第29話 再遭遇と瞬殺

 突如として飛んできた人影の正体は、なんと傷だらけのティオだった。

 戸惑いながらも、俺は問いかける。


「ティオ、生きてるか?」


 それに対し、ティオは虚ろな瞳を俺に向け――すぐにその目を大きく見開いた。


「……どうして、あんたがこんなところに……ごほっ」


 想像以上にダメージが深いのか、ティオが吐血する。


 まずいな。早く治療すべきだが、こういった経験がないため具体的に何をすればいいのか分からない。

 応急処置として、とりあえず傷を負った部分だけでも縛るべきだろうか?


 そんな風に悩んでいると――


「……【深治癒リトア


 ティオが一人でに何かを呟いたかと思えば、すぐに傷が癒えていく。

 どうやら俺が心配するまでもなかったようだ。


「なんだ、回復系の魔術を使えたんだ」


「……あくまで応急処置よ。モニカの使うそれとは練度が違うもの。そ、それより、少しだけ離れてもらってもいいかしら……?」


「ああ、悪い」


 そういえばティオは男が苦手だとモニカが言っていたことを思い出し、彼女からゆっくりと離れる。

 しかし、あくまで応急処置という言葉は正しかったようで、まだ満足には動き出せない様子だった。


「大丈夫か? 町までで良ければ俺が運んでもいいけど」


「……いいえ、結構よ。アタシに、そんなことをしていられる時間はないもの。早くみんなのところへ戻らなくちゃ……」


「? 黒い靄の巨人は既に倒したんじゃなかったのか?」


「っ、何でそれを……いえ、あのサイズだもの、ここからでも見えていたのね。けれど残念ながら、戦いはまだ終わって――」


 その時だった。

 不穏な気配を感じ、俺とティオが一斉にそちらへ視線を向ける。


 すると木々の合間を抜けるようにして、1体のモンスターが姿を現した。



『■■■■ォォォオオオオオ!!!』



 高さは約5メートル。

 体は全ての光を吸収するかのごとき深い闇色をしており、さらに定形を持たずぐにゅぐにゅと揺れ動いている。

 明らかに生命が到達してはならない姿をしているにかかわらず、その魔物は他とは比べ物にならない程の生命力オーラを有していた。


 そして、俺はコイツをよく知っていた。


「なんだ、スライムか。また会うことになるとはな……」


 以前にウォルターから指導を受けている途中に遭遇し、俺が討伐したスライムと瓜二つだった。


「これはまさか、ケイオススライム……! あんた、今すぐここから逃げなさい!」


「おおっ、同行人のリアクションまであの時とそっくりだ」


「リアクション……? よく分からないけれど、そんなふざけたことを言っている場合じゃないわ! 特にこの個体は高位個体なの! あなたはもちろん、傷を負った今のアタシでは倒せない程の敵よ!」


「……ふむ」


 高位個体か。

 そう言われてみれば、確かにあの時よりサイズが大きく色も黒い気がする。

 その分だけコイツも強くなっているということだろう。


 しかし――


「そう言われたら、余計に逃げる気がなくなったな」


「なっ!?」


 まさか今のティオが、だとは思っていなかった。

 そんな状態の彼女をこの場に置いていくわけにはいかない。


 俺は剣を抜き、改めてスライムと向き合った。

 するとティオは俺の背中めがけて声を張り上げる。


「止まりなさい! いくらあんたが特訓で成長したとはいえ、このレベルの敵に挑むのはあまりに無謀――」


「いや、大丈夫だ。


「――は?」


 これ以上の説明はいらないだろう。

 今にもスライムが攻撃を仕掛けてきそうだしな。


 と、そんな俺の予想は正しかったようで――


『■■■■ァァァァアアアアア!!』


「――――――――」


 ――スライムはこの世のものとは思えない雄叫びを上げながら、十を超える触手を伸ばしてくる。

 

 俺はその全てを無視し、スライムの内部に『気配感知』を使用した。

 そして中心に核を見つけ出す。


 以前は核の存在を知らなかったため全身を切り刻んだが、今回は違う。

 一点だけに集中し、無数の斬撃を浴びせてやればいい。


 そして俺は、小さくその技名を唱えた。



「【千刃せんじんたわむれ】」



 刹那、俺に迫る全ての触手が断ち切られ――ほんの一秒後、直径10センチにも満たない核が木っ端みじんに切り刻まれた。


『■■■■ッ!?!?!? ■■■■――――ッ!』


 その速度と精度は、核の消滅に伴う自身の崩壊が始まってから、ようやくスライムがその事実に気付くほどだ。

 必死に断末魔の叫びを残すスライムだったが、その抵抗もむなしく、5秒と経たず体が全て消滅した。


 まさしく完全勝利だ。

 使った技自体は前回と同じだが、討伐時間は30秒から1秒へと縮まった。

 これこそまさに学習と特訓の成果といえるだろう。


「ほら、終わったぞ」


「………………え? え? え?」


 いずれにせよ、これでひとまず小さな脅威は去った。

 そのことを伝えてやると、なぜかティオは面白い顔で口をぱくぱくとしていた。

 お腹でも減ったのかな?



――――――――――――――――――――


次回、ティオのリアクションをお楽しみに!

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