第8話 これは誰のための罰なのか
(注意)この話での司法の判断は、法律に詳しい読者が読まれたら
失笑ものかもしれないので、大目に見ていただければ。
逆に、どのくらいの量刑になるなど、指摘していただければ嬉しいです。
自分で調べた(グーグル先生)限りでは、このくらいかとなりました。
下手すれば、捕まりさえしない可能性も…難しい。
力技で申し訳ありませんが、この世界はこれで!
(お目汚しすみません)
*
あれからもう、半年近くが経つ。
それでも、昨日のことのように思い出すことができる。あの最悪な一日を…。
あの後のことは、テレビのワイドショーで取り上げられ、どこかで見たことがあるかのような事件の一つとして、世間のおもちゃ扱いだった。
警察の取り調べに対し、友也は何も弁解しなかったそうだ。
不破木を害する意図を持って凶器を買い、実行に移すつもりで病室に向かった。
剛が止めに入らなければ、間違いなく…やっていたと。
量刑は殺人未遂、懲役2年6カ月の執行猶予付きの懲役刑となった。
殺意の有無が、一番の争点となった。
被告人である友也本人は、殺意を持っていたと証言。
事前に凶器を準備した、殺害を入念に準備していて計画性が見られる。
被告人を止める人間がいなければ、殺害していた可能性。
被害者の不破木は、無傷であったこと。
被害者の不破木が、被告人である友也の処罰を望まなかったこと。
前科がなく、犯行動機や経緯に酌むべき事情が多かったこと。
被告人自身が事実を認め、反省している事情などがあったから、だそうだ…。
友也の勤めていた会社は、かなり恩情をかけてくれたようだった。
本来なら即刻懲戒解雇となりそうなところを、減給と降格、本社から遠方の支社へと出向。
友也の今までの仕事ぶりの評価、犯行の事情なども考慮され、中小のどちらかと言えば中よりの会社だったこともあり、貴重な人材を失うデメリットの方が大きかったと判断したんだろう。
事情もよく知らない下種な正義マンは、どこにでも現れるがな…。
*
よかった…と言えるんだろうか。厳し過ぎないのか。俺にはわからない。
菫さんは
あの日に起きたことを、菫さんに話すのは時間が経ってからにしようと、綾香と相談した。友也のご家族には連絡がいくだろうし事情を話さなければならないが、今の菫さんに伝えるのは
菫さんは、友也のことを心配し気にかけ続けていたが、友也も落ち込んでて考える時間を与えてやってくれと誤魔化した。ご家族の方にもその旨を伝え、友也のことは秘密となった。だが何日も、友也に会えなければ不安にもなる。
友君は? 友君はどこ? 私のこと嫌いになっちゃったの? 友君に会わせて? お願い…友君…友君…と。
いつまでも隠し通せるものでもないし、日に日に菫さんは情緒不安定になっていった。医者としても伝えないほうがいいけれど、このままだとストレスで問題が起きる可能性もと、どっちつかずの答えしか出してくれなかった。
だから、誰が悪いとかではなかったと思う。
菫さんのお母さんが、お見舞いに来た時に口を滑らせてしまったとしても…。
菫さんはお母さんを問い詰め懇願したすえに、全てを聞いた。
友也が捕まったこと、剛に重症を負わせたこと…そして、何で友也がそんなことをしたのか? を…。
「わたしがうわきをしたから………わたしがあかちゃんもしなせて………ともくんもうらぎって………ぜんぶ、わたしのせいだ………」
菫さんは突然の眩暈と吐き気により、ベットに倒れ込んだ。
意識を失い次に目を覚ますと、………片耳が聞こえなくなっていた。
皮肉にも病院にいたおかげか、すぐに薬物投与したおかげで片耳ですんだらしい。
一時期は三半規管まで麻痺したのか、立って歩くことも困難だった。
聞こえる方の耳の聴力も落ち気味で、一人で行動することもできなくなった。
誰しもが悪い方向にしか、…と思えたのに——―――――――
友也の判決が下るまで約三ヵ月…菫さんは懸命なリハビリのすえ、自分一人で行動するのに問題ない程度まで回復した。
ご家族の助けもあり、綾香やあかりも頻繁に訪問してバックアップしたが、菫さん本人の気力が物を言った。
「友君がいない間は、私が家を守るの。友君が帰ってきて一番最初にお帰りなさいって、私が言うんだから」
覚悟を決めた女は、本当に強い。
芯が一本通ったかのように、真面目で誠実だったけれど、どこか弱さを感じる印象だったのに。不貞行為をしたことで自らに起こった出来事が、菫さんを一人の人間として成長させた…なんていうのは綺麗事だ。
友也君が帰ってきて望むなら離婚して慰謝料も。
もう一度だけ生涯をかけたチャンスを…と綾香に言っていたそうだ。
*
拘置所への友也の迎えは俺達で行った。
パット見は少し瘦せたように思えたが…。それでも、しっかりとした足取りで出てきた、友也の顔つきは悪いもんでもなかった。
「よっ! お勤めご苦労さんでした。友也せんせ」
「響一は、相変わらずだね。迎え、来てくれたんだ」
「そりゃあもう、どこぞにトンズラこきやがったら、草の根分けてでも探し出して、首に縄付けてでも連れて来いと…愛する妻に言われたらな」
「そっか、剛とあかりさんは…」
「あいつらは…今、どこにいるんだろうな…」
遠い空を眺めていると、プップーと車の警笛が鳴る。
「おまえら俺のこと嫌いなの? 生きてっから、一番の功労者にアタリが強すぎんだろ!
「あ、いたわ」
刺されてヤバかったわりに、あいつ元気だな。
「剛っ、ごめん、僕は、本当になんてことを…」
「いいからサッサと車に乗れや。一番に待ち焦がれてる人がいんだろーが」
「わたしは、よくないわよ。剛との二人分で許したげる」
車から降りてきたあかりは、バシンっ!とスナップの効いた一撃を友也の頬に喰らわしていた。
「心配したんだからね! 綾香も私も、そして菫さんが一番、一番っ…」
「うん、わかってる。よく、わかってるよ…」
「ほら、いこうぜ。メインは俺達じゃないからな」
*
友也と菫の家の前では、二人の女性が佇んでいた。
一人は杖で自分を支えて家の主人を待つ妻、もう一人はそれを見守る友人。
浮足立っているわけでもなく、落ち着き払っているでもなく。
私は、いつもこんなふうに友君を待っていたんだ。早く帰って来て欲しいけど、慌てないでゆっくりでもいいやって、ちゃんと私の元に帰って来てくれる友君が大好きなんだからって。
何に惑わされてたんだろう…。
友君がくれる愛情に不満なんてなかったし、満たされていたのに…裏切ったのは私。
だから今日、友君にお帰りなさいと言うのが最後になったとしても、妻としての最後の仕事だったとしても、私の一番の笑顔を覚えていて欲しいから。
剛君の車が見えた。
重症を負ったと聞いた時は心配で、申し訳なかった。
でも友君を止めてくれて感謝しかなくて、自分が動けなかったから、お見舞いにもいけなくて。
向こうが先に退院して、私の方のお見舞いに来てくれたのには驚いたけど。
「たいしたことねーよ、ホッケよく食べてて血液サラサラになり過ぎて、血が出すぎちゃっただけ」なんておどけて言ってくれて…。
「こいつは簡単に死ぬような奴じゃないから」ってあかりも、剛君をバシバシ叩いてたけど、いつもより優しめだったかな。
こんなに恵まれすぎた環境にいながら、大切に扱わなかった私には、不相応すぎて…。友君に全ての判断を委ねて、真摯に受け止める。
甘えてるのも分かる。身を引くべきだとも思った。
だけど一度だけ、裏切りという最低な行為をした私に―――――――
自分にとって最も都合のいいことを
大事な場面で願ってはいけない。
叶わないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます