墓酒

菜月 夕

第1話

 私の住んでいる所はホンの百年ちょいと前に開拓が始まった地区で昭和の初め頃までは町に施設も無く、死者が出ると野焼きしで自分の山にある墓に土葬していた。

 私の家はこの地区でも開拓の先駆者だったので町に共同墓地が出来ても平成の世になっても持ち山に墓が残っていた。

 しかし、離農と共に畑に付随したその山も売却することに成り、墓を掘り返し残っていたものを町の共同墓地に移すことにした。

 山の墓地は比較的新しい墓は卒塔婆ものこっていたが、古い墓はこんもりとした山がわずかに残っている程度で私の生まれるずっと前のものだ。

 その一つを父と伯父と私とで掘り起こすと、中身の入った酒瓶が。

 叔父が「こういう酒は美味いって聞いた事が有るぞ」

 私の家系では珍しく酒が好きな叔父は酒瓶を抱え、墓移動の打ち上げを兼ねて酒盛りを始めた。

 私も父も酒はそれほど飲まないのだが、こういうのはお清めの意味もあるのでそれに加わった。

 確かに酒は美味かった。普通、日本酒は置くと滓が出たりするのだが、地中にあったせいか埋めた時のまま、しかし熟成が進み、味が深い。下戸の私にも解る味だった。

 この酒の入っていた墓は私の知らない父祖だが、酒が好きだったのだろうか。

 お互いに酒を注ぎ合い、気が付けば一本の酒を空けてしまった。

 片づけに入ろうとすると、三人だけで酌み交わしていた筈なのにコップとつまみの皿が四人分有った

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墓酒 菜月 夕 @kaicho_oba

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