第47話 しばらくの別れ

 だが、そんな風に感心する俺に対し、隣にいたティオは呆れ顔で呟く。


「何してるのよモニカ。人には向き不向きがあるのよ? ユーリが魔術を使えないように、アナタの細腕じゃただ剣を振るうのも難しいわ」


「そんなことはない。見ていて」


 そう言うと、モニカは両手で木剣を強く握りしめ高く掲げる。

 のだが、それだけで両腕がぷるぷると震えていた。


 確かに、この様子だと剣を振るうことすらままならないだろうが――


 俺がそう思った直後だった。

 突如として、木剣が眩い光を放ち始める。


「モニカ? それはいったい……」


「これが、わたしの全力……!」


 そう告げ、ゆっくりと木剣を振り下ろすモニカ。

 刹那、刃から眩い魔力の奔流が放たれ、地面に着弾すると同時に盛大な爆発音を響き渡らせた。

 砂塵が吹き荒れた時、そこには大きな爆発痕が残されており――


 それを見たモニカは、自慢に小さな胸を大きく張った。


「できた、えっへん」


「できた――じゃないわよ! 9割以上魔術じゃない! そもそもの話、活動拠点パーティーハウス内で大規模魔術を使わないように言われてるの忘れてたわよね!?」


「あっ」


 抜けた声を漏らすモニカ。

 その後も二人はアレやコレやと言い合い、議論は白熱していった。



「……えっと、これは一体、どういう状況なのでしょうか」


 するとそのタイミングで、先ほど席を外したアリシアが戻ってくる。

 柔らかな笑みを浮かべているが、そこには呆れと怒りが確かに備わっていた。


 ふと、アリシアと俺の視線がぶつかる。


「こほん! とにかく、モニカには後で説教するとして……ユーリさんに一つお知らせがあります」


「俺に?」


「はい。ついさっきギルドから招集がかかったのです。詳しい説明はこれからですが、どうやら近くに長期依頼が言い渡されるようでして……」


「この町から離れるってことか?」


 アリシアはこくりと頷く。


「はい。先日の恩を返さないうちからこのようなことになってしまい申し訳ありません。それから私たちが不在の間、活動拠点パーティーハウスについては自由に使っていただいて構いません」


「気にしないでくれ。それから、さすがに住人がいないのに一人でここを使うのは気が引けるよ。これまでみたいに『夕雲の宿』を拠点にしつつ活動するつもりだから大丈夫だ」


「……分かりました。そういうことでしたら、私からはこれ以上何もありません」


 なぜか少しだけ残念そうに呟くアリシア。

 その後、一時間ほどさらに修行を続けた後、俺は活動拠点パーティーハウスを後にすることにした。



 彼女たちとはしばらくの別れになることを強く実感するのだった。

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