吸血姫の巻き込まれ英雄譚
おるたん
プロローグ
平日の昼間から、私――癒月琴音はオンラインゲームに勤しんでいた。
換気で窓を開けているので、近くの小学校から元気な声が聞こえてくる。
私も久々に学校に行きたいなぁ、なんて思いながら、一人では時間のかかるダンジョンを周回して、経験値を稼ぐ。
昼間から家でゲームをしているのはネトゲがしたくて不登校、というわけではなく、病み上がりで念のためにと休んでいるのだ。
元々病気がちなうえ虚弱体質で、よく学校を休んでいる。
それで出席日数が足りず留年して、気まずいからという理由で休むこともあるのだが。
そういう日も大抵ネトゲ三昧で、正直なところ飽きてきた。
フレンドと通話しながらプレイする分にはいいのだが、今日みたいにソロで黙々と周回するのはつまらない、というか虚無だ。
かといってほかにやる事はないし、病み上がりだからゆっくり休もうと思っても眠れず暇なので、結局気づけばこうしてネトゲで遊んでいる。
今日は朝家族が全員家を出てからやっているので、かれこれ5時間は遊んだ。
流石に飽きてきた。
けど他にやる事もない。
惰性でこのまま続けても面白くないし、そろそろ終わろう。
換気していたとはいえパソコンの熱で汗をかいたし、シャワーでも浴びて、おなかが空いたから軽食でも作ろうかな。面倒だからってお昼をパン一枚で済ませずちゃんと食べておけばよかった。
私はダンジョンをさっさとクリアして、街で自分のキャラを画面いっぱいに移して、パソコンの前を離れる。
そうしてゲームをいったん終わり、私は風呂場に向かった。
風呂はあまり好きではないが、汗をかいたままというのも気持ち悪い。
若干張り付いたキャミソールとパンツを脱いで、浴室に入る。
正面に配置された鏡に映る、色白で細すぎる不健康そうな体。裸になるとどうしても見える手術跡も気になる。
こういう現実を突きつけられるから風呂は嫌いだが、汗をかいたままゲームをする方が嫌なので、割とシャワーは浴びる。
シャワーを浴びて汗を流して気分転換して、私はさっさと風呂を出た。
せっかくだからと誰に見せるわけでもないが可愛い下着を付けて、お気に入りの部屋着に着替え、濡れてしまった髪を乾かしてから台所に立つ。
作れそうなもの……材料もあるし、可愛い妹が食べたいと言っていたブラウニーでも作ろう。そのうち作ってあげると約束していたし、いい機会だ。
ずっと静かなのも寂しいのでスマホで音楽を流して、作業を始める。
お菓子作りはそれなりに好きなので、流れる音楽に合わせて鼻歌を歌いながら作っていると、ゲームをしているよりも早く時間が経つように感じる。
いや、そもそも時間がかからないからかな。
閑話休題。ブラウニーを冷蔵庫に入れて、後片付けに入る。
作りっぱなしだとお母さんじゃなくて妹に怒られるので、片付けは大切だ。
しっかり食器を片付けてから、少し待って冷やしたブラウニーを一口食べる。
……うん、美味しい。これなら妹も喜ぶかな。
続きは、妹と一緒に食べよう。
あれから少し腹の足しにしようとバナナジュースを飲みながらテレビを見ていると、妹が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、詩音。前に食べたいって言ってたブラウニー、作ったから食べていいよ」
「え、マジ? やったー。ついでにココアも飲みたいな~」
「病み上がりのお姉ちゃんをパシらせるんじゃありません」
そうは言いながらも、ちゃんと作ってあげる。なかなか学校に行けず暇な私にとって、詩音の笑顔はいい気分転換になるから、すぐ甘やかしてしまう。
「美味しいの作ってあげるから着替えてきな~」
「はーい!」
詩音は荷物をソファーの隣に置くと、満面の笑みで着替えに行った。
本当にかわいい子だ。そんな詩音ちゃんにはちょっといいココアを入れてあげよう。
純ココアと砂糖を混ぜて、牛乳を加えてよく練る。手鍋で一から作る少し面倒なレシピだが、せっかくブラウニーを作ったのだから、飲み物もちょっといいものを。
出来たココアをマグカップに移して、ついでにホイップクリームを載せてチョコソースをかけたら出来上がり。
ココアを作っている間に戻ってきた詩音は、冷蔵庫からブラウニーを出して、お皿に切り分けていた。
「お姉ちゃんさっきバナナとか食べてたから、詩音多めに食べていいよ」
「やったー! お姉ちゃん好き~」
「ふふっ、チョロい奴め~」
そんなやり取りをしながら出来たものを食卓に運ぶ。
「さ、食べよ食べよー。前のより美味しく出来たんだよー」
「ひゅ~、いっただきまーす!」
前々から「作って~」と言っていただけあって、それはもう嬉しそうに、おいしそうに食べてくれる。
やはり嬉しいものだ。こうも分かりやすく喜んでくれるなら、作ったかいもあるというもの。
「んあ、そういえば明日、と家で勉強会するから。もしうるさかったらイヤホンとかして」
「わかった。けど、勉強会でうるさくなるもん?」
「いやぁ、ほら、受験勉強とはいえまだこんな時期だし、正直集中できない気がして」
「あーね。まだ夏休み前だもんね」
私は結構勉強が好きな方で、高校教員をやっているネトゲのフレンドに教わりながら一応高校三年生までの予習は済ませている。といっても、学校に行かないので苦手科目についてはどんどん頭から抜けているのだが。
そんな一応は勉強が好きな私だが、中学3年生の夏休み前はノートを開いてスマホを見ていたので、気持ちはわかる。
「ま、もしわからないところでもあればお姉ちゃんが教えてあげるから、頑張って」
ついでに、差し入れに何か作ってあげよう。
最近は割と体調が優れているし、明日にでも材料を買いに行こうかな――
その日の夜。
「えー、これ新アバじゃん! くれるの?」
『うん。高難易度周回ずっと手伝ってくれたおかげで装備揃ったし、そのお礼』
「やったあ、ありがとう! えー、染色どうしよっかなー。やっぱり赤入れて吸血鬼っぽくするのがいいかなー」
夜にネトゲをするのは私の日課である。そして、ログインしたらその時にいるギルドのメンバーと通話しながら遊ぶ。
『やっぱ、ルナさんなら吸血鬼コーデがいいんじゃない? せっかくずっとそれで統一してるんだし』
「そうだよねー。じゃあそうひお……あ、おえ、ひゃええない……」
突然呂律が回らなくなった。体もしびれている気がする。うまく動けない。もう、目を開いているだけでも精いっぱいだ。
『ちょ、ルナさん、大丈夫⁉ ねえ、ちょっと、ルナさん! ルナさん!』
マズい、とりあえずいったん椅子を倒して、横に――
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