第15話 その後
俺はふて寝する事にした。
……あれ? 寝れない……。
そういや紙チャットしながら二日ぶっつづけても眠気などなかったわ。
どうやら半透明のこの体、体? といっていいのか分からんが、魂ではないとのことなのでとりあえず体でいいとおもうが、この体では眠りは必要ないらしい。
というか。
まぶたが閉じない。いや、正確にはまぶたを閉じても映像が容赦なく眼に突き刺さってくる。が正しい。
まぶたが半透明なせいだろうか。
なんか妙に現実的なんだよなぁ、この白い世界って。
白。ずっと白い世界が見えている。見させられている。
ううう。
見させられ続ける経験なんてないのだが、意外と対応している。俺。
なんか妙に現実的だよなぁ、この白い世界って。というように、対応している。白しかないのに。
まあそういうことなので各位、ヨロ。
半透明な何かが、ただ机につっぷしている。俺である。
勇者が見たら、即、光魔法を唱えるだろう。
一時間。
二時間。
やる気が起きない。なあ。
意外と対応しているのだから、そろそろやる気が起きてもおかしくないんだけどなぁ。
世界がさぼってんのかなぁ。
顔の向きを変える。頬にキーボードの跡がくっくりと残りそうな時間がたったけど、もちろん顔に変化はない。
はぁ。
やる気が起きない。なあ。
この白い世界に捕らわれた自分。
糞サイアクだ。
ポイント溜めていろいろ出来るようになって、少し楽しくなるような、そんな未来がうっすらと見えていたのに。
糞つまらん。
というか、
オレハ ソンナニ ポイント 溜メタカッタ ノ カ?
額をキーボードに押し付ける。
はぁ。
きっつい。
転生補助 ナンテ ヤリタカッタ ノ?
なんか、ないかな。
なんか、ないかな。
なんか、転生、以外。
……。
お! そうだ!
{転生後の世界に楽しみが増えれば増えるほどポイントも増えます}
って言ってたじゃん!
そうだよ、青木、じゃなかった、黒木君! 鬱の彼!
彼を見てみよう!
がばりと起き、紙に命令し、現在の黒木を探し出す。
ザラザラとノイズが走り、少し時間がかかっている。
異世界につなぐ、ということはそういうものなのかも知れない。
でもその待つ時間も妙にわくわくさせてくれる、良い待ち時間だ。
おっ! 映った!
どこかの森。貧相なテント。いや、テントというか、草の塊とでもいうか。
そこに黒木は居た。
火を起こし、何やら肉を焼いている。
おおっ黒木よ。元気にしてるか? 鬱はどうなった?
与えたスキルは役に立ってるか? 体、若返ってんあぁ。
デフォルト設定ってそういうことかぁ。
若い体、いいだろ? どうだ黒木よ。
……。
肉を頬張る黒木。
茸を生で食べる黒木。
草をくるくると蒔いて火をつけ、吸っている黒木。
え? たばこ? ズームしてみる。
……おおっとこれは●●だ。
うん、まあそうだよね。現代社会にあったルールなんて、そこにはないもんね。
いいんだよいいんだよ、うんうん。
俺も何もしないでそこに送り込んじゃったんだもんな。
いいんだよいいんだよ、うんうん。
そんなんで病気が少しでも癒えているなら、もう大成功だよ。
うんうん。顔色も悪くない。
こっちでは3、4時間しか経ってない感じだが、そっちはどれだけ進んだんだい? いやいや細かくはいいよ。見てるだけだし。
うんうん。いいね、生きてるって感じだね。
いやはやいいね。こういうのって。
あの夜の踏み切りを知ってる身としては。
もうこれは大成功だよ。
やばいよ。
涙がでそうだよ。
紙に言って映像を切る。
そうか。そうか。
成功してるのか。
あんな適当な、あんな何もしてない、ただの転生で。
黒木は生きてるんだな。
だめだ。涙が。
半透明の体なのに、一滴、涙が頬を伝って落ちる。
よかった。
ほんとうによかった。
ちょっと、泣いた。
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