幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと

第1話 嘉永6年戦艦大和

 ときに西暦1853年、江戸湾に蒸気機関の音を響かせ、黒煙を昇らせて黒船が来航したが、征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。江戸城に幕閣を集め、「大和に迎撃させよ!」と命令した。


 アメリカ合衆国のマシュー・ペリー提督が率いていた黒船艦隊は、蒸気外輪船サスケハナ号を旗艦とする4隻である。同艦は全長78メートル、主兵装は22センチ砲であった。 

 戦艦大和が横須賀基地から出撃した。その全長は263メートル。大和に比べると、サスケハナは子供のように小さい。大和艦長高柳儀八は46センチ3連装砲を黒船に向けさせた。彼は山本五十六の方を向いた。連合艦隊司令長官は重々しくうなずいた。

「オーマイガー!」ペリーは巨大戦艦を見て仰天した。

 黒船は回頭し、全速で逃げ出したが、大和の主砲の斉射を受けて4艦とも爆発し、あえなく沈没した。

 海上で泳いでいた乗組員は一人残らず駆逐艦島風に救助された。同艦上では日本人よりアメリカ人の方が多くなったが、はるばる太平洋を越えてやってきた異国人は、呆然とするばかりで、まったく抵抗しようとしなかった。

 ペリーは本国へ向けて、日本の驚異的な軍事力について警告する手紙を書いたと言われている。


「老中阿部正弘、第一艦隊を率いてアメリカへ行け」と将軍は命じた。

 老中は戦艦大和に乗り、勝海舟が武蔵に乗った。

 勝は従来から幕府に海防意見書を提出し、海防掛の大久保忠寛に認められていた。

 巨大戦艦の後には、空母赤城・加賀、重巡洋艦最上・鈴谷・熊野、軽巡洋艦北上・大井・球磨・多摩・木曾、駆逐艦多数、潜水艦伊401が続き、堂々たる単縦陣を描き、太平洋を航海した。

 第一艦隊はアメリカ西海岸沖を遊弋し、合衆国に圧をかけた。ときどき艦砲射撃した。空母から出撃したゼロ戦がカリフォルニア州上空を編隊飛行し、それを目撃した州民は恐慌に陥った。

「ジーザス!」とフランクリン・ピアース大統領は叫んだ。彼はアルコール依存症であったが、江戸幕府海軍第一艦隊の来航後、さらに酒量が増え、側近をなげかせた。


「長州藩主毛利敬親、第二艦隊を率い、イギリスへ行け」と将軍は命じた。

 長州藩主は戦艦長門に乗り、高杉晋作が陸奥に乗り、インド洋を経由して、イギリスに向かった。高杉は攘夷が実行できるとあって、意気揚々としていた。

 長門と陸奥の後には、空母蒼龍・飛龍、重巡洋艦古鷹・加古、軽巡洋艦天龍・龍田、駆逐艦多数、潜水艦伊19が続いた。蒼龍に座上していた山口多門は、航海中も猛訓練を繰り返し、気違い多門と呼ばれた。

 第二艦隊は単縦陣をつくってテムズ川をさかのぼり、イギリスを圧迫した。長門は無用な艦砲射撃をしなかったが、陸奥はロンドン橋を破壊した。陸奥艦長小暮軍治は砲撃に反対したのだが、藩主に次ぐ軍権を持つ高杉は「ちょっとばかりびびらせてやるだけだ」と言って、主砲発射を強行した。山口はイギリスの主要都市を空爆しようとしたが、毛利敬親は「やめよ」と言って、それを許さなかった。

「オーマイゴッデス!」とアレクサンドリナ・ヴィクトリア女王は叫んだ。議会を重視し、大英帝国を繁栄させた名君も、江戸幕府海軍に対しては打つ手がなかった。イギリス海軍イラストリアス士官学校生たちは、歯噛みして巨砲を持つ日本艦を見つめていた。


「薩摩藩主島津斉彬、第三艦隊を率い、フランスへ行け!」将軍はさらに命令した。

 薩摩藩主は戦艦伊勢に乗り、西郷隆盛が日向に乗り、北回りでフランスに向かったが、北極海の氷に阻まれた。

 後に続く空母翔鶴・瑞鶴、重巡洋艦青葉・衣笠、軽巡洋艦長良・五十鈴・名取・由良・鬼怒・阿武隈、駆逐艦多数、潜水艦伊168も立ち往生した。

「我が事終わる!」と薩摩藩主は叫んだが、西郷が南回りを進言して、遅まきながらインド洋を経由してフランスへ向かった。

 第三艦隊はセーヌ川の河口でフランスに睨みをきかせた。日向艦長原田清一は西郷に艦砲射撃しましょうかと訊いたが、巨漢の薩摩藩士は「よか」と答えるばかりだった。原田はその言葉が発射してよいなのか、しなくてよいなのか判断できなかった。同乗していた桐野利秋は「弱い者いじめはしなくてよいという意味でごわす」と説明した。

「モンデュー!」とナポレオン三世は叫んだ。1852年に皇帝に即位したばかりの権力者も、幕府海軍と戦う愚を犯すわけにはいかなかった。彼は現実逃避し、元娼婦の愛人ミス・ハワードに送ったラブレターを回収する策謀に熱中した。

 島津斉彬は悠然とパリ観光を楽しんだ。市民は激昂していたが、強大な武力を持つ日本の大藩主を殺しては国の存亡にかかわるため、フランス警察は全力で警護に当たった。


「新選組局長近藤勇、第四艦隊を率い、ロシアへ行け!」と将軍は次の手を打った。

 近藤勇が戦艦金剛に乗り、土方歳三が比叡に乗り、空母大鳳、重巡洋艦妙高・那智・足柄・羽黒、軽巡洋艦川内・神通・那珂、駆逐艦多数、潜水艦伊58が二列縦陣で続いた。

 第四艦隊は大西洋、地中海、エーゲ海、マルマラ海を経て、黒海に出現し、クリミア半島沖に停泊した。

「ゴースパジ!」とニコライ一世は叫んだ。

 近藤は皇帝との謁見をしたがった。ロシア政府は当初は拒んだが、クリミアに砲弾を撃ち込まれると、抗しきれなかった。新選組隊士たちはモスクワ入りし、近藤は虎徹を佩刀したままニコライ一世と面会した。皇帝の側近たちはその無礼さに激怒したが、沖田総司と永倉新八が御前で剣術試合を披露すると、その見事さに驚き、拍手を送ったと言われている。


「聞け、世界の人よ」と征夷大将軍徳川家定は演説した。

「我が日本国は領土的野心を持たぬ。鎖国し、ただ独立を守り抜く以外に欲なし。我が国は時空連続体に乱れあり。常に未来軍が祖国を守れり。日本を侵略する者、未来軍により滅ぶべし!」

 そして日本国は帝国主義に関せず、独立を守り抜いた。 

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