尚曇らない愛があったから。
青年は宝石を求める。世界で唯一無二、何人も触れることが叶わぬ尊い宝石を。それこそは我が子を慈しむ愛であり、覇者の象徴であり、罰の証である。
だからこそ青年は宝石を求めた。もう一度その手に収めるために。
これは、秘密を抱えた少女と青年が進む先の物語。復讐を誓った少女と、宝石を求める青年の探究譚である。
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