TVチューバー

 Vチューバーの外側の人としてデビューする事になった無味無臭の4人は今日も企画を練っていた……時の話だ。


「あのさぁ、そういえば訊いてなかったけど中の人がいつの間にか決まってたって事は、私達って個人Vチューバーじゃなくてどっかの事務所に所属するって事なの?」

 という香織の何気ない質問にしれっと答えるはリーダー。

「いや、事務所ではなく地元のテレビ局に所属する。つまり公式のご当地ゆるキャラVチューバーの外側の人という事だ」

「私達ゆるキャラ扱いなのっ!?」

 と驚愕する香織に。

「そうだぞポムポム納豆」

「ポムポムプリンみたいに言わないで!」

「わかった。じゃあムキムキ納豆」

「いや納豆にムキムキもポムポムもおかしいでしょう!」

 というところで童子がカットイン。

「じゃあウキウキ納豆でおk?」

「普通ネバネバでしょ真っ先に出てくるのっ! なんでみんなキャッチャーなのにピッチャーへの返球が時速300キロの変化球なのっ!」

 そう。それが無味無臭。


 しかしツッコミを入れた事で少し冷静になったか香織は口元に手を当て。

「てゆーか、ゆるキャラに気を取られてたけど……私達テレビ局に所属するってどういう事? なんで急に所属出来たの?」

 この質問に答えるのは当然リーダーで。

「別に急という程ではない。前に我々のテーマソングを作っただろう? アレのMVを試しに地元のテレビ局に持ち込んだら採用となった」

 これに香織は物凄く複雑で微妙な表情を浮かべ。

「あーまぁ~……そうか。リーダーにみっちゃんにワラワラって喋らなきゃトンでも美少女だもんね……。そりゃ3人が自前のちくわ持って踊り狂ってるだけのふざけたMVでもスカウトされるよね……」

 因みに当然だが香織はヴォーカルなのでおごそかなちくわをマイク代わりにし、3人の後ろで一生懸命熱唱していた。つまりバックダンサーではなくバックヴォーカルという……正に「悲しいちくわ」である。


 ――というところで、右手の人差し指を突き立てた三世。

「まぁようするに私達は局のアナウンサーならぬ局のVチューバーって事ですね」

 これに香織はウンウン頷き。

「そっか。今や局アナのVチューバーとかいる時代だもんね」

「そうですね。なので私達の場合は会いに行けるアイドル――ではなく。会いに行けるVチューバー……つまり匂いを嗅げるVチューバーって事です」

「匂いを嗅げるVチューバーッ! 世界初過ぎるっ! ってゆーかリアルで会えるVチューバーが既に矛盾してる! ……ってかそんなコンセプトで私達ちゃんと人気出るのかな……」

「バカを言えっ!」

 と突然の叱責はリーダー。リーダーは胸の前で右手の拳を震えるほどに強く握りしめ。

「我々は既に先行公開されたあのMVだけでもファンがついていて、早く正式デビューしてくれとファンが毎日のように足の指でハートを作っているのだぞ!」

「キュンですっ♡ って足の指っ♡」

 手の指でハートを作りつつも驚愕する香織だが、童子は至って冷静に。

「因みにそういう熱心な僕達のファンの事を『無職透明』って呼ぶらしいよ」

「もうファンネームまで付いてるの! でも無職透明って愚弄しているとしか思えないんですけどっ!」


 しかし当然だが無味無臭はまだデビューしていないので、ファンネームを付けたのは彼女達ではなくファン達自身である。まあ、残念なグループには残念なファンが憑くという良い例である。そしてネット上で「無職透明無味無臭」と書いて「残念な奴等」と読むようになるのはそう遠くない日の話である。

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