第4話 刻まれる赤

「何だ、コレ。訳わからねーし、気持ち悪ぃメッセだな」

 俺は怪訝に眉根を寄せて、そのメッセージをサッとゴミ箱に入れた。


 ヤバい奴は相手しないで消すに限る。あと、面倒くさそうな奴もな。はい、消した。さてと、次は……。


 携帯を捜査している指がピタッと、不自然に固まる。


 俺の指の上に、赤色の矢印がうにょーんと伸び始めたからだ。


「は? 何だよ、これ」

 

 虚空に刻まれる赤色の矢印に不気味さを抱いていると、その矢印の少し上に文字が現れる。

 赤色のペンを持って、紙に文字を書く様に。誰かがそこに立って、虚空に文字を書き始めたのだ!


 俺は一文字ずつ並ぶ丸みを帯びた文字を見送り、完成された赤色の文章に目を見張った。

「開かずに消すのは駄目……? なんだよ、気持ち悪ぃな!」


 荒々しい怒声をあげて、俺は虚空に漂う怪奇文章を消そうと乱暴に腕を振る。

 

 しかしどういう訳か、消す事は愚か文字がたなびく事もなく、しっかりと矢印が付いた状態で付いて回ってきた。


 消せない! なんでだよ、なんで消せないんだよ! 畜生!


「うざってぇな! 何なんだよ、コレは! どうなってやがるんだよ!」


 憤懣と地団駄を踏み、ぶんぶんと腕を振り回す。

 すると赤い文字が虚空に現れ始めた。今度は指先ではない、口元の方にだ。そしてまたゆっくりと文章を作っていく。


『暴言を吐くのは駄目』


 口元の虚空に刻まれた忌々しい文章に向かって、俺は思いきり拳を振り抜いた。

 だが、その文章は平然とその場に佇む。割れる事も消える事も無いのだ。

 

 ただ忌ま忌ましさと苛立ちだけが募る。

「クソクソッ!」

『暴れ回るのは駄目。迷惑ですよ、考えて』


 俺が何かする度に現れる、鬱陶しい事この上ない赤文字。

 

 どうなってんのか、マジで分かんねぇけど。イライラし続けたら相手の思う壺にハマっちまう気がするわ。

 だからこの赤文字も、頭のおかしい馬鹿共と同じと見た方が良いな。うん、よし、気にしないでいつも通りを過ごそうじゃねぇか。

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