未来で見た時代たち

海湖水

未来と歴史

 「どうすればよい?」

 

 質素ながらも家来たちは皆、入ることのできるような、小さな城。自分の進言により、攻めるのにできる限り攻めあぐねる構造にした。経済力があるわけではないものの、城を改修する余裕はあるからか、まだ壁が新しい。


 「ここは……こうすれば良いかと」

 「そうか……いつも頼りになるぞ。お主に頼ってばかりじゃ」

 「もったいなきお言葉……」


 小大名である沼田家は、周りを大大名に囲まれながらも生き残り続ける、全国でも類を見ない珍しい国だ。

 沼田家に笹田あり。未来を見るかのような策略に、外交戦術に、その言葉に、他の大名ですら一目置いていた。

 未来を見る、というたとえは間違っていない。

 笹田は前世の記憶によって、この先の歴史を知っているからだ。

 しかし、一つ問題がある。彼は歴史が得意ではあったが、よく知っているのは幕末のみである。別に戦国時代に詳しくない。


 「お主は未来から来たのだろう?この後、どの大名が勢力を伸ばす?」

 「大名ならば……」


 誰だっけ?織田信長がすごくなるのはわかる。だが、多分、今の時代はそれよりもちょっと前だ。織田信長という名前を全く聞かない以上、彼の名を出すわけにはいかないだろう。


 「わしは今川殿が勢力を伸ばすと思うのだが……。それでだ」

 「はい。何なりと」

 「わしは未来のためにも、今川殿につくべきだと思う。お主の意見を教えてくれ」


 ダーメダメダメダメ!!今川の名前は知っている。あの織田信長にぶち●される奴じゃねえか!!


 「その方は……今のうちは問題ないかもしれませんが、先を見るならば……」

 「ならば武田殿はどうじゃ?」


 武田かぁ……。有名だし、まあ大丈夫……。あれ?でも、あそこも織田にボコボコにされるんじゃ……。


 「その方も問題があります……」

 「ふむ、そうか……。お前は誰が良いと思う?」

 「私は……。すみません、考えさせてください」


 城から自らの屋敷に向かう道中、彼の頭の中はその問題で埋め尽くされていた。どうすれば、この戦乱の世をこんな小国が生き残れるというのだ。普通に考えて、歴史を学校で学んだものの全く聞かなかった大名な時点で詰んだも当然である。

 いや、それなら逃げればよかったのだ。しかし逃げられない理由があった。


 「うち、これだからな……」

 

 笹田は屋敷を見てため息をついた。目の前には、城下の中で最も大きな屋敷がたたずんでいた。別に、自分が当主になってからこうなったのではない。生まれた時からこうなのだ。

 笹田家は、沼田家に仕える家臣団の中でも、筆頭の筆頭であった。


 「で、どうするべきか……」


 笹田の頭は、ほとんどない知識を総動員して、生き残る方法を模索していた。沼田家の重臣ということは、もし沼田家が滅ぶときは、一緒に滅ぶ運命にある。そのため、無理やりにでも成功する施策を考えなければならなかった。

 

 「どうせなら、現代の武器でも作るかぁ~?」


 不可能である。そんな資源力も、技術力も、知識もこの国にはない。


 「まあ、どっちにしろ同盟か……」


 どうせなら幕末が良かった。生まれ変わったところが、知識のない時代なのは、運がないとしか言いようがない。


 「同盟、武田殿が良いかと思います」


 後日、笹田の頭の中に、一つの戦略が浮かんでいた。というか、これを戦国時代で考えなかったのがヤバいが……。


 「なぜじゃ?お主がそれは否定しておったじゃろう」

 「はい、その通りです。だから、裏切りを行えばよいのです」

 

 裏切ることは戦国時代の常とう手段だ。なぜ思いつかなかったのか、自らを責めたくなる。


 「俺も、歴史を知ってるだけの一般人なんだな」

 「何か言ったか?」

 「い、いえ。何も言っておりませぬ」


 頭を下げた笹田の目には、少し汚れた畳が入った。

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未来で見た時代たち 海湖水 @1161222

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