隣にいるだけで
青樹空良
隣にいるだけで
「
私を見て、
「男友達と一緒にいるみたいでさ。話しやすいんだよな」
私はがっくりと肩を落とした。悪気は無いんだって、わかっている。
だから、
「私も楽しいよ。木本と話すの」
私も笑いながら答える。
◇ ◇ ◇
ショートカットできりりとした顔が目の前にある。
休み時間、トイレの洗面所で鏡に映った私の顔。
お世辞にも可愛いとは言えない。どちらかと言えば、かっこいいに分類されてしまう。小学生の頃から男の子とよく間違われてきた。今は高校生で制服を着ているから間違われることは無いけれど、顔立ちはやはり可愛い女の子とは程遠い。
鏡に映る顔を見てため息をつく。
顔だけじゃない。女子にしたら背も高い。そんな自分が嫌いというわけではないのだけれど、好きかと言われるとちょっと困る。
もう少し、女の子らしくて可愛い方がよかった。
それもこれも、全部木本のせいなんだ。
たまたま話しているのが耳に入ってきてしまったのが悪かった。
男子たちが、好きな女の子のタイプを話していたってだけの。
木本はそのとき言っていた。
「俺は、可愛い女の子が好きかな」
たった一言。
その一言が、私には突き刺さった。
私は木本が好きだ。
でも、木本の好きな女の子は私からはかけ離れている。
どう見たって、私は『可愛い女の子』じゃないから。
男友達みたいに思われていてもいいんだ、と自分に言い聞かせる。
この気持ちを伝えてしまえば、きっと今みたいに話すことも出来なくなってしまうから。
そんなの嫌だ。
だから、このままでいい。
◇ ◇ ◇
「先輩、これ、クッキー焼いたんでどうぞ!」
「ありがと」
私は差し出された可愛い包みを受け取って微笑む。
部活の後輩は顔を赤くしながら嬉しそうに笑う。調理実習で作ったものを部活が終わった帰り際に渡されたのだ。
「先輩、おつかれさまでした!」
「うん」
手を振りながら去って行く後輩。その横に並ぶその子の友達。
「よかったね、渡せて」
「どきどきした~。やっぱり中山先輩かっこいいよ!」
「うんうん、男子より素敵だよね」
そんな声が聞こえてきて苦笑する。
小さくて可愛い、見るからに女の子全開な容姿。きっと、木本もああいう女の子が好きなんだろうなと思って軽く落ち込む。
「相変わらずモテてるなぁ」
突然、背後から聞こえてきた声に、心臓が飛び跳ねそうになった。声だけで誰なのかわかってしまう。
「木本、びっくりするじゃん」
「普通に声かけただけだけど」
近い。突然そんなに近付かれたら、ドキドキするに決まっている。木本は私のことを男みたいなものだと思っているみたいだから、そんなこと無いのかもしれないけど……。
「妬くわ~」
「モテてるのがうらやましいの?」
「いや、そうじゃなくって……」
木本が困ったように頭をかく。
何を言おうとしてるんだろう。
どういう意味?
「クッキー、食べたいとか?」
「いや、せっかくもらったなら本人が食べないと失礼だろ」
期待しちゃ駄目だ。
だって、木本の好みは私じゃない。
「でも、中山の焼いたやつなら食べたいかも」
「はぁ?」
「だって、料理上手いじゃん。前に調理実習やったとき見てた」
「同じ班じゃなかったのに?」
「中山と同じ班の男がうらやましかった」
そんなことを言われたら、勘違いしちゃいそうになるじゃないか。
……見られていたなんて気付かなかった。
「からかわないでよ」
どうせ、男みたいだと思っていたヤツが料理上手でびっくりしたとかそういうオチなんだろう。
「木本は、可愛い女の子が好きなんでしょう?」
「え? なに? あれ、聞いてたの?」
うわー、恥ずかしい! とか言いながらしゃがみ込む木本。
「もしかして、特定の子がいるとか?」
「う」
木本が両手で顔を覆う。
「バレた?」
「なにが?」
「中山が好きってこと」
「……は!?」
何を言っているんだ、木本は。
「私、全然可愛くないじゃん」
「……」
木本からの返事はない。
「冗談、だよね?」
「冗談なんて、言ってない。中山は可愛い」
突然まっすぐな目で見つめられて、どうしていいかわからなくなる。
「中山、自分で可愛いって気付いてないの?」
「そ、そんなの思ったこともないよ!」
自分で言ってて悲しいけど。
「去年調理実習でクッキー焼いたときさ、めっちゃ可愛い形にしてたじゃん。しかも、すっごい笑顔で。出来上がったやつも嬉しそうに眺めてたし」
そんなことまで見てたのか。
「それに、可愛いキャラとか好きだろ? ハンカチによくゆるキャラのワンポイントついてる」
「うああ! それは似合わないと思って、気付かれないようにワンポイントにしてるのに!」
「あと、そうやってすぐに赤くなるとこ可愛い」
「そんなこと思うの、木本だけだから! そんな細かいこと気付いてるの木本だけだから!!」
思わずムキになって否定してしまう。そんなことを言いたいんじゃないのに。
でも、
「だったら嬉しいかも。中山の可愛いところは俺だけが知ってるってよくない?」
木本は嬉しそうに笑った。
私は急に喉がからから渇いて、声を出すだけでむせそうで、声が裏返りそうで、それでもちゃんと伝えなくちゃと口を開いた。
「わ、私も、きっ木本のことが……!」
隣にいるだけで 青樹空良 @aoki-akira
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