第49話 番外編④:王立茶葉研究所設立秘話 ディアナ様、マジギレ。
「……ア? ……ホ?」
ディアナの罵倒に呆気にとられたその場の全員。エドワード王子は今の言葉が自分に向けられた物なのかを確認するように、一音ずつ発します。
「アホや! お茶が勿体ないやろ、このど阿呆!! 大体五種類て! そんなん飲みきれるわけないやろ! セオドア様を見てみい! 二種類の三人分をいちいち毒見しとるから、もう既にお腹がたっぽんたっぽんになっとるやないか!!」
怒りのあまり勢い良く立ち上がり、啖呵を切りながらセオドアを指差すディアナ。ぽかんとしたままディアナを見つめる王子と一同。
唯一、矛先が自分に向かったセオドアは先んじて自分を取り戻し、ディアナの変貌ぶりに驚きつつも事を収めようと口を開きます。
「い、いえ、ディアナ様。これくらいは侍従として当然ですから」
「はぁ!? セオドア様もアホちゃうか!? いくら侍従かて無理なもんは無理とハッキリ言わんとあかんやろ!」
「お嬢様、落ち着いて……」
とりなそうとするドロランダにも噛みつくディアナ。
「だって! もしドロランダが同じ目におうたら無理て言うやろ? こんなん途中で
「いえ、私どもはそれくらいは我慢できま……」
「我慢したら病気になるやろ! もっとアホなん!?!?」
顔を赤くし、少しだけ涙目でキッと見上げるディアナの顔を見てドロランダは降参しました。この小さなご主人様は、本当に下の者の健康まで心配して怒ってくれているのです。
「……そうですね。少しだけ、無茶だったかもしれません」
優しい顔で見つめ、肯定するドロランダにディアナの勢いが削がれました。怒った顔から悲しそうになります。
「……それに、本当にお茶が勿体ないわ。こないだドロランダと馬車の中で話したやろ? 『古都』のお茶は質もええけどそれ以上にええ値段がするて」
「……値段?」
目を白黒させて無言だったエドワード王子の口から、やっと言葉がこぼれます。ディアナは彼に向かって冷たい目を向けました。
「せや。『古都』は『古の帝の一族』の領地や。不可侵の地の代わりに『朝廷』やら教会やらへの寄付と、観光、それに着るもんやお茶の輸出で成り立っとる……って殿下なら知っとるやろ?」
「あ、ああ……」
「せやから領外に売る時にはお茶の値段をつりあげとるんやって。シゾーカはカンサイから遠いから輸送料がかかるのを見越して、絶妙な値付けをしとるらしい。ええ商売しとるわ~……てオカンやオカンの友達が言うてたの。お客様に出すお茶は高級な『古都』産が最適やけど、普段使いのお茶はそない高いもの使う必要がないから、ウチはワキャーマから安い茶葉を仕入れようと考えてたのに、王宮ではこないな無駄遣いして……見損なったわ!」
「え……みそこ」
王子が青くなり呟いたのをフォローするつもりか、セオドアとドロランダが被せぎみにディアナに言います。
「お嬢様、無駄遣いは言い過ぎですわ。王族が国を把握するために各地から名産の食材を集めることも、紅茶の専属侍女を雇うことも良くある話ですし!」
「恐れながら申し上げますが、殿下はディアナ様に喜んで頂きたくてこの様な趣向を凝らしたのです」
しかしディアナは揺るぎません。
「だって! 以前私が訊いた時に言うてたもん!『領民や国民から税金で得たお金を自分の贅沢のためだけに使うんと、巧く活かして増やしたり国を豊かにするために使うんやったら、後者しかない』て! 殿下の嘘つき!」
「「「!!」」」
「こんなん、私の為て言い訳したって……どう考えても無駄遣いの贅沢や。私……私、殿下だけは他の貴族の子ぉと違うと思てたのに……そんな所が良いと思ててん……」
最後は消え入りそうな声で呟き、下を向くディアナ。その様子に呆然として言葉が出ない王子とその侍従。その横でドロランダはディアナに歩み寄り、ドレスを鷲掴みにしていた両手をそっと開かせて自分の手で包み、優しく話しかけます。
「そうですね。殿下のお気持ちは嬉しいですけれど、この方法はお嬢様の意に沿わないですものね。でも、ここにいる皆の利益になれば無駄遣いの贅沢にはならないのでは?」
「……え?」
「ちょっとお耳を」
ドロランダがディアナにこそこそと内緒話をするにつれ、ディアナの表情がみるみる内に明るくなり目がキラキラと輝きます。
「これならいかがですか?」
「うん! 流石ドロランダ!」
「では、大変恐れながら殿下、こういうアイデアはいかがでしょう……?」
ドロランダの提案にエドワード王子とセオドアは驚きました。
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