第13話 異世界生活1日目、終了
俺――出水 悠里は、スライムが完全に消滅したのを確認してほっと一息ついた。
初めてとなるモンスターとの戦いは、無事に勝利できたらしい。
振り返ると、そこではウォルターがぽかーんとした表情を浮かべていた。
「ウォルター?」
「……はっ!」
呼びかけてみると、ウォルターはすぐ普段通りの表情になった。
と思った直後、必死の形相で俺の肩を掴んでくる。
「おいユーリ、今のはどういうことだ!? 何でそんな力を持って……これまで魔物と戦ったことはないんじゃなかったのか!?」
「ああ、そうだけど」
「……それで、今の強さか」
まるで衝撃を受けたかのような反応を見せるウォルター。
この反応を見るに、もしかしたら俺は新人冒険者の中では強い方だったりするのだろうか?
だとしたらよかった。
1000年間、必死に修行してきた甲斐があったというものだ。
とはいえいつまでも喜びに浸るわけにはいかない。
勝って兜の緒を締めよ。
低級モンスターに勝てた程度で、油断や慢心をするなんてナンセンスだ。
っと、それより――
「そんなことよりウォルター、依頼を受けていない状態で魔物を倒した場合でも、報酬ってもらえたりするのか?」
「そんなことよりって……コイツは本当に自分のやったことを理解しているのか? まあいい、ギルドで報告した時の反応を見れば、おのずと分かるだろう」
ウォルターは下を向きながら俺には聞こえない声量でブツブツと何かを呟いた後、こちらに視線を向ける。
「討伐報酬の話だったな。倒した魔物の種類にもあるが、今の相手なら問題なく報酬も貰えるはずだ」
「そうか、よかった」
胸を撫でおろす俺だったが、続くウォルターの言葉はそれを許してくれなかった。
「冒険者カードはもらっただろ? ギルドに持って帰れば、専用な魔道具で討伐記録を参照してくれるはずだ」
「討伐記録を参照……あっ」
そこでふと、俺は思い出した。
それは数時間前、冒険者登録をするときのこと。
受付嬢のリサはこう言っていた。
『ですのでユーリさんの場合、魔物を倒した際は討伐証明部位を持っていただく必要がある他、身分証明の問題からこの町限定での活動許可となってしまうのですが……大丈夫でしょうか?』
魔力を持っていない俺の冒険者カードには制限があり、討伐記録が保存されない。
そのため討伐証明部位が必要だと言われた。
しかし俺はスライムを跡形もなく消し去ってしまった。
――つまり、俺がスライムを討伐した証拠がない!
「どうしたんだユーリ、いきなり黙り込んで」
「実は……」
事情を話すと、ウォルターは俺と同様に頭を抱え込んだ。
「なっ、そんな事情があったのか!? とはいえお前が倒したのは事実だ。なんとか説得できるよう、俺から口添えしてもいいが……」
「それだけで納得してもらえるかな?」
「分からない。今回は内容が内容だ、恐らく模擬戦などでユーリの実力を測ることにはなるだろう」
「……ふむ」
模擬戦か。
実際にそうなった時のことを想像してみる。
周囲には恐らくギャラリーが多くいて、試験官を務める上位冒険者と戦うことになるのだろう。
そこで俺は、鍛え上げた剣術を披露する。
だが上位冒険者には全く届かない。
もしかしたらその過程を見て、最低限の実力があること自体は認めてくれるかもしれないが――
試験官『こ、ここまでにしよう。君の実力は分かったから。た、確かに低級モンスターを倒せるくらいはあると思うよ』
ギャラリー1『えっ、もう終わり? ていうか、スライム程度を倒した証明のために模擬戦してたんだ、必死だね(笑)』
ギャラリー2『てっきりランクアップのための試験かと思って見に来たのに、レベルが低くて損しちゃった。帰ろ帰ろ』
――みたいな、微妙な空気になるに違いない。
ただでさえ俺は魔力を持たないイレギュラー。
これ以上ギルドに迷惑をかけるのは、できるだけ避けたい。
ということで……
「なら、今回は報酬なしでいいよ。どっちみち悪いのは、注意事項を忘れて戦った俺なわけだし」
「本気か!? お前が倒したあのスライムがどれだけの魔物か、本当に理解して――」
「それに、あの程度ならこれからいくらでも倒す機会はある」
「――え?」
冒険者として活動を続けていく以上、低級モンスターとは数え切れないほど戦うことになるはず。
いや、それどころか中級・上級と戦うことだってあるはずだ。
1000年間の修行でようやく低級クラスの俺にとっては、想像もできないような厳しい相手となるだろう。
だとしても関係ない。
【時空の狭間】と違って、この世界には実戦という何より得難い経験がある。
それを喰らって、これまで以上の速さで強くなってやればいいんだ。
だからこそ――
「
「――――ッ!」
ここで改めて、俺はそう宣言した。
それを聞いたウォルターはしばらく何かを考え込むような素振りを見せた後、ゆっくりと頷く。
「……そうだな。確かにお前の言う通りだ」
Cランク冒険者のウォルターからしたら、俺の発言は青く拙いものに聞こえたかもしれない。
それでも彼は真剣な表情で応じてくれるのだった。
その後。
日も落ち周囲が暗くなってきていたため、俺たちは森を出て町に帰還することになったのだが――
「あっ、悪い。やっぱり報酬0は厳しいから、帰りに薬草だけ取っていいか?」
「あ、ああ」
――その前に薬草だけ採取した後、改めてギルドに帰還した。
こうして、俺の異世界での1日が終了するのだった。
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