第48話 番外編③:王立茶葉研究所設立秘話 すれ違いは更に深く
◇◆◇◆◇◆
10日後。
エドワード王子への対応方法がわからなくなったディアナ。ガッチガチに緊張し、前回以上に人形の様な姿でドロランダと共に王宮に赴きます。以前と同じサロンに通されますが……
(ん?)
中の様子は一変していました。そこには50客は下らない数の茶器がズラリと並べられ、沢山の侍女が準備をして待っています。明らかに大勢の客を迎える様子なのですが……しかし。
(椅子が2脚だけ?)
お茶会のテーブルには椅子が向い合わせでふたつだけしか用意されていません。ディアナの頭の中が疑問符でいっぱいになったところへエドワード王子が声をかけます。
「ディアナ! ここだ。早く来てかけろ」
「でんか、ごきげんうるわしゅう。このたびはおよびいただき、まことにこうえいです」
王子が満面の笑顔であることにホッとし、若干緊張が解けたディアナが挨拶をすませて椅子にかけます。と、その途端、三人の侍女がいっせいにお茶を淹れはじめます。
「?」
ディアナの目線を追うように見ていた王子は自慢気に言います。
「王宮の中でも茶を淹れるのが特別に上手い侍女を三人選りすぐった。この中から俺の紅茶専属侍女を決める。お前が一番旨いと思う茶を選べ」
「!?」
三人の侍女がそれぞれ淹れた茶を、それぞれが交代に毒見をし、更にセオドアの毒見が済んでから三つのカップが同時に王子とディアナの前に置かれます。
「茶葉は前回と同じものだ。菓子も同じオレンジだが趣向が違うものを取り寄せた。
オレンジの蜜漬けにカカオを纏わせた菓子が添えられた紅茶は濃い琥珀色で大変良い香りが立ちのぼっています。
ディアナは紅茶のカップからそっと目線だけを侍女達の方へ移しました。三人とも固唾を飲んで王子とディアナを見つめています。力が入りすぎて眉間にシワが寄っている者や、涙目でぷるぷると震えている者までいる有り様です。
(……これ、なんだか責任重大やないの???)
ディアナは慎重に三つのカップから紅茶を飲み、ゆっくりと味わいました。確かにお茶を淹れるのが上手な侍女達だけあって、前回よりも更に鼻に抜ける香りがふくよかで非常に美味しい紅茶ではあります。
「……どうだディアナ?」
「どれもすばらしいです。ワタクシでは、どなたがいちばんじょうずかをきめられません」
「いや、お前の好みで決めて欲しい。お前が一番好きなのはどれだ?」
(ええええ……なんでや……)
ディアナは迷いながらひとつのカップを選び出しました。ちらりと横目で見ると、眉間にシワが寄った侍女の顔色が明らかに良くなっています。
「……これを」
「ふむ。そうか。では次を!」
「え!?……つぎって」
飲みかけの紅茶がサッと下げられました。ディアナの困惑をよそに、既に三人の侍女が次のお茶を淹れ始めています。
辺りには青い香りが立ちはじめました。
「これ……みどりのおちゃですか?……ハーブティーでしょうか」
「いや、古都・ミヤコ産の特別な茶だ。紅茶と同じ茶葉だが発酵させていないからこのように美しい黄緑色になるのだそうだ」
(綺麗……殿下の瞳の色に少し似てるわ)
同じ緑の茶葉を粉にして練り込んだという焼き菓子が添えられ、カップに注がれた緑のお茶を飲んだディアナは目を丸くします。
「しぶくない……! なんだかあまいようなきがします」
「うむ。なかなかいけるな。お前も気に入ったみたいだな?……さて、この中で一番はどれだ?」
(ええええ……また?)
ディアナは何だか嫌な役目を押し付けられたような気になりました。が、黙っていても王子は期待に満ちた目でこちらを見つめているばかりで逃げられそうにありません。
(まあ、今回は結構淹れ方に差があったから選びやすいわ)
ディアナは一番美味しかったと思うカップを選びます。先ほど涙目だった侍女が笑顔になったので、どうやら彼女が淹れたお茶のようです。
「ほう。では次を!」
「えっ!!……ちょ……おまちください!」
まさかの三杯目を淹れようとした侍女達を大声で制するディアナ。王子に向き直ると不思議そうな顔をした彼と対峙します。
「ん? どうしたディアナ」
「でんか、これはなにをされているのですか?」
「いや、だから一番お前が旨いと思うお茶を探しているんだが。次は北地方の海沿いで作られた珍しい紅茶だぞ。めったに王都では飲めないが特別に取り寄せた。
「……まさか、これをあとなんかいもくりかえすのですか?」
「そうだな。今回は五種類の茶葉を取り寄せている」
「いつつも!? な、な、なんで……」
「何故? お前は茶が好きなんだろう? お前がまた飲みに来たくなるように、この国で一番お前の好みの茶葉とお前好みの茶を入れる侍女を探そうとしたんだが?」
にっこりと自慢気に言う王子に、ディアナは震えながら深く息を吸い込み、大声で吐き出します。
「な、な、な……なんでやねん!! このアホ!!!」
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