葉擂れの梅
菜月 夕
第1話
庭の紅梅に一輪だけ白い花が咲く。
今年も咲いたその花を眺めながらあの日の事を思い出す。
「あの花だけ白いの何故?」
母は少し寂しそうに丈夫な梅にするのに杏の木に挿し木したのが出てきたのかしらねぇ、と私に教えてくれた。
そんな母は、病弱だったのもあって早くに亡くなってしまった。
末の子で一番上の姉が嫁いだ後に生まれた私は過保護な位に残った父と二番目の姉に育てたられた。
母のため息がなんだったのかが判ったのは学校での血液検査だった。
家族はみんなAとO。私だけBだったのだ。
そうか、私はあの梅の木の様に接ぎ木された花だったのだ。
母もすでに亡くなっていて、家族に聞くのも憚られて私の心の隅に押し込めて育てられた恩を返そうと心を決めたのだ。
そう思ってたのに父と上の姉も突然の事故で亡くなってしまった。
接ぎ木の私にこの家族は食われてしまったのだろうか。
葬儀に駆け付けた先に嫁に行っていた姉が手伝いをしながら寄り添ってくれた。
「私がここの子にならなければ、こんな事にならなかったのに」
「何を言ってるの?あんたは私たちの家族よ」
そして血液型の事や一輪だけの白梅の話をした。
「あー-、それね。あんたの血液型は生まれた時に調べてね。モザイク血液型だったのよ」
なんでもモザイクと言う遺伝型の違う因子が混在する場合があって普段は普通の遺伝と見分けがつかないものらしい。
死んだお母さんの父方がB型因子を持っていたけど母に発現してなかったが隠れていたらしい。
その因子が私に出たもので、血液型違いでお産やその後のあんたも危機的状況が続いていたものでみんなが大事にしてくれていただけだった。
尤も、母は確かに私の出産で身体を弱くして長くない命だったらしい。
梅の花を見てため息をしていたのは自分が息子の行く末を見れない事へのものだったのだろう。
「で、でもあの白梅は?」
「それこそ単なる突然変異じゃない?
接ぎ木なら一輪だけで無くその枝だけでも全部が白梅になるでしょ?」
そう、私は紅梅に守られた白梅だった。
葉擂れの梅 菜月 夕 @kaicho_oba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます