第51話 番外編⑥:王立茶葉研究所設立秘話 専属侍女の座は
ディアナの疑問に一瞬、眉を寄せるエドワード王子。
「ああ。この前の
王子はそこではたと気づき、セオドアに小声で侍女の身元を確認しました。
王宮の深部でもある王子付きの侍女は、この国の貴族の娘しかなれないと以前から決まっています。しかし多忙だったり婚約者の決まっている上位貴族の娘が侍女になる事はまずありません。
子爵家や男爵家の様な下位貴族か、伯爵家でも力や資産のない家の娘が王宮勤めを希望するのです。
そして
あれで国王陛下が色々な対策(セオドアもその一つでしょう)を取ったので安心して良い、と父である公爵からディアナは聞いていました。
セオドアの答えを聞いたエドワード王子はその翠の目を優しく細め、楽しそうに笑いました。
「この件に関してはディアナに完敗だな。この侍女のうち一人はシゾーカ地方の子爵家の娘、一人は王都に近い男爵領の娘だが、母親が古都の茶を扱う商家の出だそうだ。ついでに言うともう一人は北地方の伯爵家出身だ。……皆、それぞれ自分の慣れ親しんだ茶なら他の者より上手く淹れると証明した訳だな」
ディアナは自分のカンが当たっていた事にほっと胸をなでおろしました。眉間にシワを寄せていた侍女はシゾーカ産のお茶を淹れるのが上手で、涙目の侍女は古都産のお茶を淹れるのが上手かったのです。
「じゃあ、簡単には選べんわ」
「そうだな。お前の好みを知りたかったが、これで専属を決めては今後使用する茶葉の産地に偏りが起きる可能性がある。『王族が国を把握するために各地から名産の食材を集める』という大義名分にも反するし、な」
最後はドロランダの言葉を引用して皮肉気味にニヤリと笑う王子。
しかしディアナは二人の侍女を見て彼女らが少し気落ちしているのがわかり、ドロランダにひそひそと話します。
「なぁ、やっぱり紅茶専属侍女になりたいもんなん?」
「それはそうでしょう。陛下はあまりお茶に興味がございませんし、王妃殿下は先日より臥せっておられますから、エドワード殿下の専属となれば実質『この国で一番お茶を淹れるのが上手』という地位を与えられた事になりますよ」
(なるほど……『箔が付く』っちゅーやつね)
まだ子供のディアナにはよくわからない話ですが、貴族が客人を招くお茶会ではそのホストである貴婦人が手ずからお茶を振舞うこともあります。その時に『この国一番の箔』がついていれば、そのお茶会は大変な人気になるに違いありません。
下級貴族の子女からすれば最強に近いステータスです。彼女らが花嫁修業を兼ねた王宮勤めを終えた後、自分より格上の貴族への嫁入りも夢ではなくなるでしょう。
「なぁ、殿下。この三人を専属として協力させつつ、競わせるのはダメなん?」
「ん?……まあ、無理ではないが……」
「彼女らが紅茶の研究を深めながら、更に自分のスキルを他の侍女にも教えあって広めてくれたら、回り回って私たち貴族も美味しいお茶が飲めるようになるんやないかな?」
「ふん……確かに。それは国が豊かになる事に繋がるかもな。それに紅茶専属侍女の地位を高めれば、純粋な気持ちでそこを目指す侍女も増える。努力した末に手に入れた地位を捨ててまで買収される奴は少ないはずだ……悪くないな? セオドア」
「ええ、殿下」
「……だが、こちらの希望を満たせなかったのに、お前の提案を素直に聞くのも何だかシャクだな。ディアナ?」
王子の研ぎ澄まされた刃物のような美しい笑みにドキリと……いえ、ヒヤリとするディアナ。
「はい?」
「お前がこの三人の侍女の紅茶を時々飲みに来てくれるなら、専属にする価値もあるのだが」
「え!?」
「どうだ? 王都は芝居見物や夜会など、楽しいものも沢山あるぞ。このまま領地に戻らず王都に居ても良いだろう?」
「え……と、それは」
流石のディアナもこれは言葉に詰まってしまいました。
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