第16話 やる気

ちょっと、泣いた。


よし! やる気が出てきたぞ!

いまなら100回でも1000回でも出来る! やってやるよっ!

さあ始めよう!

あの言葉を言おう!

「なんかいける気がする」

じゃなかった。いや、これでもいいんだが、今は違う。

「紙よ、転生をはじめよう」

紙がしゅるしゅると宙に浮く。

画面に成る前に、文字が浮かんだ。

『初回転生ボーナスがあります。 つかいますか?

  はい ・ いいえ』


おいぃー! おいおいおいー! 紙さんよぉ!

そういうのはさぁ! もっと前にさくっと表示するもんじゃないの?

なんだよさっきの涙は、もう返してくれよ。涙。利子付きで。


さくっと はい をクリック。

『初回転生ボーナス1

     背景1

 設定しますか? はい ・ いいえ 』

背景? これまた意味不明なものがきたなぁ。

もちろん はい だ。

白い世界が光った。全体が淡く光った。

光が納まると、そこには神殿があった。ギリシャ神殿、あれである。もちろん朽ちかけなどではない新品。綺麗な柱が「建ったばかりです」とでもいうようにバシンと、ズドンと立っている。

「おおっ、すっげー!」

柱に近づいてみる。……あれ? 近づけない。

ん? なんだこれ。

背景、ハイケイ、はいけい。拝啓、おふくろさま。ではない。

などるほ。ほどなる。これ、VFX? だっけ? 正確な名称は知らんがナンチャラ合成っていうやつだ。

「背景1」はギリシャ神殿。

うむ。この景色もラノベっぽいな。しかも背景という手抜き感もラノベっぽい。

そういや、この世界の景色、背景なんて何でもいいんだよな。

だって転生者はここの背景にまで気を向けない。向ける暇がない。

「どうして俺が」とか「チートよこせ」とか「転生先は」とか色々考えることが多過ぎて、誰もここの環境になんて気にしていない。

そりゃ「背景1」でいいわ。それがいちばん楽だわ。 

御花畑あたりもたぶん背景2とかにありそう。

神っぽい背景ならなんでもOKだろうし。

ふむふむ。超合理的。


さて。

もう一回、気合いを入れ直して。

「紙よ、転生をはじめよう」

ポーズは実験、だが。

めがみ1をぽちっとな。

体ができ上がる。

受肉したら気がついた。

眼がかゆい。

さっき泣いたせいだろうか。

目をかきながら体がある有り難みを感じる。


さてさて、次は転生者を見つけようか。

紙に映像を見せるように言う。

っと。どんな転生者がいいか、想像するんだっけ。

トラック系ではなく。今回はちゃんと考えたい。

とは言っても。

今の俺はぽんぽん進めたいという願望がある。

ぽんぽん進めてぽんぽんポイントを溜めたい。

ぽんぽん。ぽんぽこ。

糞たぬきを連想してしまった。消えろ守銭奴たぬきめ。

  ラノベ 習得済み

  転生難易度 0

あたりは鉄板要素、だとは思う。

黒木は無職。同じ無職で選ぶのもいいが、今回は個人的に選びたい職業がある。

学生だ。

学生。それもある地域の人たちだ。

今、そこは理不尽な暴力がまかり通っている。

戦争。

そこで亡くなる学生。

  ラノベ 習得済み

  転生難易度 0

とはならない気がするが、まあとにかくやってみよう。

紙にさわりながら想像する。

映像が地上に近づいていく。

石造りの家々。

少し高い建物。

遠くから何かが飛翔してくる。

高い建物に当たらず、低い家々の中に落ちていく。

閃光、爆音、煙。

紙が本になる。

手もとで開く。

  転生者 アフマド

  年齢 10

  職業 学生

  体調 空腹

  ラノベ 習得なし

  転生難易度 5

本を見る。

……。

……。

……。

やばい。

だめだ。

俺には無理だ。

俺にはそんな宗教観もそれを許容する異世界も想像できない!!

……。

ああなんてことだ。

手軽に考えてしまった。

ポイントをぽんぽんとか。

サイアクじゃないか!

俺は何もわかってなかった。

……。

……。

キャンセルが頭にちらつくが、それはそれで嫌だ。アフマドの記憶を頼りに、形だけの、その宗教観を含んだの異世界を設定する。

形だけのスキルを設定する。

   転生先 平均的近世中東

     転生場所 森

     転生その他 デフォルト

  スキル 「心身強化」、「布教」、「看破」、デフォルト、なし

  持ち物 小銃、重火器、爆発物


会話はもうテンプレで済ませた。

彼はやってきて、そして行ってしまった。笑顔なく。

……。

体が消え、背景も消えた。

糞。糞は俺だ。

なんなんだよ。ほんとうに。

「駄女神そのものじゃないか!!!」

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