笠やん外伝 ~烏羽玉~ 

@kasayan-official

第1話 プロローグ

休日のショッピングモールは沢山の人出で賑わっている。行き交う人々はみな各々の目的を目指してテナント店を見て回っている。そんな中、中央部分にあるエントランス広場ではイベントが行われており、小さな子ども達が楽しそうに歓声を上げていた。

広場の中心にはステージが設けられており、そこを囲むように人だかりが出来、視線はステージ上のマイクを持った一人の女性に注がれている。

「みなさんこんにちはー。今日はたくさんのお友達が来てくれていますねー。みんなにはこれから、とーってもカワイイご当地キャラクター達と一緒に楽しい時間を過ごしてもらおうと思いまーす。」

司会者の女性は良く通る声で明るく笑顔で観客席の子ども達に話すと続いて

「さあ、それでは早速登場してもらいましょう!キャラのみんな、お願いしまーす。」

ステージの袖に向かってそう呼びかける。と、合図とともに数体のご当地キャラクター達がステージに現れると、子ども達からワーっと大きな歓声があがる。

司会の女性は、興奮した子供たちが少し落ち着くまで間をとってから登場した

キャラクターの紹介を始めた

「先ずは笠置町から二人のキャラさんが来てくれました、『笠(かさ)やん』でーす。」

一番初めに紹介されたのは大きな笠を被ったネコのキャラクター。

「そして、『恋(こい)しちゃん』でーす。」

次に紹介されたのはキツネの女の子のキャラクターである。こちらは鈴の耳飾りをつけている。

「さあ、続いては・・・」

他にもキャラクター達が次々と紹介されて、会場は大いに盛り上がっている。

近年は少し下火になってきたと言う人達もいるが、まだまだ子ども達やキャラ好きの

大人も含めて人気は衰えてはいない。

「それでは其々のキャラさんを詳しく紹介していきますね。」

何を隠そう彼女も御多分に洩れずキャラ好きで、司会の他にもキャラ付きの『お姉さん』としてステージに立つほどである。

「ハイでは、笠やんと恋しちゃん前にでてきてください。」

呼ばれた二体はステージ中央に進む。

「みんな、実はね、この二人には共通点があるのですが、何だかわかるかな?」

当たり前のように人の数え方である。子供たちは口々に何か叫んでいるが、

「動物って言っているお友達がいたけど、其れも合っているんだけどね、もっと違う共通点ががあるんだよ。それはね、なんと!二人は『妖怪』なんです!」

「エエーッ」

会場の子ども達から驚きの声が上がる。

「驚いたでしょう!笠やんは『猫又(ねこまた)』という化け猫の妖怪で、恋しちゃんはね、『妖狐(ようこ)』っていう狐の妖怪なのです!その証拠にね、ちょっと二人とも後ろを向いてくれるかな?」

そう言われた二体はその場でくるりと後ろを向く。

「そうそう、ありがとね、見て見て笠やんは尻尾が2本!これが猫又の特徴なんだよ。そして、恋しちゃんはなんと3本も!妖力っていって凄い力があるほど尻尾が多いんだって。」

昔話で有名なのは平安末期に退治されて殺生石となった『九尾(きゅうび)の狐』と言われる大妖狐で、その名の通り九本の尾があったとされる。

妖怪という言葉は子ども達にとってはキラーワードだ。その証拠にステージ上の二体の『妖怪キャラ』に夢中になっている。

古来より日本では数多の妖怪・物の怪(もののけ)、妖(あやかし)の伝承があり、此処にいる二人もその中ではメジャーな妖怪、猫又と妖狐なのである。

何故、妖怪がご当地キャラクターなのかはさて置き、ステージでは他のキャラクター達の紹介もひと通り終わって、お待ちかねのふれあいタイムとなり、それぞれに観客席で握手や写真撮影などグリーティングを行っている。もちろん妖怪キャラの二体にも沢山の子ども達が集まってきて、写真撮影は順番待ちの状態である。

その中で一人の女の子がしきりに質問を投げかけている。

「ねえねえ、笠やんと恋しちゃんはいつも一緒にいるの?妖怪どうしだから仲良しなの?」「笠やんはいくつなの?恋しちゃんとどっちが年上なの?」

などと子供らしい質問である

(いつも一緒か・・・随分と一緒にいるよなぁ。そういやアイツ一体何歳だっ

たっけ?。)

笠やんはチラッと恋しちゃんの方を見た。すると、

(アンタが「坊や」だった頃の事を思い出すねぇ。何でもかんでも知りたがってフフッ)

ほくそ笑む相棒の姿がそこにあった。

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